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1000通りの計画  作者: Terran
間章 海神領域 6
90/99

海淵




【創世魔宮: 世界の淵】


[417]

 表の生活は分体にさせつつ、裏では本体が新素材開発や再誕人の確保といった地道な下地造りに精を出して来た。

 そしてようやく、行き詰まっていた創世魔宮攻略を再開する目処を立てられたのだ。


 あれから開発した位階核を攻略用のSドール並びにアーティマトン全ユニットに搭載しており、虚獣への対策は万全となっていた。

 中でも現場で指揮を執るゾアンへ与えた位階核は特別製で、神氣を外部から供給する事で他の位階核より数倍の性能を持った概念殻を形成できる造りとなっている。

 これにより第五層の『妄顔蝠』程度なら、触れるだけで存在の中和現象を引き起こしてそのまま取り込めるくらいの情報圧を持つ。

 流石に他のSドールやアーティマトンでは素体性能の差からそこまで高性能とは行かないが、再誕人達の弛まぬ実地試験への貢献と研究成果により、細かなバージョンアップを繰り返した位階核は、五層までの虚獣なら難なく対処可能である。


 お陰様で虚獣核の収集効率も飛躍的に向上しており、更なる位階核の質の向上と総入れ替えだけでなく、量産と情報熱量の注入により性能は右肩上がりを維持している。

 前回の階層更新から然程時間は経っていないが、大幅な強化が進んだ現状なら更なる階層へと挑戦するのに十分だと判断して攻略隊を組んで挑ませた。



◇◆◇



【第六層】

 ここでは遂に、動物型ではなく植物型の虚獣が現れた。

 その特性は触れた相手の体液を強制的に絞り出して呑みこむという物で、浸透圧とか物理法則を無視して徴収する様子は理不尽な吸収である。

 『飢血華』と命名。


 飢血胞の付いた蔓を伸ばして根こそぎ体液をぶっこ抜くという物騒極まりない攻撃は、強化以前の状態であればアーティマトンがどれだけ犠牲になっていただろうか。

 だが今は違う。

 位階により劣化版とはいえ神氣を纏える以上、物理的な接触攻撃に対する耐性は高く、例えSドールであろうとも概念殻を貫かれる事なく抑え込める。

 根を伝って滑るように移動する飢血華だが動物型の虚獣より動きは遅く、相性の良い複合魔石のパターンさえ解析して量産すれば、むしろ狩りやすいくらいの相手となっている。



【第七層】

 六層が美味しい畑に観えるくらい順調で、意気揚々と乗り出した第七層。

 そこに現れたのは斑模様の3〜5m程の海蛇型の虚獣。これが厄介な能力を持っていた。

 『呪蛟蛇』と命名。


 毒ガスの様に呪いを吹き掛けてくるので概念殻の耐久力へと持続的なダメージに加えて、喰らいつきは壁を突破されかねない程の威力がある。

 大きい上に首を枝分かれさせながら喰らいつくという生物にあるまじき攻撃は中々に興味深い。

 位階核は魂魄に依存して成長度や概念殻の強度が比例する。

 つまりSドールの様に本来魂魄が存在せずに分霊による疑似霊核で形成する場合、どうしても運用効率が低くなり、再誕人のそれと比較するとどうしても強度が足りない。

 吹き掛けてくる呪いは存在力を揺らし、あらゆる耐性を引き下げて加護の力を正しく機能させなくさせてくる。

 既存のSドールではどうしてもダメージを負ってしまうので効率が悪く、対処が難しいためアーティマトンで対応。

 こちらなら概念殻の強度が十分なので対処は難しくない。が、狩り場にするにはアーティマトンの数が限られているので一旦保留。



【第八層】

