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七、偽妹 19

「彼恋!」

 花応の身が手に持つ永久磁石の見えない磁力に負けたかのようにヒザから崩れていった。

 だが砕けたように力の抜けたヒザが今まさに床に触れようとしたその時、

「――ッ!」

 花応は奥歯を食いしばってそのヒザに力を入れる。

 弛緩と緊張を連続で強いられたヒザはその場でつづら折りの山道のような軌跡描いて揺れた。

 花応は最後はつま先を横に投げ出すように伸ばして己の身を何とか立たせる。

 その様子に宗次郎とジョーが慌てて身を支えようと手と翼を差し出すが、花応がその両方を手を挙げて遮った。

 雪野も上半身だけ振り返らせていた身を完全に花応の方に向けた。それで小金沢に背中を曝すことになったが雪野は気に止めた様子も見せずに花応に振り返る。

 その小金沢は反撃の機会をうかがっているのか右手を押さえながら花応達に苛立の視線を送っていた。

 生徒会長が何処か人を見下した笑みで同じく視線を送り、速水は今は感情をその細い目の奥に隠して皆を見回していた。

「……」

 花応が驚きに目を見開きそのまぶたを軽く痙攣させるようにふるわせる。

 花応の視線の先は花応によく似た目だ。目だけではなく顔もその体格も全てが疑いなく花応と血のつながりを感じさせる程よく似ていた。

「……」

 そっくりな目が花応を無言で見上げる。今は驚きに目をおののかせているところまでそっくりだった。

 互いが互いの目を信じられないという風に見つめていた。

「か、彼恋……」

 花応が恐る恐るにか唇をふるわせながら口を開く。最後には大きく息を呑んで口を閉じる。一言名前を呼ぶだけで精一杯だったようだ。

「そうよ、私よ……彼恋よ……」

 彼恋と名乗った花応似の私服の少女はゆっくりと立ち上がろうとする。それでも力が入らないのか彼恋は震えるヒザでゆっくりと身を持ち上げる。

 やはり声すらよく似ている。今は互いに震え声なのも同じだった。

「そうか……来てたのか……言ってくれてたら……お姉ちゃん、迎えに……」

「――ッ! 誰が〝お姉ちゃん〟よ!」

 彼恋が最後は勢いよく立ち上がった。その目から怯えの光が一瞬で消え睨みつけるような目の色に変わる。

「う……お姉ちゃんになれるように、努力はした……」

「はぁ? ちょっと先に生まれたぐらいで……勝手に後から家族に割り込んできたくせに! お姉ちゃん面なんて、迷惑よ!」

「……」

 花応は彼恋に応えずにわずかに後ろに身を退いた。

「実際、電話したのに……あんたは折り返しの電話もしてこなかったじゃない? それでどうやって、迎えに来るつもりよ?」

「それは、電話は苦手だから……」

「知ってるわ! どうせ、折り返してこないとは思ってたわよ! 初めから期待なんてしてないわよ!」

 彼恋が一歩花応に詰め寄った。

「そうか……ん?」

 何かに気づいたのか花応がその顔を不思議そうに見つめる。

「何よ? 私の顔に何かついている?」

「いや、彼恋……何か雰囲気が……何だろ? 何か違和感が……」

 花応がいぶかしげに目を細めて答える。自分でも分からない違和感にか花応が首まで少し傾げる。

「はぁ? 何をおかしなこと言って! 私はいつも通りよ! あんたが、おかしいのよ! こんな状況で、平然としてる! あんたに言われたくないわよ!」

 尚も声を荒げる彼恋の両肩に、

「おっと……流石に親族、気づいたか……」

 生徒会長が小さく呟きながら両手を置いた。

「えっ?」

「戻しておかないとね……」

 驚き振り返る彼恋に目もくれず、その肩に手を置いた生徒会長は更に小さく呟く。

「……」

 彼恋にすら届いたかどうか怪しい生徒会長の言葉に速水がぴくりと耳を動かして反応した。

 花応に詰め寄っていた彼恋の体が生徒会長とともに不意に教室から消え、

「――ッ!」

 驚きに目を見開く消える前の姿のまま教室の反対側――窓際に二人して現れた。

「彼恋!」

「ああん? 何がしたいんだよ、生徒会長さんよ?」

 己の後ろの窓際に移ってきた生徒会長に小金沢が振り返りいぶかしげな視線を送る。

「別に。頭に血が昇ってる様子だったんでね、少し距離をとった方がいいと思ったんだよ」

「はん! 嫌みな笑み、浮かべやがって! ちょうどいいから、そこですっこんでな! これは俺の復しゅうなんだよ!」

 小金沢が右手を震わせながら挙げる。中に入り込んだ磁石がバランスを崩すのかその手は小刻みに震えていた。

「それと、桐山の妹! 知ってたら、教えな! これどうやったら、取れるんだ?」

「彼恋を巻き込むな!」

 小金沢の言葉に花応が弾かれたように反応した。

「るっせぇ! 黙ってろ!」

 小金沢が苛立ったように左手をふるう。左手は雪野の横を抜け花応に向かって弧を描いてムチのようにしなる。

「この!」

 不意に放たれたその攻撃を雪野が花応に達する前に魔法の杖で叩き落とした。

「はは! 何なら、左手だけでも戦えるぜ! だが、やられっぱなしは性に合わねぇ! 教えろ、桐山妹! 鉄球の正体、言い当てたんだから! てめえも、詳しいんだろ?」

「な……何で、私が……」

 小金沢の形相に呆然と呟く彼恋の耳元。

 その小刻みに震える耳にゆっくりと己の顔を寄せ、

「〝お姉ちゃん〟を、倒したくないかい……」

 生徒会長が静かにささやいた。

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