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10:傷跡


午後9時を過ぎた頃、凛子は静かなリビングで紅茶を飲む。

なんだか最近ハーブティーをブレンドするのも楽しくないので、紅茶や緑茶のティーバックを多用することが増えた。

両親が営むパン屋さんは明日は店休日なので、先ほどまで一緒にテレビを見たりと団らんを囲っていた。しかし、朝早くから働いていたのでもう眠いようで両親はすでに寝室に行ってしまった。

先程まで騒がしかったリビングも今ではとても静かだ。


凛子はふとスマホを見るが、誰からの通知もない。

奏の姿を見なくなって1か月弱、以前の静かな生活に戻ってしまった。


この家に引っ越してきてから暫くは奏はあまり家にいることはなく時々夜に会う程度だった。でも今は夜にも帰っていない。

洗濯する衣類も減ったし、毎日夕食を作っておいても一人分が翌日まで置いたときの姿のままだ。

食事の有無を毎日連絡してくれていたのに、今はスマートフォンに通知がない。

ハーブティーも作る回数が減ったし、ペン太君の魔法瓶もキッチンの棚に収納されたまま。


駅に迎えにきてくれた時以来見ていない奏の姿…一体どこで何をしているのだろう。

母に聞いても知らないらしく、奏のことを心配していた。


メッセージを何度か送ったが既読もつかない。

数回奏の働くアパレルショップへも行ったが、奏の姿はなく店員も今日は出勤日じゃないと言うだけだった。次いつ出勤するのか尋ねたが、プライバシーなので答えられないとのこと。



「兄さん…」

凛子は誰もいないリビングで小さく呟く。


奏が行方不明になったから一度雷が鳴る夜があった。怖くて怖くて少し泣いてしまった。これまで一人は慣れていたはずなのに、今は奏がいないだけで不安が過る。


凛子は気分を切り替えるためにもう一杯紅茶を飲むべく立ち上がり、お湯を沸かすことにする。


ピリリリリッ

突然テーブルに置いてあったスマートフォンの着信音が鳴る。


兄さんかもしれない‼


急いでテーブルにあるスマートフォンを取ると、誰からの着信かも見ずに電話に出る。

「兄さん!?」


「…ごめん、俺だよ。一真。」

電話の相手は奏ではなく奏の友人の一真であった。


「あっ、すみません、一真さんでしたか。」

そういえば以前一緒に遊んだ際に一真や龍之介と連絡先を交換していたのを忘れていた。一真なら奏の行方を知っているかもしれない。


「こっちこそ夜にごめんな。実は今困ったっことになってて…」

「どうしました?」

「ちょっと奏が…」


「えっ…!?」

奏に何かあったらしい。


「大丈夫なんですか!?」

少し声が大きくなってしまう凛子。奏が心配だ。


「いや、今は大丈夫なんだけどかなりやばそうで…本当悪いんだけど凛子ちゃんも来てもらっていい?俺と龍之介だけじゃ手をつけられなくて。」

「わかりました。すぐ行きます。」

「本当ありがとう。場所はメッセージで送っておくから。」


それを聞いて凛子は電話を切り、バタバタと準備を始める。

服を着替え、急いで乾燥ハーブをティーバックに詰める。急いでいたせいでハーブが床に落ちてしまったが片づける時間はない。そのティーバックと沸かしていたお湯をペン太君魔法瓶に入れると鞄に詰め込んだ。


