表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/323

九、悪い友達 7

「分かったわよ……反対しないわ……」

 雪野が折れたように箸をお弁当箱に置く。

 途中勢いよくお弁当の中身を口に運んだ雪野は残り少なくなったおかずの上に箸を置いた。お弁当も食べ切っていないし、答えも聞き切っていない。それでももういいと言いたいかのように雪野は一旦手を止めた。

 早々に食べ終わり席を立つ生徒が出始めたお昼の食堂。周りではちらほらと空席が目立つようになって来ていた。代わりに食堂の外からはお昼の休みを全身で満喫しようとする生徒の歓声が聞こえて来る。

「雪野……」

 箸が静かに置かれた音に花応がようやく顔を上げた。

「ただでさえ不器用な花応が、苦手な携帯で話すなんて無理。うん。直接会って話そう」

 雪野が一度は置いた箸を持ち上げる。一度箸を置くとで気持ちの整理もつけたようだ。話は一度終わった。流れが変わった。今度はそう伝えるかのように雪野は落ち着いて残りのおかずを口に運ぶ。

「……」

「勿論私もいくからね。何かあったら、容赦なく〝力〟を奪うわ……むしろチャンスね……」

 雪野は固く目をつむってお弁当の中身をノドの奥に運ぶ。反対意見は元から聞かない。自分の意見はお腹の底に収まったと言わんばかりに、雪野は黙々とお弁当を平らげる。

「雪野……」

「ほら、ちゃんと食べなさいよ。そんなんじゃ、力出ないわよ」

 雪野は不意に目を開けると花応の幾らも減ってないお弁当箱を箸で指差した。

「もう……箸で……行儀悪いわよ……」

 唇を軽く尖らせながらも花応はお弁当にようやく箸をつけた。

「あら、失礼。それで、遊びにいくのは、私たち二人と、彼恋さん。それと速水さんね?」

「そう聞いてるけど」

「二人とも力を持ってると考えると、二対二はきついわね。花応には直接の力はないし」

「ん……でも、単にホントに遊ぶだけかもしれないし……」

「速水さんのお誘いなのよ。そんな訳ないじゃない。それで、この話。河中は知ってるの?」

「『河中』? 何で、あのバカを誘わないといけないのよ」

「もう。本気でただの遊びだと、本気で思いこもうとしてない?」

 先にお弁当を食べ終わった雪野が少々苛立たしげにその蓋を閉じた。巧く噛み合なわない意思を嵌めんとか、こちらも巧く嵌らなかったフタに八つ当たりするように、そのフタを強引に押し込むように閉じた。

「だって……」

「じゃあ、はっきり言ってあげるわ。私達は最悪の場合、彼恋さんと戦う」

「……」

 もう一度花応の手が止まる。

「それこそ、彼恋さんが身動き取れないようにまで追いつめてでも、私はあの娘の力を奪わないといけない」

「でも……」

「間違いなく、彼恋さんも力を手に入れてるんでしょ。小金沢先輩や、天草さんに氷室くん。皆感情を暴走させていたわ。彼恋さんもそうさせたい?」

「それは……」

「誰かを傷つけてからじゃ遅いのよ」

「それは彼恋に言ってる。それは悪い力だって。雪野なら、どうにかしてくれるって……」

「それで?」

「私の力は私のものだって……私は私だって……」

「他には……」

「あんたが人の普段なんか知ってるのかって……私こそが科学の娘だって……」

 花応の箸は結局幾らも進まない。

「ううん……何か、力云々より、姉妹関係の方が複雑ね……」

「……」

「まずは彼恋さんの、かたくなな心を開くのが先ね。やっぱり、直接会って話すのがいいか。でもその前に、速水さんが仕掛けて来るか……速水さんが私達を誘い出すのは、自分達を利用して、更に自分の力を上げるためでしょうし……」

「あんまり複雑に考えたくない……」

「そうね。でも、楽観なんてできないわ。速水さんからのお誘いだからね。どうポジティブに考えても、向こうに思惑があるのは間違いないわ」

「……」

「ほら、お昼終わっちゃうわよ。早く食べちゃいなさいよ」

「うん……」

 花応がもう一度箸を動かし出す。

「で、結論。何があるか分からないから、人数は多い方がいい。こちらの味方の人数はね。単に遊びにいく時だって、仲良しは多い方が楽しいでしょ? 河中一人追加するぐらい、向こうには呑ますわ。ジョーも連れていくわよ。そりゃ、後ろについて歩かれたら迷惑だけど。できたら屋外の遊園地か何かで遊ぶ約束にして、ジョーは上空で待機でもさせておきましょう」

「そう言えば、氷室くんも。話をする聞いて、一緒に来たがってたけど」

 花応がお弁当を一口口に運びながら思い出したように顔を上げる。

「『氷室くん』? 氷室くんも呼ぶの?」

「えっ? 別に。来たがってたってだけだけど」

「そう……」

 雪野が両手をテーブルに着いた。如何にも真剣な考え事があると言わんばかりに額ごと顔を伏せ、花応にぎりぎり見える角度で目を伏せて視線を横に流す。

「何よ? 真剣な顔をして?」

「彼氏とのデートに、キープを連れていくなんて……」

「はぁ?」

「花応……何て悪い娘……」

 テーブルに両手を着けわざとらしく戦き始めてみせる雪野に、

「あんたの方が、遊びにいく気満々じゃない」

 今度も箸を止め花応がドンとテーブルを叩いた。

次回の更新は8月20日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