表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/323

十、魔法少女 15

「……」

 雪野が彼恋と生徒会長の両方に警戒する為にか、体は前に向け顔だけ無言で振り返らせる。

時坂ときさか生徒会長……あなた……」

 そして生徒会長の顔を目を細めて呟いた。

「ああ、名前で呼んでくれるんだ。そうだよ。鏡写しで、時々逆さまになっていた生徒会長。時坂だ。ちなみに昇生しょうせいというのが、下の名前。お寺の跡取りでね。坊さんみたいな名前なんだよ」

 雪野に名を呼ばれあらためて時坂と名乗った生徒会長は、その雪野をこちらも細めた目で見返す。

「……」

「……」

 二人はしばらくその同じように細めた目で視線を交わした。雪野は力の入れ過ぎか探るように細めた目のまぶたを震わせ、時坂は冷静さの表れか静かに目を細める。

「何かおかしいかい、千早さん?」

「ええ、生徒会長。あっさりと、ご自身の力をばらすなんて……」

「ふふ……河中くんの言う通りだもんね。でもこの通り」

 時坂が雪野に応えながら右手を挙げる。見せつけるように上げられた右手にはやはり腕時計が巻かれていた。今度はその腕時計の文字盤が見えるように時坂は右手を上げる。

 そしてその針は通常とは全く逆に回っていた。半時計回りに秒針が回り、鏡写しに反転され文字盤がやはり半時計回りに配置されている。

「僕の力は鏡写しになること。そしてまるで鏡に写るように、対称に反対側に移ること。君には何度か見せただろ、千早さん?」

「食堂であっという間に気配が消えたのも、廊下で歩いて来た方向と反対側に現れて私の目を逃れたのもその力ですね?」

「ああ、そうだよ」

 時坂が応えるとその姿がゆらり揺らぐ。時坂の姿越しに背後の煙幕の壁が透けて見えた。

 そしてその姿が完全に消えると、

「これで元通り」

 今度は彼恋の隣から時坂の声が聞こえてくる。

 時坂は彼恋の隣に現れ左手を皆に見せつけるように挙げていた。その左手の手首には腕時計が巻かれており、その秒針が時計回り回っている。

「せわしないッスね」

 その時坂を速水の細い目が迎える。

「失礼。でも、これが僕の力。そして、言ってみればこれだけの話」

「なるほどですね……」

 雪野が斜めに向けていた体を時坂達三人に向け直す。

「ペリカン、油断すんなよ……」

 己の背後に隠れ出したペリカンにに宗次郎が呼びかけ、

「ペリ……」

 ジョーは慌ててわずかにそこから身を乗り出した。

「……」

 そして時坂の横では彼恋が無言で芝生にうつむいていた。うつむく彼恋の顔は皆から表情が見えなくなっていた。

「鏡写し……鏡像ってこと? エナンチオマーなの……キラリティ……対掌性を作り出しているの?」

 花応がごくりと息を呑み込みながら呟く。

「……」

 その言葉に下を向いていた彼恋の肩がぴくりと痙攣するように震えた。

「そうか……教室で久しぶりにあった彼恋は、生徒会長に連れられて教室に入って来た言ってたわね。あの時の彼恋は、生徒会長の力で一緒に鏡写しになっていたってこと……どおりで違和感があったんだわ……」

「右利きなのに、左手で物を投げてたのも、それか。俺が、桐山妹が左利きに見えた訳だ」

 花応と宗次郎が自分を納得させるようにかそれぞれ呟く。

「……」

 彼恋はまだ顔を挙げなかった。

「つまり、あの時の彼恋はまさに――」

 続く花応の言葉に合わせたように彼恋の肩が小刻みに震えていく。

「エナンチオマーになっていたってこと……」

 一際大きく息を呑んで出た花応の言葉に、


「う・る・さ・い!」


 彼恋は目を剥い吠えながら顔を上げた。

「彼恋……」

「人のことを、エナンチオマーとか呼ぶな! 私はあんたの偽物じゃない!」

 彼恋が両の掌を胸の前まで上げた。そこに光が湧き起こり、両の手の平の中に鉄とアルミの金属質な光が輝き出す。

「落ち着け、彼恋! 私はそんなこと言ってるわけじゃ――」

「言ってるわよ! そっくりな顔で人の前にしゃしゃり出て来て! 人のもの全部奪って! お姉ちゃん面して、自分の色に人を染めようとして! 私はあなたの偽物でも、代わりでもない!」

 彼恋の手の中で右手に鉄の、左手のアルミの光が瞬いた。

「はは、じゃあ。サービスしておくよ」

 怒りに目を剥く彼恋とは対照的に、何気ない様子で時坂がその彼恋の肩に手を置いた。

 二人の姿がゆらり霞んで消えて、左右に立ち位置を変えて同じ場所に現れる。

 変わったのは立ち位置だけでなくやはり全てが鏡写しに反転していた。

 彼恋の手の中で左の中に鉄が、右手の中にアルミの光が輝いている。

「――ッ!」

 彼恋が目が憎悪のそれから、驚きのそれに変わって目を剥く。

「これで、本当に鏡写しの姿だ。増々、桐山花応さんの偽物だね。桐山彼恋さん」

 そして時坂はそんな彼恋の耳元に〝ささやい〟た。

「――ッ!」

 今一度彼恋は声にならない声を上げて目を剥き、

「ふふ……」

 その様子を速水の更に細められた細い目が楽しげに見つめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