パルテルラットとピィピ、乱暴されたっぽい パーティを追放(以下略)13
「ホーイッツ! 貴様、どの面下げて来やがった!」
目隠しのせいでホーイッツの姿こそ見えないイチだったが、鉄格子を隔てた向こうに立っているホーイッツに向けて罵声を浴びせた。
「そう、怒るな。あなたは勘違いしている」
「勘違いだと? 何が勘違いだ!」
ホーイッツは敵意をむき出しにするイチを安心させようと思ったのか、牢の扉をあけると自ら中に入って来た。
「妙な気を起こさないように。その気になればあなたを簡単に凍死させられるからな」
「________くそ」
イチはホーイッツの手が自分の顔に触れた感覚に激しい嫌悪感を覚えたが、きつく縛られているので何もできない。
その気になれば体当たりのひとつでも食らわせる事はできそうだが、例の『水を冷たくする魔法』を発動されるのは避けたかったし、激しい怒りを覚えながらも上手くするとホーイッツを懐柔できるのではないかと思い始めていた。
ホーイッツは変質的に指先で魔法を使いながらイチの顔をなで、唇を指でなぞった。その度にイチは顔面に凍るような冷たさを感じて身震いした。
しかし、ホーイッツは存分にイチの顔面の体温を楽しむとイチにかけられた目隠しを取ってやった。
視界が蘇り一瞬目が眩んだイチであったが、ホーイッツの涼し気な顔を見ると今度は得体の知れない恐怖に襲われた。
____なぜ、こいつはこんな顔ができるんだ。
ホーイッツはイチ達を裏切り冒険者としての依頼を放棄し山賊団に寝返ったというのに表情に恥じるようなところがなく、むしろその顔は自信に満ち堂々としている。
イチはそのホーイッツの、自分たちとは別種の感情の作られ方に恐怖したのだ。
「イチさんは、ラッチェを勘違いしている」
「どう勘違いしてると言うんだ」
「彼女は真の義賊だ」
「義賊?」
イチは過去のホーイッツの発言を覚えている。ラッチェの事を馬鹿な女と断じたではないか。そのやり方に疑問を持っていると言ったのは当のホーイッツではないか。
イチはそう反論したくなる衝動を抑え、一旦は彼の言葉を聞く事ができた。
「そうだ。彼女が考えているのはなにもユーカイ村のことだけじゃない。バルティゴ連邦全体の事を考えている」
「どういうことだ」
「イチさんは最近の連邦について何も思わないか?戦後の好景気は資本家達に権力を作らせた。今回の依頼主、シローキンもそのひとりだ。シローキンがこの村の買収を目論んでいるのは知っているな?」
突然ホーイッツの口から展開される政治的な問いかけにイチは混乱した。そんな話は今まで一度も出てこなかったではないか。
「シローキンのような悪徳金持ちに良いようにさせたらこの連邦はどうなる?俺たちみたいな持たざる者は彼らの都合の良いよう奴隷同然の扱われ方をするだろう」
ホーイッツの言葉には現代を知る我々にとっては理がある。しかしその理は所詮、ラッチェにベッドの上で吹き込まれたものであり、単に自分達の蛮行を正当化するものでしかない。
「ラッチェが、この国を憂う義賊だから裏切ったのか」
「そうだ」
イチの質問にホーイッツは当然とでも言いたげに答えた。
「じゃあ、なんでその義賊様がパルテルラット先輩とピィピが乱暴されるのを許しているんだ」
「____それは、仕方のないことだ。我々は同志だ。決して規律のある軍じゃないからな」
「仕方の____ないこと?」
その言葉にイチは怒りのあまり血の気が引く感覚を感じた。
目の前の下種にかかればどんな犯罪も蛮行も正当化されるに違いない。一瞬でもこの男と焚火を囲んで飯を食べた記憶を消去したかった。
「イチさんは、俺の言っている事を解ってくれると思う。だからこう話している」
ホーイッツはどこか遠くを見つめ言葉を切ると、そしてその熱に浮かされた眼差しをイチに向けた。
「イチ。俺と共に来い。俺たちと連邦に蔓延る金持ちどもと戦うんだ」
