十、魔法少女 14
一度は掴んだ生徒会長の右手。その手首から宗次郎が慌ててその右手をつかんだ己の左手を離す。
「……」
宗次郎はよほど驚いたのかたたらを踏むように後ろに二歩三歩と退いた。宗次郎はそのまままじまじと己の両の手の平を見つめる。
手の平は赤くなっている。先に掴んだものの形に圧迫されその形が赤い跡となって残っていた。宗次郎はその赤い跡を目を見開いて見つめる。そのまぶたは驚きからか痙攣するかのうよに細かく震えていた。
両の手の平は全く同じ形に赤くなっている。
そして宗次郎はその痙攣めいたまぶたの震えのままに相手も見る。
「ふふ……流石に気づいたかい……」
生徒会長が不敵に笑う。宗次郎の驚愕の表情も気にならないようだ。宗次郎とは対照的に柔和なまでの笑みで相手を見る。
「て、てめえ……」
宗次郎は己の両の手の平と、相手の手首を交互に見る。
「まあ、ヒントを出して上げたつもりだからね。流石に気づいてもらえないとね」
「……」
「な、何よ……」
二人に交互に目をやりながら、花応がジョーに背中を支えられたまま呟く。
「……」
宗次郎は花応に応えずゆっくりと自身のお尻に手を回した。油断なく相手に目をやりながら、宗次郎はお尻のポケットからカメラを取り出す。
「おやおや……」
その様子に速水が人を小馬鹿にしたように細い目を更に細める。
「何よ?」
速水の横では興が削がれたのか彼恋が肩の力を抜いて、こちらは不機嫌に目を細める。
「……」
雪野はそれでも油断なく杖を構えて斜めに身を傾けると、彼恋と生徒会長の両方に睨みを利かす。
「……」
宗次郎はカメラの電源を慎重なまでにゆっくりと押した。背後についているモニタがすぐさま反応して光を灯す。
まず映し出されたのは、はしゃぐ花応の横顔だった。花応は水族館の水槽に目を輝かせている。
宗次郎は生徒会長から油断なく目を離さず、それでいて器用にろくに目を落とさずにモニタの写真を繰る。
写真は水族館の写真を次々と映し出した。それは普通のスナップ写真で、心なしか花応の姿が多く写っているだけだった。
ただその写真が目的ではなかったのか、宗次郎はその水族館の光景は次々と飛ばしていく。水族館の光景が終わり、別の写真が映し出された。部活で撮った取材の写真のようだ。校舎の中や、グラウンドでの生徒の様子を中心に写真が繰られていく。
「……」
そして一枚の写真で宗次郎の手は止まる。
学校の教室だった。ただし普通の教室ではなく特別な目的の為の小さめの部屋だった。
そこにはテーブル状に並べられた机があり、その机の一番奥には『生徒会長』と書かれた白いネームプレートが置かれていた。
勿論その席の向こうに腰掛けていたのは生徒会長本人。その肩書きに相応しい柔和の笑みを浮かべている。
その笑顔は今実際に目の前に居る本人も浮かべていた。
宗次郎はその二つの笑顔とその下に続く全身を見比べた。
「そういうことかよ……」
「そういうことだね」
宗次郎の呟きに生徒会長が応える。
「道理で……あっちこっちに移っている訳だ……」
「そうだね。方々で移ってるよ」
「生徒の鑑としてだな……」
「ああ、生徒の鑑としてだね」
「どうしたのよ? てか、何か分かったの?」
花応が不思議そうに宗次郎と生徒会長の姿を見比べた。
「こいつの力が分かった。こいつは〝うつって〟たんだよ。多分、生徒の〝かがみ〟としてな」
「ふふ……」
「何よ? だから何が言いたいのよ?」
花応は更に不思議そうに目を細める。
「見てみろ。腕時計をしている手が逆だ――」
宗次郎がカメラを持った手で生徒会長を指し示した。モニタに写っていた生徒会長自身の姿で相手を指し示す。
「はぁ?」
宗次郎が花応に見えるようにモニタを向けた。そこには左手に腕時計をはめた生徒会長がにっこりと笑って席に座っている。
そしてその目の前に実際にいる生徒会長はそれに呼応するように右手を挙げた。隠す気はないようだ。こちらも皆に見えるように右手をわざと上げてそこにつけていた腕時計を見せつける。
「こいつの力は〝写る〟力だったんだよ。まさに〝鏡〟の力って訳だ。鏡写しにすることで、自分を瞬間移動させていた訳だ」
「はあ? 逆にはめてるだけじゃないの?」
「逆なのは、〝さっき〟ともだ。さっきは〝右手の時計〟を見てただろ? 一度反転して左手で俺に掴みかかり、今度も反転して右手で俺に掴みかかった。その両方に時計がしてあった」
「そうだっけ? てか、本当なら非科学ね。どうやってるのよ?」
「理屈は俺だって分からねえよ。まあ、だが……一番分からないのは……」
宗次郎が眉間に一際シワを寄せた花応に答える。その間も宗次郎は生徒会長から油断なく目を離さない。
「何でこんなにあっさりと――」
「ふふ……」
相手の不敵な笑みを射抜くように見つめ返し、
「自分から、ばらすかってことだな……」
宗次郎はかすれた声で呟いた。