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ことのは日和 ―七夕、徒然に。―  作者: 鬼灯菜月


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1/1

七夕、徒然に。

 (ひいらぎ)(はるか)

 料理か好きな女子高生。

 何等かの理由で千草と友人になった。

 本人は、クラスに上手く馴染めていると思っているか、少し空回っている。

 しかし、人気はある様子。


千草

 白石(しらいし)千草(ちぐさ)

 本が好きな女子高生。

 時折、本より引用した発言をする事がある。

 感情が読みにくいが、希に全面に出ることがある。

 本人は、特段壁を作っている積もりは無いが、近づき辛い印象からか、友人が少ない。


________________________

紙をめくる音。

窓の外で風鈴が一度鳴った。

心地のよい風が、カーテンを揺らして入ってくる。


 ……また読んでる。

千草

 うん。

 今日くらい、本を閉じたらどうですか?


少しの間


千草

 今日は、読む日だからね。

 七夕なのに?

千草

 七夕だから、だよ。

 う~ん?

千草

 なんでだろうね?

 いや、私に聞かれてもわからないですよ。


口元が、ほんの僅かに緩んだ。


千草

 多分、季節を感じたいんだよ。

 季節?

千草

 ふむ、


少し考えるような仕草をして、語り始めた。


千草

 やうやう(ようやう)夜寒(よさむ)になるほど、(かり)鳴きてくる(ころ)、萩の下葉(したば)色づくほど、早稲田(わせだ)刈り()すなど、とり集めたる事は、秋のみぞ多かる。また、野分(のわき)(あした)こそをかしけれ。


 今度はなんですか?

千草

 フフ、徒然草の一節だよ。

 徒然草…。

 そんな内容だったっけ?

 中学の時にちょっとだけ習った気がするけど、全然覚えてないな~。


 アレですよね?

 徒然なるままに~ってヤツ。


千草

 そうだね。その認識で合ってるよ。

 キミが言ったのは序段に当たる部分だね。

 序段、だったんです、ね?

 というより、続きがあったの知らなかったです。

千草

 う~ん、確かにそういう人が多いかもね。

 因みにさっき私が言ったのは、第十九段の…一部、抜粋だね。


 どんな意味だったんですか?


千草

 そうだなぁ、秋の美しさを綴った文章…ってところかな?

 美しさ…。


千草

 簡単に要約するなら、


千草

 夜が肌寒くなってきた頃、(がん)や紅葉、稲刈りなどの風景は趣深いね。

 あとは…、特に台風の翌朝が好きだ。って、ところかな。


千草は、言葉を選ぶように少し間を置いて答えた。



 なる…ほど?なんとなく、わかりました。

千草

 いや、分かってない気がするが、まぁ良いか。


 えぇ、そんなことないよ。

千草

 はぁ…まぁ、秋は良いって事が伝えたいと分かればいいよ。

 でも、今は夏ですよね?


千草

 うん。

 キミが七夕と言ったから、コレが思い付いたのだろうね。

 七夕、関係ありました?

千草

 確かに、これだけだと分からなかったかもな…。


千草

 説明が足りなかったね。

 この少し前に、七夕祭るこそなまめかしけれ。という一文があるんだよ、予め言っておくべきだった。


 なるほど?です。七夕についての内容だったから、思い付いたってことだったんですね。

 …いや、秋関係無いじゃないですか!


千草

 そうとも限らないよ。

 そもそも、七夕自体、今と昔では時期が違うからね。現在の新暦では夏だが、旧暦では七夕は秋の行事だったんだよ。

 う~ん、それで秋だったと…?

千草

 概ねその通りだね。


 はぁ…、まぁいいです。

千草

 そうそう、だから七夕は秋の季語らしいよ。

 それはもう大丈夫です。

千草

 そっか。


椅子を引く音。

足音が台所へ向かう。


食器の触れ合う、陶器の音。



 それはそうと、千草さんは、願い事何書くんですか?


千草

 いや、特に考えてないね。

 そうなんですか?私はもう決めましたよ!

千草

 夏休みの宿題が、早く終わるように、かい?


 そんなこと書きませんよ!

 そもそも、まだ少し後じゃないですか。

千草

 それなら、期末テストかな?

 もう、茶化さないでくださいよ。


千草

 フフ、そうだね。ゴメンゴメン。


 千草さんも、数学の点数が良くありますように~とか願ったらどうですか?

千草

 それを言うんだったら、数学が解けるように成るよう願いたいね。

 それなら、私だって頭が良くなるように願いますよ!


