地神の恩寵
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まずは地神領域で新たに得た物の効果を確認をしよう。
・【聖法術】
精神力から祈りなどを通して聖気を放出することで行使できる法術の一種。
主な効果は「治癒、浄化、結界、善性」の付加や増幅であり、後述の邪法術とは対になる。
人は誰しも多少は持っているが、法術として発現出来る程の力の持ち主は稀で大変重宝される。
地上人で聖法術をある程度使える術者を『聖者』。
主に天空人で強力な聖法術の使い手を『聖人』として認定する制度がある。
リヴィア本体は聖法術が苦手で、素のままではどうしても同量の邪気が含まれてしまう。
すると祝福と呪詛が同時に掛かってしまうので、対象となった者は大抵の場合は無事では済まない。
従って行使には、次元転換による位相フィルターを介して純粋聖気を抽出することで、間接的に高純度の聖法術へと昇華する手間が必要である。
因みに、苦手なのは素で聖気だけを抽出しようとする手順だけで、邪気混じりで良いのなら超々射程の広範囲だろうと複数の効果だろうと、いくら使っても疲れたり力が底を尽いたりしないので、そういう性質と割り切ればかなり得意とも言える。
例えるなら、血液から生理食塩液だけを抽出するのは100ミリリットルですら困難だが、血液のままで良いのなら何ギガリットルでも出し続けられるような物だ。
・【万能治癒術式】
一般的に聖法術は祈りの手順を踏んで内なる聖気を引き出し、聖法術の術式に乗せて効果を発揮させる。
聖気は魔力の一側面。
分派のような物で術者の魔力形質の影響を受けてしまう。
これが理論上の聖法術の効力を十全に発揮させられない濁りや不安定さを引き起こす不純物となる。
それに人には大なり小なり正負の気はどちらも持ち合わせている。
つまり純粋な聖気だけを出すのは大変困難で、どちらとも付かない中間の不純物と、邪気も含まれてしまう。
熟練の聖人であれば余計な物をある程度なら抑え込められるようになるらしいが、それには長い修業を経なければならない。
本来の聖法術とは『一にして万能なる術式』から成り立つが、それを機能させるには純度100%の聖気を必要とする。
つまり実質的に人の身だけでは不可能だ。
『一にして万能なる術式』、これ自体はシンプルなもので何の加工もされていないと、漠然とした効能が何となく全体的に効果する。
即ち「治癒、浄化、結界、善性」がぼんやりと全て効果するのだ。
これでは何となく良くなった気はしても具体的に何がどう良くなったのかイマイチ実感できないので、術式を改良して一つの効能に特化した術式を作っていった。
それが現代の聖法術の数々である。
私が今回開発した『万能治癒術式』とは、限りなく『一にして万能なる術式』に近い性質の原点回帰した術式である。
フィルターを通せば高純度の聖気を捻出できるので、偶然上手いこと実現した物なのだが。
効果を簡潔に述べると「全体的に良くなる」を高効率化した術式である。
・【治癒聖石】
七光の開発したフワッとした感じの万能治癒術式を刻んで付与した消耗型の魔術具。
触媒には世界樹の加護領域内で長年浄化作用を浴び続けた有り難い石を利用している。
が、これはほとんどおためごかしであり、世界樹の守り人の里周辺で採れる綺麗な鉱石に、さも特別な浄化の力が付与し易いかのように誤解して貰ったに過ぎない。
聖属性に多少なりとも適性のある術者なら治癒聖石を使えば回数限定で万能治癒術式が使えるという便利アイテム。
これを使って守り人の里で流行っていた伝染病の治癒をさせた。のだが、そもそも伝染病に治癒はあまり相性が良くない。
治癒は治療と違い、その場限りでスカッと回復させられるが免疫抗体が付与される訳では無いので、根本となる伝染病の原因をどうにかしない限り何度でも感染してしまう。
