十、魔法少女 12
「生徒会長!」
その突然の出現に真っ先に反応したのは雪野だった。
雪野は驚きに目を剥いて突如現れた男子を見る。男子は目だけ横に向けて雪野を見ていた。その目は何処か挑むように鋭い。
生徒会長は虚空から現れた。ジョーが張った煙幕の壁を飛び越えた訳ではないようだ。ただこつ然とその場に現れた。
テルミット反応の炎を食い止めた雪野は肩で息をしている。荒く上下に揺れる肩の下、喘ぐ息を吐く肺から絞り出すようにその相手を役職で呼んだ。
「ああ、そうだよ。学校の外でもそう呼ばれるのは、ちょっと寂しいけどね」
私服の生徒会長が応える。今度はゆっくりと身を翻し、それで雪野の方に向き直った。生徒会長は今度は不敵な笑みを顔全体で浮かべる。両の口角を軽く上げ笑っていることを殊更見せつけ、眉根を寄せてそれが誰に向けられているかをこちらも見せつけた。
「なっ! 何でここに?」
「おや? 遅かったッスね」
同じ人物の出現に宗次郎が驚いて目を剥き、速水が人を小馬鹿にしたように細い目を更に細めた。
「元から来るつもりだったんだけどね。ああ、少し様子をうかがっていたんだよ」
生徒会長が二人に同時に答える。速水には背を向けたまま、宗次郎にも目を向けず、視線は雪野に向けたままだった。
生徒会長はもう一度軽く笑うと、ようやく自身の肩越しに後ろを振り返る。そこで目が合ったのは彼恋だった。
「……」
生徒会長はそのまましばらく黙って彼恋を見つめる。
「何よ?」
彼恋がその視線に深く眉間にシワを刻みながら眉を寄せた。怪訝と不快を同時に表したようだ。短く吐き捨てるようなその言い様にもそのことが表れていた。
「いや、あまり驚いてないように見えたんでね」
「ふん。さっき少し姿が見えたわよ。誰かすぐに思い出せなかったけど。来てたんだ」
「はは、興味ないって感じだね」
「何しに来たかによるわね……」
彼恋が両の手の平の中の金属粉をこれ見よがしに生徒会長に突きつける。
「彼恋! だから――」
その光景に花応がもう一度声を荒げるが、
「うるさい!」
彼恋はその言葉を皆まで言わせず吠えて返した。
「何がうるさいだ! まだ私との話が終わってないぞ、彼恋!」
「はあ! この状況で何言ってるのよ! てか、元より言われる云われないわよ!」
歯をむき出して互いに目も剥く花応と彼恋。
「おやおや、姉妹は仲良くしないとね」
その様子に生徒会長はわざとらしいまでにゆっくりと両の肩をすくめてみせる。
「おや? 生徒会長みたいな物言いッスね」
「生徒会長だよ。役職はね」
生徒会長は応えた速水の方に近づいていきながら答える。
「さて……」
そして生徒会長は彼恋の横までくるとゆっくりと振り返った。
彼恋を真ん中に速水と生徒会長が挟むように並ぶ。
「これで三対三だね」
「一匹向こうの方が多いッスよ。不利ッスね」
細い目を更に細めて速水がけらけらと笑う。
「ペリ……」
急に話の矛先を向けられてジョーが慌てて花応の後ろに隠れた。
「まあ、僕も。大した力はないけどね」
「『大した力』じゃないんでしたら、大人しく手放したらどうですか?」
雪野がまだ肩を揺らしながら口を開く。
「……」
生徒会長がそんな雪野を値踏みするかのように目を細めて見る。
「何ですか?」
「いや。十年前と同じ姿だなと思ってね」
「はい?」
「君はあれだ。魔法を使うと、大人になるタイプの魔法少女だったんだね。十年前に見た時と、同じ姿をしてる。魔法で大きくなった分を、今は実際に年を経るとって、同じ姿になったという訳か」
「……」
「君は覚えてないだろうけど。僕はあの時、君に助けられたんだ。偶然通りかかった路地で、君は敵と戦っていた。敵は追いつめられていたのかな? まだ小さかった僕に、敵はなりふり構わず〝ささやい〟た。それを君が、今手にしているその魔法の杖で、蹴散らしたんだ。まあ、力に関しては手遅れだったけどね」
「……それは……」
「気に病む必要はないよ。自分のことは、自分で始末をつけるつもりだ」
「何を言って……」
生徒会長の言葉に雪野が怪訝に眉をひそめた。
「あの時着てた、ふりふりのコスチュームは止めたのかい?」
「流石に……高校生ですから……」
雪野が油断なく魔法の杖を構え直す。
「ちょっと。いきなり出て来て、何話を持ってってんのよ――」
黙って訊いていた彼恋がしびれを切らしたように前に出る。
そして脇に追いやられた鬱憤を晴らすかのように、
「今は、私の科学力の話だってのよ!」
彼恋は両の手の平から炎を上げる金属粉を雪野にもう一度投げつけた。