兄さんがヤバいとのことだが何がヤバいのだろうか…もしや怪我や病気?これまで帰ってこなかったことに関係しているのか…。


凛子は急いで家を出ると駅へと走った。

奏の状況は心配だが、不謹慎ながらも奏に久しぶりに会えるのは嬉しい。






一真に指定された場所は住宅街にあるアパートの一室だった。

アパートの前に着くと、一真が待機してくれていて凛子に手を振る。


「ごめんな、夜遅くに女の子一人で来てもらって。」

「いえ、大丈夫ですよ。それより兄さんは?」

「え、兄さん?」

凛子の言葉に目を丸くする一真。


「…間違えました。奏さんは?」

そういえば奏の友人には兄である事情は話さず友人ということにしているのだった。一真が驚くのにも無理はない。


「あ、うん、奏はこっち。凛子ちゃんに奏のこと止めてほしくて。」

一真はそう言うと足早にアパートに入って行く。凛子もついて行き、2階にある一室の前に到着すると大きな音が聞こえてきた。


ガッシャーン‼

何かを投げつける音が耳に響く。


「おいっ、大丈夫か!?」

その音で一真は慌てて部屋の扉を開けた。


その部屋はワンルームで装飾から見ると女性の部屋のようだ。ベットの端で震える下着姿の若い女性、床に倒れる見知らぬ男性、奏は龍之介に羽交い絞めにされており男性に殴りかかりそうなところを必死に止められている。


奏の拳は傷や血がついていて顔にあざや切り傷があり、服装や髪も乱れている。男性は奏に殴られたようで顔に傷がついていた。


「テメェ、もういっぺん言ってみろ‼」

そう声を荒げる奏の姿は凛子の見たことがないものだった。ときどきピリピリしているが基本は穏やかな奏だが、今は血管が額に浮かびかなり怒っている様子だ。


「おいっ、いい加減やめろって‼」

龍之介は奏をギリギリ抑えている状態だ。龍之介がいなければ奏は目の前の男性に殴りかかっているのだろう。

初めて見る光景に驚く凛子。これが修羅場というものなのだろう。


「奏‼凛子ちゃんも来てるんだぞ‼もうやめろ‼」

次に声を上げたのは凛子の隣にいた一真だ。


その言葉で奏はすぐに凛子を見る。その表情はとても驚いていて、いるはずのない凛子を見て固まってしまう。

龍之介は奏が止まったことに少し安堵し、男女は知らない凛子の姿にどう反応していいのかわからない。


「兄さん…」

凛子は持っていた鞄を握りしめる。


「何でここに…」

奏は力を緩めると龍之介も抑える力を緩めた。そして呆然としたまま凛子に歩み寄ろうとする奏。


しかし、そこで予想外の動きをしたのは見知らぬ男性だ。男は近くにあった酒瓶を手に持つと奏の頭めがけて振り下ろそうとしたのだ。


「よくもやってくれたなぁっ…‼」

部屋に男の怒号が響く。


「兄さん、避けて‼」


男の行動にいち早く反応した凛子は持っていた鞄を捨て力いっぱい踏み込む。そして男の手前にあったローテーブルを踏み台にすると、そのままジャンプし綺麗な飛び蹴りを男のみぞおちにお見舞いした。