 甘く見ているつもりは無かったが、それでも呪蛟蛇ですら生温かったのだと痛感させられた。

 一瞬で先行させていた偵察用のSドールが喰われた。

 それも何の危険信号も出さずに。

 『闇礁鱶』と命名。


 何度か検証をしてみた結果。

 ソレは魔宮の壁や天井や床に潜って獲物に近付いて影を丸呑みにする巨大な鮫型の虚獣だった。

 魔宮壁材に潜む虚獣だから感知に引っかからなかったのだろう。

 悪意しか感じない初見殺し。


 とはいえ、こちらも相応の準備をしていたので喰われたSドールに埋め込んだ魔石を介しておおよその波長は解析出来た。

 これには新素材であるダークマターを用いた罠を張って対応。

 ただ壁や床に魔石を埋め込んでも吸収されてしまうが、休眠状態のダークマター内なら魔石が吸収される事は無いし、ダークマターそのものも元は魔宮壁材と同じ物なので闇礁鱶も通り道にする。

 後は放っておけば通り道の合成魔石に反応するので勝手に自爆して魔物化させ、融合していた壁材から独立分離した所を仕留めれば良い。

 ダークマターはそのまま残るので再び魔石を埋め込めば罠を再利用出来るので実に楽な話だ。

 まともに戦えば活路を見出すのは難しいだろう。

 しかし敬意の不要な相手に合わせてわざわざ同じ土俵で争うなど非効率、労力の無駄である。

 前世の原始人だって真正面からの殴り合いで古代象を倒したりはしていない。

 安定して狩りが出来ればそれで良いのだ。

 それに私達は戦いを通して経験を積む必要が無い。

 対象のリソースさえ回収出来れば、やれることやれないこと、生態も行動パターンも全ての情報を得られるのだから。



【第九層】

 平均的な千年迷宮の倍に相当する深度だが終わりは見えない。

 持ってきた資材が劣化するスピードが異常に早く、ここに現れた虚獣が物質を劣化させる特性を持つのだとすぐに理解した。

 『腐瘴獣』と命名。


 節足動物とも六脚獣ともつかない歪な形状をした体高2〜3mの腐瘴獣は、連鎖する腐蝕の瘴気を常に振りまいており、遠く離れていても通った後に残った瘴気の残り香だけで加工品を駄目にしていく。

 九層そのものも非常に広大で、更にこの層単体だけで深度も1000mを優に超えている。

 それはつまり補給地点を作る事が困難で、持ち込み品全てに純正エーテルコーティングとパラメータの固定化処理を施さねばならなくなった。

 まあ、元々創世魔宮は資材の劣化が早いので深度を進めればいずれは必要となる処置なのは理解していたが、先の見通しのつかない中で早々に強要されるとなると大変な手間である。

 幸いエーテルコーティングは分体でも可能なので偵察用の物資こそ加工させられたが、本気でここでの探索と攻略と狩り場にするなら、凄まじい量のエーテルコーティング作業が必要となるだろう。

 しかも腐瘴獣は純粋な戦闘力が高く、素早く死角が無くて力強い上に硬い。

 魔物化してもその強さは顕在で、チームを組んでようやく対処可能というレベルである。

 効率的な対処法は確立していないが偵察は続行。



【第十層】

 音速を優に超える超高速飛行型の虚獣が出現。

 しかも深度が増して密度の上がった魔宮壁材を巣材として利用する特性があり、敵対者には体内で凝縮した魔宮壁材を弾丸の様に発射してくる。

 当たれば全身が泡立ちダークマター化して膨張破裂、その後は魔宮に吸収される。

 『疱蜻蜒』と命名。


 音速を超えてもソニックブームが発生しないのは物理法則から乖離された創世魔宮ならではなのか、とにかく何のデメリットも無しに疱蜻蜒は狙撃弾の速度で飛翔した挙げ句に、飛行速度以上の速度の即死ダークマター弾を撃ち込んでくるのだから完全にお手上げである。