結局は治療法の確立までの時間稼ぎか、一部の人を何度感染しても治癒で治し続けるくらいにしか使えないその場しのぎの欠陥品である。
・【邪法術】
聖法術の研究過程で副産物として獲得した邪気を用いた法術。
有名どころだと死霊術や洗脳術に呪術全般だろう。
元よりリヴィアは邪気を潜在的に高純度かつ高密度に持っているので大変才能がある。
分霊と併用すればそれだけで疑似死霊術としてほぼ上位互換の性能で運用が可能であり、本家死霊術と違いデメリットも無いので改めて死霊術を学ぶ意味は薄い。
幼少期に対象とされた大呪術での体験からか、長らく手を付けずに放置していたにも関わらずかなり高い適性を持っており、下積み無しでありながら容易く自由自在に扱える。
特に興味深い成果と言えば、リヴィアの血を媒介にして動植物を高純度の邪気で汚染すれば、それだけで穢れの許容値を超えて魔獣化させられた事だろう。
被検体には申し訳ないことをしたが、他にも様々な実験の成果を挙げられた。
まあ、これが何の役に立つのかは分からないが、知識や技術の地道な探究とは元来そういう物だ。
また、万能治癒術式を改良して少量の邪気を元に『滅菌』の術式を組み込む事で、特定の病原菌を死滅させた上で治癒するという特効性能が付加出来るようになり、治癒の欠点を軽減可能となる。
邪気も正しい知識と技術があれば、使いようによっては聖気を助ける働きを持たせられるという事だ。
・【生命の果実】
森人族の聖者テュラハ・ロシャーク子爵という仮面と闇人族の特殊工作員という二つの顔を使い分けるテロリスト、ヴィレディア・イルブランドの脳からリヴィアが直接情報を抜き取って誤解を解き、和睦と闇人族との親交の証として渡した美味しい果実。
ざっと十年は若返りその分の寿命が延びる生命力の満ち満ちたヴィヴィッドアップル。
妖精王の王笏の笏杖頭に毎日実る果実に『生命魔法』で指向性を持たせた生命力をみっちり詰めただけのシンプルな手土産。
闇人族の太后はかれこれ千年以上も国を統治しているという噂で、今回テロに踏み切ったのも自身のタイムリミットを察しての事だろうと推察した。
今後どうするかはさておき、リヴィアの成長を優先する目的で時間稼ぎのために妖精国滅亡のカウントダウンの一時停止と顔繋ぎ用に持たせておいた。
その気になれば生命の果実は毎日一つ生産できる。
今回の研究で種類も植物なら何でも実らせられるようになったので趣味の庭園造りが捗りそうだ。
・【アムブロシア】
世界樹の実や種と葉を調合して作られたとされる万能の霊薬の伝承を元にして、仮説と理論と概念を把握して独自の方法で調薬した霊薬の廉価版。
世界樹の霊薬とは、素材そのものは大きなだけの植物であり、真の効能は世界樹の一部を触媒にして世界樹と一時的にパスを繋げる作用のことをだった。
繋がったパスから送られる世界樹が持つ浄化と再生の力により、服用者は間接的にあらゆる怪我や病を癒やしているように見えたに過ぎない。
つまり、力を失った世界樹の素材で作られた霊薬では、化学的に見れば全くの同成分でありながら何の恩恵も得られないのだ。
仕方が無いので私達は世界樹の力そのものを再現したエネルギーを隔離保存して、霊薬を通じてそのエネルギー体へアクセスして一定量の浄化再生作用をダウンロードできるパスを構築する、という『霊薬型のトークン』を製造したのである。
これなら世界樹など在ろうと無かろうと関係なく、好きな時にトークンを使えば一定量の癒やし効果を得られる。
このトークンを『アムブロシア』と名付けた訳だ。
因みに、霊薬はあくまでもパッケージに過ぎないのでとびきり美味しくなるように、素材を厳選して、細心の注意を払って抽出。
脳が蕩けるほどの陶酔感を味わえる至高の飲料を造り上げる事に成功した。
余談だが姉妹品として、薬効の無いただのジュースを『ネクタール』、醸造して酒精を含んだ物を『ソーマ』と名付けた。
