西方の姫は斯く語る
【政策案】
[431]
一度は目も通さず即決、かと見せ掛けてからの日を跨いで逃げ道を塞いでからの尋問。
そんな回りくどい手で来るとは、どれだけ警戒されているのだろうか。
とは言え、元から説明するつもりだった内容なので不都合は無い。
前もって王国の改革案は練っていたので、それを踏まえてレアルヴィスタで始めても良さそうな案は実行させて、今後の世界情勢への干渉の足掛かりとする。
まあ、今回の説明で何処まで話すかはリヴィアに任せておこう。
◇◆◇
「まず、この福利厚生や遺族年金についてですが。目を通したところ福利厚生の改善案については大変興味深く、よく考えられていますね」
「どれも一昔前の時代に合わせた内容でしたので、無駄を少し省いて必要な調整を加えただけです。陳情にも出されている案件を実用的に手直しするだけなら大した手間ではないもの」
「その要望を実用案に調整するのがどれだけ大変なことなのかを…いえ、今は置いておきましょう。
ですが遺族年金についての改正とそれに伴う給付金の増額分の配給とは、どういった意図によるものですか。増額の規模によれば財政への影響も大きいでしょう。財源は有限ですからね。それに大小あれど額を問わず引き上げとなると実行にはかなりの労力が必要になります」
「この案を出した理由は、簡単に言えば人材を集めるためです。人類圏の絶対防衛線である西方騎士団は士気の高い精強なレアルヴィスタの民のおかげで成り立っています。けれど世界規模の広い視野をもって観れば、はっきり言って必要とされる労とリスクに対して得られる報酬との釣り合いが取れていないわ。
厳しい言いかたになりますが、客観的に見て民の善意と士気に甘えているとしか言いようがありません」
「…耳の痛い話ですね。言い分はもっともです。
貴女の意図は理解しましたが、財源はどうするつもりなのですか?どれだけ立派な政策であろうと配給するための資金が無ければ話になりません。
この場合では税を上げて解決する方法は使えませんよ。民に与えるために民自身に負担させては本末転倒でしょう。
僅かな額というのであれば剰余金から多少融通を利かせれば解決も可能ですが、満了済の年金受給者にまで増額分の配給をするとなれば大変な額になりますよ」
「ええ、ですから今回は福利厚生を充実させて、その一環として施設利用料金をチケットや減額という形で増額分を配給するつもりです」
「直接的に金銭は扱わない、けれど公共施設の利用料金を免除する形で支出を緩和させて実質的な増額と変わらなくする、という事ですか。物は言いようですね…、話を続けなさい」
「仮に前線で亡くなった遺族に金銭だけを増額して与えても、領内で消費されるとは限りません。稼ぎ頭が亡くなれば遺族も安定を求めて戦いの無い安全な他領へと引っ越してしまいます。
ですが、残された遺族に対して我が領内の施設利用料金の減額となればどうでしょうか。稼ぎ頭を失った遺族が他領で新しい生活を始めるリスクより、支出の緩和された我が領内に留まる生活を送る道は魅力的ではありませんか?」
「そうですね。頻繁に海魔の現れるレアルヴィスタはその立地から歴史的にも多くの兵士を必要としてきました。
貴女の言う通り、給与は他領の兵士より高くしていますが一般の兵士の半数は外から募集した人員が多く、自然と戦死や引退による入れ替わりも多くなります。
聖戦の免除や年金といった面で優遇はしていますが、それでも新規入領者の定着率が低いのは今までも提議されてきました。
ですが、それでも問題ないと判断される程度の物です。就労者も若い内は十分な稼ぎを求めて、年を取れば安定した暮らしに移るのはどこの領でも同じでしょう」
「ふふふ。どうも皆さまはお金で解決するのが当たり前と誤解していらっしゃいますが、人材を他所から引き込むには大変な努力や資材を消費します。確かに優秀な人材を新しく迎えるには視野を広く持って大きな範囲から選び出すのは効果的だわ。
もちろん外へアピールする努力は大切だとは思いますが、今手元にいる人材を離さない努力のほうがより現実的ですし、ローリスクで実現できるもの」