ガッ

ガシャンッ


男が手に持っていた酒瓶は床に落ち、勢いよく蹴りを入れられた男は壁にぶつかって倒れる。



「「「…」」」

一瞬の信じられない出来事に時が止まる。


「はっ…」

しかし、龍之介がなんとか意識を取り戻すと、よろよろと起き上がろうとする男がまた暴れないよう抑えた。


「すみません…部屋を汚してしまって。」

凛子は周りの空気を気にせずに足跡のついたテーブルや床をハンカチで拭いた。

部屋の主であろう女性は常軌を逸した凛子の行動にさらに怯えてしまう。


「いや、何が起こったのこれ…」

奏を止めてほしくて凛子を呼んだ一真だが、まさかこういう展開で事態を収集するとは思ってもみなかった。奏が凛子を見たら大人しくなると思って呼んだだけなのだが…。


「兄さん、たくさん怪我してしまってます。大丈夫ですか?」

凛子は俯く奏の前に膝をつくと、奏を覗き込むようにして見つめる。そして優しく奏の拳に手を添えた。


「…っ‼」

奏は触れられた手を勢いよく払うと、凛子のことを一切見ず部屋を出て行ってしまった。


「兄さん‼」

凛子が声を掛けるが、奏は一切反応せず姿を消した。

奏の出て行った方向を見つめる凛子。



「あの…凛子ちゃん?さっきから兄さんって呼んでるけど、奏に妹っていたっけ?」

一真が尋ねる。


…しまった。予想外の状況に奏のことを兄と呼んでしまっていたようだ。


「兄さん…奏さんは義理の兄なんです。両親が再婚して同居してます。」

兄さん、約束破ってごめんなさい…白状した凛子は心の中で奏に謝罪する。


「そ、そうなんだ。また詳しく聞かせてもらうよ。」

「いえ、こちらこそすみません。あの…兄さんを追いかけても良いですか?」


この部屋の状況も気になるが、まずは怪我をした奏の手当をしたい。

凛子はベットにあったブランケットを怯える女性に掛けながら部屋を見回す。女性は華麗な飛び蹴りをした凛子に恐怖しかなかったが、親切を素直に受け取ることにする。


全く状況が掴めないが、奏が男性と喧嘩をしていて、それを一真と龍之介が止めていたのだろう。そして何故が下着姿の女性…やはり全く意味がわからない。



「うん、凛子ちゃんは奏のこと追いかけてあげて。夜一人は危ないから気をつけてね。」

一真はそう言うが、凛子の戦闘能力は高そうなので一人でも危険に巻き込まれる可能性は低いだろう。それに凛子のことが気になる奏は遠くには行っていないはずだ。


「こっちの部屋は俺たちが何とかしとくよ~」

疲れ果てた龍之介も手をひらひらと振ってくれる。



凛子は二人にお辞儀をすると、奏を追いかけるべく急いで部屋を出た。

一真によると奏は何かあると心の整理をするために公園に逃げ込むことが多いとのことだった。凛子はスマートフォンでマップを見ながら近くの公園から回っていく。すると、運よく3箇所目で奏の姿を見つけることができた。


奏は街頭が1つしかない小さな公園のベンチで膝に腕を置き俯いている。

凛子は額の汗を拭うと奏の傍に行きペン太君の魔法瓶をそのベンチに置く。そして自分も魔法瓶を挟んで奏の隣に座った。


人の気配を感じた奏は静かに凛子の方を向く。

そして掠れるような声で呟く。

「…凛子ちゃん」

その表情は今までに見たことのない顔で憔悴しきっている。目には生気がなく虚ろだ。


「兄さん、顔も手も痛そうです。手当させてください。」

凛子は奏の事情は聞かずに手に持っていたコンビニの袋を見せる。袋には奏を探す途中で立ち寄ったコンビニで買った消毒液やガーゼ、絆創膏等が入っている。


それを見た奏は何も言わずに一つ頷いた。

凛子は慣れない手つきで奏の手当をする。不器用ではあるものの消毒だけはきちんとすることを心がける。傷薬を塗る等は家に帰らないと出来ないが、応急処置としては及第点だろう。帰ったら家にある傷薬も塗らなければ。

