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1000通りの計画  作者: Terran
第九章 グランレリアの天子
86/99

癒やしの果てに残るもの




[407]

 ここは前世知識の出番である。


 死にかけの世界樹Aの枝葉を一部だけ完全浄化して生命魔法を注ぎ込み、その反応結果から算出されたデータを元に、王笏からかつてのマティスの世界樹と同じ実を再現して採取した。

 つまり、妖精国の伝承にある古の伝説に語られる万能薬の素材である。

 ここで終われば、それは万能薬の再現というだけで工夫が足りない。

 何より、美味しくするという目的が果たせていない。


 そこで次に私達が着手したのは、先代の世界樹Cことイチジクの世界樹の再現である。

 万能薬はその時代の世界樹の実や種から生成される物だとするならば、植物としての実や種が素材として有効なのではなく「世界樹の実と種に共通する要素」そのものが重要なのだと推測がつく。

 これを実証する事が出来たのならば、後はどうとでもなる。


 まずはマティスの霊薬を生成。

 次にイチジクの霊薬を生成。

 双方の成分を比較解析して、共通する要素や込められた力を判別する。

 この段階になると結果はリヴィアの頭脳からすれば予想通りの物で意外性は無い。

 どれも確認作業に過ぎないが必要な工程である。


 では以上の結果を踏まえて実証に移ろう。

 テーマは前世の世界にあった神々の愛したとされる至高の飲み物『ネクタール』である。

 いや、万能薬の概念をベースとして生成するのなら『アムブロシア』の方だろうか。

 これを世界樹の実から創るとなれば、やはりアレしかない。

 李下に冠を正さずという言葉があるくらいだ。

 前世で食味を追求することで李から改良された『桃』こそが、時に他者を謀り、時に他者の命を奪ってでも手に入れようされてきた魅惑の果実の代表格だろう。

 個人的には他にも捨て難い果実が在るのだが、それはまたの機会にしようと思う。

 林檎があるのだから単純に素材としてなら林檎でも良いのだが、既にプロシアに認知されているのでこの場で使うには適さない。


「ふふふ。ミックスしてマティスの葉で香り付けするのも良いかもしれません」


 ふむ、香料としても使われるマティスの葉で風味を調えるのも悪くはないか。

 特定の味だけでは服用者に素材の情報を与える結果にもなりかねない。

 ならばミックスも当然候補としては有力、いやリスクまで考慮すれば味の重層化は避けられないだろう。

 私自身が服用するのであればミックスより純粋に果実の味わいを優先したいが、今回は別の誰かを想定した慎重策で行くのが正解だ。


 早速調合、ではなく錬成。

 調合では用意した素材のみを混ぜ合わせて特定の効能を引き出す方法。

 化学変化や相互間作用による効果を調剤の腕次第で変化を齎し、効能にも多少の上下は現れるものだが。

 それは純粋に知識と技術のみを駆使する調薬。

 それが悪いという訳ではないが、至高の霊薬を造るには使える手を渋るものでもないだろう。


 私達は薬剤師ではなく錬金術師。

 それはまあ、今までは薬を調合する機会は少なかったが知識も技術も十分備わっている。

 それに合法薬物もとい、違法ではない薬物や劇薬の錬成ならば経験は豊富である。

 思考加速薬や思考拡張薬に始まり、自己暗示用の強力な催眠香を開発したのは良い思い出だ。

 結局、催眠や自失系の薬物はどれだけ強力にしても自分には全く効果が無かったので諦めたが。

 濃すぎる魔素体質や生理活動を完全に切っていることにより年々薬や毒の効能が弱まり、今や薬物自体が通じなくなってしまっている。

 慣れによる耐性ではなく、純粋に意味が無くなっているのだから対策しようが無い。

 まあ大貴族の子女が強力な薬剤や毒物を受け付けないのは誘拐や暗殺のリスクが減るので一般的には喜ぶべき変化と言えなくもないだろう。


 そうした体験や、強力な薬への深い知識と様々な素材を扱ってきた豊富な経験から、有機物錬成に関しては人一倍強い関心と造詣を有している。

 今回の美味しい霊薬を錬成するにあたり、私は単純に六味だけに訴える美味しさだけでは不完全で物足りないと思ったのだ。

 時に美味しさという感覚は、何も味だけでは説明の出来ない生理的な欲求から端を発する場合もある。

 例えば、流行り病で床に伏せり食欲不振が続いていたが復活して、病み上がりで体力を付けなければならない状態だと普段よりガッツリした食べ物を身体が欲して止まなくなる、という補給に迫られた衝動があるだろう。