「貴女の言うことは分かります。確かに領を長期的に豊かにするには人材を手元に残す政策をとるのは正しいでしょう。ですが、それは農耕や特産品のある地域における定石であってレアルヴィスタの定石には当て嵌まらないのではありませんか。
常に戦いと隣合わせのレアルヴィスタでは兵士の入れ替わりは必然となります。そこで、無理に引き留めるより就労者の入れ替わる土地柄を活かして、常に網を張って優秀な人材を厳選して声を掛け、選び抜いた一部を定住させる形で代謝を逆に利用しているのです」
「ええ、突出した才能を引き入れるには他所から勧誘するに限ります。割合の少ない稀有な才能を持った者を捜すには大きな分母が必要になりますからね。
ふふふ。それでも外部の才に期待するのは進化の一手を必要とする者の発想。ですが間違えてはなりません。海神領域の崩壊から先、弱まったレアルヴィスタを立て直すには外部の力が多く必要だったのは疑いようもありませんが、今は違うのです。
財政難を抱えているのでもなく、領内に大きな問題があるのでもなければ、今こそ外向けの努力より内向けの努力を優先するべき時でしょう。ここは英傑王国レアルヴィスタ。我が領内にいる民こそ偏差値の高い優秀な民達ではないですか。
もう弱体化していた頃のレアルヴィスタではないのです。お祖父さまの政策でかつての英傑王国の勢いを取り戻した今、世代の代替わりを期に外より内に目を向ける転換期とする頃合いではありませんか?」
「…そうですか。
貴女はそこまで理解した上でこの案を出していたと言うのですね。既にレアルヴィスタの歴史とジェラルドの政策の流れを知った上で、貴女の未来の為政をしっかりと見据えて提案していると…」
「あら、資料を読むように言ったのはお祖母さまではないですか。この程度のことならお祖父さまの政策が始まってからの資料を読めば誰にでもわかる内容でしょう。私、何も特別なことは言っているつもりはないもの」
「…分かりました。これについては担当者と信頼できる者を交えて今一度話し合うことにしましょう」
「慌てないでお祖母さま。ここまではあくまでも政策を通す上で大臣達の説得のために用意しま表向きの理由なの」
「どういう事ですか…?」
「福利厚生を充実させて民の暮らしを豊かにする多くの施設を造り、戦死者の従来の遺族年金に福利厚生施設の利用割引や一部無償化と引き換えに、引退者の家族や遺族の定住化を推進。
福利厚生改革案そのものは前々から何か欲しいと提議されていましたから、具体的な内容を添えただけですし継ぎ足しの支出ではなく元より予算に組み込む予定でしたので反対は無いでしょう。
施設の運営費は国の負担ですが定住者に新たな雇用を与えられますし、利用料金で多少は埋め合わもできます。そして年金の増額分として付随させる内容も実質的に予算を新たに組まなければならない金銭の支出がない概念的なサービスですもの。
払うのはほぼ労力だけですから説得は難しくないわ。国家事業なんて新規に予算を余計に食いつぶす案でさえなければ大抵は通るものでしょう?」
「定住者を増やし、新たに建設する施設の従業員は他領へと帰るはずだった人員を使うということですね。年金の増額分はその利用料金の負担緩和という体裁で無形の資金を使うと。
一見すると未来を担保に借金をしている様に見えますが、その未来の収支が釣り合えば現時点だけでなく将来的な支出も相殺するということですか。
つまり、福利厚生のための公共施設の建設以外に主だった支出がほぼ無くなる。年金を貰って定住する民からすれば支出が緩和されれば実質年金の増額と同等の恩恵がある。
新しい試みでありながら財政を圧迫せず、それでいて国の発展と民の暮らしを向上させるとは、まるで数字を使った魔法ですね」
「ええ。新しい予算を組まなくても、現実の金銭のやり取りを一切増やさずとも、受け取る側が実質的に増額されたと思えばそれは増額です。
ふふふ。所詮お金は概念であり、ただの数字ですからね。
軍に入隊したかたは慰労の概念に理解があります。退役後に定住するなら住みよい環境を提供する、という条件も受け入れやすいでしょう。事実、引退後は楽な暮らしを求めて他領へ向かうのが移住する者の希望だったのですから。同じものを提供するなら手間を考えれば居着くのも道理ではありませんか」
