七、偽妹 15
「……」
床に座り込んでしまった少女。その少女を生徒会長が見下ろす。その目は何かを確かめているように薄く笑みを浮かべるように弧を描いていた。
少女はヒザから下を外側に広げるように座り込んでいる。目の前の光景に気圧され腰から下の力が抜けてしまったようだ。少女は両の肩も力なく垂れまさにへたり込むように座り込んだ。
「はは! 美しい友情だな! 優等生さんよ!」
小金沢と少女の間に割って入った雪野に次々と砂鉄のムチの攻撃が振り下ろされる。
小金沢は背後の少女をかばう為に防戦一方になっている雪野に容赦のない攻撃を繰り返す。
「く……この……」
雪野はムチを杖で受け止める。先と違い雪野はその砂鉄のムチをまともに受けてしまう。いなした攻撃が背後の少女に向かわないようにか雪野は真正面から小金沢の攻撃を受け止め跳ね返す。
「ああっ! 冷や汗出てるぜ! 優等生! 必死だな!」
「ぐ……」
雪野の様子に嗜虐性が刺激されたのか小金沢の攻撃は更に勢いを増す。ムチと化す小金沢の両手。左右から、そして時折足を砂鉄の流砂に変えて雪野に向かって休みなく攻撃が繰り出された。
「この……」
宗次郎はその光景に何も出来ずに悔しげに拳を握る。
「疫病神よ……何が、お姉ちゃんよ……いきなりやってきて……」
雪野にかばわれた少女は頭を抱えて隠れるようにうずくまる。そして何処とも見ていない目でブツブツと呟いた。
「ふん……興ざめッスね……せこい横槍入れられると……」
速水の姿が一瞬皆の視界から消えた。一陣の風を派手に巻き起こし速水は生徒会長の目の前に現れる。
その細い目を更に威嚇に鋭く細め速水は生徒会長と鼻の頭も触れんばかりの距離でにらみをきかせる。
「はは。お気に召さなかったかな?」
「……」
速水が横目で少女を見下ろした。少女は相変わらず独り言を呟き目の前の光景以外の何処かを見ていた。
速水はもう一度生徒会長に視線を戻す。
乱れ打ちにすらなってきた砂鉄の連打が時折己の間近をかすめて飛んでいく。そんな状況に動じる様子も見せずに速水と生徒会長は顔を突きつけ合わすように対峙した。
「文句があるなら、聞くよ。それが生徒会長の仕事だからね」
「ふん……」
速水は生徒会長に向かって鼻を不快げにならすと、不意に身を屈めた。少女の頬に己の唇を持っていく。そのまま少女の様子を注意深く見つめながら速水はゆっくりと口を開いた。
「力が欲しいッスか?」
そしてそう少女の耳元にささやいた。
「へ?」
「……」
己をきょとんとした目で見上げる少女に速水は無言で応える。
「君に〝ささやく〟なんて出来ないよ、速水くん」
「……」
速水がもう一度身を起こす。
速水は今度は雪野の背中を見た。雪野は相変わらず小金沢の攻撃を防ぐので精一杯のようだ。ともすれば後ろに下がってしまいそうな足を踏ん張りムチ状の攻撃を何とか受け止めていた。
「千早さん! そっちもつまんないッスね! そんな防戦一方だなんて、興ざめッスよ! それが皆が嫉妬する程憧れる――魔法少女様ッスか!」
防戦に追われる雪野によく聞こえるようにか、それとも言葉通りの非難の表れか、速水が声も荒げて呼びかける。
「速水さん……」
「いっそ、千早さんも〝ささやかれ〟たらいいッスよ」
ちらりとこちらを振り返る雪野に速水が細い目を細める。速水の目にいつもの相手を小馬鹿にする笑みの光はなく、ただただ苛立をぶつけるような挑発的な光をたたえている。
「な……」
その提案に雪野が息を呑む。
「ははっ! 余所見とは、舐めてんのか!」
雪野の動きが一瞬こわばった。それを隙と見たのか小金沢が右手を大きく振りかぶる。派手に天井にぶつけながらも小金沢の砂鉄の右手が流れるような弧を描いて振り上げられた。
「――ッ! しまった!」
雪野がとっさに両手を交差させて頭をかばう。
「防ぎきれるかよ――」
小金沢がその右手を全身のバネを使って今まさに振り下ろさんとした。
振り下ろされるままに砂鉄のムチが大きく弧を描いた瞬間、
「ああ、もう! 非科学な煙幕ね! いつもいつも!」
教室の外からヒステリックな少女の声が轟いた。