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九、悪い友達 2

「で、新聞部のエース様は、生徒会長さんの力の秘密に突撃取材できたの?」

 四度の敵を科学的に退けた科学の娘――桐山花応は、お昼の陽光を全身に浴びながらわざとしい陰気な声で訊いた。

 先に高吸水性ポリマーな敵を倒した中庭のベンチで、花応は深く腰をかけていた。今日も天気のいい花応の通う高校の中庭。天気も場所も明るい場所で花応は作ったような低い声で相手への非難を示したようだ。

 お昼時でそのヒザの上には自身の手作りと思しきお弁当箱が置かれている。花応の包帯が軽く巻かれた右手に収まってしまうような女子らしい小さなお弁当箱だ。

 彩りもそれなりに考えられたような華やかな総菜とふりかけが花応の手の中で色を咲かせている。

 だがあまり食欲は湧かないようだ。花応のお弁当の中身はいくらも減っていなかった。

「るっせい。そんな簡単に分かるようなら苦労しないっての」

 自称新聞部のエース――河中宗次郎が不機嫌に頬を膨らませた。

 宗次郎は持参したお弁当にお箸を突っ込まんと身を屈めているところだった。敷き詰められたご飯に放り込んだだけらしいおかずが半分既に消えていた。

 おかずは醤油とソースで適当に炒めたものが中心らしい。全てが茶色を中心におかずの色が揃っている。

 ともすればこちらも宗次郎の手作りなのかもしれない。

「ちょっとや、そっとで、ぼろは出さないっての。そんな簡単に言うなよな」

 宗次郎は残っているおかずを、誤摩化す為にかかき込むようにノドの奥に送り込んだ。

「あら、期待してるからこそ。簡単にできるみたいに言っちゃうんでしょ? 言ってみれば愛情の裏返しじゃない」

 今は力を失った魔法少女――千早雪野はもごもごとアゴを動かしながら隣に座る二人に振り返る。

 こちらもベンチに座っていた。左から雪野、花応、宗次郎の順に三人は陽光を効率よく受ける太陽パネルよろしく並んで座る。

 雪野は花応の横に座り購買部で買ったらしき焼きそばパンを頬張っていた。既に他に一つ総菜パンを平らげた後らしい。ヒザの上に奇麗に折り畳まれたパンの包み紙が置かれていた。

「裏返す愛情が元よりないわよ、雪野」

「あっそ」

 怒ったように目をつむり箸でご飯を口に運ぶ花応に、中に入った焼きそばパン以上に頬を膨らませる雪野。

「暢気だな、二人とも」

 そんな二人に宗次郎がこちらも口に含んだお弁当の中身以上に頬を膨らませる。

「暢気なのは、あんたもでしょ? こんなところでお弁当食べてるヒマがあったら、少しは会長の弱点なりを探って来なさいよ」

「あのな、桐山。昨日も取材にいったし、今日の休み時間もそれとなく近づいてみたけどよ。そんな簡単に力を見せてくれる訳ないだろ?」

「忙しい生徒会長様だから、移動に瞬間移動とかしてないの?」

「する訳ないだろ、千早。お前まで何言ってんだ?」

 宗次郎が残っていたお弁当を苛立まぎれに全てノドの奥にかき込みながら応える。

 そんな宗次郎の目の前をお弁当を終えたらしい他の生徒達が楽しげに通り過ぎていく。

「ほら、ぐずぐずしてると、お昼も終わるわよ」

「るっせい、桐山。お前こそ妹さんに電話したのかよ」

「む……」

 今度は花応が不平そうに頬を膨らませた。宗次郎のそれの半分程の大きさしかない花応のお弁当の中身は、それでもようやく半分しか中身がなくなっていない。

「してないな?」

 その様子にお弁当箱を包み直しながら宗次郎が振り返る。

「別に、今日にでもするわよ……多分……」

「何なら、直接会って話せばいいんじゃない? 何なら、こんな風に一緒にお弁当でも食べてさ」

 食べ終わった焼きそばパンの包みを小さく畳みながら雪野も花応に振り返る。雪野はその二つめの総菜パンでお腹がいっぱいになったらしい。雪野はパンパンとパン屑の着いたスカートを払いながら、手元に置いてあったパックジュースに手を伸ばした。

「もう家に帰ってるはずだから、呼んでもこないわよ……」

 一人お弁当箱を空にできていない花応が更にその手を止めた。

「……」

 そんな花応を雪野が黙って見つめる。

「じゃあ、俺は先にごちそうさまだ。残り時間で会長を見張って来る」

 宗次郎が包み終わったお弁当箱を手に立ち上がる。宗次郎はベンチに残った二人に手を振ると、背中を見せて一人校舎に戻っていく。

「一緒にお弁当って、いいアイデアだと思ったけど?」

 宗次郎の背中を見送りながら雪野が花応の顔を覗き込む。

「……」

 花応は答えない。

「ほら、お弁当の話題って、盛り上がるじゃない? 花応と彼恋さんも話し易いと思うけど?」

 雪野が優しく目を細めて花応に提案する。力になると伝える為にか雪野は花応の手の上にそっと己の手を重ねた。

「……そうね……必須アミノ酸とか、グルタミン酸ナトリウムとか……お弁当なら、話題に事欠かないものね……」

 その提案に真面目な顔をして答える花応に、

「いや、それはどうかと思うけど……」

 雪野が一瞬で優しい笑みを崩し眉間にシワを寄せた。

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