奏は消毒液が染みたのか時々目をしかめていたが黙って手当を受けた。


手当を終えると凛子はベンチに座り直す。

「家を出る前にハーブティーを淹れてきたんです。良かったら飲んでください。」


「…。」

しかし奏は何も答えずペン太君魔法瓶も手に取らない。


「…。」

「…。」

沈黙が訪れた。少し冷たい風が二人の頬を撫でる。


5分程してやっと奏が口を開いた。

「…凛子ちゃんは……何も聞かないんだね。」

奏が家に帰らなかったことや先程の暴力沙汰について言っているらしい。


「すみません。こんなときに何て言って良いのかわからなくて…」

凛子も事情を聞きたかったのだがどのような振る舞いをするのが正しいのかわからなかったのだ。


「……ごめんね、晩御飯の連絡しなくて。」

「いえ、兄さんにも事情があったんでしょうし気にしないでください。」

凛子の言葉に奏は自分の唇を噛んだ。


「俺は…凛子ちゃんが思っているような良い兄じゃないよ。」

絞り出すように言う奏。


「え…?」

「俺は気遣いなんてしたことないし、優しくもない。他人に対しても適当で誠意のある行動なんてしたことない。」

凛子は奏の言葉に黙って耳を傾ける。

奏の身体は怒りなのか緊張なのか力がこもって震えている。


「酒、煙草、ギャンブル漬けの生活で自制も出来ないし、特定の彼女も作らず遊び歩いているような男だよ。凛子ちゃんや親の前で良い子を演じてるだけ…。」

凛子には一番知られなかった自分。それも今日の暴力沙汰で露呈してしまった。もう隠すことも出来ないし、凛子と一緒にいることも出来ない。



「…知ってましたよ。」

思い切ってした告白の答えは随分とあっさりとしてたものだった。


その言葉に奏は勢いよく顔を上げ凛子を見る。

凛子も奏の方を見ていて優しく微笑んでいた。


「兄さんはよくお酒や煙草の匂いを纏って帰宅することがあったのでそれは気付いていました。それにお母さんや一真さんがお金にルーズで適当に出会った人の家で寝泊まりしていると教えてくれました。」


「いいいいつから知ってたの!?」

一真が教えたことには少し怒りを感じるが、まさか母親まで全てを察していたとは。


「最近兄さんが帰ってこないのが心配で、お母さんにしつこく聞いたんです。一真さんからは今日連絡があったときに少し事情を聞きました。勝手にごめんなさい…。」


「凛子ちゃんが謝ることじゃないよ。」


「あの…でも今日怪我しているのには驚きました。何があったんでしょうか?」

聞いても良いのだろうか…そんなことを思いながらも尋ねる凛子。奏が気分を害さなければいいのだが。


「……俺は最近声を掛けられた女の子の部屋に泊まってたんだけど、その子に彼氏がいるって知らなくてさ。彼氏と鉢合わせちゃって揉めたんだ。最低だよね。」


「兄さんがそれだけのことで殴る人には思えないんですけど……」

奏の性格上、そのような場合は謝ってさっとその家を出そうだ。仮に相手から殴りかかってきたとしても、奏にも非はあるので相手に殴り返すようなことはしないような気がする。


「彼氏の男が俺に”顔だけで人生上手くいっていいよな”って言ってきたんだ。他の人からしたらそんな言葉だけでって思うかもしれないけど…」

「兄さんにはとても嫌な言葉だったんですね。」


「うん。それで口喧嘩が始まると、すぐに女の子が龍之介に連絡したみたいなんだ。龍之介は近所に住んでて、一真も偶然一緒に居たからあの家に駆けつけてきたんだ。二人は宥めようとしてくれたんだけど、俺も相手も頭に血が上ってて相手が胸ぐら掴んできてそのまま殴り合いに発展しちゃった。」


「そうだったんですね…。」

暴力はいけないことだが、奏は相当嫌なことを言われて我慢出来なかったんだろう。


「しかも凛子ちゃんまで巻きこんじゃって…」

まさか一真が凛子にまで連絡を取るとは思っていなかった。確かに警察を呼ばれてもおかしくない状況ではあったし、収集がつかないために苦肉の策で凛子に相談したのだろう。


「こんな不甲斐ない姿見せてごめんね。すぐにあの家も出てまた一人暮らし始めるよ。」

やはりこんな自分が凛子の近くにいることは迷惑でしかない。それにこれ以上凛子に幻滅されたり嫌われたりするのが耐えられないのだ。


「私は今日一真さんから連絡が来て、兄さんに会えると思うと正直嬉しかったです。」

「でも、俺はこんな姿見せちゃって…ごめん。」


「私は兄さんにたくさん助けられました。だから迷惑だなんて思わないでください。家族じゃないですか。家族は支え合って生活するものだと思います。」

「酒・煙草・ギャンブルばっかしてる兄でも良いの…?そんな奴のこと支える気になる?」


「正直私に迷惑はかかってませんよ?兄さんは家に生活費を入れてますし、自分の持っているお金の範囲で遊んでるじゃないですか。確かに健康上の心配はありますけど。…私は兄さんが家に居なくて寂しかったです。一緒にハーブティーを飲んでくれる人もいないし、雷が怖い時一人で耐えるのも心細かったです。兄さんは自分のことを悪く言うけど、私にとっては優しくて憧れの兄さんです。困ってるときに助けてくれて、人と居る楽しさを教えてくれました。我儘を言っていいなら…」