 他にも、暫く偏った簡単な食生活が続いていたが、久々食べた凝った料理がやたらと美味しく感じてついつい食べ過ぎてしまったり。


 そういった、理性より本能的に身体が欲求する類の食べ物は殊更に美味しく感じてしまう。

 これらは味覚だけに起因しない美味しさの典型である。

 普段意識していない、刷り込みや食生活による慣れなどにより美味しく思える食べ物にも法則性が生まれることもある。

 味覚による刺激以外の肉体が感じる美味しさの信号の種類は以外と多いのだ。

 満腹感を感じさせるホルモンは限られているのにも関わらず、美味しさに対する信号の豊富さと比較すると酷くバランスが悪いと言わざるを得ない。

 人の食に対する貪欲な意地汚さと卑しさは、もはや原罪と言えるレベルで本能にインプットされているのだろう。


 なればこそ、私達が造り上げるべき至高の美味たるに値する味わいとは何だろうか。

 味は元より、それは人を狂わす本能に直結するような、味覚ではない刺激であるべきだろう。

 しかし決して麻薬であってはならない。

 対して万能の霊薬という概念であれば、何度も口にするような性質の物で無くても良い。

 極論、それこそ一生にたった一度だけ、その瞬間だけ美味しく感じられればそれで良いのだ。


◇◆◇


 さあ、ここに条件は整えられた。

 たった一度の依存性の皆無な、至高の味わい。

 一口味わえば二度と欲する事の無い、完全なる美食。

 そんな都合の良い答えがあるのだろうか。


「その答えは簡単ね。ふふふふ。食した者を作り変えてしまえば良いのよ」


 ああ、科学者に罪悪感は不要だと散々宣ってきた私だが、それはいくら何でも人の領分を遥かに超えた、神の領域を冒す行いではなかろうか。


 だが、瞬時にそれが『完璧な解答』だと理解した。


 そうだとも。

 食べた者を作り変えてしまえば万病に侵された身体そのものが無意味になる。

 治癒でも治療でもない。

 そんなものがあれば完全なる万能薬と言えるだろう。

 いや、病を克服した肉体へと作り変えてしまうということは、最初から『進化を促す霊薬』と定義づけてしまえば何処にも矛盾が生じなくなる。


 果たして、リヴィアの言葉は神の思し召しか、悪魔の囁きか、蛇の誘惑か。


 神は人と価値観が違うほど畏ろしい。

 悪魔は無垢で美しいほど怖ろしい。

 蛇はその言が正しいほど恐ろしい。


 なるほど、全て合格だ。

 それが正しいのか誤りなのか、人の身の誰が決められようか。

 なれば私には止める言葉も理由も無い。

 そして誰にも止められないなら、真の科学者は止まらない、止まってはならない。



◇◆◇



 小異境内で『創造魔法』を行使し、膨大なリソースを費やしてオリジナルの一本を創造する。

 こうして私達はこの世界に新たなる概念を生み出してしまった。


 【万能進化促進剤(エヴォリキシル)


 もしかすれば、決して創ってはならない禁断の薬なのかも知れない。

 それでも被造物に善悪は無い。

 だがそれがどうしたと言うのだろうか。

 少なくとも私達には、立ち止まらない理由なら有るのだから。




[408]

 私達は【アムブロシア】の錬成に成功した。


 【万能進化促進剤】を創造してから、流石にこれは拙いと判断して理論や概念を劣化させ、人類でも可能な技法、素材と魔力による錬成だけで似たような薬を生み出す技術へとダウングレード。

