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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

とある作家の悩み事

作者: のりもっち
掲載日:2025/10/16

文章は、難しい(T_T)

ある所に、しがない作家の男がいた。ゆっくりと万年筆を走らせ、優雅な暮らしをしていたそうだ。しかしその男にはある1つの悩み事があった。初めは気にならない程度のものだったが、段々と日常へと馴染んでゆき、頭がおかしくなりそうだった。意識し始めたら段々と気になってしまってしょうがなかった。その悩みとは、耳元で聞こえる羽虫の音だった。気になり出した当初は、たまに耳の横を通り過ぎたくらいの感覚だった。鬱陶しく感じて、手で耳元をバタバタと仰いだ。その時はそれで収まっていたのだ。



「気持ち悪いなぁ、虫はそんなに得意じゃないのに…。」



1人眉を顰めて、ボソッと囁いた。その時は何も気にせず、いつも通りの生活を続けていた。カリカリと紙に文字を書く音を鳴らしつつ、異常もなく日常を暮らし続けた。そんな出来事があってから半年程経った時、また耳元でブーンッと羽虫の音がなった。今度は頭を振って、音から逃れてみた。一瞬、頭がクラッとしてしまうがそのおかげで音は過ぎ去った。その日から段々と羽虫の音が聞こえる頻度が高くなっていった。男は家が汚れているのかと思い、台所やごみ箱、居間から寝室までも、念入りに虫が湧いてる所がないか徹底的に調べた。結局どこにもそんな場所は無く、男の行動は無駄なものとなってしまった。



暫くそんな悩みを忘れて時間が経ち、羽虫の音が薄くなってきた頃。それは唐突にやって来た。ブンッと大きな音を立てて、耳元で音がした。男は今までの事もを思い出して、咄嗟に耳元を手で払う。だがその音は止まなかったのだ。どれだけ手で払っても、頭を振っても、耳から音が拾われる。嫌気が差した男は、その日から日常が崩れていってしまったそうだ。優雅に暮らしていた、外でも顔が広かった男が家に引きこもり堕落した生活を送っている事に、近隣の住民たちが心配をしていた。時には男の家から金切り声が聞こえたり、物を壊した音が聞こえてきて、前まで良くしてくれていた人が訪問しても、門前で怒鳴り散らして追い払ってしまっていた。そんな事を繰り返している内に、人が寄り付かなくなってしまった。



ある時、男がそんな生活に耐えきれずおもむろに玄関から靴も履かずに外に出た。玄関の引き戸から壊れるくらいの大きな音がして、外に出て井戸端会議の途中だった奥方達がビクッと体を揺らした。何だ何だと、人が出てくる。道行く人が振り返り、絶句した。男は汚れたボロボロの服を着て、痩せ細っているではないか。しばし見ない内に人はこんなにも変わってしまうのかと皆は同じ事を思った。ドタドタと男が奥方達が集まっている道路まで走ってきて、ガシッと強い力で奥方の肩を掴んだ。恐怖もあったが、あんなに良い人だったこの男が、どうしてこんなことになっているのか気になってしまい、問いかけた。



「どうしたのですか。こんなに慌てて、前まではしっかりした格好をなさっていたではないですか。」

「音が……音が止まないんだ。羽虫が飛んでいるような音がずっと聞こえているんだ……ッッッ。」

「羽虫……?虫なんてどこにも居ませんよ?しっかりしてくださいな。」

「そんな訳がないだろうッッッッッッ!!!虫がずっと耳元にいるんだッ!!お前には聞こえないのか!!」

「キャアッ、やめてください!誰か…誰か助けて!!!」



男は錯乱し、とうとう奥方に掴みかかってしまいました。その場にいた奥方の旦那達に引き剥がされ、どうしたのかと事情を聞き出される。男曰く、ずっと羽虫の音がする。頭を振っても、手で払い除けても、耳を塞いでもずっとずっと耳元に羽虫がいるのだと。これはおかしくなってしまったのだろうかと旦那達は考えて、男の家を見に行ってみることにした。家は悲惨なまでに荒れていて、家具には所々壊れた跡があり、ガラスも割れていた。生活をして出たゴミもそのままにされていて、とても人が住んでいるとは思えないような惨状だった。



