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七、偽妹 17

 教室の中の全員の注目が窓枠の上で引っかかる少女に集まった。

 おそらく教室の外でも同じだろう。煙と窓ガラスの向こうからかすか見える人影が天井辺りを見上げているのが分かる。

「また派手にやってるわね、雪野」

 窓枠に引っかかる少女――桐山花応はまずは教室の中程でこちらを向いていた雪野に目がいったようだ。花応は窓枠のこちら側に物理的にたまっている煙に体を預けながら雪野の方を見た。

 その短いから綿のようなホコリがその動きで一つずり落ちてきた。

「派手なのは、お互い様だと思いたいけど? 何処から、入って来る気よ」

 雪野が呆れたように鼻から息を抜いて応える。

「うるさいわね。文句があるなら、そこのバカ鳥に言って。ここしか開いてなかったんだから」

「あっ、そ。で、降りれるの?」

「降りれるわよ。ちょっと、手を貸して」

 花応が下半身を抜き出さんと窓枠と煙についていた手に力を入れる。

「今、手が離せないんだけど……」

 雪野がちらりと小金沢に視線を送る。

「……」

 小金沢は教室内の私服との少女と、あらたに現れた窓枠の制服の少女の顔をいぶかしげに見比べていた。

「ああ、薄情ね、雪野――きゃあ!」

 花応の体が急にがくんと前に揺れた。

「ペリカン! 助けにいけ!」

「ペリ!」

 宗次郎がとっさに花応の方に指を指し示し、その声に応えてジョーがすかさず飛び上がる。

「ととと……」

 花応が前のめりになりかけた体を何とか煙に手を着いてこらえる。

 そんな花応の前にジョーの翼が飛び込んできた。花応はその白い羽毛を見つけるやその体にしがみつく。

「ジョー! 落ちたら承知しないからね!」

「ペリ! 重いペリよ!」

「失礼な! 平均的な高一女子より、軽い方よ!」

 ぐらぐらと揺れながら花応の下半身が窓枠から抜き出された。必死に教室の中で羽を羽ばたかせるジョーの首筋にしがみつき直し、花応が抜き出たばかりの両足をばたつかせた。

「大丈夫か?」

 宗次郎がその下にまで駆け寄り両手を差し出した。不安定に揺れる花応を受け止めんとか宗次郎が下から見上げながら手を伸ばした。

「ちょっと! 何、スカートの下にきてんのよ!」

「はぁ? そんなこと言ってる場合かよ。受け止めてやろうってのに」

 最後はジョーが力つきたかのように急激に下降し、実際宗次郎が最後に花応を受け止めた。

 ジョーから手を離した花応は宗次郎の胸に飛び込むように最後は床に足を着く。

「おやおや、妬けるッスね」

 その様子に速水がいつもの軽薄な笑みを細い目の奥に浮かべた。速水の目だけでなく口元も皮肉めいた笑みに曲がる。

「はぁ? 違うわよ! 何、にやにや笑ってくれてんのよ!」

 花応がとっさに宗次郎から身を離した。

「別にッス。ただただ素直に、微笑ましいなと思っただけッスよ」

「余計なお世話よ」

 花応が不快げに目を細める。

「てか、桐山。俺に礼ぐらい、言えよ」

 その横に宗次郎が立ち、ジョーが反対の隣に降りてきた。

「ふん……別に……ジョーだけで、何とかなったわよ……」

「素直じゃないわね」

 顔を赤らめそっぽを向く花応に雪野がこちらもにやけた笑みを向ける。

「ふん! それより何よ、この騒ぎ? 小金沢先輩が、また何かやらかしたの?」

「あぁっ? 『やらかし』とか言うなっての。俺は、新しい力を手に入れたんだよ」

 小金沢がヒジから先を上に向けて右手を立たせる。その右手が流砂のごとき砂鉄の固まりと化した。

 小金沢の右手は手の形をしたままその異様な砂鉄の集合体をうごめかせる。

「砂? このカナ臭い匂いは、鉄――原子番号26。元素記号Feね。その形状からすると、砂鉄。色から言って、酸化鉄ね。酸化鉄2か3か……まあ、金属としてグレードダウンですね」

「はは! こっちの方が扱いがいいんだよ!」

 小金沢が右手をムチのようにふるった。

「確かに。鉄は扱い易いですよ。何だかぴったりですね、小金沢先輩」

「ああ! 舐めてんのか!」

 小金沢が苛立のままにか床にムチ状の右手を床に叩き付けた。

「砂鉄のくせに、集合してるのね。何、磁力ででも制御してるの? まあ、どちらにせよ、手の形だとか、ムチの形だとか。自由自在なのは、納得いかないわね。非科学だわ」

 威嚇のムチにも花応は動じた様子を見せない。もっとよく観察しようとしてかぐっとその自慢の吊り目を見開いた。

「何なの……」

 その花応の目をよく似た目がこちらも見開いて見つめていた。

 こちらは驚きに見開かれていたようだ。花応によく似た吊り目の目がわなわなと震えながらその花応を見上げる。

「何なの……この花応は……」

 驚きの視線を向ける私服の少女。少女は信じられないとばかりに誰にも伝わらない呟きを漏らす。

「こんなの……私の知ってる花応じゃないわ……」

 その少女の茫然自失な呟きに、

「……」

 その背後に立っていた生徒会長が厭らしい笑みを浮かべてうなづいた。

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