「その考えはもちろん今までも出なかった訳ではありませんが、レアルヴィスタは産業がありませんから。ここは海魔の押し寄せる人類圏の絶対防衛戦線。老後に余裕のある暮らしをするには向かない土地柄です。それは歴代の大臣達も重々承知しているのです」
「そう。ここには産業がありません。そして、次の案からが本題になるわ」
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「それでこの案ですか…」
「ふふふ。お祖母さま、そう身構えないで。
たった一つの物事を変えることで全てを塗り替えるなんて、普通は無理なの」
「それは当然です。長く積み重ねてきた人類の歴史や文明は一手で変わるほど軽い物ではありません。伝説に出てくる過去の英雄や王達も、物語では数行の出来事でも齎した変革には兆しがあったのです。彼等が与えたのは切っ掛けであり、変化に足るだけの基盤が整ったからこそ出来た人類の努力の産物です。
リヴィア、貴女は確かに次代のレアルヴィスタを継ぐことになりますが、必ずしも大きな変革を起こさなければならない訳ではありません。
一生懸命に考えるのは大変立派な姿勢ですが、変革にばかり傾倒しては約束可能な安定した統治の道から離れてしまうかも知れない事を覚えておきなさい」
「そうね、約束可能な安定した統治。それこそ民の求めるものなのかも知れないわね」
「貴女はまだ若い。これからの時間は沢山あるのですから、まずは小さくても確実な方法から取るべきでしょう」
「ふふ。それでも私に変革をするなと言われてもそれは無理よ。だって世界が待ってくれないもの。
お祖母さま、もう世界に兆しは見えているわ。勇者さまと聖女さまが同世代に生まれたのよ。それに神子さまもほとんど残っていない。
これだけ舞台が整ってるのに、これからの時代に安定が望めるなんて考えるのは、いくらなんでも都合が良すぎると思いませんか?」
「…それは、私達大人の対処すべき問題です。確かに何かが起ころうとしていると唱えている者は居ます。それこそ漠然とした予感であっても、ちゃんとした国であれば何かしらの対策を講じています。
だからこそです。リヴィア、貴女はとても賢い子です。その眼にはさぞ世の中の人々が愚かに観えているでしょう。それでも、どうか大人を信用して下さい。今はまだ子供達の世代の力を借りずに大人達がどうにかしなければならない段階なのです。
いずれ安定と平和の時代が崩れる日が来るとしても、それが勇者達でなければ抗いきれない様な大きな災いだとしても、その日が来るのを遅らせて貴女達の世代の負担が減るように努力するのは親世代の務め。
既に貴女の力を借りた私では説得力は無いでしょうけれど…それでも今は、せめて子供の内は平和の文化を学んで欲しいのです」
「お祖母さまはとても立派ですね。私はお祖母さまのことは信用していますよ。でも、この件に関しては退きません。
先日は王国への手前もありましたし義理を通してああ言いましたが、順当に行けば卒業後に私の婚約者は勇者さまに決まるでしょう。
猶予は三年です。三年でできる限りの準備をしなければなりません。それまでになるべく味方は増やしておきたいですから、改革案で民を増やせるならどんどん改革していきたいわ」
「あれは、婚約を取り下げさせる為の方便では無かったのですか」
「ふふふふ。あれは単なる時間稼ぎです。勇者さまの婚約を受け入れれば、もしかすれば私が狙われてしまうかも知れないでしょう。婚約を有耶無耶にしようとするのも大公家が望んでいないからかも知れない、と思わせてリスクを減らすポーズに過ぎないの。
私はね、お祖母さま。勇者さまを『戦力』として欲しいのよ。でもリスクはなるべく避けたいわ。だから派閥争いでも、なるべく勇者さまには不利になってもらうつもりよ。そうして望んでいないフリを続けて、最終的に婚約者に迎えるの。どうかしら?」
「…リヴィア、貴女は婚約に反対ではないのですね」
「ええ、そのためにもレアルヴィスタには勇者さまを受け入れる準備をさせたいの」
「恋愛に憧れたりは、無いのですか?」
