七夕、徒然に。
遥
柊遥
料理か好きな女子高生。
何等かの理由で千草と友人になった。
本人は、クラスに上手く馴染めていると思っているか、少し空回っている。
しかし、人気はある様子。
千草
白石千草
本が好きな女子高生。
時折、本より引用した発言をする事がある。
感情が読みにくいが、希に全面に出ることがある。
本人は、特段壁を作っている積もりは無いが、近づき辛い印象からか、友人が少ない。
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紙をめくる音。
窓の外で風鈴が一度鳴った。
心地のよい風が、カーテンを揺らして入ってくる。
遥
……また読んでる。
千草
うん。
遥
今日くらい、本を閉じたらどうですか?
少しの間
千草
今日は、読む日だからね。
遥
七夕なのに?
千草
七夕だから、だよ。
遥
う~ん?
千草
なんでだろうね?
遥
いや、私に聞かれてもわからないですよ。
口元が、ほんの僅かに緩んだ。
千草
多分、季節を感じたいんだよ。
遥
季節?
千草
ふむ、
少し考えるような仕草をして、語り始めた。
千草
やうやう夜寒になるほど、雁鳴きてくる比、萩の下葉色づくほど、早稲田刈り干すなど、とり集めたる事は、秋のみぞ多かる。また、野分の朝こそをかしけれ。
遥
今度はなんですか?
千草
フフ、徒然草の一節だよ。
遥
徒然草…。
そんな内容だったっけ?
中学の時にちょっとだけ習った気がするけど、全然覚えてないな~。
遥
アレですよね?
徒然なるままに~ってヤツ。
千草
そうだね。その認識で合ってるよ。
キミが言ったのは序段に当たる部分だね。
遥
序段、だったんです、ね?
というより、続きがあったの知らなかったです。
千草
う~ん、確かにそういう人が多いかもね。
因みにさっき私が言ったのは、第十九段の…一部、抜粋だね。
遥
どんな意味だったんですか?
千草
そうだなぁ、秋の美しさを綴った文章…ってところかな?
遥
美しさ…。
千草
簡単に要約するなら、
千草
夜が肌寒くなってきた頃、雁や紅葉、稲刈りなどの風景は趣深いね。
あとは…、特に台風の翌朝が好きだ。って、ところかな。
千草は、言葉を選ぶように少し間を置いて答えた。
遥
なる…ほど?なんとなく、わかりました。
千草
いや、分かってない気がするが、まぁ良いか。
遥
えぇ、そんなことないよ。
千草
はぁ…まぁ、秋は良いって事が伝えたいと分かればいいよ。
遥
でも、今は夏ですよね?
千草
うん。
キミが七夕と言ったから、コレが思い付いたのだろうね。
遥
七夕、関係ありました?
千草
確かに、これだけだと分からなかったかもな…。
千草
説明が足りなかったね。
この少し前に、七夕祭るこそなまめかしけれ。という一文があるんだよ、予め言っておくべきだった。
遥
なるほど?です。七夕についての内容だったから、思い付いたってことだったんですね。
…いや、秋関係無いじゃないですか!
千草
そうとも限らないよ。
そもそも、七夕自体、今と昔では時期が違うからね。現在の新暦では夏だが、旧暦では七夕は秋の行事だったんだよ。
遥
う~ん、それで秋だったと…?
千草
概ねその通りだね。
遥
はぁ…、まぁいいです。
千草
そうそう、だから七夕は秋の季語らしいよ。
遥
それはもう大丈夫です。
千草
そっか。
椅子を引く音。
足音が台所へ向かう。
食器の触れ合う、陶器の音。
遥
それはそうと、千草さんは、願い事何書くんですか?
千草
いや、特に考えてないね。
遥
そうなんですか?私はもう決めましたよ!
千草
夏休みの宿題が、早く終わるように、かい?
遥
そんなこと書きませんよ!
そもそも、まだ少し後じゃないですか。
千草
それなら、期末テストかな?
遥
もう、茶化さないでくださいよ。
千草
フフ、そうだね。ゴメンゴメン。
遥
千草さんも、数学の点数が良くありますように~とか願ったらどうですか?
千草
それを言うんだったら、数学が解けるように成るよう願いたいね。
遥
それなら、私だって頭が良くなるように願いますよ!
千草
それで、何を書く予定だったんだい?
遥
ああ、それはですね!