 別に進化剤を造るべきではなかったという話ではない、むしろ造るべきだったと断言する。

 完成品が創造出来たからこそ、効果を大きく下げて今回必要な効能だけを持った、良く出来た廉価版をスムーズに造れたのだから。


 こうして、それなりの万能薬として完成させたのが【アムブロシア】である。

 世界樹の果実を絞った果汁をミックスした物にマティスの葉で風味を付けた薫り高く美味な霊薬だ。

 おそらくオリジナルの万能薬と効果は同程度でありながら、より身体に優しく、反動も無く、そして何より圧倒的に美味しく仕上がっている。


 我ながら実に良い仕事をした。

 おそらく薬効により脳が半分くらい蕩けるほど美味しく感じるように調整出来ている筈だが、断じてジュースではない。

 今度時間のある時に万能薬成分を考慮せず、加減した美味しさだけを楽しめるように調整して、世界樹の果実で酒を仕込んでみようか。

 そんな畏れ多い酒を造ったところで呑ませる相手が居ないので、これは世界樹の果実であっても発酵するのかという純粋な興味による実験のつもりだ。

 この場合は【ネクタール】という事になるのだろうか、それとも【アムリタ】だろうか。



◇◆◇



 夕刻。

 世界樹の麓の野営地にて、特効薬の製薬と伝授に一区切りついた頃。

 私達はようやくプロシア一行と10日振りに再会を果たした。


「七光。ああ、体調に変わりはありませんか。何日も野営をさせてしまい苦労をかけましたね」

「大丈夫よ。魔術で大抵のことはできますから、それより先生もお変わりありませんか?」


 案内人付きで人目のある再会では互いに名前で呼び合えない。

 他人行儀になってしまうのは残念ではあるが、もう暫く辛抱して貰わなければなるまい。


「無事なようだな」

「ハンもご苦労さまでした。よく尽くしてくれたようで何よりです」


 ハンとは配下を通じてやり取りしていたので白々しいことこの上ないが、仕事を果たした者には労いの言葉を掛けるべきである。


「七光、話があります。他の者は席を外しなさい」


 再会して少しホッとした表情を見せていたのは束の間。

 隠し切れない不機嫌そうな声色で人払いをする。

 すぐに私達専用のテントへ入り、遮音の結界を張って密談をする。



◇◆◇



「大体のことは道中の定期連絡で話した通りです。再会を喜びたい所ですが、まずはこの旅の目的について話さなければなりませんね」

「その前に、こちらをどうぞ。私達には護符があるので問題ないと思われますが、この近辺では流行り病が蔓延しているようなので、そのワクチンです」


 旅の前に持たされていた高価な護符の効果で高い耐性を付けているとはいえ油断はできない。

 ヴィレディアによれば、この伝染病は基本的には風邪程度の症状しか出さないが、こと森人族に対しては強い症状を発揮するというのだ。

 つまり、血の濃いプロシアには重い症状が出る可能性が高い。


「流行り病。貴女は大丈夫なのですか!」

「ええ、マナを扱える私には他者からの感染というリスクはありませんもの。それでもワクチンは接種していますよ」


 これは事実である。

 護符による耐性云々は差し置いておいても、宙空の微粒魔力を掌握していれば不要な物を遮断するのは容易なのだ。

 プロシアにもワクチンを接種させ、概要をサラッと説明する。

 里に着いた後で流行り病について知り、全員がワクチンを接種する流れになったこと。

 調剤には私達も参加させて貰ったこと、など要点のみ。


「それと、こちらも納めてください」

「これは何ですか、説明しなさい」

「ワクチンの調剤の際にいただいた薬草類と、ここで合流するまでの間に採取した世界樹の素材を使って錬成した【霊薬】です」


 流石のプロシアもこれは予想外だったのか、唖然としている。

 おっと説明不足だっただろうか。


「ふふふ。以前に星神の図書館で読んだ本に書いてあった通りに造ってみました。伝承によれば万病に効く【霊薬】とのことでしたが、残念ながら手持ちの素材では大量に造れるだけの余裕はありませんでした」


 全て事実であり何一つ嘘は無い。


「そんなはずはありません。世界樹はもう老いて実りを結ぶだけの力は残されていないはずです!」

「ええ、あの世界樹にはもう新たな種子は作れないみたいね。それでも、この子に力を貸すくらいならできたみたいよ」


 そう言って王笏を取り出して見せる。

 マティスの実をもいだ跡と葉の残りが笏杖頭に付いている。


「!!…本当に、貴女という娘は…」


 これが何で、それから何をしたのかを改めてわざわざ説明するまでもない。


 プロシアも納得した様子で安堵の溜息を漏らす。

 実際に世界樹Aを参照して王笏に実らせたのだから、この説明に矛盾は無い。

 プロシアの想像では、世界樹が最後の力を振り絞って若い苗木へ注ぎ込み、最期の実りを齎した的なビジョンがイメージされているだろう。

 それはそれこれはこれ。

 私達の説明が真実でさえあればいくら勘違いされても問題は無い。


「さあ、帰りましょうお祖母さま。旅は楽しかったけれど私、少し疲れてしまったわ」


 このリヴィアの言葉に、どんな意味を見て何を思ったのか。


「ええ、そうですね。私も少し気を張り過ぎていたのかも知れません…」


 私にはただ、良い方向に想像するより他ない。



◇◆◇



 その日リヴィアは、七光の姿を解いてプロシアの隣で眠りに就いた。


 眠りに就く事自体が久方ぶりである。

 ハンは外で寝ずの番を買って出ている。

 私はといえば、この旅の帰路が平穏無事であることを祈ってみようと思った。

 祈りなど理解出来ないと豪語していた私だが、何だか今ならば出来る気がしたからだ。


 翌朝、深夜の内に降り止んだ小雨の替わりに、空には大きな虹が架かっていた。



◇◆◇




[409]