常人では一口飲むだけで意識がトンでしまうので、薄めるなり割るなりして、原液では決して振る舞わないようにくれぐれも注意しなければならない。
・【ヴィレディアの技術】
闇人族ヴィレディア・イルブランドの脳から抜き取った情報の内、技術に関する部分。
聖法術と邪法術の双方において一国のトップクラスの実力を持つエリートであるヴィレディアの知識は大変に興味深い物だった。
[死霊術:S][闇魔術:S][暗殺者:A][巫術:A][精霊術:A][治癒術:B][迷宮主:B]、その他C級以下多数。
この評価は新聞社や雑誌社のデータベースを参考にして私達が客観的に判断したおおよその冒険者ランクとの比較評価である。
これらの情報は書にまとめて『書館』に蓄えている。
結構前に調査した転生者はC級相当以下の技能しか持っていなかったので学べる要素はほとんど無かった。
その後被検体として強制的に協力して貰ったお礼にと、こちらからギフトやA級B級技能を植え込んでから解放してあげたが。
彼は元気にやっているだろうか。
[416]
次に新たに加わった配下と能力について確認する。
◇◆◇
・【グリーン】
道返しの樹洞で消化され切れず、生きることも滅することも出来ずに穢れの沼に呑み込まれて存在し続けていた『怒れる森の魔人』の残骸。
緑の魔法使いのお伽噺に出てくる森の怪物の正体は、かつて無実の罪で国を追われた妖精王国の皇太子エラン・ルオラシア・タイタニア。
彼は世界樹に次期妖精女王として選ばれた妹の殺害を企てた罪人として処刑される所を、被害者である王女の温情により名と耳を失うに留まり国外追放される。
それから三百年余り、渡りの冒険者として生活していたある日。
妖精王国上層部のきな臭い噂の数々と、女王の成婚を祝う式典で女王暗殺を計画している話を偶然聞いてしまう。
仲間達の手引きにより故郷妖精王国へ帰還したが…。
暗殺計画を止めようと、世界樹の麓で祖霊に婚姻を報告する女王に接触しようとした矢先に、暗殺計画の実行犯として捕らえられてしまう。
からくも脱出して仲間達と合流した直後に背後から不意打ちを受ける。
黒い噂の絶えない国の上層部は見返りと引き替えに仲間達を懐柔して、エランを体の良い犯人役として祭り上げようと画策していたのだ。
瀕死の身体で世界樹の根元まで辿り着いた所で、妖精王の直系の血を吸った世界樹は正統なる後継者の一族にしか立ち入れない樹洞の口を開いた。
そこには混沌が詰まっていた。
いずれ来る世界の終わりを告げる穢れの底なし沼を観て「これを誰かに伝えなければ」と、それが彼の最期の意識となった。
死に瀕して混沌の穢れに呑み込まれた彼は、全ての森人族へ警告する為に腕を伸ばす。
全ての妖精国の民へ訴える。
全ての森を覆ってでも、全ての生命に告げようと侵食する。
斯くして世界に第Ⅵの厄災は誕生した。
時代の勇者と聖女と各大陸の大英雄達が集い、討伐されるその日まで、永きにわたりて大生林を蝕んだ伝説の大災害『怒れる森の魔人グリングリッチ』。
名を消され歴史の闇に葬られ、魔人としての名だけを遺した哀れなる王子の成れの果て。
妹女王の命を奪い、妖精王国を滅亡させても暴れ続けた理性無き怪物。
真の首謀者は国外へと逃げ延び、女王亡き後は幼き王女の後見として新生妖精国の名において世界中に開国を宣言。
遂には英雄達を呼び込み、多大なる犠牲の果てに怪物もろとも全ての悪事を闇に葬った。
無念の怪物は再び世界樹の根の下へと呑み込まれ、絶えず流れ込む混沌の穢れに身を揉まれ、いずれ再び樹洞が開く日まで、ただ無意味に藻掻き続ける。
妹女王の血を引く最後の妖精女王が、無明の地獄から赦しを与えるその日まで。
名を消された彼は再誕の際に、女王より新たなる名を賜る。
彼の名は「グリーン」。
世界樹の継承者達の始祖たる者。
