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七、偽妹 18

「ジョー! 余剰次元ポケットよ!」

 花応がジョーに右手を突き出した。

 花応は教室の中央辺りで陣取る小金沢ににらみを利かせながら右手だけジョーに向かって差し出した。

「ああん……俺とやるってか? 上等だ! てめえにも、恨みがあるから!」

 その様子に応えて小金沢が尚も吠える。

「……」

 雪野がそんな小金沢に改めて無言で構え直し、

「……」

 同じく無言で生徒会長が人を見透かしたような笑みを浮かべる。

 速水がその生徒会長に目を細めた。嫌悪にその元から細い目を細めたのか、速水は左右の目で微妙に違う歪んだ目の光を生徒会長に向ける。速水の目を細めさせた片頬の筋肉の盛り上がりがぴくりと一つ痙攣した。

「そんな名前つけた覚えないペリよ」

 己の目の前に突き出された花応の右手にジョーがあんぐりと嘴を開ける。

「うるさいわね! そんな非科学な力! 使ってあげるだけありがたいと思いなさい!」

 花応がその開いた嘴に向かって手を伸ばすと、

「ペリ! 魔法の力ペリ! 非科学で当たり前ペリ! 嫌なら使わなきゃ、いいペリ!」

 ジョーが抗議に嘴を激しく開け閉めした。

 花応の手はジョーの固い嘴の開け閉めにその中に入る前に思わずにか引っ込められしまう。

「生意気! 誰が飼ってやってると思ってるのよ!」

「ジョーは、雪野様のしもべペリ! 花応殿のペットじゃないペリよ!」

「うるさい! 黙って嘴を開けてなさい! 野鳥!」

「飼ってやってるて! 今、自分で――モガッ!」

 出しては引っ込められる手と、開けては閉められる嘴の攻防を伴った花応とジョーの言い争い。尚も言い返そうと開けられたジョーの嘴に花応の右手が強引に突っ込まれた。

「……」

 その花応の背中の向こう――花応の視界から隠れてしまった背後で少女が呆然とのその背中を見上げる。

 ヒザを床についてしまった少女は目を見開いて弱々しく顔をふるわせていた。

 ジョーのノドの奥に手を突っ込み身もかがめた花応にはその様子は伝わらなかったようだ。

「桐山、あのな……」

 花応の肩越しに少女に目をやった宗次郎が花応に呼びかける。

「何? 今忙しいのよ! こら! ジョー、暴れんな!」

「もがっ! もががががっ! もがっ!」

 花応の肩まで押し込まれた右手にジョーが羽をばたつかせて暴れる。

「もう、下手な抵抗して! 今そんな場合じゃないでしょ!」

「いや、桐山。それは本気で苦しがってるんじゃないのか? もう少し優しく突っ込んでやれよ」

「ふん! 非科学なこと相手に、非科学で対抗するのよ! 苛々して当たり前じゃない! あったわよ!」

 花応は非難めいた内容を口にしながら、それでいて何処か自慢げに右手をジョーの嘴から抜き出した。

 花応が右手を天井に向かって掲げる。その手の平の中で蛍光灯の光を反射して何かが光った。

 それは見た目は丸い鉄球のようだ。花応の手の中でそれは金属然とした光を反射しずっしりと収まっていた。

「ああん! 何だそりゃ? 鉄球か? 武器のつもりか? そんなもんで、俺と戦う気かよ?」

 花応の手の中で銀色に輝くものに小金沢がよく見んとか片目を細める。

「鉄球とは若干違いますけど。まあ、見た目はそうですね。めっきしてますから。錆び易いから、ニッケルでめっきしてるものです。先輩と同じ鉄を材料の一つに、焼結したものですよ」

