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灰ゲーマーのヒキニート女子が悪役令嬢に 後日談


「くそっ!父からは王位をはく奪され、弟に移譲されてしまった……今では地方の一角を治める領主、それも代官が全てを仕切っているというお飾りな存在に落ちぶれてしまった。おまけに……」

 そう言って部屋の中央を見る。


「ダーリン、これ美味しいよ?」

 そう言って菓子を口に頬張っている女……


 見る影もなくブクブクと肥えやがって。

 その見た目に殺意が湧く。


 嘗てはこの世の誰よりも愛していると愛を囁き、この世の全てを投げ打ってでも手に入れたいと望み、婚約者であった女を捨ててまで手に入れた最愛の女、の成れの果て……。


 食っちゃ寝を繰り返した自堕落な女。

 どうしてこうなったのか……。


 聞いた話では皇帝となった弟ロ-ランドは、あの公爵家とはうまく付き合っているようだ。元婚約者の方はなぜかSランクの冒険者となり、同じくSタンクの冒険者であるパートナーと結婚したそうだ。

 なぜ冒険者なんぞに?とは思うが、今は2人で冒険者を引退し、その人脈を駆使して領地運営も順調にこなしているようだ。

 その領土と一切の交流を絶たれている我が領は、目立った特産物もなく、細々と暮らしていける程度の収入しか生み出せていない。逃した魚を思えばそれもまた腹立たしい。今更何を言っても後の祭りなのだろうがな。


 いっそ俺も冒険者になって……、頭の中で冒険者となり女を侍らす姿を想像する。


「良いな!」

 思わずそう呟いた。その結果どうなるかも予想せずに……。


 まずは良い剣を調達し……そう思って実務を担当する代官の部屋を訪れる。

 鼻で笑われた。


 ならばと自前の剣で小手調べにゴブリンと呼ばれる魔物の生息する森へと赴いた。


「痛い!やめて!」

 背中をボコボコと殴られながらその痛みに耐え、這うようにして森の外まで移動する。


「なぜだ!なぜこんな最底辺の魔物に勝てぬ!」

 泣きながらそう叫び何度も地面に拳を打ち付けた。


「あれってここの領主だろ?だっせー!」

「や、やめなさいよ!不敬罪で処刑されちゃうわよ!」

「大丈夫だって、ここの代官様はお優しいから。そんな酷い事はしないさ」

「それもそうか」

 周りから冒険者達の笑い声が聞こえる。


 どいつもこいつも……俺は恥ずかしさと悔しさで泣きながら走り出し屋敷へと戻った。

 部屋で菓子を頬張る女の胸に飛び込んだ。


「どったの?」

「俺は、俺はー!」

 愛していたはずの女に頭を撫でられ声を殺して泣いた。


 大人しく生きる道しか残されていなかった自分の境遇に涙が止まらなかった。


「どうして、どうしてこうなったのだ」

 その後も何度か叫ぶであろう言葉を口にする。


 まるで呪いのように、事あるごとに口にするその言葉を。


「ああ、お可哀想に」

 俺の頭を撫でるふくよかな手が、今はとても心地よかった。



◆◇◆◇◆



「ねえ、今月の上納金どうする?」

 薄汚れたローブを身に纏った女、ジュリアが不安そうな表情で呟いている。


「明日、またクエストを受ける。それでなんとか足りるだろう」

「もう、嫌よ……ねえグイード、お義父様に助けてもらえないの?」

 泣きながらそう言う女に嫌気がさしてくる。


 もう何度もこのやり取りを繰り返している。

 すでに父とは縁が切られている。援助なんてしてもらえるはずが無いのだ。


 冒険者として最高の名誉、Sランクとなった俺達は、さらなる高みを目指してメンバーを入れ替えた。役立たずなミロという付与士を追放し、使えるメンバーを募集した。

 多数の応募の中から俺が厳選して選んだ新しいメンバーは、魔槍士の女だった。


 中距離攻撃の優れたスキルを多用できる頼もしい存在。その優れた技術、優れた見た目、フランコはそのファビオラの見た目に夢中となり、遂には2人で駆け落ち同然でパーティを抜けていった。