鍋をかき混ぜる音。
火加減を確認しながら、千草の隣へ戻る。
遥
お料理が上手くなりますように~って書きました。
千草
もう十分美味しいと思うがね。
遥
それとこれは違うんです~。普段、全然料理作ったりしない千草さんには言われたくありません。
それに、私は上手くはないですよ、レシピ見て作る事しか出来ないですし。
応用が出来ないから、お願いしたいんです。
千草
うん。
去年の出来事がフラッシュバックしたよ…。
遥
えっ?
千草
いや、同じ願い事なんだね。
遥
悪いことですか?
千草
そんなことないよ。
毎年同じ空を見上げるのも、悪くないと思う。
遥
えっ、なんですかそれ。
千草
いやなに、私なりの言葉遊びだから気にしなくていいよ。
遥
ますます分かんないですよ!
教えてください。
千草
どうしようか?
遥
ヒントっ!
千草
そうだなぁ…。
そんなに気になるなら、読んでみたらいい。
遥
えっ?…、えーっと、徒然草ですか?
千草
私が好きな所だから、みつかると嬉しいかもね。
遥
う~ん、頑張ってみます。
千草
それじゃあ、244段だ。
遥
…、えっ?
千草
徒然草は全部で243段だからね。それと序段があるから、244段。
遥
そんなに長いんですか!?
千草
もちろん、全部読んでくれたら嬉しいが、無理するモノでもない。読みたいと思った所だけで良いんだよ。
読んでくれた。
その事実以上に嬉しいモノは無いからね。
遥
そういうものですか?
千草
無理強いするものじゃない。それに、嫌なのに読むのは苦痛でしかないからね。
遥
それなら、千草さんのおすすめを教えて下さい。
千草
勿論。
うーん、まずは、――
鍋が、グツグツと音を立てて、カタカタと蓋が鳴りはじめた。
遥
……あっ!
千草
?
遥
お鍋!!
慌ててキッチンの方へ駆け寄る。
遥
……、よしっ、と。
お昼できましたよ~。
千草
おぉ、待ってた、よ…?
千草
なんだい?その鍋は。
遥
何って、お粥ですけど……。
千草
お粥ぅ!?
千草
いや、ちょっと待ってくれ、お粥か、お粥。
うん、ひとまず一つ聞こう。
遥
はい…、
千草
キミは今日がなんの日か知っておいでかい?
遥
そりゃあ、勿論。
千草
そうだよね。うん、知ってるなら良いんだ。
今日は七夕だ。
遥
そうですね。
千草
先程までそういう話をしていたではないか。
そうだというのに、何故、キミはお粥を持ってきたんだい?
遥
私の家ではコレが七夕では定番だったんですけど…。
知りませんか?七日粥って言う風習で……。
千草
あぁ、知ってるさ。
東北や中部の一部で残ってるヤツだろう?
だから聞いたのだ、キミの家は岐阜なのか?それとも長野かい?
遥
何でそうなるんですかぁ!?
千草
しかし、しかしだ、七夕といえば、普通は素麺が相場だろう。
遥
はぁ…。
遥
素麺って、
あんた、麺料理ばっかりじゃないですか!
遥
昨日だって、カップラーメンに冷凍のパスタ。その前だってパスタ、パスタ…。
体に悪いじゃないですか!
遥
というか、そもそもなんで!そんな食生活してる癖に、何で、そんなに細いんですか!
私が同じ食生活してたら、体重が10キロは簡単に増えちゃうのに…。
千草
そんなこと…――
遥
健康に悪いので、麺料理は暫く禁止です。
ほらっ!お粥食べなさい!
千草
なんで…。
嫌がる千草の口元に無理にスプーンを近付けた。
千草
うぅっ……、豆っ…。
遥
好き嫌いしないの!
はい、あーん。
千草
うぅ……。
遥
好き嫌いしない!
少しの間。
遥
はぁ…。食べれるじゃないですか。
千草
……負けた。
遥
最初から素直に食べれば良かったんですよ。
千草
豆だけは勘弁してほしかった……。
……七夕とは、こんなに過酷な日だったかな。
遥
自業自得です……。
千草
……、不味い。
遥
あっ、そうだ。
千草
……まだあるのかい?
遥
違いますよ。
聞き忘れてました。
千草
……なに?
遥
徒然草。
遥
徒然草のおすすめ。
千草
あぁ、確かに。
話しが途中で飛んでいたね。
千草
私が好きなのは……――。
end.