 Sドールやアーティマトンの概念殻ではいとも容易く貫通させられ即死である。

 コズメタル装甲ですらも変形させられる威力なので、現在の地上のあらゆる動植物、あらゆる兵器、あらゆる魔物でも直撃すれば一発アウトだろう。

 偵察班のアーティマトンへ試験的に持たせたアルトリウム装甲でならマッハ10を超えるダークマターバレットを弾く事は可能だったが、残念ながらまだ量産態勢が整っていないので全体に配備するのはまだまだ厳しい。



◇◆◇



 ひとまず行ける所まで偵察させたが、具体的な対策を講じなければ更なる深度へ挑戦するのはリスクが高過ぎる。

 まずは踏破した階層の検証と対策。偵察班の装備の更新と戦力の増強が急務だろう。


 調査だけなら無理をすれば可能かも知れないが、安定したリソースの確保が出来なければ創世魔宮を攻略した事にはならない。

 そこが通常のダンジョンとの決定的な違いなのだ。

 創世魔宮はこの世界を存続させる上で不要となった穢れの吹き溜まりであり、例えるなら工業スラグの埋立地、危険物質の投棄場である。

 踏破しても、奥にいるモノを倒しても意味が無い。

 降り積もり沈殿して溜まってしまった悪性リソースを減らさないと何の解決にもならないのだ。




[418]

 創世魔宮攻略の前に、本格的な拠点の造成を優先する事にした。


 位階核の実装や各種装備の充実により強化された海神領域組の再誕人達の活躍で、この度遂に海神領域中央部にある名だたるダンジョンは悉く攻略できたのだ。

 こうして彼等にとっては悲願の、海王国と竜王国の領域奪還は果たされた。

 ようやく彼等を再誕させた際に交わした契約を成就させられて、私達も計画を実行に移せる様になったのである。


絶対帝政(エンパイア)計画(プロジェクト)


 これは世界救済の足掛かり。

 数ある計画の内でも実現出来れば大きな前進となるであろう要となり得る一大プロジェクト。


◇◆◇


「ガスフィ。リーサ。二人ともよくがんばりましたね」


 海面に浮かぶ白鯨の上で海王国の再誕人二人に声を掛ける。


「女神様。何と感謝の言葉を捧げれば良いのか。俺は。俺はもうここで死んでも悔いはありません!」

「兄上さま。ここで死んでは元も子もありません。女神さまに戴いた命を粗末にするというなら、私がこの手で粛清しますよ?」


 いや、結局死んでるからねそれ。

 命大事に。


「はっはっは、リーサよ。兄さんはもう冒険者として生きていくと決めたのだ。だから王位はお前達に託す。

つまり俺のことは死んだことにして欲しいと言っているのだよォ!」

「堂々と王位継承権を破棄しようとしないでくださいませ。

全ては女神さまの御心のまま。兄上さまにはとっくに拒否権も人権もないのでございます」

「いやだッ!女神様、妹が虐めます。どうかお助け下さい!

俺は生前から王になんてなりたくなかったんだ!冒険者が良い冒険者が良い冒険者が良イィィッ!」


 最後は裏声になりながら白鯨の上でひっくり返ってじたばたと駄々をこねる海王国の王太子ガスフィーク。


「ガスフィ。海王国の再編と計画成就までは契約の範囲です。それが終われば第二王子に王位を譲ろうとも、子をなして出奔しようとも、私が咎めることはありませんよ」

「本当ですか!いやっほう!