地神の身から生まれし三色の眷属妖精の長たる『緑』から名を取って与えられた。
◇◆◇
・【アルフェ】
六大神の一柱、偉大なる地神レイリアの身から生まれし三色の眷属妖精。
古の神々の戦争で焼け落ちた神樹から新たなる芽吹きとして生まれた世界樹。
その成長と守護と維持を役割として地神の権能を与えられた原初の大妖精。
『緑』は世界樹の成長を司り、森を育むために森人族と交わって眷属として繁栄させる。
『赤』は世界樹の守護を司り、妖精族を世界へ散らせて穢れし魔と戦う英雄を選定して補佐する。
『青』は世界樹の維持を司り、枯れる事の無い水源を生み出し森を維持させる大河を象った。
役割を人類へと引き継いだ大妖精は世界樹の土台となるべく大地へと還り礎となる。
筈だった。
繰り返される世界樹の世代交代の周期がある時から途絶えてしまう。
三角禁域を順繰りに世界樹の世代交代をさせる事で何とか神樹と同じとは行かずとも、それに準ずる浄化と再生のサイクルを維持していたが、その均衡は崩れ去り本来起こり得ない事態を引き起こす。
次の周期の土台造りの為に伐採しなければならない所を、幾分余力を残したままの老世界樹を長期間放置した結果、『青』が眠る土台の要素が撹拌され続けて霊的リソースが分離しかかってしまったのだ。
一帯からリソースを回収した私達は『グランレリアの青』たる大妖精を再誕させる事に成功する。
人類の考えるような名前の概念が無かったので、この妖精には直々に「アルフェ」の名を与えた。
◇◆◇
・【成長魔法】
地神より『グランレリアの緑』の権能と権限を移譲された力の一つ。それが『成長』である。
あらゆるモノを成長させるというトンデモ能力。
一方通行である為、行使には慎重にならなければ取り返しがつかない事態にもなり得る。
動植物の成長は勿論のこと、微生物の培養にも適用出来る。
それだけでなく、過剰成長促進による巨大化や一代限りの進化を促す作用が非常に強力で、使い方次第では常識を破るキッカケともなるだろう。
これは研究と検証を繰り返さなければなるまい。
ああ、もしかしたらお蔵入りしていた例の計画も一気に進められるやも知れないではないか。
・【大妖精の権限】
三色の眷属妖精に委任されていた地神の代行権限。
力を衰えさせ、大地に縛られ、ほとんどを眠りの中で過ごす地神の代わりに森の運用を任されていた大妖精は、その権限の下にグランレリア大陸全土を開発統治していた。
その中には『緑』の子孫に引き継がれた世界樹の世話や世代交代も含まれており、その手段として森人族に創らせた妖精王国を使い、地神の眷属王家として森を育み繁栄させるに至ったのが真実である。
つまり、世界樹を生育させる別の手段があるならば、森人族に拘る必要もないということ。
たまたま世界樹を植えた地に居た種族を眷属としても何ら問題は無さそうである。
そして何より、リヴィアに流れる血というより因子が妖精族由来である事が証明された。
アルフェを再誕させた際には森人族に対する感覚とは別の、プロシアに対する感覚に近い親しみの手応えを感じたのだ。
要するにリヴィアは根源的に森人族を同族とは見做しておらず、本能的に妖精族こそが近縁種だと判別している事になる。
通りで他の森人族の様な身体に凹凸の少ないという外見的な特徴が一致しない訳である。
何なら純粋な森人族ではないヴィレディアの方が親しみ易いまである。
どうやら『緑』は大妖精の長女ということで意識的に地母神の豊穣や母性の象徴性を誇張された外見をしていたらしい。
つまり妖精族だけでなく他の生物と比べても特に女性的な美を強調されている存在なのだ。
プロシアや義母オクタヴィアから成長の確認をされる度に注意されていた理由にも得心がいった。
『緑』の特徴を色濃く反映させたリヴィアは、元から天然素材だけでも他種族を惹きつけ魅了してしまうように意図的な設計をされているのだろう。
そう認識すると思い当たるフシが有り過ぎる。
