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14:BBQサプライズ(未編集)

咲奈と凛子がやってきたことで全員が集合したのでBBQが始まる。

接客業を生業としてる人たちの集まりなので、皆気さくで話しやすく凛子もすぐに打ち解けることが出来た。

「で、奏は何を持ってきたんだよ?」

先程から各々が持ってきた食材の話で盛り上がっている。

「はい、これ。」

奏が皆の前に出したのはシンプルなサラダチキンだった。

「はぁああ!?何でBBQにサラダチキン!?」

「もっと焼いて楽しいものにしてよ~」

皆が海鮮や炙って食べれる干物やマシュマロを持ってきている中で、奏のサラダチキンは少し異質だ。奏は何も考えず適当に買ってきただけなので当たり前だろう。

「あ、じゃあこれはどうですか?」

凛子はそう言うと持ってきていた紙袋から生のローズマリーとタイムを取り出した。今日は乾燥したハーブをメインで買いに出てきたのだが、偶然質の良い新鮮なハーブも見つけたのでいくつか買っていたのだ。

皆が凛子に注目する中、凛子はBBQ会場で提供しているアルミホイルを広げその上に奏のサラダチキンをほぐし入れる。そして、テーブルにあった黒コショウ、白ワインでチキンを和える。その上に凛子が持ってきたローズマリーとタイムを添えた。

「これをアルミホイルで包んで蒸し焼きにすれば、チキンのハーブ焼きの出来上がりです。」

凛子の手際の良い調理を見て周りは感嘆の声を出す。

「さすが料理人だね‼」

「質素な奏君のチキンが豪華な一品に早変わりだ~」

奏は凛子らしいアイディアだなと心の中で誇らしげだ。

「私は何も食材持って来なかったので、奏のチキンとセットと言うことでお願いします。」

皆美味しい食材を持ってきている中で自分が何も出せないことに申し訳なさを感じていたので少しでも役立てたなら良かった。

凛子が即席で作ったサラダチキンのハーブ蒸し焼きは好評ですぐに食べ終わってしまった。凛子にレシピを詳しく聞く人もいたくらいだ。

「凛子はハーブティーだけじゃなくてハーブ料理も得意なんだね。」

奏が何杯目かもわからない酒のグラスを口にしながら言う。頬はほんのり紅葉し、アルコールが少し回ってきているようだ。

「前奏に私の夢について話したじゃないですか。あれから自分のお店を開いたらどんなことをしたいかって考えるようになって、ハーブをメインとした飲食物を調べてたの。まさかここで役立つとは思わなかったけど。」

凛子がはにかむ。

もちろん仕事や家での料理でもハーブは使用することは多々あるが、ハーブティーほど研究しているわけではない。料理に関する勉強を深くしてみるのも楽しそうだ。継続して摂取することで効果を発揮するハーブ、飲み物だけに縛られない方が良いだろう。

「そっか。確かにランチとかお菓子とかでハーブを使うのも良さそうだね。」

奏も凛子を見て優しく微笑んだ。

そんな二人のやり取りを見た皆は不愛想な奏の姿しか知らないために衝撃を受ける。ちなみに少し事情を知る咲奈はニヤニヤしていた。

そんな奇妙な空気の中、不機嫌な女性が一人。普段は奏とは違う店舗で勤務している心春コハルという名前の女の子だ。心春は最初は奏の働く店の常連客だったのだが、奏に惚れて傍にいるために奏の働く店の系列店にアルバイトとして入ったのだ。奏のいる店舗では人が十分に足りているのと奏目当てでアルバイトに来ようとする女性も多いので、店長が奏に惚れないような人を選んで採用しているという理由もある。

それでも心春は奏の目に入ろうと何かと仕事上の理由をつけて奏の働く店舗に押しかけたりしている猛者だ。

もちろん奏も奏のいる店舗の人たちも心春の気持ちには気付いている。しかし、凛子と出会う前の奏は後腐れなく自分に恋心を抱かない女性の相手しかしていなかったし、面倒事になる店の客や従業員には絶対にプライベートな関係は持たないようにしていた。そのため、心春のことは断固として拒否し続けている。