凛子が言葉を区切る。続きを言うのか迷っているようだ。


奏はそんな凛子の顔を見つめる。


「我儘だけど…兄さんと一緒にまた生活したい。兄さんがどんな傷を抱えているのか知らないし、私以外の人にどんな態度なのかも知りません。私に対してその人たちと同じ態度でも良いんです。だって兄さんの根本は変わらないはずだから。だから…」

凛子は声を絞り出すようにして言葉を吐き出した。気持ちが先行して自分の言いたいことが奏に伝えることができているのかわからない。


「…凛子ちゃんにとって俺はどう見えてるの?」

「優しくて頼りになる自慢の兄さんです。」


「俺に一緒に居て欲しいの…?」

「はい、兄さんが無理をしない範囲でこれまでみたいに生活したいです。」


「血も繋がっていないのに衣食住を一緒にしてたら彼氏が怒るんじゃないの…?」

そもそも奏が姿を消したのは凛子と久米野が一緒にいるシーンを見たからだ。自分がこれ以上見たくないというのもあったが、凛子が自分よりもふさわしい相手と一緒にいるのに邪魔をしたくないと思ったのもある。


「……彼氏って誰ですか?」

凛子が目を丸くする。


「え?あの久米野っていう同僚の人は彼氏じゃないの?」

「違いますよ。確かに告白はされましたが丁重にお断りしました。」

衝撃を受ける奏。雰囲気的に告白されただろうと思っていたのだが、まさか断っていたとは。


「凄く良さそうな人なのに…」

奏から見ても久米野に非があるようには見えない。自分とは違って好青年に見える。断る理由があるようには思えない。


「なんというか…ピンとこなかったんです。」

何なんだそのふわっとした理由は…‼

凛子の答えに唖然とする奏。相変わらず凛子の考えていることはわかりにくい。


「あまりお付き合いするイメージがつかなかったというか…。」

珍しく凛子の答えは歯切れが悪い。


久米野に告白をされたとき、凛子の頭に過ったのは奏だった。確かに久米野は優しく真面目で紳士的だ。でも何故か奏と居る方が楽しいし安心感がある。比較してしまう時点で久米野とお付き合いをするのは失礼だと思った。何より恋愛的な好きという気持ちもよくわからない。久米野のことは同僚として好きだがそれだけだ。


「そっか。凛子ちゃんがそれで良いならどれで良いんだ。」

奏はようやく凛子に微笑んだ。凛子の答えに安堵を感じる。


凛子はそんな奏の表情を見つめる。

「兄さん…家に帰ってきてくれますか?」

自信無さげに尋ねる。


「うん、迎えに来てくれてありがとう。一緒に帰ろう。」

奏は勢いよく立ち上がって凛子の手を取った。

もちろんペンタ君魔法瓶も大切に持つ。魔法瓶は凛子が奏を助ける際に投げ捨てたために少しへこんでしまっている。


「はい‼」

凛子は笑顔で元気よく答えた。






帰宅すると心配した両親が寝ずに待っていた。凛子が慌てて家を出たことに気付き待機していたようだ。不幸中の幸いで翌日が店休日であったために遅くまで起きていても仕事に影響はない。しかし今日も朝早くから仕事をしていた両親にとっては疲れるものがあっただろう。


疲れているはずの母親は3時間程奏に説教をした。特に凛子に迷惑や心配を掛けたことにお叱りを受け、この家に住む限りは家族と連絡が取れるようにしておくことを約束させられる。この歳になって母親に説教をされると思っていなかった奏だが、母親が言うことは最もだったので謝るしか出来ない。


奏が解放された頃には朝日が昇りはじめており鳥のさえずりが聞こえた。クタクタになって自分の部屋に戻ると、少し引き戸が開いていた。静かに引き戸から凛子の部屋を覗いてみると、すやすやと眠る凛子がいた。奏は凛子の寝顔を見ると疲れが吹き飛んだ気がした。


そして静かに布団を引きずり引き戸を挟んで凛子の隣に敷くと奏も眠りについたのだった。その眠りは奏にとって久しぶりに何も気にせず安心して眠れる時間となった。



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