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灰ゲーマーのヒキニート女子が悪役令嬢に転生。Sランクパーティを追放された隠れチートと出会った。  作者: 安ころもっち


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灰ゲーマーのヒキニート女子が悪役令嬢に 後編


「お前は今日から他人だ!今すぐここから出ていけ!」

 一体何を言われたのだろうか?


 俺は目の前のパーティーリーダーであるグイードを見ている。

 聞き間違いか?そう思って聞き返す。


「だから、お前はクビ。戦力外でお払い箱さ」

 どうやら先ほどの言葉は聞き間違えていなかったようだ。


 俺はSランクパーティ『竜の咆哮』の付与士、ミロだ。


 確かに俺のスキルは地味だ。

 自分にはあまり効果がないバフスキルばかりだが、その反面パーティメンバーには数倍にまで能力値を上げることができるチート級のバフスキルを常時展開できてしまう。

 さらには要所要所で付与対象の割合を調整することで、特定の一人に対し凡そ10倍ほどの能力値まで引き上げることもできる。


 そんな俺が追放?

 ちょっと笑ってしまった。


 俺の付与は数倍に底上げするけど自分自身はあまり効果ないから、荷物持ちは勘弁してよね?

 俺は戦えないけど、俺自身がその場にいるからみんなが強敵と戦えるんだよ?忘れないでね?


 今まで何度も伝えた言葉だ。


 最初はヘーとかホーとか言っていたみんなも、最近は俺の話が終わると鼻で笑うようになってきたので、もしかしたらこのアホ共は……と思っていたところだ。


 脳筋で俺様なグイードはそう言うが、さすがに他のメンバーはそこまでアホではないだろう。そう思って周りを見るが……、みんなニヤニヤしているんですが?

 明らかに自身の能力に見合わない動きできてたでしょ?まさかだけどそれすら気付けない程に……


 そうか。俺はアホの巣窟にいたわけだ。

 よし!善は急げだ!


「だが、報酬を1割に下げるなら俺も厳しい事は―――」

「分かった。世話になったな!」

 グイードが何かを言っているが無視だ。


 俺は荷物を取りに行くとパーティハウスを出ていった。


 珍しいジョブだった為、中々パーティが組めなかった時、最初に俺に声を掛けてくれたのはグイードだった。すでに仲間だった魔導士のジュリアも快く歓迎してくれた。

 そこから暗殺者のクラウディア、剣闘士のフランコも加わり、バランスの取れた良いパーティだと思っていた。


 グイードはジュリアと付き合いだし、フランコはグラウディアに手玉に取られながらもなんだかんだで楽しくやっていた。俺はそれを優しい目で見守っていた。と思っていたのは俺だけかな?


 少しだけ涙が出そうになって上を向く。

 ハウスを出る時には何やら後ろから怒鳴り声が聞こえていたが、もう関わりのない者達だ。しっかりかっちり関係を断ち切ろう。そう思って俺が常時展開していた付与をオフにした。



 大人しくなったな。多分だが力も体力も何もかも、全てが半分以下に落ちたのだろう。体が重い!なんて言ってるかもしれないな。ざまーみろ!少しスッキリしている自分がいた。

 やはり俺もストレスが溜まっていたのかな?


 解放感と虚無感を同居させながら、馴染みのギルドに向かった。


 カウンターでいつものように軽い挨拶を交わし、今ある依頼を確認すると、Sランクに相応しい依頼を紹介される。


 俺は苦笑いしながら事情を説明すると、驚きながらも少しランクを下げた依頼を提案してくれた。


 Bランク?いやCランクかな?

 不安を感じる俺により、ランクがドンドン下げられてゆく。


 だって俺一人でそんな魔物は無理だってば。


 最終的に悲しい顔をしたお姉さんが差し出したのは、Eランクの依頼である定番の薬草採取だった。


「体を慣らさなきゃだから……」

「そ、そうよね!そうなのよね!……頑張って!」

 両手をグッと握って胸の前で俺を応援する様子のお姉さん。


 その好意に報いなくては!俺は薬草を探しに山へと移動した。



 この山の麓の草原地帯は初心者が主に使う狩場だ。

 生息する魔物はスライムとラット、スモールラビット、奥に入ればフォレストウルフなどもいるが、浅い場所に出てくるのは稀なことだ。さすがにそれぐらいなら俺でもワンパンで倒せるレベルだ。

