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再び呪いのビデオの噂が……
「呪いのビデオってあるじゃない?最近結構噂されてる」
「うん」
「どんなビデオか聞いた事ある?」
「私が聞いたのはぁ、何かいきなり怖い女の人が映ってぇ……」
私の記憶違いでなければ、この会話のシーンは、映画「リング」のワンシーンである。テレビ局に勤める松嶋菜々子が女子中学生?女子高校生?にインタビューしている場面だ。
そして「リング2」の冒頭にもこの場面が映し出されていた筈だ。
生憎、私の部屋にはビデオデッキがなく、古くなったビデオ版リングもリング2も視聴する事が出来ない。
このような事を言うと、私の知人、もしくは大抵の人は、「今なら廉価版DVDや Blu-rayもあるから、観たいならそっちに買い換えればいいじゃない?」と口裏を合わせたかのように同じセリフを返して来る。
ウンザリするとまではいかないが、幾ら何でもそれくらいの事は知っているし、サブスクリプションとやらも存在している事も知っている。
勿論、今の時代でもビデオデッキが入手可能な事も理解している。
世の中にはDVDやBlu-rayになっていない数々の名作映画だって腐るほど存在している為、ビデオデッキの需要は一部か、一時的かはわからないが求められている。
最近、めっきり閉店を繰り広げているTSUTAYAも渋谷店はその需要に応えるべく大量のビデオの品揃えがさていた筈だ。
だがやはり当時の時代を肌で感じる為にはやはりビデオデッキで見るべきなのだ。
いざビデオデッキを購入し視聴出来る環境を整えたとして、果たした私が長年放置し続け埃の被ったビデオが上手く再生出来るか、一抹の不安はある。
湿気や熱でテープが伸び、デッキに絡んでそこから視聴出来なくなったり、あげくはビデオ自体を取り出せなくなるなんて事はざらにあるのだ。
ビデオデッキを購入出来ないのはその恐れがある為だ。このようなちょっとした不安で物事に手をつけられなくなるのは今に始まった事ではない。
何かに取り組む時、私は決まって幾つも不安材料を見つけだし、最終的には挑戦せず、そんな自分を恥ながらも、内心ではホッとしている。それが私だった。
だから恋愛も結婚も上手くいかなかった。鉢植えに水をあげてと妻に頼まれても、葉の裏に虫が隠れていて、その虫がいきなり私の指に噛みつき、そこが赤く腫れて痒くなり、やがては大きな瘤になる。
ハサミで切っても翌日の朝には昨日より大きな瘤が出来ているかも知れない、だから水は怖くてあげられない、そのように話すと妻は私に冷たい視線を浴びせ、深く溜め息をついたものだ。
そんな妻に離婚届を突きつけられた時、妻は
「貴方のその異常なまでの不安神経症的な部分を知っていたら、絶対に結婚などしなかった」と言われ、私はそう言えば妻と付き合っている時には私自身、相当無理をしていたなと思った。
私は突き出された離婚届に記入し判子を押した。翌日、仕事から帰宅したら、妻の物は全てなくなっており、当然、妻の姿もなかった。
携帯電話をかけてみたら、着信拒否されていた。
私は離婚届にサインしたのだから、今更何を言っても始まらないと思い、電話帳から妻の携帯番号を削除した。私のそのような性格は生きていく上で非常に厄介なものだった。
何に対しても考え過ぎてしまい、全てにおいて不安になり最初的に恐ろしくなって手をつけられなくなるからだ。
その為、長年目を閉じ楽しかった思い出を頭の中に思い浮かべその事を呟きながら必死に電車の改札を抜け、駅のホーム、車内、改札、会社までの道のり、社内エレベーター。自分のデスクに着くまで必死にその思い出にしがみついていた。
それが毎日、続き、家に帰ると妻から頼み事をされ、唯一くつろげる場所である筈の家の中でも私は常に不安に晒されていた。だが私は妻を愛していた為、数年間は耐えて来た。
晩婚だった故、子供は諦めていた私だったが、妻はそうは考えていなかった。今の時代、危険は伴うが40代でも出産は可能だと私に迫った。妻のそれは私にとって脅迫でもあった。
当然、SEXの際も、私は不安と隣り合わせだった。妊娠だけを考え機械的にSEXをするのは、私も妻も望んでいなかった。
当然だ。だが私には愛する人との行為の喜びよりも、不安が優っていた。ペニスを握られた時、妻の爪が、鬼頭を傷つけそこからばい菌が入り、鬼頭が腐りペニスがもげてしまうのではないか?舐められた場合もそうだ。妻が噛み切ったりしないだろうか?など不安だった。
逆もそうだった。愛撫の際、妻は嫌がっていないか?とか性器を舐めると粘液ぐ舌と口腔内に貼り付き、そこから歯茎が腐ったり、喉が焼けた爛れたりしないだろうか?等と考え、SEXにすら夢中になれなかった。
そんな私だから離婚を言い渡されるのは当然の流れだった。数年間とはいえ、こんな私に妻はよく我慢した方だと思う。
愛する人との別れは確かに辛かったが、1人になってみると、2人でいるより、随分と生きることが楽になった気がした。