さあリーサ。弟達を集めて我らが海王国の復活を共に祝おうではないか」


 サッと起き上がってジョッキを煽るジェスチャーをする王太子。


「動機は不純ですが皆で祝うのは賛成です。女神さまもあまり兄上さまを甘やかさないでくださいませ」

「はっはっはー。まずは祝いだ祝い。

それが済んだら再編だ再編。各大陸へ散り散りになった我が民を、我が同胞達を迎い入れる準備をせねばな!」

「兄上さま、気が早いです。まずは女神さまの奇跡をしっかりと目に焼き付けましょう」


 二人が緊張をほぐし終わったのを見計らってから、ゆっくりとリヴィアは両手を拡げて横になった巨大な虹の輪を空に展開する。


「『神光(エル)』」


 そして小さな虹の光輪(リーグ)を三人と白鯨の頭上に浮かべる。


「さあ、唄いなさい。これより海王国を復活させます」


 ガスフィークとファルアリーサと白鯨は光輪の力で自由に空中を舞い、空を泳ぎ、海神の讃美歌を唄い始める。


「『大潮(オケアノス)』」


 リヴィアは唄声に合わせて指揮をする様に周辺一帯の海流を掌握して海に満ちるマナを集める。

 天候にすら影響を与える膨大なマナの奔流が海を動かし、天を轟かせ、魔法の発動に必要な量の魔力を掻き集める。


「【オルケアの笛】よ」


 自作の神遺物【オルケアの笛】を分霊を介して吹き鳴らす。


 オリジナルのオルケアの笛はかつての海神領域崩壊と共に失われたとされている。

 その力は海流の操作と海獣の使役。

 しかしオリジナルと違い私の造ったオルケアの笛の効果はそれだけに留まらない。

 海を巨大な術式基盤として利用し、海流をサーキットとしてマナを流し、およそ人の手では成し得ない大魔法を行使する為の媒体として、一帯の海そのものをを作り替える。


 超巨大な海流が形作る魔法陣を上空から見下ろし、海神眼(アイリス)を開いて大陸プレートを操作する魔法を発動する。

 創世期に語られる神話の再現と言っても良い。

 これは神の手による国造りの奇跡。

 海神から譲り受けた権能を如何なく発揮する。

 およそ百年前に海底に沈んだ『海王国モーラクライア』の国土を引き揚げるべくプレートを操作して隆起させる。


「ふふふ。素敵ね。ふふふふふふふふふ」


 どうやらリヴィアも巨大な魔力を力一杯使えてご満悦である。

 やろうと思えば無理くり超能力を使ったPKでも出来なくはないが、反動が大きそうなのでパス。

 仙術なら苦も無く出来そうだが、やはり海神領域の事は海神領域に由来のある物を使って解決させた方が有り難みもひとしおだろう。


 つまり、この海流魔法陣も神遺物による演奏も、全ては海神領域の民達へと向けた演出でありサービスなのだ。

 取れる手段が複数あり、己に余裕があるのなら、ファンサービスくらいやってのけてこそ女神リヴィアゼアの株も上がるというものである。

 勿論、対策は講じてある。

 ここは海神の協力の下で半異境化させており遠方からは確認出来ない。

 そしてこの歴史的大奇跡は異境のモニターを利用した映像を介して、各大陸の海神難民の自治区の一部へ投影させている。


(いよいよね)


 ガスフィークとファルアリーサの合唱は佳境に差し掛かり、白鯨もそれに呼応して唄声を上げる。

 初めて海神領域の中心部へ訪れた頃からこの白鯨は友好的だったが、どうやら元々海王国の守護獣のような存在だったらしい。

 感情にも歓喜の色が見てとれる。


 大魔法陣を中心に荒れ狂う海流。

 割れんばかりに轟音を立てる雷雲。

 大雨と潮煙、海底から湧き起こる全身に響く震動。

 虹の輪に照らされた神聖なる舞台。

 

 大波の波紋を幾重にも発生させながら、モーラクライアの王城が海面を割って徐々に姿を現す。

 百年の間に溜まりに溜まった海神領域に満ちる濃密なマナをふんだんに利用して、際限なく注がれる巨大な魔力の渦と、徐々に輪郭を顕にするモーラクライアの城下町。

 右手を振り、左手を上げて、踊るように、合唱の指揮と、この奇跡を祝福する様に、波打つ大魔法を操作する。


(海神難民の指導者達はちゃんと観ているかしら)