イチは再び底知れぬ恐怖を感じた。
何をどう考えれば自分を仲間に組み込めると言うのだろう。
どこからその感情的理由が産み出されているのか。
だが、これはチャンスでもある。
ホーイッツの軍門に下ったふりをして、隙を見て反撃すれば良い。
「____あぁ、そうだな、そんな気がしてきたよ」
イチは力なく笑顔を作って見せた。
事実、仲間の為とは言え彼女の信念を裏切るような嘘をつかなければならない事に心が消耗した。
「では。俺の女になってもらおう。そうでなければ、ラッチェにも示しがつかんからな」
「それは、そうだよ」
もうどうにでもなれ、と心の中で思ったのだろう。
イチはよくわからない返答を返した。
「俺の女になったのであれば、口づけくらいはできるな?たっぷり舌を絡めて、濃厚にな」
そう言うとホーイッツは嬉しげに目尻を歪め、口を半開きにし赤い舌をチロチロと動かしてみせる。
その醜悪な態度にイチは思わず引き攣った笑顔を浮かべてしまった。
____ああ、ちくしょう。キスだろうがなんだろうがやってやるさ。それ以上のことだってやってやる。この場は服従だ。服従して、反撃の隙を伺うんだ。
イチは覚悟を決め、己の口を半開きにするとホーイッツの唇に重ねようと顔を近づけた。
その時、他の部屋の扉が開く音がするとパルテルラットとピィピが男達に引きずられ連れ戻されて来たのをイチは見てしまった。
二人とも縛られたまま着衣は乱れ、ぐったりとしている。
ピィピはうつろな瞳のまま糸が切れた人形のように引きずられ、パルテルラットは殴られたのか頬を腫らせている。
着衣が酷く乱れていた。
彼女らに何が起きたのか、イチは否が応でも理解してしまった。
そして、その光景がイチを爆発させた。
「義賊だとか、バルティゴの未来だとか…」
「なに?」
あと少しで唇が重なりあうというところでイチの顔が自分から離れたのを見てホーイッツは怪訝な表情を浮かべた。
そして次の瞬間には唇ではなく、イチの強烈な頭突きがホーイッツの顔面に血の華を咲かせた。
「ぐあッ____!?」
血を噴き出す鼻をおさえて仰天した表情を浮かべるホーイッツにイチは己の怒りを言葉にしてぶつけた。
「知った事か! そんなとってつけたような理屈、知った事か! お前らは最低のクズだ! 絶対に許さないからな!」
イチは屈辱に塗れた従属よりも、己の感情に任せた反抗を選んだ。
予め断っておくが、この行動はイチを窮地においやるだけの愚かな行動でしかない。
ホーイッツに従ったふりをして隙を見るという決意はどこに行ってしまったのか?己の誇りと信念を守るよりも仲間の為に実利を取る事を選んだのではなかったのか?
しかし、イチと言う少女をこの物語の主人公に選び筆をとったのは、彼女が誰よりも『冒険者としての自由』を体現した冒険者であり、その青臭くとも輝くような情熱は歴史の陰に埋もれていたとしても小説として書くに値すると筆者は思ったが故である。
イチは冒険者である。他人の思い通りにはならないし、ましてやホーイッツのようなつまらない男に服従するような事など断じてない。
「ハハハハハハ! ホーイッツ、どうやら嫌われちまったみてえだな」
パルテルラットとピィピに乱暴をした山賊のひとりが、彼女らを牢に投げて戻すとホーイッツを笑った。
ホーイッツは怒りに満ちた瞳でイチを睨みつけている。
彼の中の怒りはどす黒い炎となって燃え、イチへの好意が裏切られた反動である酷く残酷なアイデアを彼の中に産んだ。
「シローキンを脅迫する良い材料を思いついた。この女の指を切り落としてシローキンに送ってやる」
イチの愚かな反逆がまさに最悪の結末を生み出そうとしていた。
皆さまの感想やレビュー、評価が作品の方針に良い影響を与えます。
小説も、読者様と物語のコミュニケーションですからね。
1話完結なのでイチ達のこんな姿が見たいなどの要望などもあれば是非!