「あら。恋は知らないけれど、愛なら分かるわ。恋は特定の個人との間にしか成立しない、けれど愛はより多くの人と成立するの。恋で動かせるのはほんの限られた人だけ、でも愛は大勢を動かせるの。恋には現実的な実行力が伴わない、だけど愛には現実的な実行力を伴わせられるの。
私は愛を知っている。愛される幸福を知っている。愛は多ければ多いほどいいの。私は多く愛されたいの。
どちらか選ぶなら、私は愛さえあれば恋なんて要らないわ」
「その様に考えていたのですか。恋に焦がれず愛に生きるのは貴族の娘としてはある意味、理想的なのかも知れませんが。
貴女にはあまり人と接する機会を与えてきませんでしたね…。もしかすれば学院へ通い学ぶ内に、気持ちが変わるかも知れませんよ」
「図書室には歴代の生徒の書いた恋愛物の物語も数多く所蔵されているのでしたね。ふふふ。今度読んでみましょう」
「よく考えてみれば、貴女が恋愛に興味を持てばそれはそれで別の問題になりそうなので、今のままでも良いのかも知れませんが…。
それで、貴女から見て勇者はどうでしたか?」
「あら。私、勇者さまとはまだ会ったことないわ」
「!!一度もですか?」
「ええ、一度もです」
「出会う機会はいくらでもあったはずです!」
「ふふふ。勇者さまは私にあまり興味がないのかも知れませんよ?」
「いいえ、そんなはずはありません!!」
「ふふふ。そんなに意外だったのかしら」
「いえ、ごめんなさい。そうですか…。彼なりの配慮なのかも知れませんね。話を戻しましょう」
「ふふ。それなら改革案についてこのまま進めてもいいのかしら」
「貴女の言い分では覚悟を持って先々まで見据えている、つまり結末までの勝算があっての案という事でしょうから、まずは最後まで聞きましょう」
「理解してもらえてうれしいわ。お話しましょう、私達の計画を」
◇◆◇
「それでは改めて、次のこの養殖案について尋ねますが、これにはどういった策があるのですか?」
「案それ自体はそのまま、養殖事業を新設して産業にするという話です」
「レアルヴィスタの資料については目を通したのですよね。確かに、ここレアルヴィスタは海神領域から現れる魔物からの防衛戦に特化した地形と、軍の運用を優先した施設ばかりで産業と呼べる物は乏しいです。
ですが言い換えれば、人神領域全体で負うべきリスクを一手に引き受ける事そのものを事業として成り立たせています。事実、人神領域の守護を担うレアルヴィスタには王国からはもちろん、大陸内の内陸にある国々から毎年物資の支援や資金の援助が有り、駐屯軍や近隣からの派遣騎士団の費用や賃金も賄いきれています。
新たな産業を手掛けるより、軍の運用の効率化やコストの削減に努める方が財政に貢献するとは考えられませんか」
「ふふふ。お祖母さまのおっしゃる通りです。ええ、その考えは正しいと私も思います」
「ならば何故ですか」
「それは、これまでの計算の全てが戦地であることを前提として算出されているからです」
「…続けなさい」
「はい。レアルヴィスタ領はフラタニア大陸から突き出た西方海岸に沿うような南北に伸びる長方形です。非常に長い戦線を敷かなければならない地形で、近隣の各領地からそれぞれの戦線の維持のために物資を搬入する独立したルートが構築されています。これはとても効率が悪いですね」
「それには同意しますが、海魔の群れによる襲撃地点はバラバラです。戦線は何処にでも対応できるように特化地点を等間隔に配置して、そこへ物資を搬入すれば各地点の兵へ行き渡る仕組みを構築しました。
軍部は過去百年以上の防衛戦を続けて徐々に戦線を今の形へと変化させ、現在は防衛力との兼ね合いから見て負担の分散を重視した陣形になっているものと解釈しています」
「ふふふ。一見すると臨機応変に対応できる万能の陣形ですが、もし常識とされていた前提が一つ変わればその限りではなくなります」
「まさかとは思いますが、海魔の襲撃地点の特定が可能だとでも言うつもりですか?」
「あら。お分かりになられているではありませんか。その通りです。ふふふ。海魔の襲撃する場所を特定できれば戦線の維持費用の削減も、物資の搬入経路の最適化も大きく変えられますからね」
「そう言うからには憶測ではなく、確かな根拠のある裏付けが取れているという事ですか?