勿論、それは私が不安に感じる事をしなくなったからだ。だからいつしか仕事も休みがちになっていった。妻と別れて4ヶ月目に私は、ついに不安と恐怖仕方ない通勤路に何故、我慢して向かわなくてはならないのかと思い至り、いい歳したおじさんが退職代行を利用し、会社を辞めた。つい先日の事だ。
それを決断するには随分と苦労した。辞める事によって起きる不安と辞めずに定年退職まで通勤していく不安とを天秤にかけた時、僅かだが通勤に対する不安の方が勝った。だから私は会社を辞める事にしたのだ。
仕事を辞めて良かった事は、自分が不安に思う事をしなくて済むというのと、このように昔買ったビデオが偶然、見つかった時だ。
けど良かったのはそこまでだ。先程話したようにこのビデオを視聴するには、大変な不安が私に襲いかかるからだ。だが私は視聴したかった。
だから私は覚悟を決め財布を持ちリビングや玄関まで山積みになったゴミ袋の上を踏み付けながら家を出た。ビデオデッキを購入する為だ。
家を出て郵便ポストを開いた。チラシが山積みになり、私はそれらを束ね引き出した。
その時、数枚落ちてしまい、私はすぐにそのチラシを拾う為、腰を屈めた。その時、数メートル先にキラキラ光る物が視界に入った。私はチラシを掴んだまま、そちらへ近づいた。
見るとそれは裏返しになったコピーされたDVDのようだった。私はチラシを脇に挟みDVDを手に取った。
表をみるとそこにはマジックで「呪いのビデオ」と書かれてあった。直ぐに頭の中に映画、リングとリング2の事が思い出された。ひょっとして、これは……
私は家に引き返し、チラシを玄関内に放り出してリビングへと引き返した。直ぐにデッキを開けて拾った「呪いのビデオ」と書かれてあるDVDをセットした。
私は、居住まいを正し食い入るように画面を見つめた。本当に[呪いのビデオ]などというものがこの世に存在するのだろうか。半信半疑、いや有り得ないと思いつつも、私は視聴せずにはいられなかった。
暗い画面がゆっくり明るくなるにつれ、私は生唾を飲み込んだ。そしてタイトルが浮かび上がって来た。そこには画面からはみ出しそうな程の大きな赤い文字で「杉蔵の〇〇」と映し出された。
私の頭は「?」となったが視聴はやめられなかった。しばらく見ていると、荒い映像の中へ突然。裸の男性が現れ今日は自分の誕生日だと言った。
その記念にシコり映像を撮影するとわけのわからない事を言い出し、片手にエッチな本を持ち、開きながらペニスを扱き出した。とんでもない喘ぎ声を、あげ、挙句の果てに、その本へ向け射精した。
それを撮影しているビデオカメラに近づけ、今年の誕生日は顔射してやったと嬉々として笑い出した。私は気持ち悪くなり、映像を止めようとしたが、この先に呪いのビデオが入っているかも知れないと考え、止める事はしなかった。
そのまま視聴していると、また、その杉蔵という男のオナニー映像が映し出された。だが最初の映像と違うのは1年後の誕生日だと言う事だった。
どうやらこの杉蔵という男は毎年、自分の誕生日にオナニーをしている姿を撮影しているようだった。
今年はエロ漫画だった。私は早送りした。次から次に杉蔵のオナニーシーンが映し出されていく。
私はいい加減にしろ!と怒鳴り、立ち上がった。
「こいつは何なんだ!」
そう怒鳴った私だったが、1つ気になった事もあった。
それは私のペニスがギンギンに勃起していた事だった。
「マジですか」
私はまるで他人事のように服を脱ぎ、裸になった。そして「呪いのビデオ」と書かれたDVD、いや本当のタイトルは杉蔵の〇〇だが、この際、どうでも良かった。私は無意識に再び再生ボタンを、押し、杉蔵のオナニー姿を見ながら私自身もシコり初めていた。
事が終わると私は、確かにこれは呪いのビデオだと思い、飛び出した精液を拭くことも忘れ私は直ぐに家を出た。
撮影用のビデオを買う為だ。そう私は杉蔵の〇〇を見たせいで、呪われてしまったのだ。
私は杉蔵と同じ事を、しなくてはならない。幸いな事に私の誕生日は来週に訪れる。
それまでに撮影機器をよういしておかなければ……
いつしか、私は何の不安も感じないまま電車に乗って秋葉原へと向かっていた。
それすら感じない程の力があの映像にはあったと言う事だ。まさに呪いのビデオは本当に存在していたのだ。杉蔵の〇〇とは呪いのビデオそのものだったのだ。
もしあなたが呪いのビデオとマジックで書かれたDVDを拾ったならば、是非鑑賞をする事をお勧めする。何故なら、この私の不安が無くなる程、杉蔵の〇〇の中にある呪いの力は強大だからだ。そう。まさに呪いのビデオは本当に存在していたのだ。それを誰かがDVDにコピーし、ばら撒いてい……そうして私が杉蔵に呪われたように、今度は私が撮影し洋二の呪いとして、次々へと世の中へ伝染し広がっていくのだ。
私は意気揚揚とスキップしながら、電気街へと向かっていった。
来週が楽しみで仕方がなかった……
了