「先生こりゃ一体どうしちまったんだよ!こんな所で生活していたのか…。」

「そりゃあ、虫も湧いちまうよ。こんなに放置しちゃ。」

「掃除をしたら少しはその音?とやらも良くなるんじゃないかい?」



旦那達は次々に口を開き、男に語りかけた。男は心ここにあらずのような状態でその話を聞き、その日は解散となった。近隣の住民たちはこの出来事があってから、少しずつ男の生活を気にかけるようになり、掃除を手伝ってくれたり、食事に連れて行ってくれるようになった。男も段々と少しずつ、身綺麗に戻っていき、元の生活に近づいてきていた。住民たちは元の人が良かった男に戻ってきたとホッと胸を撫で下ろした。家も綺麗になり、羽虫の音が聞こえ無くなってきた、と男が井戸端会議に参加していた時に奥方達に語っていたこともあり、皆無事に一仕事が終わったような感覚に満足感を得ていた。



男が自分の生活を取り戻し、仕事が増えてきた頃にまた生活が崩れて、虫の音がするようになった。今度は酷く思い詰める前に、病院に行って相談することにした。男は電車で評判の良い医院にかかった。初診の問診票を書き、自分の名が呼ばれるのをじっと待っていた。その時にも耳元で音がしていて、苛立っていた。この音はいつまで続くんだと腹が立ち、舌打ちをしそうになってしまう。ようやく看護費から名を呼ばれ、座っていた席を立つ。その席には一匹の羽虫が居た。



診察室に入り、医師に自分の状態を分かるだけ伝える。中々上手く伝わらずにもどかしい気持ちを芽生えさせた。



「耳元でずっと、羽虫の飛んでいるような音が聞こえるんです。」

「その音は、どんな気持ちの時、どんな事をしている時にに起こりますか?」

「分かりません、少し仕事が忙しくなってきてからまた聞こえてきて。頭がおかしくなりそうなんです。」

「そうですか、分かりました。お薬を出しておきますね。」

「薬でどうにかなるんですか!」

「それはまだ分かりません、とりあえずお大事に。」



まともに医師に取り合ってもらえなく、少し大きな声を出してしまった。評判が良いと聞いたのに、この対応かと憤りを感じてしまった。診察が強制的に終わらされて、部屋を追いやられた。また待合室の椅子に腰掛けて、処方箋が出来るのを待っていた。ピンポーンと軽快な音と共に、番号が映し出される。薬を受け取り会計をして、医院を出た。自分に薬の知識がないので、こんな薬で改善されるのだろうかと、疑問と不安が込み上げる。そんな気持ちを抱えて、家に着いた。とりあえず夜からの服薬になるとの事だったので、夕食を食べて薬を飲んでその日はすぐに布団に入った。



暫く服用して、男は思った事があった。おかしい、何も改善されていないじゃないかと。改善するどころか、昼間の眠けは常にあり、頭痛や食欲不振、さらには幻覚が時々見えるようになっていた。あの医院の医師はヤブだったのではないか、とどうしても頭によぎってしまった。相変わらず耳に羽虫の音が入り込んできて、気が狂いそうな日々に男は疲弊してきていた。そのうち男は、部屋の中で耳栓をして生活するようになっていった。だが、相変わらず音が捩じ込まれる。何もしても音から逃れられなくなり、毎回予約をして診察に行っていた医院にも無断で行かなくなってしまった。次第に男は家の中で暴れるようになり、怪我が絶えない生活に一変してしまった。