「奏くっ…「あ、心春ちゃんの取り皿空いてるじゃん。私が入れてあげるね~‼」

心春が奏に声を掛けようとするとすぐに笑顔の咲奈がやってくる。奏への接触を咲奈に阻止されるのは今日だけでももう7回目だ。

もちろん咲奈はわざと心春の傍に待機し邪魔をしていた。

「さっきから無駄にたくさん入れてくれてありがとう~。」

奏がいる手前笑顔を貼り付けて返事をする心春。

さっきからずっとこの女に邪魔される…‼新参者のくせに凛子って女が奏君の隣にいるだけでも嫌なのに‼

心の中ではイライラが積もっている。

「ううん、心春ちゃん細いから心配でさっ!」

返事をする咲奈も満面の笑みだ。

凛子ちゃんのおかげでやっと奏君がまともになったんだから絶対に邪魔はさせない!それに凛子ちゃんと奏のペアは私の推しなんだからね‼

凛子の知らないところで咲奈と心春の場外乱闘が起こっている。

咲奈が凛子を見ると、凛子は何かを探すようにキョロキョロとしていた。

「凛子ちゃん、どうかした?」

咲奈が前に座る凛子に声を掛ける。ちなみに咲奈の隣には心春がおり、奏の正面だ。

「お手洗いを探してまして…」

凛子が言う。

「あ、トイレね。ここのトイレわかりにくいんだよね。良かったら私が「私もトイレ行こうと思ってたから一緒に行こう‼」

今度は心春が咲奈の言葉を遮った。

「私も行くし3人で行こう‼」

すかさず咲奈は凛子と心春の手を握った。

奏君と二人になるチャンスなのに凛子ちゃんの方に来るなんて絶対怪しい‼

「奏、咲奈、ちょっとこっち来いよ。」

タイミング悪く同じ店のメンバーたちが呼び出されてしまう。

「さ、行こっ‼」

すかさず心春が凛子の手を引くと少し強引に立ち上がった。そして、凛子を連れてトイレに向かってしまう。

「ちょっと!奏君っ、あの子と凛子ちゃんを二人だけにして大丈夫なの!?」

二人の背中を見ながら慌てるように奏に話しかける咲奈。

「あ?大丈夫だろ。」

奏から返ってきた返事はあまりにも間の抜けたようなものだった。

奏は心春からの圧にも気付いていたし、凛子を敵視しているのもわかっている。しかし、凛子が心春に何かされてももちまえの性格でスルーする可能性が高い。危害が加えられることがあっても、身体能力も高いので問題はないだろう。ここで自分が割って入っても逆に心春のことを刺激するだろう。

「すみません、ついてきてもらって。」

隣を歩く心春に無表情で言う凛子。

自分の斜め前に座る心春さんという女性、ずっと笑顔でニコニコしていて咲奈ちゃんとも仲が良さそうだ。逆に奏は正面にいる心春さんのことを全く見ないがあまり関係が良くないのだろうか…?

「ううん、いいの。私も凛子さんと話してみたいと思ってたからさ!凛子さんは咲奈ちゃんと奏君とお友達なの?」

心春は相変わらずニコニコとしている。

「そうなんです。いつもお世話してもらってます。」

奏は友達というより家族に近いが、お世話になっているのは確かだ。

「へ~、でも奏君ってあまり噂聞かないじゃない?大丈夫?」

「噂ですか?」

きょとんとする凛子。

「そうそう、女の子のこととっかえひっかえだし、普段は素っ気ないじゃん。奏君に泣かされた女の子は山ほどいるよ。だから奏君と仲良くなって凛子ちゃんが傷つくんじゃないかと思って心配でさ。」