 久しぶりにのんびりと薬草採取に集中した。


 そんな時、聞こえてきた女性の声に反応した俺は、急いでその場に急行した。



◆◇◆◇◆



「ぐあ!なんてことだ!」

 スライムの体当たりを受け転がりながらそう叫んだ私。


 そしてまた視界からスライムが消え、次の瞬間には脇腹を抉られる痛みを感じ、胃の中の物を放出しそうになる。

 慌てて口元を押さえその酸っぱいものを飲み込んだ。


 うぐ……泣きそうになった。


「なんだよ!スライム風情がなぜこんなに強い!なぜこの私が……スライムすら狩れねばレベルも上がらぬ!なぜだ、なぜだー!」

 そんなことを魔王っぽく叫びながら、にじり寄るスライムを警戒していた。


「ぬおー!」

 スライムが視界から消えた瞬間、私は横に飛んだ。


 どうせ私に体当たりをしてくるのだ。せめてそれを躱して嘲笑わなければ。そう思って飛んだのだ。


 右か左か真ん中か……そんな博打に勝った私。

 私のいた場所を通過するスライムを見て笑みを浮かべる。


「この勝負、もらった!」

 そう思って手に持つ短剣を着地するスライムに叩きつけ……めでたく地面にキスをした。草の味がした。


「あのさー、そのスライム、倒してもいいか?」

 そんな声が聞こえた私は、体をごろりと転がし仰向けになり様子を伺った。


 見るからに冒険者な風貌の男の子がいた。


「うむ。よろしく頼む」

 なぜか魔王風のロープレを続ける。恥ずかしかったんだよ。


 それがその少年とのファーストコンタクト。


 スライム瞬殺した少年は街まで護衛するから帰ろうと提案してくれた。


「だが断る!」

 そう言いながら、なぜかスライムにすら負けるのだ。このまま帰るわけにはいかないのだ。と自分の弱さをさらけ出す。


 その時、私は少年から聞きなれない言葉を聞くのだ。


「うーん、スライムに勝てないって君、ジョブは何?」

 なん、ですと……。


 ジョブ?ジョブ……ショブぅ!確かに攻略対象のSランク冒険者は魔剣士という奴だったはずだ。それがジョブって奴か?


 そうかー、ジョブかー。

 取得方法が分からない私は素直にそれを聞くことにした。


「ジョブってどうしたらありつけるの?」

「あ、うん。じゃあ説明するね」

 戸惑いながらも教えてくれる少年。


 なんでも、10才を過ぎたぐらいに教会の洗礼を受けると神様とお会いできるのだとか。その際に神様に提示されたいくつかのジョブから、自分自身でジョブを選択すのだと。

 一般人には無縁のジョブという設定。

 冒険者をやるなら必須だよ?と教えてくれた。


 ちなみにこの少年、ミロ君と言う17歳の冒険者だった。付与士という珍しいジョブらしい。私はミロの言われるままに金貨を握りしめ、街の教会へと向かった。


「よっし!剣豪きたっ!」

 洗礼を終え叫ぶ私。


 他に魔導士と暗殺者というジョブがあったが、やはり私は堂々と剣技で敵をなぎ倒したいんだ。そう思っての選択だった。


 これなら私も戦える!

 そう思った私は先ほどの狩場へと戻ろうとしてミロに引き留められた。


「もう一つ気になることがあるんだけど」

 そう言うミロは、私に短剣を抜けと言ってくる。


「やっぱりね。洗礼も知らないからこっちもと思ったけど……、君はどこのお嬢様なの?」

「うむ」

 困り果てる魔王。


 自分の正体については一切合切スルーして、ミロから剣に魔力を送り契約することを教えられる。

 元来この世界の武器は魔力を籠めて所有者登録しないとすぐにダメになってしまうらしい。知らなかったよ。


 契約?何それ美味しいの?魔〇少女にでもなるの?

 思わずそう返しそうになったが、口を開いた直前で自重できた私は偉いと思う。こんなアホな軽口言ったら呆れて帰ってしまうかもだ。私なら絶対にブチギレて帰る自身がある。


 そんなことを考えている間に、ミロは私の短刀を手に取ると丁寧に契約について教えてくれた。なるほど。短剣を両手で握りしめ、心の中でむにゃむにゃとー。


「ハー!」

 思わず叫ぶ私と、飛び上がって驚く少年。


「ごめんつい。でもなんかできた気がする」

「そ、そうだね」

 短剣の柄の部分がキラキラ光るのが確認できた。


 それと同時に短剣が手に馴染んだ感覚も覚えた。


 これなら魔王も一撃で……そんな感覚にすらなってしまう。いや魔王は私で……、って違うわボケッ!


「ありがとうミロ!ではまず、リベンジマッチと行きますか!」

 そう言って拳を振り上げた私。


 少年は戸惑っている。ノリが悪いな。


「あのさ、良かったら一緒に、臨時で良いからパーティ組んでくれないか?」

 そんなことを言うミロ。


「何言ってんの?一緒に来るでしょ?万が一、またスライムにボコられたらどうすんの?」

「え、あ。うん……ホントに?いいの?」

「いいよ?そだ、ミロのこと師匠って呼んだげる。今だけね」

 私のそんな提案に微妙な笑みを浮かべるミロ。


 その後、私はスライムどころが迷い込んできたフォレストウルフと呼ばれる大型の狼を軽々と屠り、ミロにその亡骸を背負わせギルドへと戻ってきた。

 付与士のバフすごすぎない?体が羽のように軽かったよ?どこぞの戦闘民族?


 なんだかんだでミロとはその後も一緒に狩りをするようになった私。狩りによりレベルが上がったのか剣の切れ味が目に見えて良くなってくるのが楽しくて、ついついミロの静止を振り切って魔物の群れにつっこんだりしていた。


 2年程後にはSランクの冒険者として崇められたりしながら、ミロとはなんやかんやあった後に愛を育み結ばれることになる。

 最終的に、ひょんなことから私が公爵家のお嬢様だということがバレ、公爵家を継ぐ為に冒険者を引退。実家へと戻り領地経営に四苦八苦することになる。


 そんな私の物語は、これからも続いていくだろなと思った。

 幸せになれる自信がある。そう、ミロと2人ならね!


「我が人生よ!幸せであれ!」

 私はベランダで1人拳を上げ、自身の幸せな人生を確信していた。


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