窓ガラスが盛大に割れる音が近隣に響き渡り、住民達は震撼した。何があった、何処からだとやいやい騒ぎ立てる。ある1人が男の家の方面だと叫んだ。また何かあったのかと心配を心に抱えて、そちらの方向に向かっていった。あまりぞろぞろと行っては、迷惑になるだろうと皆で話して、家に上がったことのある旦那達だけで向かう事にした。男の家について、玄関をドンドンと叩く。まだ家の中から大きな音が鳴り響いていた。物が壊れゆく音、皿の割れる音、男の叫び声など。ずっと音が引っ切り無しに鳴っていた。ずっと玄関を必死に叩き、外から呼びかける。埒が明かず、玄関を開けてみた。鍵が掛かっておらず、ギィッと金切り声の様な音を立てて開いた。



「どうしたんだい先生!!!こりゃあ一体何事だッッ!!」

「しっかりしねぇか!!!」

「上がるぞ!!先生!」



旦那達が土足で廊下に上がり込む。台所に男は居た。耳栓を差して狂気に満ちた様な、耐え難い苦痛に取り憑かれている様な、そんな顔をして辺り一帯の物を粉々にしてしまいそうな程、男は暴れ狂っていた。使っていた食器棚のガラスはバキバキに割れ、中の食器も無残に散らかっていた。机や家具は形が分からなくなる程に殴られてボロボロになっていた。住民達が揃えて贈った物も、バラバラに散っていた。何とも言えない気持ちになり、旦那達は男を見上げた。男は服に自分の血をつけて、物を殴り壊していた。手や足からは出血しており、悲惨な状態に、絶句した。旦那達は男を取り押さえて、大人しくなるまで、押さえつけていた。



「…先生、何でこんな事になってるんだよッッッ!!」

「こんなボロボロにしちまって、何があったんだよッ!」

「何とか言ってくれよ先生!俺達のことも分かんなくなったのかよ!?」



男が耳栓を付けていることに気が付き、そっと外してやった。その瞬間、男は突然力を振り絞り暴れ回った。大声で叫び出して、上から伸し掛かっている旦那達を振り解いた。息が荒く、目が血走っている男を間近で見てしまい、まるで幽霊を見たような表情になる。男は耳から血が出る程掻きむしり、喚き散らした。旦那達はもう男の事を、人間と思う事が出来なかった。



「お前がッッッ……お前が耳栓を抜いたからまた聞こえてくるッッッ!!!!」

「また虫がッッッ……羽虫が襲って来るんだ!!!!」

「お前達のせいだッッッ…俺は襲われて死んでしまうんだ!!」



男に手が付けられなくなり、奇行を止めようとした1人の旦那が思いっ切り、頬を殴られた。盛大に部屋の中でよろけ、歯が飛んでしまった。今の男には力の加減が出来ておらず、旦那は鼻血を出して脳震盪を起こしていた。一緒に来ていた2人に助け起こされ、これ以上はここに留まれないと判断して家を出た。家を出ても尚、聞こえてくる騒音に、来ていた旦那達はもう心配の感情は向けられなかった。それどころか嫌気がさして、もう関わらないでおこうと胸に誓った。旦那達が自身の家に付き、心配した表情の奥方達が玄関から顔を出した。気を失った旦那を見て、一斉に青褪めた。大怪我をして帰ってきた旦那を介抱している奥方は他の人から話を聞いて、激昂していた。男の事を化け物と、そんな人だとは思わなかったと酷く罵った。



「あいつッ、私の夫をこんなボロボロにしてッッ!絶対許さない………ッ。」

「とりあえず旦那さんが起きるまで、ちゃんと側にいてあげましょう。」

「そうね……何ともないと良いのだけれど………。」

「もう、あそこには近づかない方か良いわね。」

「絶対に、許さないわ。なんで警察を呼ばなかったのよッッ!」



泣きそうなくらいの声が部屋の中で零される。憎悪の籠もった表情を浮かべて夫の頬を冷やす。どうにかしてやれないかと考えるも夫の惨状を見て、何も考えられなくなった。あんなに良い人だったのに、優しく紳士的で、夫とも仲良くしてくれていたはずなのに、こんな仕打ちに遭ってしまうのかと奥歯を噛み締める。悔しさが込み上げて、その場ですすり泣いてしまう。何でこんな事をされないといけないのかとぐるぐる考えてしまう。嗚咽を漏らしながら、夫に縋り付く。



