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十二、反せし者 3

「ほら、席に着け」

 始業のベルが鳴り終わらない内に、教科書を片手に男性教師が教室に入って来た。

「先生早いっすよ」

「職員室に、友達いないんですか?」

「ぼっち先生、ちっす」

 男子生徒がその姿を見て慌てて席に戻りながらもちゃかそうとする。

「るっせえ。俺は仕事熱心なんだよ。ほら、そこ。河中、早く席戻せ」

 男性教師がからかう生徒達に応えながら、席まで移動させていた宗次郎を見つける。

「やっべ。たく、結局写真見せただけで、お昼終わりかよ」

 宗次郎が背もたれを前にしていた席を音を立てて立ち上がる

「やっぱ、ぼっちなんですか?」

「友達グループに嫉妬とか、センセー寂しいっすね」

「お昼ぐらい一緒してあげますよ。おごりでしたらね」

 花応と雪野、宗次郎の三人組みを真っ先に注意した男性教師にまたも生徒が冷やかしの茶々を入れる。

「イス拝借してた。サンキューな」

 宗次郎は隣の席を借りていたようだ。宗次郎はカメラを花応の机の上にひとまず奥と、イスを己の後ろの席に戻した。

 席をとられていた形の生徒は特に気にした様子も見せずに宗次郎にうなづき返す。

 宗次郎が席を戻すと花応に振り返った。

「……」

 その花応はじっと宗次郎が机に残したカメラのモニタを覗き込んでいる。

「そんなに気になる、花応?」

 雪野も席を立ちながらモニタを見下ろす。立ち上がった雪野はカメラを覗き込んだ花応のつむじと一緒にカメラを見る。両方を視界に入れた雪野は交互にカメラと花応のつむじと見つめた。

「普通、スピードでこうはならないわよね……」

「強引にこすったんじゃない?」

「だとしたら……間抜けじゃない……」

 花応がモニタに視線を落としたまま雪野に答える。

「おおっ。何か気づいたか――」

 宗次郎が二人の様子に自身もモニタを覗き込むと、

「こら! そこの二人! 早く自分の席に戻れって!」

 その二人にじれた男性教師がじれたように叫ぶ。

「はいはい。今、戻りますよ、センセー。桐山、千早――」

 宗次郎が教師にそう告げながら振り返ると花応の机の上のカメラに手を伸ばす。

「残念だが、後は放課後だな」

「そうね」

 雪野が宗次郎にうなづいて花応の席を離れた。

 雪野と宗次郎がそれぞれに花応に背中を見せて各々の席に戻っていく。

 そのときには既に多くの生徒が自分の席に着いていた。今も席を立って自分の席に着こうとしているのは、雪野と宗次郎だけだった。

「……」

 花応がそんな二人を見送らず廊下際の席に目をやった。

 雪野と宗次郎が席に着くとほぼ全ての席が埋まる。

 だが花応が視線を向けた先にはぽつんと空いた席が生徒の中に浮かんでいた。

「何だ? そこの席は誰だ?」

 男性教師も空席に気づいたのかその廊下際の席をアゴで指しながら尋ねる。

「速水さんです。先生」

 自身の席に着いたばかりの雪野が、誰よりも早く教師に答えた。

「速水か? 休みなのか?」

「午前中は居ましたね」

「サボりか? たく……」

 雪野の答えに男性教師がぼやくように呟くと、

「……」

 いつの間にか教室の入り口に女子生徒が立っていた。

 女子生徒が立てた物音に教室中の視線が入り口に集まる。

「お、速水。遅いぞ……」

 こちらも振り返っていた教師が顔をしかめて注意すると、

「自分、速いッスよ……」

 既に速水の姿は入り口にはなかった。

 教室が一気にざわついた。

 速水はどよめく生徒達を気にした様子も見せずに、自身の机に腰をかけて立っていた。

「な……」

 誰よりも早くそのことに気づいた雪野が腰を浮かしながら廊下際の席に目を向ける。

「何を驚いてるッスか? 千早さん」

 速水の声のした方向にようやく皆が、その速水の位置を知ったようだ。

「えっ、今入り口に居なかった?」

「どういうこと?」

 互いにひそひそと話しながら、生徒達が目で追えなかった速水の姿に困惑の表情を浮かべる。

「速水さん……」

 雪野が冷や汗をつぅと一つ額から落としながら、漏らすように速水に呼びかける。

「何ッスか、千早さん。力を使っちゃマズいッスか?」

 答えた速水は既に席に居なかった。

 速水は男性教師の傍らにいつの間にか立っていると、その肩に右手を回し馴れ馴れしく寄りかかる。

「おいお前……」

「センセー、授業来るの早いッス……生徒にモテないッスよ……」

 再び答えた速水は今度も既にそこには居なかった。

 教室の全員が再び視線を声のした方に向ける。そこには中腰になった雪野と、その雪野の机に腰掛ける速水の姿があった。

「速水さん……」

 自身の机に座る速水を雪野が睨みつけると、

「ふふ……」

 速水はその細い目を不敵に細め顔ごと雪野の眼前に突き出した。

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