 残ったのは目の前で泣くジュリアと金に汚く高飛車なラウディアの3人……。

 暫くは新たなメンバーを探しつつその3人で依頼をこなしていた。


 だが、クラウディアは数日と経たずにパーティの資金を持ち逃げして消えていった。

 取り残された俺とジュリアは、涙を堪えながらも寄り添い、挫けずに前を向こう。新たなパーティメンバーを加えてやり直そう。寒空の元そう誓った。


 強い決意を胸に俺達はメンバーを募集しようと訪れたギルドで、俺達は理不尽な制裁を受けてしまう。


 パーティから抜けたフランコとファビオラは、他の冒険者に多額の金を借りていたまま逃げ隠れているという事実を突き付けられてしまった。


 俺達はもう無関係だと弁明したが、パーティメンバーの問題はそのパーティが解決するのだと不可解な難癖をつけられ、冒険者資格の制限を言い渡された。

 Sランクとういネームバリューは絶大で、かなりの高額を彼方此方から借りていた為、債権者である冒険者達の不満を払しょくするのには必要なことだったらしい。


 借金の弁済として俺は装備を売り渡し、それでも足りない分を稼ぐ為、ギルド指定の2人では厳しい依頼を死に物狂いでこなしては返済に充てていた。


 そんな中、つい出来心で裏ギルドで高額な依頼に手を出してしまった。


 その内容は盗賊行為の手伝いだった。

 一度はやめようと思ったが、依頼主に今更やめるのか?出るとこでるぞ?と脅され、結局はやらざる得なくなってしまった。


 俺達は身元がばれないように変装し、盗賊の逃亡経路となる魔物の密集地を切り開く役目を全うした。だが、護衛を担当していた冒険者により、その攻撃パターンから身バレしてしまった。


 冒険者ギルドには盗賊と同様の扱いの手配書が配られ、ギルドから逃げ隠れる生活になってしまった俺達は、そのまま裏ギルドに雇われる形で依頼を受ける日々へと転落することになった。

 依頼を受けては月末にまとめて上納金を収める日々。依頼の際には手数料も差し引かれているはずなのに……。だがそんな生活も数か月も続けば、気付けばそれが当たり前な日常になっていたことに気付きハッとする。


 風の噂で俺が追放したミロという付与士はSランク冒険者となり、パートナーと結婚。その相手が公爵家の御令嬢で今はその家を継いで領地運営をしているのだと。なんとも羨ましい話だ。


 思えばアイツを追放してから全てが上手くいかなくなった。

 付与士だというアイツは俺達にバフをかけていると言っていた。追放した日も本当に良いのかと確認までされたのに……、俺があの時、アイツの追放を思いとどまって居れば……、そんな後悔を何度も繰り返しては眠れない日々もあった。


 全てはもう遅いのだろう。


 逃げ出したフランコとファビオラの2人は、他所で冒険者に見つかり袋叩きにされ、犯罪奴隷として鉱山送りにされたらしい。ざまーみろだ。


 金を持ち逃げしたクラウディアはその金が尽き、俺達と同じように裏ギルドに登録したらしいが、貴族殺しの罪を負い処刑されたとも聞いた。俺様の金を持ち逃げした罪は重い。自業自得というものだ。


 そんな他人の不幸に喜んでいるが、俺達の境遇だって負けず劣らずの落ちぶれぶり。


「どうして、どうしてこうなったー!」

 叫んでも変えられぬ現実を固いパンと一緒に噛み締め、悔し涙をこぼしながらも明日の依頼に備え、固く汚い床に寝転んだ。



◆◇◆◇◆



「ねえ、幸せ?」

「ん、どうしたいきなり?」

 私はデスクワークをこなすミロに疑問をぶつけると、彼は緩やかな笑みで聞き返してきた。


「冒険者が夢だったんでしょ?今は当主として書類に向かってることが多いから、退屈じゃないかなって?」

「ああ、そういうこと?」

「うん」

 結婚して冒険者から足をあらったのが1年前。


 私も母から仕事を引き継ぎパーティだ茶会だと、慣れない生活を続けている。

 書類と睨めっこしているミロは、父の仕事を引き継ぐ形で領地運営を頑張っている。


「俺の夢はもう叶ったんだ。Sランク冒険者となって認められること。それに、幸せな家庭を作ること。その2つが叶った今、最後に求めるのは君との幸せな毎日を続けること、だよ」

 そう言ってほほ笑み、ミロは私のお腹にそっと手をあてる。


「なら、良かったのかな?」

「ああ。幸せだよ。2人でのこの生活も、これから始まる3人での新たな生活も」

 私は幸せをかみしめながらその彼の手に両手を重ねる。


「産んだらまた愛し合おうね」

「う、うん……、なんだよいきなり……」

「ふふ」

 照れ笑いするミロに笑みを返し、私はたくさんの子供達に囲まれている未来を想像する。


 幸せな気持ちに包まれながら、私はゆっくりと椅子の背にもたれかかった。




 灰ゲーマーのヒキニート女子が悪役令嬢に転生。Sランクパーティを追放された隠れチートと出会ったら、前世の事もすっかり忘れて幸せになってしまった。


 おしまい


お読みいただきありがとうございます。


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