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七、偽妹 4

「……」

 その女子生徒は通学路で不意に立ち止まった。

 片手に持ったカバンを面倒くさげに肩に引っかけるように乗せている。女子生徒はその気だるげな様子のまま立ち止まるや、通学路の向こうに一転して鋭い視線を投げかけた。

 その女子生徒は一人で登校していたようだ。一人で唐突に立ち止まるや、その周りを同じような制服を着た生徒達が流れていく。立ち止まる際に周りに気を配った様子もない。たまたま後ろを歩いていた男子生徒が一人、突然立ち止まった女子生徒の背中に軽くぶつかってしまう。

 男子生徒は一言詫びようしてか、それとも文句でも投げつけるつもりだったのか、女子生徒を追い越してから振り返った。

 男子生徒はだがそのどちらとも口にできずにその場でびくっと身を細めた。男子生徒はすごすごと頭だけ何度か下げると慌てて身を翻す。

「……」

 後に残された少女の目は獲物を狙う猛禽類のように細められていた。ぶつかった男子生徒のことは気にも止めず、その女子生徒は遠く――己がこれから向かう方向を射抜くように目を細める。

「ふふん……あいつッスね……」

 いやその目は元から細かったようだ。

 速水颯子は何かをさぐるように細めた目から一瞬で力を抜く。細さは大して変わらなかったが、その目はいつもの何処かふざけた雰囲気を取り戻した曲線を描き直す。

「こんな朝早くからとは……暇人っすね」

 速水はもう一度ふふんと鼻を鳴らすと再び歩き出した。その足取りは立ち止まる前から比べると少し早足になっている。

「むむ……自分、恥ずかしいッス……気が急いてるッス……」

 速水は口元を自虐気味に軽く歪める。だが足を止める気はないのかその速度は更に早くなる。

 速水は直ぐに先に己の背中にぶつかった男子生徒に追いついた。

「うわっ?」

 速水がすれ違う瞬間その男子生徒は何かに足を取られたように後ろに倒れていった。

 尻餅を着いた体勢で何事が起こったのかと背中を男子生徒が振り返るが、速水は既に男子生徒を遥か後ろに残して走り去っていた。風をも巻き起こしながら速水はその他の生徒の間も駆け抜ける。

「そうッスよね。力手に入れたら、使わないと損ッスよね」

 速水は興奮に気がはやるのか瞬く間に到着した校門の前で強く足を着いて一度立ち止まった。

 先まで誰もいなかった空間に突如現れたように見えた女子生徒に周りの生徒が驚き振り返る。

 速水はその周囲の不審な視線を気にも止めずさせるがままに受け止めると、今度は一転してゆっくりと敷地を跨いだ。まるでそこから先は別の世界と言わんばかりの儀式めいた足の踏み入れ方だ。

「さて……朝から何をやらかしてくれるッスかね……」

 速水は内なる興奮を押さえ切れないとばかりに上機嫌に両の口角を吊り上げる。

「あのリサイクル兄さんは……」

 速水は最後にもう一度ふふんと鼻を鳴らすと窓ガラスの割れた校舎へと入って行った。



 割れたガラスが窓際の席を中心に飛び散る教室内。その状況を確かめようとか男性教師が身を屈めた。

「……」

 教師の視線が床に集中したとみるや、雪野はそっとスカートのポケットに手を伸ばす。

「どうした?」

 その様子に後ろから宗次郎が軽く身を乗り出し小声で訊いた。

「メール打っとくわ……」

 雪野もやはり小声で答える。

「あいつにか?」

「ううん……杖が要るかもだから……」

「友達すっ飛ばして、野鳥にメールか……今時の女子高生様だな……」

 やれやれと軽く肩をすくめながら宗次郎は乗り出した身を引っ込めた。宗次郎がそのまま背後の気配に後ろを振り返る。

 騒ぎを聞きつけた他の生徒達が廊下からこちらをうかがい始めていた。中には携帯を取り出しカメラを向けている者もいる。

 宗次郎はその野次馬達にざっと視線を流すとおもむろにカメラを取り出した。

「何暢気に、一緒になって写真なんて撮ってるのよ?」

 メールを早くも打ち終わったのか雪野が携帯をポケットに戻しながら抗議に目を細めて振り返る。

「突発的に起こった事件――もとい事故に、新聞部のエースの俺が写真を撮らないって変だろ? これぐらい起こって当たり前――みたいな顔してろってろか?」

 宗次郎は何枚かシャッターを素早く切った。

 近くを撮影する為にレンズを機体内に収めたデジタルカメラのシャッターが連続して音を立てる。

「まあ、確かにそうだけど……」

「それに多分、事故じゃなく事件なら――」

 宗次郎はそこまで口にすると不意にカメラごと後ろに振り返った。

 宗次郎がカメラを廊下の野次馬に向ける。レンズがこちらを向くや、その生徒の人だかりから生徒が一人がすっと身を隠した。

 その生徒が完全に身を隠す一瞬前にシャッターが切られ、

「犯人は現場に戻ってくるって言うだろ……」

 いつの間にか望遠に伸ばされていたレンズがその姿を捉えた。

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