「早く起きてよ……何があったのか教えておくれ、あなた。」

「………悔しいね、、。」



夫にそっと呟く。すると、瞼が小刻みに震えだした。バッと夫の顔を覗き込む。必死に声を掛ける。体を揺さぶって目覚めを助ける。暫く続けていると、目がゆっくりと開いた、周りの明るさにパチパチと瞬きをして、周囲を見渡す。声を出そうとして咳き込んてしまい、奥方が水を差し出す。一気にゴクゴクと飲み干して、質問をする。皆が口から出る言葉を待っていた。



「俺、どうなってたんだ?」

「お前は先生に殴られて、気絶したんだ。傷の加減はどうだ?」

「あぁ。もうそんなに痛まないな、ずっと冷やしてくれていたのか、ありがとうな。」



夫が目覚めて、涙を流した。傷など気にせずに抱きついてしまい、夫がうめき声を上げた。そのままゆっくりと頭を撫でられた。安心して体から力が抜ける。束の間の抱擁を早々に終えて、話を聞く態勢になる。聞かされたのは恐ろしく現実とは思えない様な、地獄絵図だった。ボロボロの男に、荒らしにでもあった様な家の中、外にまでも聞こえる音に聞いているだけでも身震いしてしまった。その話はあっという間に、近隣住民に伝わり、男の家は、誰も近寄らなくなっていった。ある一人の女性を除いては。



近隣住民達が、男の家に近寄らなくなって暫く経った頃。男はさらに精神がおかしくなってしまった。時々だった幻覚がずっと見えるようになり常に頭痛を感じ、幻聴も混ざっていた。ひたすらに大きな音で羽虫の音が頭に入ってくる。ブーンブーンブーンブーンと、ずっとスピーカーで聞いているようにガンガンと鳴り響いた。家の中も荒れに荒れ果てて、とうとう床の踏み場が無くなっていた。幻覚に惑わされ、日々家の中を徘徊していた。頭の中の声に従い、ただ救われたい一心で、従順な行動を心掛けていた。もう男の心の中からは、自分の意志が消えてしまっていた。



ある日の夜、男は導かれて、台所へ立っていた。頭の中に声が響く。耳を削げば、羽虫は居なくなると。包丁を持ち、迷わずに両耳を切り裂いた。微かに叫び声を拾ったが、その声が自分の物か他人の物かの判別は付かなかった。声に従って耳を削いだにも関わらず、羽虫の音は鳴り止まなかった。どうすれば良いんだ、と頭の中で問いかける。耳の中まで抉ればいいと声が聞こえる。その通りに両耳をえぐり始めた。腕まで赤に塗れて、包丁がぬめり、持ちにくくなった。それでも音は止まなかった。今度は目を潰せばいい、鼻を切り落としたらいい。それでも止まなかった。次はどうすればいいと問いかける、次は首を切ればいい、と声がして、首に包丁を滑らせた。首筋に刃を突き立てて、蛇口を捻ったかの様に流れ出る赤に、男は安心感を覚えた、久しく触れていなかった人の体温に心を解かれて、崩れ落ちた。窓の外には一人の影があった。



暫くして、窓を覗き込んでいた奥方が酷く狼狽えた様子で自宅へと戻ってきた。呼吸が荒く、顔が真っ青であった。何があったんだと聞き出し、奥方は詰まりながら、ゆっくりと話し出す。酷く息を詰まらせて、時折涙を垂れ流しながら話していく。嗚咽混じりな声を必死に聞き取って、皆が一斉に顔面蒼白になる。1人が警察に通報して、男の家へと向かう。警察が来る前に到着し、窓の中をのぞき見た。血まみれになった男を全員の目が捉えた。その遺体は悲惨なものだった。顔面は抉れ、耳は無くなり、首には大きく開いた切り傷が出来ていた。そこからは薄っすらと白い物が見えていた。



ー男の遺体からは、多数の羽虫が這い出てきていたー


もしお手数でなかったら感想も頂けると参考にさせて貰います\(^o^)/

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