「そんなことないです。」

終始柔和な態度だった凛子がきっぱりと答えた。

「え?」

凛子の予想外な食い気味の答えに驚く心春。

「これまでのことは知りませんが、奏は人のことを簡単に傷つけることはしないですよ。ご心配ありがとうございます。」

はぁ!?何この女…自分だけは奏君の特別だと思ってんの?ちょっと優しくしてもらって笑顔向けてもらってるからって思いあがるなよ‼

「そ、そっか。余計なこと言っちゃってごめんね。実は少し前から私奏君と付き合っててさ、何か勘違いさせちゃったら悪いと思って…。」

怒り心頭の心春は奏から凛子を遠ざけるために堂々と嘘をつく。

「え…奏と付き合ってるんですか?」

奏が誰かと付き合っているとは初耳だ…何故かもやもやとした気持ちが凛子から湧き上がる。

奏と親しくなったと思っていたのに、そんな大切なことを教えてもらっていなかったことがショックなのだろうか…?

「そうなの。だから今日も奏君がこの場に慣れない凛子ちゃんに構いっきりで寂しくて少し意地悪言っちゃった。本当ごめんね。」

「いえ…。」

確かに心春はずっと奏に話しかけようとしていたが、咲奈が声をかけたり、奏が私の世話をしていたおかげで相手が出来なかったのかもしれない。急に来た私が邪魔をしてしまっていたのか…。

「…あ、私実はご飯たくさんたべちゃってお腹痛くてさ、悪いんだけどトイレの後に胃薬買ってきてもらってもいいかな?私、この後同じ店舗の人に呼ばれてて…。」

心春が申し訳なさそうに言う。

「はい、もちろん大丈夫ですよ。トイレの後買って戻ってきますね。」

確かに心春さんは咲奈ちゃんからたくさん食べ物をもらっていた。食べ過ぎで胃が荒れてしまっているのかもしれない。

トイレに行った二人を心配そうに待つ咲奈はそわそわとしていた。奏は男友達に捕まり絡み酒を強いられている。

咲奈の心配は的中し、戻ってきたのは心春だけだ。

「凛子ちゃんは!?何で一人なの!?」

すかさず心春に詰め寄る咲奈。

しかし、心春はどこふく風で意に介さない。

「私がお腹痛いって言ったら胃薬買ってきてくれるって。咲奈ちゃんがたくさん食べさせるからだよ~。」

「もうっ、私が迎えに行ってくる‼」

白々しい嘘で凛子ちゃんの優しさを利用するなんて!

咲奈はすぐにスマートフォンを手に取るとBBQ会場を後にした。

BBQ会場を出てすぐに凛子に電話をかけると、凛子は同じビルのドラッグストアは閉店時間だたためビルを出て近くのドラッグストアに向かっているとのことだった。咲奈は凛子のことを迎えに行くと言ったのだが、凛子には断られてしまう。事情の知らない凛子、もう成人である自分におつかいの迎えがいらないと思うのは当たり前だろう。

そもそも薬を買いに行く必要なんてないのに!

今頃心春が意気揚々と奏に話しかけているだろうが、奏の鉄壁とスルースキルで何か起こっているということはないだろう。

凛子がどこのドラッグストアに行ったのかわからないので、咲奈はBBQ会場の入口で凛子を待つことにする。

「咲奈ちゃん、わざわざ待ってくれてたんですね。」

凛子は2つの薬箱を手に戻ってきた。

「ううん、私が勝手に待ってただけだよ。2つもお薬買ったの?」

「はい、心春さんに詳しい症状を聞くの忘れたので2種類のお薬を買ってきました。」

凛子ちゃん優しすぎる…そもそも心春はお腹なんか痛くないのに。あの子、私があげたお肉ほとんど他の人のお皿に移してたからね。

咲奈は事実を凛子に伝えることができず、二人で皆のいるテーブルに戻ることにした。

「あれ?奏君と心春ちゃんは?」

テーブルに戻ると二人の姿だけが見えない。他のメンバーはお酒が入り酔っぱらっているので頼りにならない。まだ酔いがマシな人に二人の行方を尋ねると、二人でどこかに行ったとしか言わない。

