あまりにもダンスが下手すぎる踊り子、イチとタオ・メイメイ パーティを追放(以下略)10
夜になった。
ユーカイの村は娯楽の少ない村だ。初夏のこの季節、男達の多くは林に入って苗木の植え付けや雑草を刈り、女達も家事や農作業の手伝いに追われて夜はせいぜい酒を飲んで過ごすか、良くて絵札で遊ぶか、それとも男女の仲を深めるくらいしかやる事がないので何かイベントが起きるとほとんど全ての村人が集中する。
それを考えるとホーイッツの考えは実際良い線を行っている。
村人の大半が一箇所に集まるのならば家屋の灯りは落とされ、灯りが落ちていない家はなんらかの事情で家に残っている事になる。
村の出身のホーイッツであればどの家庭がどんな事情を抱えているか大体把握しているので、不自然な家があればすぐわかる。
ホーイッツがどの程度計算していたかはわからないが、実際にホーイッツのやろうとしていた事の方向性だけは間違っていなかった事だけは先に断っておいたほうがよいだろう。
それはそれとして夜である。
村の広場に集まった村人達は照明に照らされた舞台を前に、幕開けは今かゞと待ち侘びている。
早くも木製のカップに注がれたエールを飲み干し顔を赤くしている者もいる。
下品な者はその品性に負けないくらい下品な野次を飛ばし、子供は走り回り、女は固まって世間話をしながら大声で笑っている。
とても舞台が始まる前の態度ではないと思われるかもしれないがこれは現代人の考え方である。
この時代、田舎には観劇マナーなどは存在しなかったので旅芸人はそれを承知で己の芸を披露した。
観客を黙らせ喝采を得るには芸を見せつけるしかない。
そして幕が開く。
口笛、野次、笑い声。
村人の誰もがこれから始まる見世物に期待をしている。
その心にはもしつまらない芸であれば散々にからかってやろうという意地悪な心もある。
「レディース&ジェントルメン! 本日はカード遊びや夜の営みをほっぽり出して我々の素晴らしい舞台の為にお集まりいただき誠にありがとうございます! 可憐な金髪の妖精達と、天使の生まれ変わりのような子兎ちゃんのショーをご覧にいれまショー! さぁさぁお手を拝借! 拍手拍手のご用意を!」
掴みは悪くなかった。
村人達は座長パルテルラットの小気味良い開演の挨拶に期待感を高めた。
この時代、地方の村に観劇マナーなどない。
村人達は芸が素晴らしければ拍手喝采を送り、不味い芸を見せれば拍手の代わりに酒瓶を投げる。
パルテルラットの容姿と喋りが観客に好感を持たせたのか、開幕から酒瓶が飛んでくる事態は避けられた。
そしてパルテルラットのリュートギターがかき鳴らされ、拍手に迎えられてイチとタオ・メイメイが舞台に上がった。
しかしそこで村人達は想像を絶する光景を目撃する事になる。
あまりにもダンスが下手すぎるのである。
あまりにダンスが下手すぎるのである。(誤植ではない)
イチは完全に緊張しきっており、腕をそれっぽく動かそうとするのだが、こう、擬音をつけるなら『ギクシャク』と言った感じでまるで壊れた時計の針のようだ。もしくはひっくり返って死にかけている虫のようだ。
しかも彼女の生真面目な性格が一応踊ろうと意識しているのか、脚と腰の動きもつけようと頑張っているらしい。なのだが、前に記述した通りの露出防御率の少ない衣装のために恥部が露わになる事を恐れてこちらは『ギコギコ』とでも表現すべき動きをしている。
その上半身と下半身の不気味な動きが合わさって不気味の極みを生み出し、しかもカチコチに固まった表情でもなんとか笑顔を作ろうとしているので『ギコシャコ』『ギクシャカ』という謎の音が聞こえるような不気味な踊りを踊っているのだ。
タオ・メイメイはもっと酷い。
そもそも「私踊れないわよ」の言葉通りというか、もはや踊る事を放棄している。
ブスッッッッッッとした表情で仕方なく腕を体操のように上下に動かしながら歩き回っているだけだ。
いくらなんでも酷すぎる。
バルティゴ連邦中を探してもこれ以上酷い踊りはないだろう。
しかしながらパルテルラットのリュートギターの演奏は見事で、イチとメイメイの動きにリズムを合わせ奇妙なメロディを奏でていてそのせいで観客は「これはそういうタイプの芸なのか」と思ってしまい、誰もが反応に困りどよめいている。
これは初めて前衛芸術を見た人間の感情に近いかも知れない。
この時の事を日記に残している村人がおり、その日記には「男達は固唾を飲み、女達は恐れ慄き、子供達は泣き出した。まるで狂熱病に罹った者が熱にうなされて見る悪夢のようだった」と残している。
しばしその悪夢の世界に思考を奪われた村人達だったが、次第に怒りを覚え始めたのか酒瓶を投げようと腕に力を込める者が現れ始めた。
そのタイミングで天使が現れた。
パルテルラットがリュートギターの音色を変調させると舞台袖から踊り子姿のピィピが踊り込み天使のような笑顔と奇跡のような踊りで舞台を飛び回った。
恐らく『好印象を与える魔法』を使っているのだろう。
観客の誰もがピィピの笑顔と踊りに目も心も奪われた。
のみならず、ピィピの芸は神がかり的であり、イチとメイメイの手を取ると自らのダンスに巻き込み、どういう力学が働いているのかピィピを中心に3人のダンスはひとつになり、神の芸術のようなダンスへと生まれ変わった。
これには村人達も感激し、盛大な拍手と口笛を送った。
ピィピは踊る流れでイチとメイメイを舞台袖に引っ込めると、舞台上にはリュートを鳴らすパルテルラットとピィピのみが残されて誰もを魅了する舞台が展開された。
ピィピは踊りまくり、時に大胆に脚を高く上げて太腿を露わにしつつも彼女が言った通り大事な部分は晒さないまま主に男達の目線を一部に釘付けにした。
ピィピが跳ねれば彼女の胸も跳ね、その幸せな揺れに男達のみならず女も子供も熱い物を感じずにはいられなかった。
ピィピは単身で軟体体操やジャグリング、火吹きに手品、パントマイムにアクロバットまで披露し、可愛さ美し珍奇さエッチさの全てを全力で魅せた。
村人達はピィピの一挙手一投足全てに夢中になり誰もがピィピに恋せずいられなかった。
この日の事を日記の残していた村人がおり、そこには「観客の誰もが小さな兎人の少女に恋せずにはいられなかった。事実私も死ぬまで彼女の笑顔を忘れる事はないだろう」と記録している。
拍手と歓声は止まず、口笛はいつまでも鳴り響き、酒瓶の代わりにおひねりが舞台上に雨のように投げ込まれた。
村の広場で舞台を見ている誰もが幸せだった。
また、ピィピとパルテルラットも自分達の芸が受けて幸せを感じていた。
もし彼女達が本物の旅芸人であったなら今日という日は幸せに終わっただろう。
しかし彼女達は冒険者である。
誘拐されたラクシュ嬢を救出するためにこの村にやってきたのだ。
舞台が終わり、楽屋のテントにピィピとパルテルラットが戻るとイチが青ざめた顔で2人を待っていた。
ホーイッツが居なくなっていたのである。
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小説も、読者様と物語のコミュニケーションですからね。
1話完結なのでイチ達のこんな姿が見たいなどの要望などもあれば是非!




