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1000通りの計画  作者: Terran
第九章 グランレリアの天子
87/99

誰が為の選択



[410]

 帰りの3日間はあっという間に過ぎた。


 大河を下って日が落ちたら河岸の集落で宿泊する、その繰り返しである。

 天候の崩れもなく、魔物や魔獣との遭遇もなく。


◇◆◇


 時間短縮の為に中小型の魔物の多く棲まう地域を抜ける川下りでは驚くほど順調な旅になり。


「賢者様の結界があるから襲おうとしないのか、大規模な討伐クエストが施行された後なのか。どちらにしても足止めがないのは助かりました」

「おいおいおい、ここ魔獣被害の多発地帯だよな。何で一匹も遭遇しないんだよ」

「う〜ん、鎧雨鰐(アーマーカイマン)どころか殺人魚(キラーフィッシュ)すら見えませんね」

「は。出た所でこの辺りの魔獣じゃ物足らんがな」


◇◆◇


 途中宿泊した兎人族の里の子供達にグラートのジャムが一瓶まるごと味見されたり。


「待て待て、一口って言ったよな、言ったの聞いてたよな!何で誰も止めようとしないんだ!?」

「まあまあ、グラートさんもジャムくらい良いではありませんか」

「そうです。あまり大声で騒がれると、ひいては七光様とプロシア様の品位まで疑われます。代金は私が支払いますから」

「お金じゃないの!これは、俺のソウルフードなの!味見は一口までしか駄目なのッ!」

「けちー」

「おっちゃんもう一瓶よこせ」

「あー、まだ隠してる匂いがするー」

「やめて!ねえほんとやめて!?」


◇◆◇


 小規模ながら独立国である狐人族の村を通った際にはハンが崇められ追いかけ回されたり。


「黒の英雄様、黒の英雄様!ハァハァ…」

「クッソ、違うって言ってるだろ」

「待つでありんすえ」

「付き合ってられるか!!」

「逃げたわ。追え、草の根を分けてでも探せェ!」

「馬鹿な、どうして狐耳美女達があんな奴に…」

「俺はあの兄ちゃんの身体能力が信じられねえよ…」


◇◆◇


 終点である大河口の街ではギャンブルに興じて有り金を擦ってしまったネオンの掛け金を取り戻したり。


「七光様。私、賭け事とかよく分からなくて、気がついたら全部無くなってて…」

「ネオン。賭けごとの基本は算術の問題です。相手と目や呼吸で相談をしてヒントをもらいながら手と確率を読み合う単純な遊戯ですよ」

「うっうぅ、算術苦手でも、できるようになれますか…?」

「ふふ。コツさえ掴めばそう難しくありません。お手本をお見せしましょう」

「ほう、次はそっちの、……?まあいいか。相手になるんなら席に座りな」


◇◆◇


 その程度のもので、大したことは何も起こらなかった。


 それでも焦りで余裕の無かった行きの行程と比べると確かに急いではいたものの、気を逸らせても早く帰れる訳ではないという雰囲気で、幾分じっくりとグランレリアの大地を見聞しながらの旅を楽しめたと言えるだろう。