「凛子ちゃん‼手分けして探そう‼」

「え?はい?」

凛子は何故咲奈がそんなにも焦っているのかわからなかったが、テーブルにはつかずにそのまま奏と心春を探しに行くことになった。

BBQ会場である屋上は案外広い。咲奈はトイレの方向を探しに行くと言っていたので、凛子は反対側にある喫煙スペースに向かうことにする。流石に他の客のテーブルに二人がいることはないだろう。

喫煙スペースに近づくと、タバコ特有の香りが漂ってくる。ここの喫煙スペースでは街の夜景を見ながらタバコを数ことが出来るらしい。

「本当いい加減にしねーと、また上に報告するぞ?」

奏の低い声が聞こえてくる。凛子の探しに来た方向が当たりだったようで、声のする方を見ると奏と心春の背中が見えた。

何か真剣な話をしているようだが、自分が声をかけても良いのだろうか…。

そんなことを思いながらも、咲奈が二人を探しているようだったのでまずは咲奈に連絡をすることにする。

凛子はその場でスマートフォンを取り出す。

奏と心春は凛子の存在に気付かず会話を続けている。

「私は奏君のことを思って、教えてあげようと思っただけで…」

「何をだよ?」

「さっき二人で話したときに言ってたの…付き合ってるのかって聞いたら、そんな関係じゃないし他に好きな人がいるって。」

「え…?」

奏は寝耳に水な言葉に驚きの声を出す。

凛子と咲奈が姿を消して、俺は付きまとってくる心春を避けるように喫煙所にやってきた。しかし、それだけで心春が諦めるわけもなく、当たり前かのように心春もついてきた。心春は俺の真似をしてタバコを吸い始めたらしく、今も隣でタバコを吸っている。好きな奴に影響されて喫煙って良いことねーだろ。

付きまとってくる心春にはっきりと拒否の気持ちを伝える気でいたのだが、心春が凛子について話し出したので一旦心春の話を聞くことにしたのだ。

すると、心春は凛子に奏と付き合っているのか聞いたときに、凛子には好きな人がいるので交際関係ではないと答えたらしい…心春の言うことだし、なんか眉唾話だな。

奏が何も言わないことにショックを受けていると判断した心春は嬉しくなりさらに嘘を重ねていく。

「奏君の性格や顔がどんなに良くても、見境なくたくさんの女の子と遊ぶような人は恋愛対象にならないって。誠実で堅実な人じゃないと一緒にいれないって。」

心春の言葉に奏は黙り込んだ。

凛子が俺に対してそんなことを言ったとは思えないし心春の嘘である可能性が高い。でも…女遊びの激しいやつを恋愛対象と見れないのは常識だろう。最近は大人しくしているが過去の自分は消せない…そう思うとやはり兄としてしか凛子の隣にはいれないのかもしれない。

黙った奏を見た心春は凛子に対して優越感を感じ、奏の服の袖をつまむ。

「だから、全部理解してあげられる私のほうが奏君に相応し…

「奏は見境なく女遊びなんてしてません‼」

急に二人の背後から凛子の大きな声が聞こえる。

奏と心春が驚いて振り向くと、そこには初めて見る凛子の怒った表情を浮かべている。

「はぁ!?あんただって奏君が色んな女の家に泊まってたの知ってんでしょ!?」

邪魔をされた心春も顔が険しい。

奏がすぐに口を挟もうとしたのだが、すかさず言い返したのは凛子だ。

「それは相手の女性も了承していたと聞いています!それに奏はこれまでのことを反省し、もうそういったことはしていません!たとえその過去が間違いだったとしても今は反省しているならそれでいいじゃないですか!」

