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蠢く肉壁の中で

  ____________落ち着け……。


 ____________落ち着け、落ち着……。


 ___________落ち着け、落ち着け、落ち着け……。


 ____________落ち着け…………!


 落とし穴に半身を飲み込まれたイチは一度肘を支えに全力で脱出を試みるがピクリとも動かない。

一刻も早く抜け出さねば想像したくない最悪の未来が待ち受けている。


 ____________ダメだ。脱出する方法はない。


 イチは、大きく息を吸って全てを諦めたのか身体の力を抜いた。


 ____________だったら、こうしてやる!


 イチは大きく息を吸って瞼を閉じると。身体の力を全力で下方向に込める。

するとヌルリという感覚と共に身体が一気に地下に沈んだ。


 ____________暗い!


 当然であるが落とし穴の中は暗い。

今の時代で我々が稀に見かける落とし穴に飲み込まれた冒険者の画像は当然ながら便宜上、内部が明るく描かれているが現実にはそんなことはない。

が、神の視点を持つ作家たる私としては内部を描写しないわけにもいかないだろう。


 


  イチの落ちた先は人間の胃袋の中身のように桃色の粘膜で囲まれた肉の檻であった。

イチはその肉の地面に尻もちをついている形になるが、既にヌラヌラとした肉の触手が2本、彼女の脚にからみついており、別の触手は先端が針のようになっており彼女の太ももに突き刺さっている。


 イチは焦りに負けないように胸のポケットから左手で着火筒(現代でいうオイルライターのようなもの。筒状で、火打石を削った芯を引き抜くことで発火する)を取り出すと口で芯を抜く。

小さな灯だったが光を得たイチは目前に迫る危機に顔を引き攣らせた。


 肉の落とし穴は今度はイチの腕の自由を奪おうと目前に迫っていた。


 「うおおおおおおおおおおおお!」


 反射的にカーペイト15式を恐ろしい精密さで2連射し向かい来る触手を撃ちぬいた。

はじけ飛んだ先端から無色の粘液が吹き出しイチの顔面を濡らす。


 ここで一般常識として、触手類の事についても最低限おさらいせねばなるまい。

主に寄生目、穴袋目、樹立目に大分類が分かれている。

今、イチが捕えられているのは穴袋目である。

多くは肉食で、他生物の体液を啜り栄養を得る。特筆すべきは多くの種が異種交雑により繁殖する点で、他生物の胎内に寄生卵を産みつける事で母体を苗床にし繁殖してゆく。

肉食ながら光合成によっても栄養を得ており、その寿命は長い。

その為、体液には豊富な栄養が含まれており生態系の中で触手類から生きる糧を得ている動物も少なくない。

種によって異なるが多くは5本以上の触腕を持ち、ヘカテンタなどの触腕は100本を越える事もある。


 今イチが戦っている種は穴袋類ヒトノミカズラの亜種であり、ラプダンジー氏が魔法により改良した特殊な触手類である。


 ______一度触手に絡みつかれた時点で、9割9分負けが確定する。


 イチは経験と学習からその事を知っている。

何しろ他の生物を捕らえる為に進化した生物なのだ。

一流の剣士でも触腕の手数には手も足も出ないし、生命力が強い種が多く生半可な魔法では怯ませる事すらできない。


 現に、新たな触腕が地面より生え出てイチの右腕に絡みついていた。

反射的に右腕を引くも物凄い力で絡みつかれピクリともしない。


 一度触手に絡みつかれた時点で、9割9分負けが確定する。これは19世紀の冒険者にとって常識であった。

だが……、


 「冒険者を舐めるな!」


 イチは着火筒で衣服を燃やさぬよう、器用に腰のポシェットの中の紙に包まれた発煙筒に火を点けた。


 筒から一気に大量の煙が吹き出し、肉穴の中が酸のような臭いにつつまれる。マスクがなければイチは思わず嘔吐していただろう。


 この煙は触手類にとって毒となる成分で出来ており、冒険者は必要に応じてこれを携帯していたと言う。


 その為イチに絡みつこうとしていた新たな触腕が苦しそうにもがきはじめ、肉壁全体がひっくり返った胃袋のように蠕動し、ついには発煙筒をイチごと体外に排出した。


 「くおおおおおおおおおお!!!」


 後はなんとか動かせる腕をつかい這いずり前に進むイチ。

発煙筒もいつまでも煙を噴いてくれるわけではないし、煙だけで無力化できるほど触手は弱くもない。

再びあの暗い肉穴に引きずり込まれたらそこで彼女の冒険は終わる。


 幸運な事に次の階に進むための階段は目前で、感覚を奪われ動かない下半身を引きずりながらなんとか安全な場所まで辿り着いた。


 しばらくすると徐々に下半身の感覚が戻っていき、軽く痺れはするものの2本の脚で立てるまでに回復した。


 肩を上下にさせながら額の汗を革のグローブで拭い、マスクを少しずらして腰の水筒から水で僅かに喉を潤すとイチは雄叫びをあげた。

 無論、独り言の法則に則り心の中でである。


 ______エロトラップダンジョンなんて怖くない!


 それは、まだまだ続く奇怪な塔に挑むために己を鼓舞するための雄叫びであった…。


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イチ ぼうけんしゃ

【LV :   33】

【体力:  412】

【気力:  912】

【状態:  ふつう】


・転ばずの竿を失った!

・対触手発煙筒を失った!





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