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十、魔法少女 8

 爆発の下に曝された雪野。爆発の光は周囲の者の視界を奪い、目をくらませた。

 あまつさえ視界が悪くなる中、爆煙はその爆発で周囲に散った後、風にまかれて周囲に拡散する。重力にも引かれてその一部は地面へと流れていった。

 その結果雪野姿は閃光とそれに続く煙でまったく見えなくなる。

「――ッ! 雪野!」

 その光景に真っ先に花応が反応した。花応は宗次郎に掴まれたままの腕の中から身を乗り出す。

「落ち着け! 桐山!」

「言ってる場合! 雪野が! 雪野が!」

 必死で身を乗り出す花応を宗次郎がこちらも懸命に押しとどめた。

 花応はこの日の為に着て来た上等な生地のスカートを振り乱して宗次郎の手の中で暴れる。

「あはは! 何、必死になってんのよ! 自分でもやったことじゃない? テルミット反応なんて!」

 彼恋は高笑いを上げ、憎悪に歪んだ瞳で花応を見る。

「あれは、敵が――」

「『敵』! あんたから見て、〝敵〟だったから?」

 応える花応に皆まで言わせず彼恋が口を挟んだ。

「なっ?」

「だったら私にも容赦なく使いなさいよ! 私はあんたの敵でしょ? 昔っからそうだったわよ! あんたが私の家に来た時からそうだったわ! あんたと私は所詮相容れないのよ!」

「だからって雪野を!」

 花応がもう一度雪野の方を見る。煙がようやく晴れ出していた。そしてその向こうに片ヒザをつく人影が浮かび上がる。

 雪野の影だ。

「……」

 だが雪野はその姿のままぴくりとも動かない。どうにかうずくまっているようだが動けないらしい。

「雪野!」

 その姿に花応が歓喜と悲痛の入り交じった上ずりかすれた声を上げる。

「無事っぽい! だが、く……」

 宗次郎が花応を抱えたまま半歩身を乗り出した。しかし一度は花応を離して駆け寄ろうと身を乗り出しかけるが、その花応の身をぐっと押しとどめるようにその場で踏ん張り直した。

「ペリカン!」

 駆け寄る変わりに宗次郎がジョーに呼びかける。

「ペリ!」

 呼ばれるまで花応と雪野の後ろに隠れていたジョーが羽をむちゃくちゃに羽ばたかせて飛び出した。だがその羽ばたきはそれで飛んでいこうとした訳ではなく、ただ恐怖に駆られて振り回しているようだ。目も堅くつむったジョーは方々に羽を散らしながら自らの足で雪野の下に駆けていった。

「ここまで、私が憎いか彼恋! 科学が嫌いか、彼恋!」

 駆け寄るジョーと彼恋を交互に見て花応が吠える。

「ええ! 嫌いよ! 大っ嫌い! 他人ひとの家に、後から勝手にやって来て! 両親が行方不明だか、生死不明だか知らないけど! 一人で同情集めて、私の両親を奪って! 私の居場所を奪ったのよ! そうよ! あんたは言わば、私の家族の中での、ハビタブルゾーンを奪ったのよ! 生きていく為の、空気や温度のある世界をね!」

 彼恋も吠え返して来た。

「雪野!」

 だが最後はジョーの様子に花応の意識はとられたようだ。

 ジョーは彼恋が叫んでいる間に雪野の下に駆け寄っていた。この時ばかりはその長い首を引っ込め、やはり辺りに羽をまき散らしながら雪野に駆け寄る。

 ジョーは片膝をつく相手の前に滑り込むと、その背中を促すように何度か揺すった。雪野を早く背中に乗せようとか、その背中を震え混じりに揺する。

「……」

 雪野は促されるままにその背中に体を預けた。

「……」

 速水がその様子をじっと無言で見つめる。

「ペリ!」

 速水の視線にジョーが更に首を引っ込めた。

 しかし速水の視線は雪野の背中に注がれておりジョーは目に映っていないようだ。

 ジョーは慌てて身を翻すと雪野を抱えたまま回れ右をする。そして自分では立てていない雪野を引きずるようにして花応達の下に戻ってくる。

 その背中を見送るだけで速水はやはり何もしてこなかった。

「雪野!」

 ジョーに担がれ戻って来た雪野。完全にうなだれるようにジョーに身を任せる雪野の顔は花応からは見えない。

 花応が宗次郎の手を振り払った。見えない雪野の顔を覗き込もうとしたのか、それとも力が抜けたのか。花応は両ヒザを芝生に着いて雪野を迎える。

「雪野! 雪野!」

 まだ顔を上げない雪野の背中を花応が懸命にさすった。

「あら? お爺様に頂いた、奇麗なおべべが台無しね」

 その花応の頭上に彼恋の小馬鹿にした声が落とされる。

「彼恋!」

 花応が歯を向いておもてを上げる。

「はん!」

「彼恋……」

「何よ……」

 今や同じ顔が同じ表情を浮かべていた。内から湧き起こる感情のままに目を剥き、唇を歪めている。一人は見上げ、一人はその相手を見下ろしていた。

 見上げる方の少女はその少々少女趣味の入った洋服を怒りに細かく震わせている。今やその白い上等な生地は、土に汚れ芝生の露のシミにも染まっていた。

 洋服の贈り主が込めたであろう思いとは真逆の状況に、

「彼恋……」

 花応はその黒く汚れた白い服の裾をわなわなと震わせた。

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