 流石にリヴィアも思考リソースの大半を割いているため大魔法にだけフォーカスして徹しており、細かな異境の管理は私の役割として分担している。

 だが安心するが良い。

 今頃、モニター越しに彼等海神領域の末裔達は口を開けまま思考が止まっているだろう。


 ゆっくりと、海王国の全土が朧げな焦点のまま海域全体に写し出される。

 海面までもう少し。


「『終局(ラスト)』」


 その一声と共に迸る魔力から反動が消失して、自動的に大魔法を完成まで運んでいく。

 私の権能が成立した以上、現時点を以てこの先の完成は確定したのだ。

 後は現実が結果に追い付くまで眺めるだけで良い。


 思考リソースに余裕が出来たリヴィアは亜空間から次々に魔楽器を出現させ、光輪を浮かべたアーティマトン達を呼び出して大演奏を始める。

 やれやれ一段落である。


(綺麗ね)


 遂に海面に浮かび上がる海王国。

 色味を帯びた珊瑚やかつての街並みが陽の光を浴びてキラキラと彩り、この海域を棲家としていた海獣達も遠巻きにそれを眺めている。

 少々荒れていて海藻や海洋生物の痕跡なんかも見て取れるが、在りし日の海王国の姿を喚起するには十分だろうか。


(仕上げね)