「あんたさっきから何様なの!?邪魔なのよ!」

奏が口を挟む暇もなく心春と凛子の激しい言い合いが続く。

「心春さんこそ何様ですか!?奏の彼女なら、奏を悪く言って傷つけるのはやめてください‼」

凛子は二人に近づくと、心春から奏を引き離し自分の元へ引き寄せた。そして心春に無理やり持ってきた薬を握らせる。

「ちょっと‼あんたには関係ないでしょっ‼」

怒りのボルテージがマックスになった心春は凛子に手を振り上げる。心春が女性ということもあり凛子は反撃はせず、平手打ちを受ける気のようだ。

バチンッ

「っ…‼」

心春の手は奏の頬を直撃し、奏の頬が赤く腫れあがっている。

奏が凛子を庇って殴られたのだ。

「なんで!?」

「奏っ、大丈夫!?」

心春と凛子が声をあげる。

そして凛子はすぐ近くにあった水道まで走って行ってしまった。

「おまえ、いい加減にしろよ。」

奏の声はとても低く、心春を睨んでいる。奏のこんなにも怒った姿を見たことのない心春は恐怖で固まってしまう。

どうやらこの女が自分が俺の彼女だと凛子に吹き込み、俺と凛子の仲を引き裂こうとしたらしい。

「でっ、でも…」

心春は怯えた声でなんとか声を振り絞るが、続きの言葉を言うことができない。さっきまで怒っていた威勢はどこかに行ってしまったようだ。

「でもじゃねーよ。何度も俺に近づくなって言ったよな?俺のこと女遊びの激しい不誠実なやつって思ってんだったら俺に構うなよ。」

「私はそんな奏君も含めて好きなっ

「俺はお前のことを一生好きにならねーよ。失せろ。」

「やだっ‼諦めないっ、私はっ

「奏‼これで頬冷やして‼」

二人が言い争っていると、ハンカチを水で濡らしてきた凛子が戻ってくる。

心配そうな表情を浮かべる凛子は冷たいハンカチをそっと奏の頬に当てた。

「あんたっ、奏君に馴れ馴れしく触らないでっ!」

心春はまたもや凛子に手を伸ばそうとした。

パシンッ

しかし、その手を奏が払う。

そして頬に添えてある凛子の手を優しく引くと、凛子を抱き寄せて凛子のおでこにキスをした。

チュッ

そんな二人の姿を見た心春は目を見開いた。

凛子は突然の出来事にきょとんとした表情のままフリーズ。

「いい加減にしろっつったろーが。俺は凛子が好きで一緒にいるんだ。これ以上近づくな。」

「…!?」

凛子はさらなる驚きの出来事に、勢いよく奏を見た。奏は真剣な表情で心春を睨んでいる。

奏が私のことを好き…!?え…恋愛の意味で!?

フリーズしていた凛子の身体は一転して熱くなり心拍も早くなる。

奏は俯いて震えている心春から身を翻すと凛子の手を引いてその場を離れるよう歩き出した。

凛子は顔を真っ赤にしたまま奏に手を引かれるままに歩く。奏に触れられている手がさらに熱い。

奏は同僚のいるテーブルには戻らずそのままBBQ会場を出る。

そしてBBQ会場のあるビルが出たところで奏は凛子の手を離し、凛子に向き直った。

ドキリと心臓が跳ねる凛子。

パンッ

奏は顔の前で勢いよく手を合わせると、深々と頭を下げた。

「勝手なことして本当にごめん‼」

「へ…?」

思ってもない謝罪に間の抜けた声を出す凛子。

「許可なく急にキスしたうえに、凛子ちゃんのことを彼女として紹介してしまって本当申し訳ない!あの女ずっとストーカー気味で俺の近くにいる女性に嫌がらせしてくるんだ。彼女が出来たってことにしないと凛子ちゃんも狙われるし、俺への気持ちを諦めないと思って…」