千草

 それで、何を書く予定だったんだい?

 ああ、それはですね!



鍋をかき混ぜる音。

火加減を確認しながら、千草の隣へ戻る。


 お料理が上手くなりますように~って書きました。

千草

 もう十分美味しいと思うがね。


 それとこれは違うんです~。普段、全然料理作ったりしない千草さんには言われたくありません。

 それに、私は上手くはないですよ、レシピ見て作る事しか出来ないですし。

 応用が出来ないから、お願いしたいんです。


千草

 うん。

 去年の出来事がフラッシュバックしたよ…。

 えっ?


千草

 いや、同じ願い事なんだね。

 悪いことですか?

千草

 そんなことないよ。

 毎年同じ空を見上げるのも、悪くないと思う。

 えっ、なんですかそれ。


千草

 いやなに、私なりの言葉遊びだから気にしなくていいよ。

 ますます分かんないですよ!

 教えてください。

千草

 どうしようか?

 ヒントっ!


千草

 そうだなぁ…。

 そんなに気になるなら、読んでみたらいい。

 えっ?…、えーっと、徒然草ですか?


千草

 私が好きな所だから、みつかると嬉しいかもね。


 う~ん、頑張ってみます。

千草

 それじゃあ、244段だ。

 …、えっ?

千草

 徒然草は全部で243段だからね。それと序段があるから、244段。


 そんなに長いんですか!?


千草

 もちろん、全部読んでくれたら嬉しいが、無理するモノでもない。読みたいと思った所だけで良いんだよ。

 読んでくれた。

 その事実以上に嬉しいモノは無いからね。

 そういうものですか?

千草

 無理強いするものじゃない。それに、嫌なのに読むのは苦痛でしかないからね。


 それなら、千草さんのおすすめを教えて下さい。

千草

 勿論。

 うーん、まずは、――



鍋が、グツグツと音を立てて、カタカタと蓋が鳴りはじめた。


 ……あっ!

千草

 ?


 お鍋!!


慌ててキッチンの方へ駆け寄る。


 ……、よしっ、と。

 お昼できましたよ~。


千草

 おぉ、待ってた、よ…?


千草

 なんだい?その鍋は。

 何って、お粥ですけど……。

千草

 お粥ぅ!?


千草

 いや、ちょっと待ってくれ、お粥か、お粥。

 うん、ひとまず一つ聞こう。

 はい…、

千草

 キミは今日がなんの日か知っておいでかい?

 そりゃあ、勿論。


千草

 そうだよね。うん、知ってるなら良いんだ。

 今日は七夕だ。

 そうですね。

千草

 先程までそういう話をしていたではないか。

 そうだというのに、何故、キミはお粥を持ってきたんだい?


 私の家ではコレが七夕では定番だったんですけど…。

 知りませんか?七日粥って言う風習で……。


千草

 あぁ、知ってるさ。

 東北や中部の一部で残ってるヤツだろう?

 だから聞いたのだ、キミの家は岐阜なのか?それとも長野かい?

 何でそうなるんですかぁ!?


千草

 しかし、しかしだ、七夕といえば、普通は素麺が相場だろう。


 はぁ…。


 素麺って、

 あんた、麺料理ばっかりじゃないですか!


 昨日だって、カップラーメンに冷凍のパスタ。その前だってパスタ、パスタ…。

 体に悪いじゃないですか!


 というか、そもそもなんで!そんな食生活してる癖に、何で、そんなに細いんですか!

 私が同じ食生活してたら、体重が10キロは簡単に増えちゃうのに…。


千草

 そんなこと…――


 健康に悪いので、麺料理は暫く禁止です。

 ほらっ!お粥食べなさい!

千草

 なんで…。


嫌がる千草の口元に無理にスプーンを近付けた。


千草

 うぅっ……、豆っ…。


 好き嫌いしないの!

 はい、あーん。


千草

 うぅ……。


 好き嫌いしない!



少しの間。


 はぁ…。食べれるじゃないですか。

千草

 ……負けた。



 最初から素直に食べれば良かったんですよ。

千草

 豆だけは勘弁してほしかった……。

 ……七夕とは、こんなに過酷な日だったかな。


 自業自得です……。

千草

 ……、不味い。


 あっ、そうだ。


千草

 ……まだあるのかい?


 違いますよ。

 聞き忘れてました。


千草

 ……なに?



 徒然草。


 徒然草のおすすめ。

千草

 あぁ、確かに。

 話しが途中で飛んでいたね。


千草

 私が好きなのは……――。



end.

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