 まあ、最後のギャンブルはプロシアから注意されてしまったが、リヴィアとしては満足らしい。

 実に上手い演出で、客だけでなく相手も最後の瞬間まで勝ち負けを繰り返して愉しませていた。

 それでもネオンの掛け金分は過不足を出さず1レラの狂いもなく回収していたのだから、全て掌の上だったのだろう。


「ふふふ。賭け事は金銭を得るためにするものではなく過程を愉しむ遊戯ですから」


 だからこそのイーブン。

 何も得ず、何も失わず、遊戯から発せられる熱だけを純粋に愉しむ事を重視したのだろう。

 所詮は賭け金など遊戯を白熱させる為の小道具に過ぎない。


 実に生産性の欠片も無い無駄な行為だが、それを愉しめる者にとってはこの大いなる無駄は最高の贅沢らしい。

 それこそ、金銭と時間の両方を浪費するに足るだけの価値があるのだろう。

 人はそれを娯楽と呼ぶ。

 そういう意味では、私は娯楽とは無縁でつまらない真面目に過ぎる仕事中毒者である。

 反対にリヴィアにとっては今までの人生も、世の中の全てが娯楽なのかも知れない。


 訓練も余暇も娯楽。

 軟禁生活も自由も娯楽。

 支配も慈悲も娯楽。

 善も悪も娯楽。

 救済も破滅も娯楽。


 そんな風に全てをありのまま受け入れているその眼には、この世界はどう映っているのだろうか。

 私が前に居た世界を見せたら、どう思うのだろうか。

 その大半を知識としてしか思い出せない前世に思いを巡らせながら、刺激の少ない帰路をのんびりと過ごしていた。


 …ああ、なるほど。

 この生産性の欠片もない無駄な想像もまた娯楽の一種なのだろう。

 少々気は早いと思うが、今暫くはこれが終わった後の想像に浸るのも悪くはない。




[411]

 港から船でプレネプタルへ。

 そして賢者ウルボラの館へ挨拶に立ち寄ったのだが。


「グワッハッハッハッハーッ!

いつの間にか居なくなってたから驚いたぞ!何処に行ったのかと思って沖の方まで観に出てしまったが、よく思い出してみれば儂の処に遊びに来たのでは無かったな!!いやこりゃ失敗失敗、グワッハッハッハッハー!!

よし、帰還祝だ。とりあえず呑め!」


 細かい事とか考えている自分が何なのか、と思えてくるくらいの大雑把さと豪快さ。

 それが心地よく感じてしまうのだから大した人物である。

 あと声がデカイ。


「いいえ、すぐにでも国へ戻ります。ここへ来たのは道案内の礼を直接言うのと、一声挨拶だけしておくためです。この後も予定が詰まっていますから」

「おお、急ではないか!帰りは船旅か?六花殿の頼みとあれば儂に任せされよ、どれ港の若いもんに声を掛けてやろうではないか!」

「いいえ、帰りの便も飛竜の予定です」

「グワッハッハッハッハー!!何を言い出すかと思えば、飛竜なら夜は飛ばんし日が暮れたら皆寝ておるだろう!よし、とりあえず儂の館で呑もう!」


 なるほど、飛竜は大型の変温動物。

 一部の例外を除いて竜種は寒さに弱く昼間活動して夜は寝る。

 動けない訳ではないのは知っているが、万全の状態でなければ飛竜の体調に障るかも知れない。


「は。安心しろ、帰りも特急で飛ばしてやる。朝一番に出れば日が高い内にフラタニアに着くだろ」


 ハンは相変わらずだが、ウルボラの事は気に入っているのかこの流れに乗り気である。

 まあ、竜についてはハンが詳しい。

 ならばここはハンの判断に任せよう。


「分かりました。一晩だけ厄介になりましょう。七光もそれでいいですね」

「ええ、先生」

「よし、話はまとまったな!今日は活きがいいロブスターが入ったんだ!

