11 牙折り
尻尾による不意打ちの一撃を、ボクはハルバードの性能の高さによって切り抜ける。実際に斧刃と激突した箇所から血がしぶいているから、斬れておりますのよ。
「というか、大怪我をさせないように配慮する意味ってあるのかな?」
実はですね、ブレスとか一部の攻撃を除いてボクはこの戦いの最中ずっと力をセーブしていた。まあ、この身体がどこまでやれるのかを把握できていないという面もあるのだけれど、一番の理由はやり過ぎないため、つまりは死なせてしまったり、治療不可能な大怪我をさせないためだった。
ハルバードの石突や側面で攻撃していたのも同じ理由だね。
別に油断しているだとか、はぐれドラゴンたちを舐めているという訳ではないよ。パパンやママンを始め会談の間に同席していた人たちはボクのことを好意的に受け取ってくれていたが、集落のドラゴンたち皆が皆そうというわけではないだろう。
そんな状況下で、あまりにも強すぎる様子を見せてしまえば恐れられてしまうかもしれない。それくらいなら大した問題ではないのだけれど、迫害などに発展してしまうとっても困る。主にやった方の命がヤバいという意味で……。
繰り返しになるけれど、会談の間にいた六人はボクに好意的だ。そしてドラゴンたちが暮らすこの集落でも指折りの実力者揃いなのだ。そんな彼らがボクへの迫害を見逃すなんてことをするはずがない。特に両親辺りが知ったが最後、例えじゃなくて本当に血の雨が降る事態になってしまうだろう。
前世の記憶があるためかこの集落に対してほとんど帰属意識なんてないけれど、さすがに壊滅のトリガーになるのはちょっとね……。
ところが、どうにもそんなことも言っていられないくなってきたのだよねえ……。
彼我の実力差や力量差を感じ取ることができないはぐれドラゴンたちに、ボクが力をセーブしていることに気が付くはずがなかったのだ。
つまりは、「もしかすると俺たちと同じくらいには強いかもしれないけど、最強な俺たちが負けるはずがないんだぜ!!」的な無駄にポジティブ過ぎる思考を働かせているようなのだ。
正直かなりウザい。そしてムカつく。
「うふふふふ……。尻尾の先をぶった切るくらいのことをすれば、現実を見ることができるようになるんじゃないかしらん?」
連中の考えをトレースしたことで余計にイラついてくる。そして都合の良い妄想を打ち消してやろうと、思わずボクは黒い笑みを浮かべてしまうのでした。
「!?!?え、エルネ様の雰囲気が!?」
「なんだかヤバいことになってない!?」
クレナさんたちが慌てているようだけれど、はて、何のことやらですねえ。
一方の妄想力が限界突破しているはぐれドラゴンたちは、逆に好機と判断したのか攻撃を激しくさせていた。
もっとも、相変わらず連携も何もあったものではない我武者羅で勢い任せな攻撃でしかない。むしろ視野が狭くなっているのか同士討ちすら引き起こしそうになっているし……。
体がぶつかるのは当たり前で、今なんて二体がお互いの頭をかじり合うところだったよ。
「はたから見れば、世界崩壊の前触れなドラゴン同士の戦いも見えるのかな?」
などと、ついどうでもいいことを考えてしまうね。
「とりあえず君はそろそろ地上で寝てなさい」
「ンゴッ!?」
ずっと目を回したままフラフラ飛んでいた一体の頭を、ゴチンと叩いて墜落させておく。微妙に邪魔だったので。
しかし、残った三体はそんなことに気を回す余裕もなくなっているのか、こちらへの突撃を繰り返すばかりだ。やれやれ、眼を閉じていても避けられそうなほどに単調な動きだ。これがボクを油断させるための布石だったりするならば少しは見どころがあるのだが、血走った目を見る限り単純に暴れ回っているだけなのだろうなあ。
「ギュオオオオ!」
「生臭い息を吐きかけるとか絶対にアウトだから、ね!」
大口を開けて迫りくる一体に向かって飛び込むように急接近すると、一際立派で巨大な牙の一本へとハルバードを振り下ろす。
ドグゴギン!!
斧刃が激突した瞬間鈍い破砕音が響き、一本の牙が根元から折れる。
「グゲギャアアアアアアアアアア!?!?」
歯を折られるなんて初めての経験だったのだろう、これまでに体験したことのない痛みと驚きが混ざり合い悲鳴を上げていた。ボクはというとそれを背中に聞きながら落下していく牙を追いかけていた。
「やったね!ドラゴンの牙ゲット……、するのは洗ってからにしよう」
キャッチする直前、生臭い吐息を思い出して見送ることにする。くちゃいのダメ、絶対。
そして、はぐれドラゴンとの戦いもこれが決め手となった。牙を折られた個体がその痛みに錯乱して逃亡すると、残りの二体も這う這うの体で逃げ出してしまったのだ。
残されたのは序盤で戦意を喪失していた集落の若手たちだけ。
「えー……。どうするのよこれ……」
彼らを叩きのめして回るような趣味の悪いことはしたくない。が、はぐれドラゴンと一緒に集落に反旗を翻した責任は取らさなくてはいけないだろう。例え誰かに唆されただけなのだとしても。
「エルネ様」
悩んでいると真紅と青緑のドラゴンが接近してくる。片方はクレナさんだけれど、もう一体は誰かしらん?
「お疲れ様。後は私たちがやっておくわ」
「その声はアオイさんだね。助かるよー」
「いやいや。助かったのはこっちの方よ。パパムート様たちならまた違ってくるんだけど、私たちが出張るとどうしても周りの被害が大きくなっちゃうからね」
「それに長であるパパムート様を前に出す訳にもいきませんので」
アオイさんの説明にクレナさんが苦笑しながら続ける。総大将だとか王様が出撃するようなものだ。いくらそれが最善手だとしても安易に選択できないよね。
それにしてもパパンなら環境被害なしで完勝できちゃうのか。ボクの場合は空中戦ではぐれドラゴンたちを落としているからね。集落の外とはいえ連中が地面に激突したことで少しは被害が発生したはずだ。
素直に尊敬しちゃうよ。ニヨニヨ顔になって長の威厳がなくなりそうだから言わないけど。
あと、ママンが張り合ってとんでもないことになりそうな予感がするので!平和が一番なのです。
「あ、二人とも一つお願いがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「若手のドラゴンたちに誰から唆されたのかを聞いておいて。多分、黒幕は別にいると思うんだ」
戦ってみたところ、あのはぐれ竜たちにそこまでのことを考える頭はない気がしたのだ。まあ、残念ながら確かな根拠がある訳ではないのだけれど。強いて言うなら『勘』ということになるのかな。
だけど、お母さんも「乙女の勘を甘く見てはダメだよ」と言っていたからね。
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