おそらくこれも『緑』の能力である。
眷属を統治しやすくする為に、姿身そのものに強力なカリスマ性を付加するとは、産み出した地神も中々の策士ではないか。
・【維持魔法】
『グランレリアの青』にして水源妖精アルフェの権能を解析して創り出した魔法。
主な使い道としては「再生、継続、停止、保存」である。
維持には摩耗への強い耐性があり、多少の損耗ならば相応の熱量で持続的な再生が可能である。
これを流用すれば、単体では寿命こそどうにもならないが、自動で自己再生させるシステムを構築できるだろう。
継続の力は、延々と同じ事を繰り返す機能面の維持に使える。
大量生産のラインや、自動作業全般に融通が利くので重宝しそうだ。
維持には停止の概念も含まれている。
この場合の停止とは一時停止や継続的な停止の意であり、流動する維持状態の一形態を指す。
辞めさせたり中断させたりという流動していない状態を経ずに、流動状態そのままに停止させるので熱量効率に全くロスが発生しないのが特徴だろう。
実に素晴らしい。
最後に保存だが、これは状態の停止のような一時的なものではなく継続的な長期保存が可能である。
停止はリソースをそこへ割いた状態を維持しなくてはならないので、使用者のスペック次第で有限の範囲でしか行使出来ないが。
保存状態であればリソースを切っても維持されるので、適時継ぎ足せば範囲に限度は無い。
例えるなら、息を大きく吸い込んで肺を膨らませて空気を維持するのが停止。
風船に息を吹き込んで空気を漏れない様に封をするのが保存。
停止なら肺の許容量は有限だが何時でも空気を吐けるのに対して、保存なら風船の数さえ増やせば理論上維持できる量は無限だが封を解かないと空気を取り出せない。
どれも使い方次第で様々な用途に利用出来そうで、これからもっと可能なことの幅を拡げられそうだ。
・【ルオノの勾玉】
地神領域には大地神レイリア以外にも二柱の眷属神が祀られている。
大生林の南部。
獣人族の力ある氏族が集まって建国された獣王国には【清浄と巫術の神ルオノ】が祀られていた。
ルオノは随分昔に力のほとんどを失っており沈黙していたが、その欠損神核と意志の断片からおおよその情報を読み取れた。
かつてハンが一万年以上前に接触したことのある神であり、使い切った神遺物『ルオノの勾玉』の残骸も回収出来ていたので再現も可能だろう。
ルオノの勾玉の効果は簡単に言えば封印である。
巫力を消費して対象となるモノを勾玉の効力の続く限り封じ込められる。
巫力とは霊力や魂力と呼ばれているものだ。
つまり命を代償にすれば誰にでも使える。
つまり生贄だ。
巫術師ならば魔力を燃焼させて急生産することも、体力や精神力を消耗させて巫力を精製して高効率のリソースへと変換が可能なので、結果的に同じ一人分の命からでも必要量をかなりの割合で確保できる。
未精製の命を使っても効率が悪いので、おそらく素人の命では封印対象次第では大量に捧げなければ行使は出来なかったのだと思われる。
ハンは私と同じく神力が使えたので問題無く自分を封印する分は自力で生産出来ていたのだろう。
原物の封印期間は最大で約千年。
古の時代の魔人や魔物なんかに使われていた様だが、千年後に封印が解かれた時代に居合わせた者からすればいい迷惑である。
まあ、そのほとんどは当時のハンが勾玉を得る対価として討伐したらしいので現代まで残っている封印された物達の格は大したことは無かった。
それでもサンプルになるので内包するリソースだけ抽出して確保しておく。その為、仮に今後この封印が解かれても、これらの封印物は中身の抜かれた抜け殻になっているので危険はもう無い。
しかし、回収した封印物と比べると【世界の淵】の第一層に出る『淵ビト』の内、一番浅い階に出現した個体でも遥かに高濃度の情報リソースだったのだが、地上ではこの程度のモノでも存亡の危機に相当するのだろうか。
