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七、偽妹 10

「ははっ! どうした? ああ!」

 小金沢の小馬鹿にした声が教室内に響き渡った。

 小金沢が大げさにふるう砂鉄の両手。時に細くしなり、時に鋭く尖りながら、威嚇をするように教室の机をはじき飛ばしてふるわれる。小金沢の両手は一粒一粒が砂のように細かい砂鉄が流砂のようにうごめきそれでいてばらけることもなくムチのようにしなった。

「ご機嫌ッスね! センパイ!」

 そんな小金沢の両手をその細い目で追い速水がこちらも上機嫌に口を開く。その目は元から細いが今は警戒と期待に更に細められているようだ。小金沢の攻撃を見極めんと細められていながら、速水の目はその下に続く頬が期待に膨らんで細くなっている。今にも舌なめずりまでしそうな笑みで速水は小金沢に対峙していた。

「……」

 その後ろでは小金沢の隙をうかがうように宗次郎が制服の胸ポケットに手をそっと差し入れた。

「河中……ダメよ……あの娘を呼ぶ気でしょ……」

 そんな宗次郎に雪野が軽く振り返る。

 雪野は宗次郎に振り返りながらも意識は小金沢に向いているようだ。小金沢の振り回される砂鉄の手がぎりぎり己の視界に入るように振り返り、なおかつ正面に向いた耳がぴくぴくと動かしている。その上ちらりとだけ宗次郎を見るとゆっくりと正面に向き直る。

「だってよ、千早……鉄なんだろ? あいつなら何か科学がどうの言いながら、適当に……」

「忘れないで、あの娘は普通の女の子よ……」

「そうだけど……放っておいたって、もうすぐ来るだろ……」

 宗次郎がちらりと窓の外を見た。先に見えた野鳥の影が少し大きくなっている。野鳥は何故か一旦急降下をした後、空に戻ってきた。その飛び方は何処から緊張感がなくふらついているようにも見える。

「ペリカンがこっちに向かってきてる。何か暢気な飛び方だがな」

「そう。じゃあ、あの娘が登校する前に片付けるわよ」

 雪野も窓の外にちらりと視線を送る。こちらに向かってくる同じ野鳥の影に雪野が目を細めた。

「言ってくれるね!」

 小金沢が右手を大きく振り上げた。

「下がってなさい! 河中!」

 雪野がその動きに反射的に教室の床を蹴った。小金沢の右手が振り下ろされる前に雪野はその懐に入り込む。

「ああん?」

「そう何度もやられません!」

 雪野は己の左手を鋭く突き出すと振り下ろされる前の小金沢の右手を肩の付け根で押さえた。雪野はもう一方の手も掴まんと右手を更に突き出す。

「そんなんで――止まるかよ!」

 小金沢が掴まれる前の左手を大きく後ろに退いた。音を立てて壁際まで伸び逃げる左手。その小金沢の流砂の左手は黒板にぶちあり更なる音を立てた。そして一気に左手を引き戻す。

「――ッ!」

 引き戻された左手は鋭く突き出され雪野の頬をかすめた。雪野の頬から強引に引き千切られた黒髪が舞う。雪野はわずかに顔を傾けていた。ほんの少し動きが遅かったら小金沢の左手は雪野の頬を貫いていただろう。

「ちょこまかと!」

 小金沢は掴まれた腕の方も根元もそのままにそこから上を振り回す。己の懐まで入られた雪野に小金沢は掴まれた右手の先を暴れさせながら振り回した。

「あはは! そろそろ反撃ッスよ!」

 掴まれながらも振り回される小金沢の右手。その攻撃は速水の身の近くも襲った。その砂鉄のムチをわずかに横に身をそらして避けるや、速水の姿が皆の視界から消えた。

「消えた――とか、言うかよ!」

 小金沢が伸びきっていた左手を引き戻す。再び雪野の頬をかすめたそれは、そのまま小金沢の背後に空気を切って戻ってくやそのまま背後にまわされた。

「やるッスね!」

 小金沢の背後に一瞬で回り込んでいた速水が後ろに跳んだ。速水は小金沢を背後からつかまえようとしていた。その為に伸ばしていた右手もそのままに、床をつま先で蹴るや後方に飛んでいく。

「こっちもお忘れなく!」

 雪野が闇雲に暴れていた小金沢の右手の先端部を己の右手で掴んだ。 雪野に根元と先端を掴まれた砂鉄の右手が輪を描いてもがくようにうごめく。

「情熱的だな! 優等生さんよ! がっちり掴んでくれちゃってよ!」

「ええでも――」

 雪野がちらりと窓の外に視線を移す。ガラスが全て割れてしまった窓。その向こうに驚いたようにくちばしを見開いた水鳥の姿があった。

「こっからが本気ですよ! ジョー!」

 驚いた顔のまま教室に向かってくるジョー。雪野はその姿を認めるや小金沢を突き放すように両手を放した。

 ジョーは驚きにくちばしを広げながら雪野に突進するように教室内に入ってくる。

 雪野はそのジョーを迎えるように空いたばかりの左手を突き出した。

「――ッ!」

 飛んできた勢いのままに教室に入ってくるジョー。こちらも相手を突き飛ばした勢いで突き出された雪野の左手。

 雪野の左手がジョーの開ききったくちばしからノドの奥に容赦なく突き刺さる。

 雪野にノドの奥を突かれたジョーがその衝撃で空中に白目を剥いて空中で止まった。

「ペリ……」

 ジョーが気絶したかのようにその場から床に落ちると、

「覚悟して下さい……」

 雪野がそのノド元から取り出した魔法の杖を小金沢に向かって見せつけた。

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