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九、悪い友達 14

「たく、何やってんのよ……」

 花応が横目で宗次郎を睨みつける。

 一言言ってやりたいが親しいと見られたくない。そんな心理の表れか腕を組み首はそっぽを向きながら、目だけは横に流して軽蔑の視線を寄越す。

「いや、だからな……そこで一緒になってな……」

 宗次郎が道の向こうを指差す。その指先は力なく伸ばされ、口調も何処かしどろもどろだった。

「何で、あっちから来るのよ? 地下鉄の出口もバス停もないわよ。何? 待ち合わせでもしてたの?」

 宗次郎の指差した先を目を細めて見る花応。それは遠くを確認する為ではなく、あからさまな不審の表れだったようだ。褒めた目の下で口元も疑惑に歪んでいた。

「ああっ! 言った端から、疑ってるな! ホントだって!」

「どうだか」

「だから! 俺が地下鉄とかバスとかで来る訳ないだろ! そんなお金ねえよ! 自転車で来たんだよ! 自転車で! で、自転車停めててバレない路駐できるところがあんだよ! そこに停めてたら、速水も自転車で来たんだよ! あいつもケチだよな! 駐輪代もケチって、路駐だぜ!」

 宗次郎が腕をバタバタと振りながらまくしたてた。

「ろちゅう? 何よ?」

「路上駐車の略だよ」

「『路上駐車』? 威張って言うことなの? 迷惑じゃない」

「いや……別に威張ってる訳じゃないが……」

「そうッスよ! ちょっと路チューしてただけッスよ! 二人で路チュー!」

 雪野の下を離れ彼恋に近寄ろうとしていた速水が唐突に身を振り返らせ背中から宗次郎に抱きついた。

 速水は宗次郎の頬の横からあからさまに唇を突き出して見せる。

「そっちの路チューじゃねえよ!」

「どっちのろちゅうよ?」

 花応が頬を真っ赤にしながら今度こそ完全に顔を背けた。

「おや! もう一回してみせないと、分からないッスか?」

 速水が宗次郎の背中から離れる。先ほどまでわざとらしく突き出していた唇を今度は挑発的に歪めた見せた。

「勝手にどうぞ! 路チューでも、何でも!」

「だから! 俺は路チューなんてしてないぞ!」

 首も折れるような力の入れ様で意固地にそっぽを向く花応に、宗次郎がやはり慌ててまくしたてる。

「ひどいッスね、河中! 一緒に路上駐車した仲ッスよ! 路駐もろくにしなさそうなお嬢様に、庶民の慎ましい節約を見せてあげようってだけッスよ!」

 速水もはしゃぐようにまくしたてる。

「ちょっと……あんた……」

 その速水の袖が後ろから引っぱられた。

「何ッスか? 彼恋っち」

 とぼけた顔で速水が首だけ振り返らせる。

「あの娘が……花応が来るなんて、聞いてないわよ」

 ふざけた姿と顔で振り返る速水を迎えたのは、眉間にシワを寄せている厳しい顔の彼恋だった。

「聞かれてないッスからね」

「聞いてはないけど、二人で遊びにいく前提で話してたでしょ」

「そうだったッスか? いやはや。皆で遊びにいくのは、当然家族の桐山さんから伝わってると思ってたッスよ」

「……」

 彼恋が速水の言葉に花応をじろりと睨みつける。

「……」

 花応が彼恋から弱々しく目をそらした。

「おや? 連絡なかったッスか? 電話も? メールも?」

「なかったわよ。だからさっきもそのことを責めてたんだけど」

「あはは! 相変わらずッスね! 電話もしてこないッスか? それでお姉ちゃん面は、どうかと思うッスよ、桐山さん!」

 速水がお腹を抱えながら路上で転がり回りそうな勢いで笑い出す。

「……」

 花応が何か言い返そうとしたのか口を開きかけて結局は固く口を閉じた。

「別に、笑う程のことじゃないわよ」

 黙ってやり取りを聞いていた雪野がすっと花応の前に出た。

「おや? そうッスか?」

「そうよ。まあ、私もなじったけど」

「そうッスか! そりゃ、一言言いたくなるッスよね! いくら優等生の千早さんでも! それだけ、不自然ってことッスよ! 可哀想な彼恋っち!」

 まだ笑いを収めない速水が彼恋の肩を手の平で軽く叩いた。

「ああ! もう! どうでもいいわよ、そんなこと! この人が姉らしくないのは、今に始まったことじゃないわよ!」

 彼恋が速水の手を振りほどいた。

「か、彼恋……」

「ほら、集まったんなら! さっさと、次にいくんじゃないの!」

 彼恋が周囲を見回す。騒ぎ始めた高校生達に周囲の通行人の視線がまた集まり始めていた。彼恋はその様子を確かめるとはず貸し下げに頬を赤らめる。

「お、おう……そうだな……」

 取り残されかけていた宗次郎が、それ故の冷静さで彼恋に同意した。

「そうッスね! はいはい! 自分、水族館にいきたいッス!」

 速水が元気よく手を挙げる小学生よろしく発言すると、

「水族館? 発言も態度も子供っぽいわね」

 仲間と思われたくなかったのか彼恋がぷいっと横を向いた。

「あるの? こんな駅前に?」

「最近できたな」

 花応と宗次郎が互いに向き合った。

「いいッスよ、あそこら辺――」

「……」

「何と言っても、おっきな公園があるッスからね!」

 速水はただ一人こちらをじっと見つめる雪野に顔を向けると、

「体、動かしたい放題ッス!」

 その細い目の奥から怪しい光を放った。

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