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片恋症候群(かたこいシンドローム) ──優しい僕は、君だけに壊れていく。  作者: 月乃しおり


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変わらないものなんてない

ご覧いただきありがとうございます。


本作品はR15指定です。心理的に重い描写を含みますので、ご理解のうえお楽しみください。

俺の名前は、神谷望。


この世界は、信用できない。


人は簡単に変わる。昨日と今日で、態度も関係も平気で入れ替わる。


それが当たり前だと思って生きてきた。


家は母子家庭だった。


母親はいつも誰かと一緒にいた。男が変わることは珍しくない。


昨日いた人が、今日はもういない。それを誰も気にしない。


母親は病気を抱えていた。統合失調症だと、昔どこかで聞いた。


調子がいい日もあれば、そうじゃない日もある。話が噛み合う日もあれば、全部がズレる日もある。


だから俺は早い段階で理解した。


この世界には“安定”なんて存在しない。


「あとでね」「今は無理」


その言葉の意味も知っている。


あとでなんて、来ない。最初からそういうものだ。


だから俺は、思うようになった。


変わるものに期待するのは無駄だ。


どうせ消えるなら、最初から見ておくしかない。手の届く範囲にあるうちに。


そんな日常の中で、白石ひよりと出会ったのは、ただの偶然だった。


転校生だと聞いたのは、朝のHRだった。


「今日から新しいクラスメイトです」


担任の声に合わせて、一人の女が入ってくる。


白石ひより。


目立たない。声も小さい。ただ、それだけの印象だった。


最初の休み時間、彼女は誰とも話していなかった。いや、話せていないという方が正しいかもしれない。


机の隅で、静かに座っている。それが“普通の位置”みたいに見えた。


(こういうやつは、すぐ消える)


そう思った。


別に深い意味はない。ただ、今までの経験がそう言っているだけだ。


昼休み、彼女は一人で弁当を食べていた。周りには誰もいない。


孤立しているというより、最初から“そこに入っていない”みたいだった。


気づけば、目で追っていた。


理由は分からない。ただ、放っておくと危ない気がした。


このままなら、すぐどこかに流されていく。


『あぁ、なんかいやだな』


また同じ言葉が浮かぶ。


でも今度は違った。


世界に対してじゃない。


この女が、いなくなるかもしれないことに対してだ。


放課後、校門を出たところで、声がした。


「……あの」


振り返ると、白石ひよりが立っていた。


少し迷った顔。


手には小さなキーホルダー。


「これ、落ちてました」


受け取る。


いつ落としたのかも覚えていない。


「別にいい」


そう言って終わるはずだった。


でも彼女は、その場をすぐには離れなかった。


「……ありがとうございました」


小さな声。


その言い方が、妙に引っかかった。


まるで、怒られるのを怖がっているみたいだった。


その瞬間、胸の奥で何かが引っかかる。


(なんでそんな顔してる)


望は思う。


この女は、放っておくと危ない。


弱いとか、そういう意味じゃない。


“誰かに簡単に壊される側”だ。


気づけば、口が動いていた。


「おい」


ひよりが少しだけびくっとする。


「……はい?」


「今日からちょっと気をつけろ」


理由は言わない。説明もない。ただ、それだけ。


彼女は困ったように頷いた。


「……はい」


その返事を聞いて、なぜか少しだけ安心する。


安心してしまった自分に気づく。


その日から、世界の見え方が、ほんの少しだけ変わり始める。


俺はまだ知らない。


この“変わらなそうなもの”が、一番危ないということを。

最後までお読みいただきありがとうございます。

もし少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークやいいね、感想などいただけるととても励みになります。今後の執筆の力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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