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桐山花応(きりやまかのん)の科学的魔法  作者: 境康隆
二、ささやかれし者
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二、ささやかれし者3

「川も近いし、一人暮らしだし。花応も狙われるかもだし。心強いでしょ?」

「心強くなんかないわよ! 何で好き好んで、ペリカンと暮らさなきゃならないのよ!」

 翌朝。授業の始まる少し前。

 花応は己の窓際の席に座り、ふて腐れたような顔で外に顔を向けていた。

 前の席に腰かけ声をかけてきた雪野に、花応はそのままの姿勢で返事を返す。

 その様子に雪野がふふんと笑う。

「何よ? 気持ち悪いわね」

 花応がやっと顔を雪野に向ける。

「別に。結局ジョーはベランダ住まい?」

「ベランダももったいないって思って、近くの川に追い払ったら――」

「ふんふん」

「水辺に現れた珍しい鳥ってんで、人様の注目浴びて調子に乗り出したのよ」

「ナリはペリカンだもの。結構人目を惹くわよね。それは仕方がないんじゃない?」

「人前で人の言葉は絶対に話すなって言ったんだけどね……それで大人しく野鳥のフリをしてればいいものを、あのバカ。水鳥にあるまじき関節の動きで、羽と腰を振って愛想を振りまくもんだから、慌てて呼び戻したわ」

「災難ね」

 雪野がその様を想像してか深く何度も頷いた。

「そうよ。災難よ。何で好き好んでペリカン飼わなきゃならないのよ」

「いいじゃない。懐いてるみたいだし」

「ふん。冗談」

 花応がもう一度ふて腐れ具合を表さんとしてか、窓の外に首ごと目をやった。

「ん?」

 窓の向こう校門の入り口で何やら人だかりができている。

「……」

 花応がそのままわなわなと震えだした。

「どうしたの?」

「ちょっと――殴ってくるね」

 語尾にハートマークがつきそうな程可愛らしい声を出しながら、花応が音を立てて立ち上がる。声は可愛らしいが、その額は血管も浮き出んばかりだ。

「?」

 雪野が花応の見ていた窓の外を自分も覗き見た。

 そんな雪野を一人残し、花応がどたどたと教室を走って出て行く。

 その花応の珍しい人目を惹く様子に教室中の生徒が花応の背中を視線で追った。

「ふぅん。アレが水鳥にあるまじき関節の動きね……」

 雪野が感心し切りと窓の外を見て呟いた。

 雪野の視線の先。校門の直ぐ外に人だかりができていた。ぐるりと何かを取り囲むように人の輪ができている。

「ペリ!」

 その中心にはアイドルよろしく羽で天を指差し、腰を振りに振っているペリカンの姿があった。



「キャーッ! 可愛い水鳥さん!」

 校門のすぐ外で待ちゆく人びとに愛想を振りまいていたジョー。

 いかにも可愛いものに飛びつく女子――そんな勢いのままに花応がその首根っこを取っ捕まえた。

「ペリ!」

「ペリじゃないわよ……」

 野次馬から引きはがさんと、ジョーの首根っこを花応が無理矢理引っ張っていく。

 校門までジョーを引っ張ってきた花応。最後はゴリッという鈍い音とともに、花応がジョーの頭部をその鉄扉に押しつけた。

 花応は後ろをチラリと振り返り、人だかりを用心深く見回す。

 同じ高校の生徒は勿論。通りすがりの人びとが街中に現れた珍しい水鳥を一目見んと立ち止まっていた。

「何、勝手にきてんのよ……」

 花応がジョーの耳元に顔を寄せ、小声ながら怒気をはらんだ抗議を上げる。

「花応殿が置いていくからペリよ……」

 ジョーも小声で応えた。

「学校に人語を話すペリカン、連れてくる訳には行かないでしょ……」

「大丈夫ペリよ……人の言葉は話してないペリよ……」

「じゃあ、黙ってペリカンのフリしてなさい」

「ペリ」

「たく。しかもあんな踊り見せつけて、人目惹いてんじゃないわよ……」

「ペリ」

「後、ペリカンの鳴き声。ペリじゃないから」

「ペリ!」

 ジョーが驚きに目と嘴を大きく開いた。

「何、真剣に驚いた顔してんのよ!」

 花応がジョーの頭部をもう一度校門に押しつける。

「動物虐待ペリよ……」

「しゃべるなって言ってんでしょ……」

 花応は湧き出る怒りのままにか、グリグリとジョーの頭部を鉄扉に押しつけた。

「君――それ、君のペット?」

 そんな花応は不意に後ろから声をかけられる。

「はい!」

 花応が驚きに思わず大声上げて振りかえると、

「『はい』って。君。本当にそんなペリカンを飼ってるの?」

 柔和を絵に描いたような笑顔の男子生徒が一人――野次馬の中から進み出てきた。

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