 魔楽器の旋律に合わせて海王国の全容が顕になっていく。

 そしてクライマックス。


 演奏が終わり、海流も落ち着き、大魔法もその魔力を失った。


 リヴィアは取り出したスケッチブックに海王国のかつての姿を想像して描いていく。

 私はそのサポートとして創造魔法を発動させて神力を注入する。


「ああぁ…。父上、母上、遂にやりました…。

我が王国、我が故郷、我が愛する民達よ。俺は、俺は還ってきたぞーッ!」


 あれだけ王になることを嫌がってはいても、故郷を取り戻したかったという気持ちは本当だったらしい。

 ガスフィークは歓喜の雄叫びを上げて、ファルアリーサは再び海上に姿を現した海王国から一切目を逸らさずに涙を流している。

 やれやれ、感動するのはまだ早い。


「リーサ。かつての海王国の姿は、こんな感じかしら」


 リヴィアが描いたスケッチブックをファルアリーサに見せる。

 実に見事な風景画である。


「女神さま。これは、想像されて描かれたのですか!?」


 そこに描かれたのは浮上した海王国の姿から、破壊された痕跡を元に崩壊前の姿を鮮明に描き上げられた、計算され尽くした絵画。


「はい。はい、そうです。私の記憶にある海王国の姿そのものです!」

「おおおぉ!これに見るは紛れもなく我が故郷の姿ッ!」


 まあ、実際には細かい部分に多少の違いはあるのだろうが、当事者がこれで合ってると言うのだから問題はあるまい。

 リヴィアはファルアリーサとガスフィークの言葉に満足して、描いた絵画に魔法を掛けてからその場で燃やした。


「「!?」」


 驚愕する二人を尻目に、神遺物【憧憬の望郷】を発動させる。

 海流で集めた残りの魔力と、大気のマナを併せて荒れ果てた海王国を絵画の通りに復元する。

 サイコメトリーと『転写魔法』を組み合わせて、細部は二人の記憶から当時の情景を読み取って補完したので、概ね元通りの姿で再現出来ているはずだ。


「おおおー!?何で、どうして、凄い!」

「嘘みたい…」


 何でと言われても、嘘みたいと言われても、これが【アセラの譜面】を私なりにアレンジした神遺物の効果なのだから出来て当然である。


「さあ二人とも、次の島へ向かいましょう。白鯨」


 唖然とする二人に声を掛けてから、空を泳ぐ白鯨を呼んで次の目的地へと向かう。


「『虹橋(ビフレスト)』」


 指し示した方角へ、虹の光輪(リーグ)を向けさせて身体を通せるサイズまで拡張。

 慌てる二人をよそに輪を潜る白鯨は光輪を通り抜けると、光輪は虹色に輝く筒状に変化して指し示す方角へと残光を残して飛んで消えた。

 それを見て光輪へと飛び込む二人も、虹の残光を残して飛んで消える。

 まあ、何でもかんでも『転移魔法』では味気ないので、これは見た目だけでもすぐに理解できる演出に凝った見た目重視の移動術式である。

 特に説明した訳ではないのだが、見ただけでどうすれば良いのか二人とも咄嗟に理解して飛び込むのだから成功と言えるだろう。

 やはり解り易さは大事な要素だ。


◇◆◇


 さて、出来れば今日中にあと5つの島を浮上させておきたい。

 海神領域は他の五大神領域と違い大陸ではない。

 連なる島々を含めてモーラクライア海王国なのだ。

 流石にリヴィアの力を以ってしても巨大な大陸を浮上させる魔法を行使すれば隠蔽など無理である。

 島単位だからこそ最小限のリスクで復活劇を演出できたというだけの話だ。

 全ての島を復活させるのにマナの異常を痕跡として残さない後処理まで考慮すれば、最低でもあと四日は必要だろう。

 どれだけの力を得ようとも慎重さを失うことなく冷静に、計画通りに淡々と、それでいて観客の心を揺さぶる様に、されど他の者には手掛かりの一つも与えず、リヴィアの欲求はなるべく適える。

 それが私の仕事だ。


「『アスタリウム閉環』」


 このモーラクライアの首都とその周辺海域を覆っていた半異境化した領域をビー玉サイズのアスタリウム結晶体へと収納する。


「とても綺麗ね。ふふふふ」


 摘んで空にかざしたアスタリウムの中に美しき海王国の首都が映し出される。




[419]

 あの日、トクトラの鍵の宝物庫で並んで横たわっていた遺体から最初の再誕人として生み出した彼等。

 初めは別の存在として蘇ったことに驚き、海王国が世界地図から消えてから百年以上経過している事を目の当たりにして空虚さに打ちひしがれ、新たな人生をどう生きるべきか真剣に悩んだ。

 私はただ、蘇生に似た魔法が使えない物かという単純な好奇心と、百年前の海神領域崩壊を目撃した証人から直接詳細を聞きたかったという理由で勝手に再誕させてしまった事に何かしらの責任を取るべきだと思い、何気なく希望を聞いたのが始まりであった。


「女神様。女神様は俺達を生き還らせられたんだろう。

なら俺達の故郷だって生き還らせられるんじゃないのか!?」


 私から言わせてみれば、人を素材に限りなく素材となった人に近い生命を生み出す魔法は、『生命魔法』と『創造魔法』の組み合わせとして理論的には可能だと判断したに過ぎない。

 しかし国を蘇らせるのは全く畑違いの技術であり、『生命魔法』の応用でどうにかできる代物ではない。


「それがあなた方の願いなら。私ならば叶えられるかもしれません」


 リヴィアは私の意思とは別に、そう答えていた。

 あれは単純に私に対する盲信と、私を賛美する彼等の姿に触発されて、口をついでしまったリヴィアのスタンドプレーであった。


「俺に出来ることなら何でもする。命…は女神様から貰った物だから懸けろと言われれば懸ける!

忠誠だって誓うし、一生女神様の奴隷でも構わない!

