表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ラスボスに生まれて。

作者: 蜜りんご

明け方、布団の中でふっと生まれたお話です。

 ワタシはラスボス。

 ラスボスになるために生まれた存在。

 生み出された存在と言った方が、正しいのかもしれない。


 ワタシを生み出した何者かは、『創造神』と名乗った。

 何者かはワタシに書物とゲームを与えた。

 勇者が、巨大な悪を打ち滅ぼす物語ばかりだった。

 勇者の……あるいは、後に勇者と呼ばれるようになった者たちの物語。


 何者かは、それらを娯楽として与えたわけではなかった。

 それらは――――。

 勇者とラスボスの様式美を学習するための教材だった。


 ワタシに求められているのは――――。

 物語を盛り上げるべく、ラスボスらしく悪辣に振る舞い、そして。

 勇者に打倒されること。

 世に災いをもたらす巨大な悪として、勇者に滅されること。


 どんな災いが世に蔓延っているのかは知らない。

 それをするのは、ワタシの役目ではないから。

 それをしたことにされ、倒されるのがワタシの役目。


 何のためなのか。

 誰のためなのか。

 それは、分からない。

 ワタシが知る必要はないことだからだ。


 もうすぐ、ワタシの役目は終わる。

 勇者が、ラスダンに足を踏み入れたからだ。

 ワタシはラスダンの最奥で勇者を待ち受け。

 それらしく振舞い。

 そうして、滅ぼされ。

 勇者御一行様をいい気持にさせる。

 ワタシに求められているのは、それだけ。

 勇者を攻撃する必要もない。

 そもそも、そんな能力は持ち合わせていない。

 それは、ワタシではない誰かの役目。

 ワタシは、特に悪を為したわけでもないのに。

 己こそが巨悪であるかのように振る舞い。

 そして、倒される。

 それだけ。

 ただ、それだけのために生み出された。


 きっと、ワタシは。

 ひどく醜く恐ろしい姿をしているのだろう。

 正義を掲げる勇者が打倒すのに相応しいひどく醜悪な姿。


 だから、ワタシは……。


 もうすぐ幕が上がり、そして閉じる。

 幕が下りるというよりは、瞳が閉じるように終わるのだろう。

 ワタシの一世一代の大舞台。

 最初で最後の晴れ舞台。

 やりたいわけではないけれど。

 やらなくてはならない晴れ舞台。

 役目を果たし、役目を終えれば。

 ワタシも終わる。

 その時が、待ち遠しい。


 勇者が近づけば近づくほど。

 誰かの視線を感じる。

 ワタシは。

 見世物なのだろう。

 そうだとすると、勇者もワタシと同じなのだろうか?

 勇者もただの見世物なのだろうか?

 そうであれば。

 ワタシという見世物で。

 本当に気持ちよくなっている者は、別に存在するのかもしれない。


 ああ、もうすぐ。

 もうすぐだ。

 勇者がワタシと同じであっても、同じでなくても。

 どちらでもいい。

 早く勇者に会いたい。

 そうして、この茶番を終わらせてほしい。


 勇者に滅ぼされて、ワタシが終わって。

 その後は。


 ただ、一つ想う。


 次はもう、生まれて来なくても、いい…………。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