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11:男子会


「で、俺らに何か言うことあんだろ?」


とあるファミレスの席で龍之介と一真の前に奏が座っていた。話したのは龍之介だ。

奏はそっぽを向いて気まずそうにしている。


暴力沙汰があって数日後、奏はすっかりと以前のような家で寝食をする生活に戻っていた。奏にとっての平和な日常が戻ったのだ。



「……ごめん。」

奏は蚊の鳴くような小さな声で謝る。

いつも周りに迷惑をかける奏だが、今回は龍之介と一真にとてもお世話になってしまった。


「奏が謝るなんて今日は雨でも降るんじゃねーの?」

ニヤニヤとする龍之介。奏は何も言うことができない。


「ここの飯はお前は全部奢れよ。それでチャラにしてやるから。」

「お、いーね。俺腹減ってたんだよな~。」

奏が返事をする前に一真と龍之介は容赦なくたくさんの食事を注文する。リーズナブルなレストランを選んでくれたのは二人の情けなのだろう。


「で、あの後大丈夫だったのかよ?こっちも適当に諫めて終わらせたけど。」

一真が言う。

奏と凛子が女の子の部屋を出た後、浮気女と男の喧嘩が始まったために一真たちは様子を見つつ去った。その後の男女のことは知らないが、女の子から龍之介に連絡もないのでどうにかなったのだろう。


「…おう、凛子ちゃんと合流して家に帰った。」

相変わらず友人には素っ気ない返事をする。


「ってか、凛子ちゃんの義理の兄だったなんて驚いたじゃねーか。言えよな~?」

「でも血は繋がってないんだろ?苗字も違うみたいだし。」


「まぁな。籍は違うし、俺は凛子ちゃん家族の家に居候してる感じ。」

これは色々と突っ込まれて質問攻めコースになるな…。


「で、最近大人しく家に帰ったり荒れた生活に戻ったりしてたのは凛子ちゃんが関係あるのかよ?」

龍之介がパスタを頬張りながら言う。


「…。」

答えたくない奏は無言だ。


質問を重ねるのはコーヒーを飲んでいる一真。

「凛子ちゃんの前では良いお兄ちゃん演じてたんだろ?奏が暴力沙汰起こしたの見られて大丈夫だったのか?」


「…それが全部知ってたんだよ。俺が酒・煙草・ギャンブル漬けのだらしないやつだって。」


「「へ?」」

二人は間抜けな声を出す。


「え?俺確かに凛子ちゃんに奏のこと少し話したけど、そんなはっきりと伝えてないぞ?」

凛子が暴力沙汰のあったアパートに移動している際に、一真はメッセージで軽く奏の状態を伝えていた。しかし、嫌なことがあると生活が荒れることがあると言った程度だ。


「まぁ、色々とな…。」

奏はそう言って口を閉じるだけだ。口数が少ないのも変わらないらしい。


「それなのにあの後一緒に家に帰って、前みたいに一緒に生活してるのか。」

「ミステリアスな雰囲気がある子だとは思ってたけど…器がでかいというかなんというか。」

やはり凛子の行動は他の人の目から見ても予測不能なところがあるらしい。

奏は凛子を思い出し一瞬口元が緩んだ。



「で、好きなんだろ?」


ガシャンッ


一真の言葉に奏は持っていたフォークを派手に落とす。

そして無表情が一変して、顔を真っ赤にして口をパクパクとさせる。


「俺らどんだけ付き合い長いと思ってんだよ。」

「お前が周りの目を気にするなんて初めてだし、良く見せたいってことは凛子ちゃんに嫌われたくないってことだろ?」


正直長年の付き合いがなくても普段の奏の様子を知っている人なら誰でも気付くことではあるだろう。奏本人がどこまで自覚しているのは定かではないが、奏は凛子の前で猫を被ってはいるものの随分とリラックスをしているように見える。それに凛子に見せる表情はとても優しいもので完全に愛おしい人を見つめる目だ。


「いつから気付いてたんだよ?」

奏が顔を赤くして聞く。


「「最初から。」」

即答する二人。


「最初ってクラブ行った日!?」

奏は驚きを隠すことが出来ない。何故なら奏は自分自身で凛子への気持ちにはっきりと気付いたのは数日前凛子が迎えにきてくれたときだったからだ。いや、凛子が久米野といる場面を見たときにはうっすら気付いていたが、それを見ないように自分の気持ちに蓋をしていた。


「え?違うのかよ?」

「最初から凛子ちゃんに近づく奴等に警戒心バリバリだっただろ。」

驚いたのは龍之介と一真もだった。


「あんなあからさま態度で気付いてないお前に驚きだわ。」

「奏はまともに彼女作ったりとか人を好きになったことないからな~。」


「…。」

二人の言うことは最もである。元々人…特に女性に不信感を持っている奏は相手に押し切られて恋人を作ったことはあるものの、相手との好きの熱量に差があり最終的には振られてしまうことが多い。私ばっかりが好きでしんどいと何度言われたことか…。そんなことが何度もあった結果、奏は特定の恋人を作るのはやめ自分から近づかないようになった。宿泊先を提供してくれて後腐れのない女性のみと関係を持つのが常となったのだ。


「じゃあもう他の女とは関係持ってねぇの?」

龍之介はハンバーグを頬張っている。奏の奢りなので遠慮なく食べまくってるらしい。


「…おう。連絡先も全部消した。」

「まさか奏がまともになる日が来るとはなー。」

一真が感心する。


「うっせーよ。」

奏自身もまさかまともな生活を送る日がくるとは思ってもみなかった。ずっと罪悪感のある暗い生活をするのだと思っていた。


「で、凛子ちゃんは奏のことをどう思ってんだよ?」

「流石に奏が凛子ちゃんに特別な気持ちを持っていることは気付いてるんだろ?」


「…。」

二人の言葉に奏は何も答えない。答えられないのだ。


奏の微妙な表情に二人は顔を見合わせ何かを察した。


確かに凛子は他の人たちに比べて奏を好いているだろう。しかし、それは兄として好かれている可能性が高い。そもそも奏より恋愛経験のないであろう凛子、恋愛に興味があるようには思えない。凛子の中心はハーブティーと家族だ。だからこそ家族になった奏を大切に思っているのではないだろうか。



「じゃあさ、まずは兄って呼ばれるのやめてもらったら?」

一真が口を開く。


「それな‼それと敬語もやめてもらえよ。奏のこと家族だと思ってるにしても、兄に敬語は壁ありすぎだろ~。」

龍之介も同意した。


「確かにな…。」

二人の言うことに同意する。一緒に住む義理の兄になったとはいえ戸籍も苗字も別だ。むしろ兄と呼ばれる方が不自然かもしれない。


凛子が父親以外にフランクに話していることも見たことはない。元々人見知りでコミュニケーションが苦手だと言っていたのでそれも関係しているのかもしれないが、もう少し気軽に接してもらえると自分としても嬉しい。




その後3人は解散した。奏には痛い出費となり友人に恋愛事情を知られることになったが、悪い時間ではなかったように感じる。これまで友人にも壁を作ることが多かった奏にとって、久しぶりに本音で話した気がする。




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