軍部は長年の研究から海魔達の習性や襲撃時期の予測パターンをいくつか上げていますが、どれも確たる根拠にはならず緩急の目安程度の信頼性だと判断されています。それもこれも海魔の種類も、発生地点と思われる迷宮の数も多く、海神領域内に新たな迷宮が出現しても確認する手段が無いことから現状では情報を正確に把握するのはほぼ不可能だからです。
貴方の読んだ資料にも参考となる記録は含まれていますが、それだけを頼りに導き出せる内容ではなかったはずですが。何か別の理由があるのですね?」
「実戦の指揮経験のあるお祖母さまがそう仰るなら、あの資料だけで判断するには不十分なのでしょう。ですが、それは海魔の好きにさせている状態での話。
ふふふふ。私達には他の大陸の誰もが持っていない大きなアドバンテージを有しているではありませんか」
「海魔の動きに干渉できるような物が…、このレアルヴィスタにですか…?」
「世界樹の苗ですよ」
「!!!それは…!」
「ふふふ。先日の地神領域では使うことのなかった世界樹の苗をレアルヴィスタ領に植えて、魔物の襲撃経路を限定させて誘導できれば…」
「…大地に流れ込む魔素の流れそのものを変更して、そうですね…確かに、それを意図して操作できるのであれば…。
仮にそれが可能であるとして、戦線の分散をせずに襲撃地点を絞り強固な拠点を築ければ、補給の問題も軍の運用も大幅に改善できます。
ですが、それは本当に可能なのですか?」
「地神領域でお祖母さまと別れて再会するまでの間、ただ道中を進んでいただけではありません。あそこは世界樹縁の地、世界樹についての見識を深めるには最適な場所でしたから」
「そうですか。いえ、疑ってはいません。他でもなく王笏の持ち主である貴女が出来ると言うのであれば、大地を流れる魔素の流れを変える事は可能なのでしょう」
「それだけではありません。昔の世界樹がまだ健在だった頃は、大生林のダンジョンのいくつかは資源ダンジョンとして活用され、穀物の生産にも使われていたという文献もありました。その用法を確立すれば限られた土地でも産業を起こすことができるわ」
「それでダンジョンを利用した養殖産業ですか。
海魔の誘導と戦線の拡大を抑えた拠点防衛。それに後方での養殖業により食糧の自給率の引き上げ…。
ですが世界樹の私的利用となると、連盟に知られれば何と言われるか…」
「それを言ってしまえば妖精国は連盟から許可をもらって世界樹の恩恵を享受していたのでしょうか?
ふふふ。ええ、それは違います。私の王笏を私の領地に使ってはならない理由なんてあるのでしょうか。
逆にお聞きしましょう。六神連盟ならびに自ら正統なる継承者を棄てた妖精国ごときに、唯一の正統なる継承者である私から王笏の使用権を取り上げられる権限があると思われますか?」
「有りませんね。ええ、使ってしまいましょう。使い切ってしまえばどう口出ししてきても手遅れです」
「ふふ。お祖母さまならきっとそう判断すると思っていました」
「海魔の定期的な襲撃のあるレアルヴィスタ領内には海の影響を受けたダンジョンも発生しています。リヴィアの言う養殖事業に適した地形のダンジョンも調査すれば見つかるでしょう。
先程の福利厚生案については不確定要素のある予測の上で成り立つ内容でしたが、こちらはからくりさえ判明すれば単純明確で大変分かりやすいですね」
「世界樹が育てば隣接する近隣領地への恩恵も大きくなります。それはレアルヴィスタの東に面したハバートート領も同様ですよ」
「そうですね。植える場所次第では、ハバートートの未開発領域の開拓も更に進められるかも知れません。これは、世界樹を神聖視するあまり私の常識では決して導き出せない一手でした。いえ、おそらく世界中の森人族の血を引く者にとっても驚愕の方法でしょう」
「どうかしら。ただ手元にあった使えるものを、ありのままの性質で利用するというだけの話よ。奇策でもなければ虚を突いた策でもないわ。
元より世界樹とは穢れから人類圏を庇護する目的で地神から与えられた浄化装置。本来の使いかたをするのに躊躇する理由はありませんもの」
「これはすぐにでも実現させたい良案です。リヴィア、貴方のことですから既に候補地は選定しているのではありませんか?」
「ええ。世界樹については風精樹の森と、禁域の調査でどういう立地が生育に適した環境かは把握していますから。
ふふふ。それに地神領域は人神領域から見ると海を隔てて真西に位置します。西端のレアルヴィスタはフラタニアでもっとも世界樹を植えるのに適した土地と言えるでしょう」
「どこかでスケジュールを空けて、近日中に候補地へ向かうことにしましょう」
「もう、慌ててはダメよ。学院生活も大切でしょう。せめて夏季休暇までは他の案件を進める形で過ごしたいわ」
「分かりました。貴方の言う通り夏季休暇はレアルヴィスタで過ごせるように手配しましょう」
《あとがき》
・ほぼ会話のみのパートというのをやってみました。
普段主人公達だけだと二人で自己完結しているのでどうしても会話パートが少なくなってしまいます。
「愛さえあれば『◯』なんていらない」とは恋愛物では使われる言葉なのですが、
「愛さえあれば恋なんて要らない」とはまた、使っている語こそ恋愛関連っぽいのに内容は甘酸っぱさとは真逆になる不思議。
あと勇者の人格をまるっきり無視して戦略的な価値だけを計算されています。
一般的に物語でそういう考え方をするのは敵のやられ役担当なのですが…。