意識を持たない淵ビトより数段格下でも、自律した意識を持ち自己判断できる魔物や魔人の方が悪意の面では脅威になるのだろうが、それを差し引いても納得しきれない。
・【ヘッケスの秤】
大陸北部の大山脈。
地精族の支配する巨大な地帝国には【信頼と商術の神ヘッケス】が祀られている。
ヘッケスは傷付きながらも健在で、今もなおメリルブライトに暮らす地精族や小人族から信仰されていた。
商いという概念を司っているだけあり世界中から信仰心が集まっているからか、それなりに力を維持していて地帝国に加護を与えている。
神遺物の『ヘッケスの秤』は国宝として大切に保管され、地精王の戴冠式には秤を前に誓約をするという伝統が今でも守られているらしい。
ヘッケスの秤の効果は契約の履行。
秤を用いて交わされた双方納得の契約は、何を置いても必ず履行されなければならない。
その強制力はまさしく神遺物の力そのものであり、魂に刻み付けられた超強力な履行への観念には逆らうことが出来ない。
構造としては、魂の中核に霊的な楔を無防備な状態で打ち込むのが儀式に組み込まれているので、契約行為そのものが強制される事を承諾する意志を持っていなければ成立しないのだ。
強い力で無理矢理捻じ伏せる類の外的要因ではなく、本人の意志を尊重して起こす作用なのだから抗うとか以前の問題だろう。
嫌なら契約は成立しないので効果も無い。
つまり抗うつもりなら前提が成立しないのだから、防ぐという発想そのものが矛盾である。
神のお墨付きを貰っての訪問なので遠慮なく忍び込んで原物には分霊を介して触れた。
こんな物に頼らなくては交わせない契約にどれほどの価値が有るのかは私には理解できないが、それはそれとして創造予定リストに加えて後で検証しなくてはならない。
・【恩寵】
リヴィアが自力でギフトを作成出来るようになってからはギフトの有り難みがだいぶ薄れてしまっている。
とはいえ、神々によって得意とする要素は異なるので授けられた恩寵そのものよりも、付随する要素の拡張がメインだろう。
こうして直に恩寵を得る事で、対象となる神々の加護と連動して自力でもその神々の得意とするギフトを構築可能となるのだ。
これは大きい。
今回の神々との接触で新たに獲得したギフトは[植物対話][霊験][轆轆]の三つ。
・【植物対話】
その名の通り植物と意思疎通が可能となる。
今までも植物の霊力を観れば何となく感情らしきものは判別出来たのだが、本格的に意思を通わせられるようになった。
巫術師は霊力を感じ取れるので似たような事は何となく出来ると聞いていたが、どうやらその技術も起源を辿れば妖精族由来のものらしい。
そしてオリジナルである妖精族の植物対話能力を後天的に付加したのがこのギフトなのだ。
リヴィアの場合、血統から眷属妖精の権能を喚起させた上でこのギフトを付与することで、急速に初代の『グランレリアの緑』に相当する権能の熟達を促進させる起爆剤にした、という所だろう。
そんな地神の思惑はともかく、私達からすれば手持ちの世界樹の生育に使えそうなので何よりである。
甘過ぎる地神は妖精国の森人族も助けてやって欲しいのだろうが、私達にはあまり関心が無い。
天は自らを助くる者を助く。
積極的に滅ぼそうとまでは言わないが、自ら滅ぼうとしてる者を助けるのは天の意思に逆らう行為では無かろうか。
一応、今回判明した事実としてリヴィアにとって地神は祖霊である。どうしても彼等を助けたいというのであれば、もう一度くらいは地神の顔に免じて機会を与えてやっても良い。
大した手間では無いので、もののついでくらいで十分だろう。
・【霊験】
祈りや祈願に祭事や儀式の効力を高める。
巫術の神だけあり実にそれらしいギフトだが、祈りや願望なんてものは余程執念を抱かない限り漠然としていて曖昧だ。
それに当のリヴィアのお祈りと言えばアレである。
