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ブリーフィング(1)

  バルティゴ都市国家連邦歴18年。世は依然として冒険者の時代であった。


 先の魔王大戦で都市国家の集合体であったカンティネント大陸の西側都市国家は、大陸東より攻めてくる魔族に対抗するために結託。個々の都市国家がひとつの国家共同体としてバルティゴ都市国家連邦を樹立。東側の魔族と全面的な戦争状態に突入。その際に救世的活躍をした冒険者が戦後に連邦総督となる事により冒険者達にとっての春が訪れた。


 その中でイチという一風変わった名前で呼ばれる少女があった。

この頃、歳は18前後と言われている。

……言われている、

と言うのも彼女は5年前に記憶を失った状態で東部の荒野で裸のまま彷徨っていたのである。

そこを、『破天のリャン』と呼ばれる冒険者に拾われる事になるが、その時に首に巻かれていた首輪に『01』という文字が微かに読み取れた。

それ以来、リャンの従者となる事になるのだが首輪の文字が由来となりイチと呼ばれる事となったのである。


 さて、そのイチであるがリャンが赤子を身ごもった為、だいたい3年前に冒険者として独り立ちし、一端の冒険者となり今に至る。

そのイチは、西カンティネント中央の、(※1)都市バルティゴのスウィートバウム地区にある冒険者ギルドであるスウィートバウム支部、通称「某支部」で容易ならざる事を聞いた。


 ラプダンジーの塔に子供が入り込んでしまった。と言うのである。


 「馬鹿な」


 イチはギルドに設置された休憩所で紅茶を飲みながら顔をしかめた。

 

 「馬鹿な。なんて間抜けなんだ」



 イチは再び悪態を吐いた。

前述の通りラプダンジーの塔は大魔術師ラプダンジー師が超常の魔術で生み出したとされる、罠にまみれた危険地帯である。

その構造はこの時代では解明不能な超常的魔法であらゆる仕掛けが施されており、例えば奇妙な事ではあるがこの塔に入れる人間は半日にひとりだけと決まっている。ひとり入れば塔の門が閉まってしまい時間が経つまで開くことはないし。

塔は6階層あり、その詳細は後々に描写することになろう。

道中、ありとあらゆる罠が仕掛けられているのは再三記したが、その罠も多くが妙なものばかりである。

ひっかかったものの貞操を危険に晒したり、不快感を与えたり性的なバッドステータスを与えたりと、色情狂だったとされるラプダンジー師の嗜好が反映されているのだろう。

途中で力尽き塔に囚われ行方不明になった冒険者もいるとされている。

仮に運よく生きて帰れたとしても罠にひっかかって重篤な性的後遺症のせいで不幸な人生を歩むことになった男女もいるらしい。

それがまだ未発達な少女であった場合は悲惨の一途を辿るだろう。

故に、死亡せずとも挑戦に失敗した場合、後の人生に与える影響度が軽視できないために危険度4(最上が5である)とされているが、塔の最上階まで攻略した者には魔法の報酬が与えられるともされている為、時折塔に挑みたがる若者もいるので、入り口には夜間を除き常に2人体制で冒険者ギルドが派遣した見張りが立たされている。

そのラプダンジーの塔に、見張りをすり抜けて幼い少女が脚を踏み入れてしまったらしい。


 「ええ、考えにくい事ではありますが…」


 そう言うのはモーリン・アッテナ。この桃色のショートヘアを持つ女性職員は、事務的な服に身を包み、事務的な態度でイチに話しかける。

彼女はこの某支部の受付で、普段は膨大な量の事務仕事をこなしつつカウンターで冒険者や依頼人相手に案件の手続きをしている。



 「見張りがいるだろう見張りが! 置物を置いてるんじゃないんだぞ! 居眠りでもしていたのか!?」


 「いえ、彼らは二人とも見張りの責務を全うしていたと考えられます。彼らの証言を信じると、少女はふざけていたのか笑いながら彼らの制止をすり抜けて中に入ってしまったようです」


 事実、見張の仕事に抜かりはなかったが少女はよほどすばしっこいのかまるで風のように彼らの間をすり抜けて塔に入ってしまったと言う。


 「女の子はいったいどういうつもりなんだ?」


 「さあ……」


 モーリンは一瞬眉を潜めたが続けた。


 「現在、付近で行方知れずになった少女がいないか調査中です」


 イチはしばしティーカップの中の紅茶を見つめた後に切り出した。


 「______それで、私にいったいどうしろと言うんだ?」


 ここで一旦、冒険者協会、ひいてはスウィートバウム支部について多少長くなる事になっても記すことにする。


 スウィートバウム支部は冒険者協会の中でも異端で、バルティゴでも東は男女の欲望ひしめく歓楽街、南は出稼ぎ労働者がたむろするドヤ街という立地の為か持ち寄られる依頼内容も正当なものから如何わしいものまであり、職員が内容を精査しきれていないとの噂がある。

不祥事の発生件数も少なくなく、その為この支部の実情を知るものからは、内外の者から『某支部』などと呼ばれている。

そんな場所だからか集まる冒険者も名声高い実力者から傭兵崩れのゴロツキ、駆け出しの少年少女まで玉石混合である。

現在は支部長が病気療養中の為、過去の冒険者としての実績だけでリャン・ハックマンが支部長代理を務めている。

このリャン・ハックマン、冒険者時代の実績は他の者の追随を許さぬほどの高みにあるが、人格的に重大な難がある。

その為元々ブラックな職場が更にカオスになり、常に人員不足であると言う。



 支部の内装は平家で建物自体は石材を多用しており堅牢。

400坪ほどの広さがある。

緊急時は避難所や兵員の詰所としての利用も想定されている。

今の時代の区役所などの行政施設を想像してもらうと良いだろう。

入ると大きな掲示板があり、そこには比較的雑多な依頼書が貼られている。ここに貼られている依頼は機密性や難易度の低い依頼が主である。

カウンターでは主に依頼の受付を行なっている。

新規に冒険者登録を行うのもここ。依頼を受ける場合もここで正式に契約を結ぶ必要がある。

他にも事務的な受付も行っている。窓口は五つで基本的に常に人が並んでいると思ってもらって良いだろう。

また、受付ホールには冒険者の為の売店や休憩所が設置されており冒険者同士で情報共有が盛んに行われおり、作業の為の大きなテーブルもあるので装備を広げそのまま冒険の準備に取りかかる者も見えるだろう。

新米の冒険者が受けられるのは基本的に掲示板に張られた依頼だけであるが、某支部内で実力が認められると高度な依頼を受ける事が可能となり、時には直接依頼を打診される事もあり得る。

その場合、奥にある専用スペースに通される事もあ。


 「ラプダンジーの塔に向かい、行方不明の少女を救出してください」


その、高度な依頼がイチを名指しで舞い込んできたのである。



_______________


(※1) 都市バルティゴ


バルティゴ都市国家連邦はバルティゴ、モルカル、シープス、シベース、ジギン、デーニズ、ノアールカ、ガーストの8つの都市国家からなる連邦である。

連邦法という全都市国家共通の法律はあるが、それぞれの都市国家に都市法がありそれぞれの特色がある。

バルティゴはバルティゴ都市国家連邦の成り立ち上、中央都市と位置付けられており主人公であるイチが属する冒険者ギルドの本拠地があるのもバルティゴである。

バルティゴ内もいくつかの街で分かれており、イチは現在その中のスウィートバウムを拠点としている。


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