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十一、ヤミ人 7

「で、ひとまずめでたしめでたし――てな訳ないか……」

 陽がどっぷりとくれた窓を頬の横に見ながら、宗次郎がカメラを片手にため息を吐いた。

 宗次郎の部屋らしい。乱雑にものが放り出された男子の部屋らしい乱雑な部屋。

 宗次郎はそこに置かれていたイスに気怠げに腰掛け、天を仰ぐように天井を見上げた。

 教科書や文具が思うままに放り出された机。机は汚く古めかしいが、教科書や文具は新しい。使い込んでいないのが丸わかりの勉強道具を、宗次郎は誰かのお古らしい使い古された机の上に掘り出している。

 宗次郎はその机の前できしんだ音を立てるイスに座っていた。

 陽が暮れ窓の外は夕闇が迫り出していた。部屋の蛍光灯の灯りが照らされ、白い光が窓を四角く切り取っている。

 イスもお古らしい。だが机とイスはまるでデザインがあっていない。

 机は方々に傷がついた古めかしい木製の勉強机で、イスはスチールの元は事務用のもののようだ。イスは後から別に用意したものらしい。それでも使い古されいる点では同じだった。背もたれやお尻のクッションに裂け目ができており、そこから緩衝剤がほころび出ている。

 そしてその裂け目の他にもガムテープが貼られて補強がされているかのが目につく。先に空いた裂け目らしい。裂け目をテープで補強し、更に空いた裂け目をとりあえず気にせず使っているようだ。

「ううん……」

 如何にも節約に節約を重ねたイスで、宗次郎は背もたれに上半身を預ける。

 錆が浮いたイスは宗次郎の体を受け止め更にきしんだ音を上げた。

 そのきしんだ音を聞いたのは宗次郎だけだった。狭くとも一人部屋らしい。その部屋に宗次郎以外の姿は見えない。

 人影があるとすればその部屋の壁にだった。

 部屋の壁という壁に写真が貼られていた。出力された写真が所狭しと壁に画鋲で留められている。

 人物写真を中心に壁中に写真が貼られていた。主に家族の写真らしい。

 一枚の写真に、宗次郎によく似た三十前らしき男性が、自慢げにカメラを構えて写真に収まっていた。

 その写真はかなり惚けている。ピンとが合っておらず、構図もずれており、何より人物そのものが傾いて映っていた。

 だが宗次郎によく似た男性は満面の笑みを浮かべてその写真の中に収まっている。そして長年の直射日光とホコリとでその写真は薄汚れていた。

 写真はそれだけではなかった。一番古く汚れたその写真を筆頭に、壁一面を写真が埋めている。写真は新しくなるに連れて、ピンとが合い、構図がまともになり、勿論傾げているようなこともなくなっていく。

 写真を〝撮った方〟の人物の成長記録のように、年を重ねるような写真の群れがそこには所狭しと並べられていた。

 壁一面を覆い尽くす写真が全て画鋲で壁に吊るされている。写真の裏では、壁は画鋲で穴だらけだろう。

 だが埋め尽くされた写真の隙間から見える壁にも、画鋲で空けたらしき穴が穿たれているのが見える。

 部屋のお古で、その前の部屋の主も写真を壁中に画鋲で貼りつけていたらしい。

「さてと……どうしたものか……」

 写真で埋め尽くされた壁以外は、部屋は男子高校生の部屋らしい有様を見せていた。

 部屋全体に掃除がいき届いていない。片付けも追いついていない。整理は元よりする気がない。

 宗次郎はそんな部屋でカメラを頭上に掲げる。

 そのカメラで撮ったらしい写真が天井にも張られていた。こちらは四隅に画鋲を使って天井にやはり人物写真が固定されている。

「……」

 宗次郎はカメラに電源を入れる。背面のモニタに光が入った。宗次郎が慣れた様子で指をモニタ横のスイッチに走らせると、そこに写真が映し出される。

 一番最後に撮ったらしい写真がまずは表示された。映ったのはタクシーの姿だ。

 締められたドアの向こうから、花応が手を上げて顔を隠している。その奥では彼恋がぶすっと反対側の窓の外を見ていた。

 いやがる花応に構わず宗次郎が撮った一枚らしい。

 宗次郎が更に写真を繰ると、今度は病院の待合室から花応が彼恋の手を引いて出て行く後ろ姿が映った。

 宗次郎は更に写真を繰る。それは主に待合室に座る花応を、そのいやがる表情も構わずとらえたものだった。

「真っ正面からは、中々撮らせてくれないな……」

 宗次郎が自嘲気味の笑みを浮かべながら呟く。そして首だけ曲げて壁の写真を見た。部屋の一番端に止められた写真に目がいく。

 真新しい一枚だ。

 花応の横顔を大きくとらえた一枚だ。気づかれずに撮った一枚なのか、花応は自然な笑みを浮かべている。

「いや、まあ……今は、こっちの心配か……」

 宗次郎のカメラのモニタが一枚の写真を映し出す。

 そこ映し出されたのは穴があけられたジョーの煙幕。

「この力……間違いないか……」

 宗次郎はその写真をじっと見つめながら深く息を吐くように呟いた。

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