「はぁ? だから『鉄』の球だろ?」

「この球の〝ジソク〟はすごいですよ――っと」

 花応が小金沢に答えずにそのめっきされた球を小金沢に投げつけた。

「はぁ? 舐めてんのか!」

 同年代の女子よりも軽いという花応の体で投げられた球。それがか弱い腕から放たれ緩やかな放物線を描いて飛んでいく。

 狙いも勢いも全てが甘く相手に当たるどころか届くかすら怪しい軌道を描いてそれは飛んでいく。

 ゆっくりと――

「ふざけんな! 何が〝時速〟だ! 時速何キロも出てねえだろ!」

 その様子に小金沢が目の前で落下しそうなめっきのそれをムチと化した右手でじれたように払った。

 こちらは鋭利な曲線を描いて斬りつける右手がめっきの球を真っ芯でとらえた。

 小金沢の流砂の右手に打ちつけられたそれは抗うこともなくムチに払われるままに弾かれる。

 ムチに払われ打ち返される花応の攻撃。

「花応!」

 その弾かれる角度に雪野がこちらも弾かれるように反応した。魔力を込めて床を蹴ったのか雪野が花応と小金沢の間に一瞬で割って入る。

 雪野が弾き返されるめっきの球を打ち払わんと魔法の杖を構えた。

 だがムチに打ち返されたはずのそれは、流砂の表面を撫でるように滑るとその奥にめり込んでいく。

 花応が放ったそれは弾き返されるどころか小金沢の右手に完全に埋もれていった。

「なっ! どうなってやがる!」

 小金沢が堪らずにか右手を引き戻した。

「科学的なだけですよ!」

 花応は驚きに目を見開く相手に応えるとジョーのノドの奥にもう一度手を入れた。花応は更にもう一つ同じものを取り出すと小金沢に向かって投げつける。

「この……」

 小金沢が再び右手をふるう。だがやはり流砂のムチに弾き返されることなくそれは右手の中に埋まっていく。

「な……」

「危険なので、一個ずつ。ホントは手袋し方がいいんだけど……ああ、雪野。投げて」

 花応がジョーの嘴から新しい球を取り出すと背中を向けていた雪野に手渡した。

「投げればいいの? えいっ」

 雪野は振り返ってめっきの球を受け取ると、花応とは打って変わって勢いよく小金沢に向かって投げつける。

 直球と化した攻撃が小金沢を襲った。

「な、な……」

 今度はとっさに防御するように胸の前で構えた小金沢の右手にそれが埋まっていく。

「へぇ……」

「おやおや……」

 その様子に黙って様子をうかがっていた生徒会長と速水が感心したような声を漏らす。

「はい、はい。お願いね、雪野」

「うん。えい! えい!」

 花応が己の言葉通り一つずつジョーの嘴から取り出して手渡すと、雪野が勢いよくそれを小金沢目がけて投げつけた。雪野の力で投げれた球は次々と己の身を守る小金沢の右手に埋まっていく。

「く……」

 いくつもの球を受け止めた小金沢の右手がだらりと下がった。あまりに多数が内に埋まってしまいその重さで床に意に反してあげられなくなったようだ。

「な、何だ? 右手から、取れねえ……」

 小金沢が重い右手をそれでもふるうが、中に入り込んだめっきの球は出て来なかった。

「言ったはずでよ、小金沢先輩。それの〝ジソク〟はすごいですよって」

 その様子にようやく花応が手を止めた。

「ニッケルでめっきしないといけない程錆び易く。力が強力なのでなるべく一つずつ扱う物質。それはこれが――鉄を原材料の一つに焼結したこれが、すごい〝ジソク〟密度を持つからです。そうこれは――」

 花応が最後に取り出しためっきされた球を皆に見えるように前に掲げると、


「ネオジム磁石……あまりに高い〝磁束〟密度を持ち……非常に強い磁力を誇る永久磁石……」


 その花応とよく似た震え声が後に続いた。

「えっ?」

 花応の体がその声に固まる。

 花応が右手にめっきの球を持ったままゆっくりと声のした方に振り返った。

 そしてそこに居た己とヒザを着く少女の顔を見て、


「彼恋!」


 永久磁石の磁力に押しつぶされたかのように花応はヒザから床に崩れていった。

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