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十二、反せし者 6

「キャーッ!」

 教室中に悲鳴が響き渡った。女子生徒が目を覆いながら教室をつんざく金切り声を上げる。

 教壇まで吹き飛んだ男性教師は黒板に背中を打ってようやく止まった。

「ひぃ……」

 悲鳴に鳴り切らない悲鳴も引き起こし、教師の体は黒板に一度張りつくようにして止まった。先の雪野と同じく力づくで黒板に叩きつけられたのがその動きで見て取れる。

 黒板が音を立ててきしみ、男性教師の体はそこから床にズレ落ちていった。

 教師は背中とともに後頭部でも打ったのかそのままぴくりとも動かなくなる。

「センセー、気絶ッスか? ダメッスね。千早さんよりは、手加減したッスよ。でもまあ、寝ていてくれるなら、好都合ッス」

 速水が後ろを軽く振り返って満足げにその細い目を細めた。

「速水、てめぇ……」

 その細い目の奥を横から速水に押されて脇にやられてしまった宗次郎が睨みつけるように覗き込んだ。

「何ッスか? 河中も、痛めつけられたいッスか? そういう趣味なら、早く言って欲しいッスね。近づかなかったッス」

「お前な! これどう見ても、まともじゃないぞ? 何考えてやがる!」

「力が手に入ったから、使いたくなったッスよ。普通ッスよね? 『まとも』ッスよ」

「速水……」

「違うッスか? ああ、違うッスね。少なくとも、そこの人は」

 速水が未だに完全に起き上がれない雪野を見下ろす。

「速水さん……」

 雪野は花応に肩を抱かれながら上半身だけ腕で支えて体を起こしていた。まだ息が詰まっているのか雪野の肩は抱かれた花応の手の中でふるふると震えていた。

「せっかくの力、何故もっと使わないッスか?」

「何の話よ……」

「魔法の力ッスよ」

 速水の言葉に教室中がざわめく。

 速水に集まっていた目が一斉に雪野に集まった。

「速水さん……」

「……」

 速水がその細い目で雪野を見下ろす。

 その速水の視線につられるようにクラスメート達がひそひそと互いにささやきあう。

「魔法って……」

「さっきも何か言ってなかった……」

「魔法少女とか言ってた……」

「ちょ、ちょっと、皆……」

 花応が雪野の肩を抱きながら、上半身をかがめたまま周囲を見回す。

 かがんでいるせいで花応は少し頭を持ち上げるようにして生徒に首を巡らせた。机の上から見えるクラスメート達の目は明らかに怯えていた。

 花応と雪野とクラスメート達の間にある机。その机を壁にしたかのよう生徒達はその向こうから覗き込む。

「ええ、でも……そんな話……あり得ない……」

 その中でも生徒の一人が震えた声色ながら速水の話を否定しようとした。

 その声の主に幾人かの視線が集まりかけると、

「はは! ホントッスよ! 天井にぶつけられても、無事ッスしね!」

 速水が目の前で動きかけたその視線をかき消すかのように声を上げる。

「速水……」

 その様子に宗次郎がぎりっと奥歯を鳴らすと、

「違うッスか? 新聞部さん? 真実は報道しないッスか?」

 速水が舌を出しながら首だけ宗次郎に振り返る。

「いや、お前な……」

「卑怯ッスね! 河中! お友達だけは、守ろうとするその態度!」

「ぐ……」

「そうッスよ! 中庭の騒動も――」

「ひ……」

 速水の言葉に一人の女子生徒がびくりと体を震わせた。それと同時に中か固いものが当たる音がする。

 壁際の席で女子生徒が半歩後ろに身を退き、そこにあったイスにぶつかっていた。

「演劇の練習とかにされたッス! あんだけバンバンバンバン水柱上げて! そうッスよね! そう思うッスよね? スライムちゃんも!」

 音を立ててイスを鳴らした天草に速水が今度はその細い目を向ける。

「いや……」

 天草は速水のその視線に射抜かれてその場で怯えたように首を左右に振る。

「何が異常気象ッスか! この教室だけ窓ガラス全部割れて! 世の中そんなに、都合良くないッスよ!」

 速水の言葉に教室の皆が窓の方を見る。そこにあったのは全て入れ替えれた窓ガラスだった。真新しいガラスに生達自身の姿がぼんやりと頼りなげに映る。

「速水さん……」

「おや、なんッスか? この高さから落っこちて、無事だった千早さん? アレも人間離れしてたッスよね!」

 こちらに呼びかける雪野を無視して速水が一気にまくしたてる。

「えっ? そう言えばそうよね……」

「何で、疑問に思わなかったんだ……」

「おいおい……何が起こってんだよ……俺ら騙されてんのか……」

 速水の言葉に明らかに目の色の変わった生徒達に、

「ちょ、ちょっと……」

 雪野を庇うように覆い被さりながら花応が視線を泳がせた。

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