おーい!歓待だ!とりあえず酒と、あと獲ってきた食材で適当に何か作ってくれ!」

「はーい、只今!」


 あっという間に宴会コースまっしぐらである。

 ネオンも帰ってきて早々に料理に向かう。


「俺達も参加して良かったんで?」

「グワッハッハッハッハー!!なあに固いこと言いっこなしじゃろ!森の奥まで行った話でも適当に話しとくれ!あとは勝手に盛り上がるからな!」

「はあ、ではお言葉に甘えてご相伴に預かります」


 オドントとグラートは本来ならばすぐにでも森林警備隊の詰め所へ報告に行かなければならないのだが、賢者ウルボラに押し切られる形でなし崩し的に参加させられた。

 当初の予定より帰還が早かったのもあって予定も空いているのだろう。


「プロシア様。その、飛竜を預けている農場で話をしてきたのですが、既に就寝時間とかで今すぐには飛び立てないらしく…」

「ええ、その話は結構です。早朝出発しますのでウルボラの館へ宿泊します。貴方は先に荷物だけ農場まで運んでおいて下さい」


 帰還便の話を付けに行っていたデルフォスからの報告を受けてすぐに指示を出すプロシアは、内心では早期帰還を望んでいるようだ。

 結局、その後のウルボラ邸では一晩中飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。

 これで翌日ケロッとしているのだから波濤の賢者恐るべしである。


◇◆◇


 その夜。

 プロシアと七光に充てがわれた部屋にて。


「明日フラタニア大陸に到着してからですが、一度レアルヴィスタに立ち寄ってから、私はその足でエストバースの王都まで向かいます」


 魔導具による遮音と感知結界。

 念入りに外部との遮断をしてから切り出した。


「リヴィア。貴女はどうしますか?」


 これはただ予定を聞いているのではない。

 むしろリヴィアの予定など旅が始まる前より、最初から聞いていない。

 保護者であり家長が全ての決定権を持ち、決まった事を言われた通りに実行するのが高位の貴族家では当然だからだ。

 必要なのは決定の確認だけ。

 なら、今回の問い掛けも予定の話ではなく、決定の確認である。


 つまり、プロシアはこう問うているのだ。

 望むのなら王城まで来る事を許可する、と。

 それは私達にとっては大きな決断と転機でもある。


「お祖母さま。今回は特別なケースなのでしょう」

「ええ、いずれ通る道ではありましたが急な事でしたので。今回は本当に助けられました。ですので例え誰が何と言おうと、貴女が望むのであれば真相を聞く権利があると思っています」


 確かに、今回は私達抜きではおそらく手詰まりになり解決不可能だっただろう。

 プロシアは妖精国との交渉では万能薬を入手出来なかった。

 目的は果たせず、誰にとっても大きな転機を迎える筈だったのだから。


「お祖母さま。私には一つ決めていることがあるの」


 私達も既に気付いている。

 今回の件は単なる切っ掛けに過ぎないとしても、その機会を選択する権利を与えているだけでもプロシアとしてはかなりの譲歩である事も。

 気付かないフリも、認めないでいることも、いずれ向かい合わなければならないことも。


「王都へは行かないわ。入ってひと月しかたっていなかった学院の授業をかなり休んでしまったもの。ふふふ。せっかく入学したのにまだ行事にもほとんど参加できていないのよ?」

「それが貴女の望みであれば。それに即した対応をしましょう」

「ええ。今はまだそれでいいわ」


 これは甘えだ。

 単なる時間稼ぎである事は重々承知している。

 それでもまだ猶予をギリギリまで引っ張り、粘ることの意味はあるのだと、私は考えている。


「リヴィア、貴女は…」

「お祖母さまはかなりお疲れでしょう。王都へ行かれるのなら疲れたお顔をしていては大変だわ」


 何しろリヴィアはまだ子供なのだ。

 大人になるのは出来るだけ遅いに限る。


「…そうですね。ですがリヴィア、貴女も夜更かしせずに就寝しなさい。明日は早いですよ」

「ええ、わかったわ」


 おそらく、プロシアは色々と勘付いている。

 それはそうだ、リヴィアは決して嘘は付かない。

 嘘を付かず正直に生きる以上は、長く傍に居れば隠し事をするにも限度がある。


 だが私はこうも考えている。

 いずれ問うより他に選択肢が無くなるその日まで、せめて幸せな子供時代を与える義務が大人達にはあるのだと。

 例えどれだけ優秀な子であろうとも。

 それを理由に、幼い子から子供でいる時間と権利を取り上げてはならない。


 その為に大人が居るのだ。

 子供が未熟なまま大人にならないように、自然に成長するまでの時間稼ぎをする為に、あらゆる困難や不幸を押し止める防波堤となる為に、大人達は歯を食いしばって堪える義務がある。

 だから、弱者である子供にだけ許された甘え、その権利を行使する事を躊躇してはならない。


 プロシア達には外から護って貰う。

 私は内から護ろう。

 今はまだ、成長を早める段階ではない。


 この瞬間が絶好の機会である事は理解している。

 王都へ向かう選択が、後発の私にとって時間的な不利を払拭できる最大の好機であると解っていても。

 得られる利をふいにしてでも、後回しにするリスクをどうにかするのが、今の私の役割なのだ。

 いつだって贅沢を生むのは大人の仕事である。


 学院へ戻ろう。

 リヴィアが安心して緩やかに成長できる、あの揺り籠の中へ。






《あとがき》


これにて九章のメインストーリーは完結です。


地神領域の出来事はまだ終わっていませんが、ひとまずここで一区切りでしょうか。


新たなる創世魔宮、裏の本体の活動、海神領域。

それから十章へとまだまだ話は続きます。


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