「そ、そういうことだったんですか。私ったらつい…」

凛子は先の言葉を濁す。

つい…奏に告白されたのかと勘違いしてしまった。

「つい?」

奏が凛子の言葉に首を傾げる。

「いえ、何でもないです!えっと、心春さんが奏と付き合っていると言っていたので驚いてしまって。」

誤魔化すように言葉を重ねる。

奏に告白されたと思ったなんて知られたら恥ずかしすぎる。

「ああ、俺に他の女が近づくとあいつが勝手に彼女って名乗って他の女を遠ざけるんだよ。嘘だから気にしないで。俺もあの女とは仕事以外で関わったことないし。」

「そうだったんですか…。」

何故だか凛子はほっとして微笑んだ。

奏と凛子はそのまま帰宅することにした。凛子の食事代はすでに奏が払ってくれていたらしい。

凛子はお世話になった咲奈にメッセージで事情を説明し謝罪しておいた。後日、咲奈の話によるとショックを受けた心春は退職したらしい。元から心春の奏へのアプローチのせいで業務に支障をきたすことが多々あり、奏に好意のありそうなお客さんも嫌がらせを受けていたそうなので店側はどちらにせよ心春には退職を促す予定だったらしい。


<>

「基本的にずっと連絡は取れるようにしてあるから、何かあったらすぐに連絡するんだぞ。」

「奏、凛子ちゃんのこと頼んだわよ…って言っても凛子ちゃんのほうがしっかりしてるけど。」

家の玄関で両親が大きなキャリーケースとボストンバックを持って凛子と奏に声を掛ける。両親はこれから新婚旅行に出発するところで凛子と奏はそんな二人を見送るために玄関に立っている。

新婚旅行ではヨーロッパを中心に周遊しパン屋さんを巡るらしい。パン作りが大好きな二人らしい旅程だ。

両親を見送ると、二人はリビングへと戻る。

「凛子は今日休みだったよね?」

奏がベランダの戸を開けながら声を掛ける。

「う、うん!奏もだよね?」

凛子は少し照れくさそうに奏から目を逸らす。心臓が小さくと跳ねている。

「うん、俺も今日は休み。今から洗濯物干すから、それ終わったらどこか遊びに行く?」

奏の表情はいつも通り穏やかだ。

「行く!じゃあ私は洗い物終わったら出かける準備をするね。」

凛子がそう答えると奏は微笑んで頷くと洗濯物を持ってベランダへ行ってしまった。

そんな奏を凛子はこっそりと見つめる。

最近はさらに家事を率先して手伝うようになってくれた奏、日光に反射した髪と目がキラキラとしている。

「かっこいい…はっ‼」

凛子は思わず呟いてしまった言葉に驚き急いで手で口を塞いだ。

奏を見るとこちらには気付いていないようでせっせと洗濯物を干している。

…あのBBQの一件から何故か奏を見ると心臓がドキドキと鳴ってしまう。しかも、以前より奏がかっこよく見える。

自分でも初めての感情にどう対処して良いのかわからない。

洗い物を終えた凛子はすぐに出かける準備に取り掛かった。最近はお洒落でかっこいい奏の隣にいても不自然に見えないように服装や化粧を頑張っている。

咲奈に選んでもらったワンピースを着てメイクをするとリビングへと向かった。ヘアアレンジもしてみたかったが、まだ凛子には難しいのでヘアアイロンで髪を内巻きにするくらいにした。今日は丸一日奏と出掛けるということで自然と気合が入ってしまう。

「お、お待たせしました。」

凛子が声を掛けると、服を着替えてワックスで髪を整えた奏が振り返る。

…やっぱりかっこいい。

心の中で呟く凛子。

「あ、その服咲奈ちゃんが選んだやつだよね?似合ってるよ、可愛い。じゃ、行こうか。」

奏はサラリとそう言うと立ち上がって玄関へと向かう。

凛子は盛大に照れ赤くなった顔を見られないように俯きながら奏の後を追う。

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