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十、魔法少女 11

「甘えるのも! いい加減にしてもらうわ!」

 雪野が芝を蹴った。雪野は削り取った芝を巻き上げ真っ直ぐ彼恋に向かっていった。

 雪野は魔法の杖を振り上けげ彼恋の――その炎目がけて襲いかかる。

「邪魔するんじゃないッスよ!」

 だが雪野の一撃が彼恋の炎に届く前に速水がその間に割って入った。いつもスピードで雪野の前に現れると、素手でその杖を掴む。

「速水さん!」

「はは! ふらふらじゃないッスか!」

 速水の言葉通り雪野は杖を掴まれた勢いを受け止めきれずにぐらっと後ろに背中を反らして止まる。その様は速水との力比べで負けたのを如実に語っていた。

「く……」

 雪野が再び力を入れ直し、一度は後ろにそらした顔を前に突き出す。肉体の苦痛か、その内からの感情か。雪野は大きく歪んだ顔を速水の眼前に突き出す。

「あはは! いい顔してるッスよ!」

 雪野の視界を速水の挑発的な笑みが隠し、速水の視界は雪野の苦痛に歪む顔でいっぱいになる。

「……スピードに、パワー……肉体強化系の力を、ささやかれたのね……」

「……」

 雪野の問いかけに速水は応えない。ただ右の唇の端を軽く上げるだけだった。

「誰が甘えてる――ですって!」

 代わりに応えたのは彼恋だった。

「あはは!」

 その声を背中に受けて速水が身を翻す。

 雪野の目の前から速水が消える。代わるように雪野の眼前に飛び込んで来たのは炎の塊だった。そしてその向こうで右手を振り下ろしている彼恋の姿だった。

「この……」

 雪野が炎を見て反射的に後ろに飛ぶ。そして飛びながらも杖を横に払った。

 後ろに飛ぶことで距離をとった雪野は、今度は障壁を張ることに成功したようだ。彼恋の炎は雪野の眼前で大きく燃え上がってから消える。

「彼恋! 止めろ! そんな力使うな! 科学を悪用するな! 雪野に任せろ!」

 自身の目の前まで戻って来た雪野の背中越しに、花応が彼恋にノドも張り裂けんばかりに呼びかける。その声はやや掠れ始め、ノドは肺からの息に震えた。

 宗次郎に肩を掴まれて、花応はその場を動けない。

 だが全身全霊で言葉を絞り出そうとしたのか、花応は両の拳を握り締め、腰を前に折り上半身を激しく揺らす。

「うるさい! これは私の本物の力だ!」

「そんな力なくったって! 彼恋は彼恋――」

「陳腐なセリフ! どのつら下げて、吐いてんのよ!」

 彼恋が吠えるように叫び上げると、両の手をふるった。左右の手から鉄とアルミの粉末が飛び出し、その後を小さな火種の炎が追う。

「――ッ!」

 今度も雪野がその炎を払った。余裕がなくなって来たのか、雪野は無言で歯を食いしばって杖を払う。

 それでも雪野が魔力で張った障壁は彼恋のテルミット反応で起こる炎を食い止めた。

「……」

 その様子を速水が細い目を更に細めて見る。

「口を開けば! 科学科学と! うるさい従姉ね!」

「私は、お前のお姉ちゃんだ!」

「うるさい! ただの従姉よ! 科学馬鹿で! それしか話題がない! ただの引き出しの少ない、ネクラな親戚よ!」

「それは、お前も興味あるだろうと思って……お前もよく話を……お前だって、お爺様が好きで……私と同じで……」

 彼恋の勢いに花応が押されるように呟く。

「――ッ! 私はあんたの代わりじゃない! 同じじゃない! どんなに似ていても、決して私はあんたにはなれない! そうよ私とあんたは、似ていても決して重ならない――この右手と左手と同じ! そう! 決して相容れない――」

 彼恋はそう叫びながら両の手を突きつけ合わせるように胸の前に持ってくる。軽く開いた両の手は親指が親指に、小指が小指に――それぞれのよく似た対の指と真っ正面から向き合うように突きつけ合わされる。

 まったく瓜二つの姿をさらす左右の手の指を、彼恋は勢い良くぶつけさせた。

 

「エナンチオマーよ!」


 左右の指は彼恋の言葉通り勿論重ならない。指先でぶつかった両の手の平の中で、二つの光が瞬いた。

 彼恋がゆっくりと両手を離す。

 彼恋の両の手の平の中に鉄とアルミの粉が呼び出されていた。

「彼恋! まだ科学を――」

「ええ! あんたの大好きな科学で――」

 鉄とアルミが反射する陽の光。

 その光に目を奪われながら花応と彼恋が互いに吠えるように口を開くと、


「おやおや。また科学の話かい?」


 二人の間にこつ然と生徒会長が現れた。

次回は1月9日頃に更新する予定です。

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