だから、だからさ。俺達の国を、故郷を生き還らせて下さい。お願いしますッ!!」


 必死に懇願させてしまったのはリヴィアの過失である。

 ガスフィークと名乗った青年がどれだけ言葉を尽くそうとも、私の心が揺れる事は無い。

 しかし、リヴィアは彼等の望みを私が叶えられる事を証明したい、世界へ見せ付けたい、というのであればそれを断る選択肢は無いのだ。


 仕方がないので、彼等にしか出来ない仕事を頼むために生を授けたとして契約を締結した。

 再誕に足るだけの仕事を成し遂げて、負債を完済したと判断したら。改めて契約を結んで海王国の復活を先払いする代わりに、私の計画に加担するという約定を定めたのだ。

 まあ、せっかく蘇らせた海王国も私の計画が失敗すれば滅んでしまうかも知れないのだから、選択肢の無いほぼ強制的な内容なのだが。

 それでも彼等は喜んでこの契約を交わした。


 世間基準では割と無茶な内容の仕事もやってのけた彼等の功績を認めて、というのは建前で。

 実際は海王国復活の目処と、復活させた海王国の有効活用法を思い付いたから決行したに過ぎない。

 私の計画の役に立ちつつ、リヴィアのご機嫌を取りながら善行を積ませられるとあれば、これは一石三鳥の良案。

 実行に移す価値があると判断した。

 価値が見出せなければやらなかったのかと問われれば、リヴィアの交わした約束なのでいずれは実行しただろう。

 しかしこれほど早くに実現させていたかは不明である。

 まあ今更ifを語った所で何の益にもならない。

 現実にこうしてリヴィアも海王国の面々も全員大満足になったのだから、私の本心や真実がどうあれ結果良ければ全て良しだろう。


 残る5つの島々を復活させてアスタリウムに収納していく。

 我ながら携帯用異境とは実に便利な道具である。

 わざわざ孤島へ転移して異境へと出入りする手間が無くなり、管理も容易になった。

 本体でなければ創造出来ないのは難点だが、聖戦で使われた異境リソースでなくとも、規模こそ制限はあるが理論上は迷宮核と大量の虚獣核さえあれば増産可能というのも大きい。

 あればあるだけ使い道があるのだ。再誕人の迷宮攻略と創世魔宮の虚獣狩りでなるべく数を増やしておこうと思う。


 この後は映像を観た各大陸に間借りしている海王国の末裔達の代表を集めた宴会である。

 リヴィアには引き続き変身して成長予定の大人の姿(女神形態)での参加予定。

 前にリンデノートの特産品について研究した際に錬金術で世界中の酒を再現した事があったので、それを種酒として量産した物を振る舞えば大丈夫だろう。


 外せないのは海王国伝統の汗をかくためのカラッとしたエールや滋養強壮に効果のある龍酒(蛟の肝を漬けた地酒)と海老酒辺りか。

 後は口当たりの柔らかい森人族(エルフ)の蜂蜜酒を風味別に3種。

 人気の高い小人族の果実酒も銘柄別に揃えて、牛乳酒も用意しておく。

 酒に強くない者の為にも酒精の抑えた物や酒屋の造ったジュースも織り交ぜようか。

 森人族の蜂蜜酒はかなりの高級品らしいが、今の私の力ならいくらでも量産は可能である。

 流通させるつもりもなく一滴残らず飲み干して貰うのだから振る舞っても問題は無いだろう。

 有名な地精族(ドワーフ)の火酒は、あまり旨い物でも無いし龍酒があるので今回はパス。


 因みにリヴィアと関連のあるリンデノートやカルムヴィントの酒は勿論のこと人間族の酒全般を出さない。

 調子に乗らず公私はきっちりと分ける。

 彼等が情報を漏らすとは思わないが、想像だにしてない方法で探りを入れてくる者が居るかも知れない。

 警戒とは、一度でも怠った時点で不完全な物となるのだ。



◇◆◇



「我らがモーラクライアに乾杯ー!」

「兄上さま、いくら祝の席とは言っても主役なのですから酩酊するまで飲まないようにしてくださいませ」

「いいや飲むね!何と言われようと今日は飲むって決めたもんね!

