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七、偽妹 12

「速水……」

 片手で軽々と成人男性を放り投げた速水に宗次郎がかすれた声でその名を呼ぶ。驚きに思わずにか出たその声は周りの人間には届かない程小さな声だった。

「ふふん……これくらい余裕ッスよ……」

 だがそのかすれ声が離れた位置でも聞こえたのか速水は宗次郎に応えて不適に笑う。

「ぺりぺりぺり……」

 まだダメージから回復しきっていないのかジョーがふらつく体で煙を吐き出しながら歩き出した。むやみやたらに煙幕用の煙を吐き出すジョーは、速水を見つめる宗次郎の下に近づいてきた。

 ふらつく体で宗次郎に近づいてきたジョー。あまり前もよく見えていないのか宗次郎の体にその羽毛の体をぶつけてしまう。

「あっ! ペリカン! こっちじゃねえ!」

 ぶつかってきたジョーに宗次郎が我に返ったかのように振り返る。ぶつかりあまつさえもたれかかってきたジョーの体を廊下側に向かって突き放す。

「野次馬の方から重点的に煙幕だ! あっちの目隠しを頼む!」

「ぺり!」

 宗次郎に指示されジョーは飛ぶには少々不向きな教室内で大きく羽を広げて羽ばたいていく。

「おや? 河中のくせに気が利くッスね!」

「るっせい……『河中のくせに』は余計だ……」

 教室の前方から小馬鹿にしたようにこちらを見てくる速水に、宗次郎が呟くように応える。

「ふふん……」

 今度も聞こえたらしい。速水が宗次郎に向かって不敵に笑う。

「こいつ……」

 その様子に宗次郎が疑惑に目を細めた。

「ははっ!」

 そんな二人の間で小金沢の小馬鹿にした笑い声がこだまする。

「さっきの勢いはどうした? ああっ!」

「く……」

 先に雪野が上から打ち込んでいたが今は反対に小金沢が打ち込んでいる。小金沢が流砂状の両の手を次々と頭上から相手に打ち込み、雪野はその攻撃を杖でいなしているところだった。

「ほらほら! どうした? ははっ!」

 天井や壁、もはや乱雑に転がる机やイスに当たるのもかまわず小金沢はその両の手を繰り出してくる。

 雪野は右に左に杖を前に構えてその攻撃を外側に力を逃がすように受け流す。打ち込まれるたびに派手に雪野の杖が震えるが攻撃そのものは雪野の体に届かずいなされていった。

「いい加減に……」

 雪野がその攻撃をいなしながらぎりりと奥歯を噛む。打ち込まれる衝撃に耐える為にか同時に雪野が細められる。

 いやそれは攻撃に耐える為ではなかったようだ。次々と打ち込まれる砂鉄の両手の攻撃からその隙をうかがうように雪野の目が鋭く光る。

「『いい加減に』するのは、そっちだ! せこい防ぎ方しやがって!」

 雪野から見て右斜め上から打ち込まれてくる小金沢の左手。その左手の打撃が今までよりも勢いがある。打ち込み続けても全て雪野の杖にいなされる。同じことの続くことに内心は苛立があったのか、小金沢のその攻撃は今まで以上にじれたように乱雑に打ち込まれてきた。

「――ッ!」

 そのことを見て取ったのか雪野が杖ごと身を横にかわした。雪野は体を斜めにすると同時に左足を後ろに退く。相手に対して横を向いた雪野の頬と胸元をかすめるようにそのムチ状の砂鉄は床に向かってむなしく打ち込まれていった。

 今度も受け流される前提で打ち込まれた小金沢のその一撃は、

「てめぇ! 避けんなよ!」

 自身の姿勢を前のめりにされる程の勢いで体を持っていってしまう。前に傾き更に横にもかしいでしまう小金沢の体。あまつさえたたらを踏んだ小金沢はバランスを崩しながら一歩二歩と前に出てしまう。

 それは身をかわした雪野の眼前に無防備に背中を曝す結果となった。

「場数が違いますよ! 先輩!」

 雪野はそのがら空きの肩口に魔法の杖を上から叩き込んだ。雪野の杖が小金沢の肩から首筋辺りにかけて食い込む。

 そして文字通り食い込んだ。

「――ッ!」

「はは!」

 驚く雪野の目の前で小金沢の体が杖に打ち込まれるままにへこんでいく。

「力が違うぜ! 後輩!」

 小金沢の体は今や両の腕だけでなく肩から脇腹までも砂鉄と化してした。流砂状のその体は雪野の杖に打ち込まれるがままに沈み、まるで逆に呑み込むように閉じていく。

「この!」

 雪野がその様子にとっさに杖を引き抜いた。引き抜く勢いのままにもう一度距離を取る為に後ろに飛ぶ。足と腰でいくつのかの机やイスをはじき飛ばしながら雪野は教室の中央辺りに着地した。

「ぺりぺりぺりぺり!」

 その雪野の背中の向こうではジョーが教室内を低空飛行しながら煙を吐き出している。ジョーは入り口を重点的に飛び回りその煙幕の煙を吐き出していた。

「いいぞ! ペリカン! 入り口から重点的に、煙幕ってろ!」

 その様子に二人の戦いと速水を油断なく見つめていた宗次郎が気づく。

 宗次郎がその間にもちらちらと視線を送るたびにジョーの物理的煙幕はうずたかく積もっていっていた。

「よし! これで目隠し完了! 誰も入って来れな――」

 教室の入り口に壁と化して煙がたまっていく。

 宗次郎がその状況に安堵し自然と力が抜け身構えていた肩が少し下がった。

 だがその煙幕の壁などなかったかのように、


「派手にやってるね。困るんだよね、僕としては」


 一人の男子生徒がいつの間にか教室内にすっと現れていた。

次回の更新は4月11日以降の予定です。

4月10日締め切りの賞に集中します。ご了承ください。

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