修練を積まないままこれ以上高めたりしたら、僅かな雑念が入っただけで確実に大惨事となるだろう。
近い内に再誕人達を使って代々的にお祈りの実験をしてメカニズムを解明しよう。
・【轆轆】
生物、造物問わず、苦せず騎乗出来る。
『飛翔』や転移の使える私達に果たして必要なのだろうかと疑問なギフト。
ヘッケスの思念によると轆轤による移動中は、突発的な事故を回避したり、道に迷いにくくなったり、悪路の影響も受けにくくなるらしい。
しかし意図的な事故は対象外で、虚偽の案内には惑わされるし、物理的に無理な道はどうしようも無いので気休め程度の効果だ。
そもそもリヴィアは馬車移動でも別に御者を付けられるのだから本当に意味が薄い。
とはいえ、各地に潜入している配下に着けるなら使えそうか。転送は大っぴらに出来ない以上、彼等の主な移動手段は馬車や竜車である。
◇◆◇
以上。
基本的に普段から領地や寮のような定点に留まるのが常である私達としては、今回の地神領域への旅はとても刺激的な体験であった。
対して他の転生者や、この世界の主役たる者は、様々な場所で人々と接したり事件に巻き込まれたりと忙しい毎日を送っているのだろうか。
彼等と比べれば私達の生活なんて退屈極まりないものだろう。
私は自分がつまらない事を自覚している。
まあ、意図的に事件や事故から身を遠ざけているのだから当然なのだが。
それでも今回ばかりはリヴィア以外に解決不可能な案件だったので動かざるを得なかった。
私達のしたことは本筋とは全く関係ないが、せっかく救った世界が結末後に簡単に崩壊しては困る。
重大性に気付いていたのは闇人族の太后だけで、かといって彼女でも根本的な解決には至らないだろう。
いやはや、トドメを刺しに現れた土壇場で抵抗を余儀なくされるのは理不尽極まりない。
そしてそれに気付かず踊らされている者達や、人なんかにかまけて世界を蔑ろにする連中の気が知れない訳だが。
一体何時になったらこの世界の救世主は現れるというのだろうか。
あまり引っ張って待たされた挙げ句に誰にも出来ませんでしたでは目も当てられない。
人数は力だ。
多数は一人より優れていなければならない。
だから私は最後だと決めている。
大勢で協力しても達成できない事柄は一人には決して出来ないし、背負わせてはならない。
集団の生き物である人類とはそう在るべきであり、その前提は覆ってはならない。
人数とは力であると同時に総意でもあるからだ。
最後と自らを設定する私の出番とはつまり人類の敗北である。
仮に、最後の私が世界を救ったとして、一人に全てを背負わせて成した事実だけが残る。そんな世界に価値など在るのだろうか。
そんな事実を認めさせるくらいなら、潔く諦めて滅んだ方がマシではないだろうか。
「ふふふふ。それなら計画をもう一つ用意してみるのはどうかしら。せっかく素敵な力を得たのだもの、世界を成長させるには失敗も使える要素ではなくて?」
ああ、なるほど。確かにその通りだ。
期待するからこそ期待を持たない計画を立てたが。
期待を持たない上で期待を持つ計画も有りなのか。
後者の道は実にシンプルだ。
折角だからそちらの計画も用意するとしようか。
何なら、世界人類が一人ならば、一人の為に一人が救うという道であれば総意という意味では矛盾は無くなる。
流石は私のリヴィア。
それならば私も気兼ねなくもう一つ計画を立てられるというものだ。
《余録》
・ヴィレディアの技術評価に関して。
あくまでも専業でその技術単品でも対応する冒険者ランクに相当するレベルという評価で、A相当の技術二つでもS級評価を受けたりするので厳密には境界は曖昧です。
各国の騎士相当の評価値だと絶対評価ではなく国家毎に変わってしまうので、世界全土で共通した評価が採用されている冒険者ランクの相対評価の方が分かり易いという理由で採用されています。