誰が止めても死ぬほど飲んでやる!絶対にだッ!」

「ふふふ。ガスフィ、挨拶に障らないくらいにしておきましょうね」

「はい、女神様!でもせっかく女神様が用意して下さった酒なので、とりあえず細かいことは全種飲んでから考えます!」


 それは細かい事は一切考えないと宣言しているのでは無かろうか。

 およそ王太子らしからぬ振る舞いの目立つガスフィークだが、これで案外弟妹からも民からも慕われており、リーダーシップとカリスマ性を持った人物だったりする。


「兄上さま、女神さまは飲みすぎないようにと仰られているのですよ」

「バカ、リーサのバカ!女神様はこう仰ったんだ。

挨拶さえ出来ればいくら飲んでも良いって!」


 好きな物は好きと言い、嫌いな物は嫌いとはっきり口にして、身分に関係なく一緒に泣いて笑って怒って喜ぶ。

 長所も短所も見て分かりやすく、誰かに支えられて力を発揮する。

 そんなリーダーの素質を持つ。

 まあ、最初は世界情勢を知るために各大陸へ冒険者として潜入させていたのだが、思いの外冒険者業が気に入ってしまったらしく冒険者になると冗談交じりに言っていた。

 が、最近は割と本気で冒険者として身を立てたいと言っているフシがある。


 威厳ある王には向かないだろう。

 腹芸にも向いてないので長期政権にも向かない。

 だが、彼の様なシンプルな性格の王は、長らく指導者不在の海神領域難民にとって逆境を押し返すにはうってつけの性格でもある。

 それに契約通りに海王国の復活と計画への加担さえしてくれれば、後は堅実な弟へ王位を継がせてしまってもこちらとしては何の問題も無い。

 好きにさせよう。


「女神様。なんと美しく神々しいお姿。どうか我々の忠誠をお受け取り下さい」

「我等一同は生涯をかけて尽くします」


 リヴィアはと言うと、こうしてひっきりなしに挨拶に訪れる者が列を為す。

 無礼講と銘打っての宴会のはずだが、畏まりひれ伏す者が絶えない。


「海神様から神託が有りました。海神領域の民は今後、『女神アセリア』様にお遣えせよと」


 なるほど、海神イージル直々に眷属である彼等に御告げか何かを与えたのか。

 今回の件を実行するにあたり事前の打ち合わせの段階でその辺りを注意勧告しなくてはならなかったか。

 海神イージルは既に一度邪神に敗北している。

 つまり、独断を許していてはいつまたボロを出すか分からないのだ。

 残念ながら実力を信用出来ない。

 しかも『女神アセリア』の名を軽々しく持ち出すとは、迂闊にも程があるだろう。


「顔をお上げなさい。

私が女神であることは他の民達にはまだ内緒です。

ここに居るのは共に海王国の復活を祝いに訪れた支援者の一人ということにしておいてください。ね」

「は、はい。失礼致しました」


 あれこれ言うより、これで十分。

 自分達の主神から神託で、初めて聞いた名の神を信仰しろと言われても戸惑うばかりだろう。

 今はただ、見棄てられた海神領域を救うために味方をしてくれた神が一柱いたという事実だけを知っていればそれで良い。


 神なんてものは本来人に測れるものではない。

 たまたま人にとって益になる奇跡を起こした神を善神として祀って、厄になる災害を起こした神を祟神として祀っていればそれで良い。

 基本的に信仰心なんてものは他者や、ましてや神が用意するのではなく、人が勝手に己の内から芽生えさせるものなのだ。

 例え彼等がリヴィアの起こした奇跡を全て海神のおかげと信じた所で、それは彼等の自由である。

 むしろ、突然彼等が名も知らなかった神への信仰心を強固に持ったりしたら、それは違和感が有り過ぎるし気持ちが悪い。

 それなら海神の味方をするローカル神の助力を亡国の王子ガスフィークが取り付けて還ってきた。という形で受け入れて貰った方がずっと物語的で、何より健全である。

 自分達の信じる王子が信じる神様なんだから我々も信じてみよう。であるべきなのだ。


 ああでも、並んだ料理と酒の趣味の良さや大盤振る舞いについてなら思う存分感謝して貰っても構わんのだよ。

 こちらに関しては純粋に喜んで欲しくてやったサービスなのだから。






《あとがき》


ひっそりと海王国と竜王国が復活しています。


聖体パンで要望を出しまくっていたガスフィ君と、魔術学院に一般入学しているリーサ嬢が登場。

二人とも水精王族なので唄はとても達者です。


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