 帰りは順調そのものだった。


 禁域から出ると、外で待機していたプロシアと同行していたPTと合流。

 その後、守り人の里で病人の回復や周囲の感染源となった犬頭屍鬼(コボルトグール)の捜索と駆除活動に専念していたオドントPTとも再会。

 妖精国の領地経由で来ており補給に問題の無かった彼等に伝染病のワクチンと治療を引き継いで貰い、私達は帰り支度を整えた。


「七光様、それにプロシア様もご無事で何よりです。ご要件はもう済まされたのでしょうか?」

「デルフ、何故七光を単独で世界樹へ向かわせたのですか?私は外出時には片時も目を離さないようにと命じたはずですよ」


 そこまで厳命されていたのか。

 しかしそう叱らないでやって欲しい。

 デルフは禁域には入れて貰えなかったのだ。


「そ、それは…。その、言い訳のしようもなく私の落ち度です。申し訳御座いません…!

例外として認められたのが七光様だけでしたので、お叱りは承知で向かうのをお止めしませんでした…」

「俺は入れたがな」


 いや、むしろ何でハンは入れたのだろう。

 正規の手続きで入れる身分では無いはずなのだが。

 見てみなさい。

 デルフォスが「何で入れたの?」という驚愕の表情で固まってるではないか。


「ハンの入り方は決して褒められたものではありませんが、デルフは後でしっかり報告をしなさい」

「はっ!委細漏らさず…」


 なるほど、かなり無茶をしたらしい。

 リヴィア的には今回ハンの取った法律より仕事優先な働きに満足らしいので、どうやって入ったのかは問い詰めないでおこう。

 指名手配とか、されてなければ良いのだが。



◇◆◇



 守り人の里から少し離れた丘のテントで一夜を明かし、オドント一行と帰路につく。


「帰りのルートですが、行きと違い既に里の者達の許可を得ているので使える道も増えました。ここからだと、こう大河を一気に下って一度海岸まで出てからプレネプタルを目指すルートなら、天候次第ではかなり短縮した行程になります」

「ま、実際にはしょっちゅう霧やら雨が降る地帯だからな、早くても正味4日ってところか」

「グラートさん顔が綻んでますよ」

「おうよ。オラスベリーのジャムも大量にお土産で貰ったからな!」


 オドント達は治癒聖石を運んだり病に苦しむ人々を助けたことで里の民から信頼され、沢山のお土産物を持たされたようだ。

 全員が完治してしまえば無理に物資を貯め込む必要は薄い。

 聖石については外部に情報が漏れると狙われてしまう可能性があるので口外しないようにと、予め禁域で別れる前に言い含めてある。

 プロシアならともかく、冒険者のハンが居る前で口にする事は無いだろう。

 つまりプロシアにも知られるリスクは限りなく低い、つまり完璧だ。


「ネオン。変わった力を宿した飾り石ですね。旅の前には感じませんでしたが、それはどうしたのですか?」


 いきなりバレそうになっているのですが。

 ネオンも何故持ち出し禁止の筈の治癒聖石を飾り石に加工した物を持っていらっしゃるのですかね。

 そこの所、詳しく。


「あ、ははは。その、病に伏せる方々を看病していたらお礼にと貰ったんですよ…」

「排他的と言われる森人族の、それも妖精国に属さない守り人の民から護符を頂くなど、到底信じられませんね」


 あれ、もしかして気付かれました。

 拙いな、プロシアは嘘が付けない。

 もしこの事実が連盟に伝わり、賢者の一員として問い詰められれば隠し立ては不可能だ。

 ネオンも背中の冷や汗が凄いことになっている。

 何とか堪えるんだ、堪えてくれ。


「それだけ献身的な看護によって信頼を勝ち得たのでしょう。よくやりましたね。賢者ウルボラも良い弟子を持ったようです」

「あはは、そんな。私なんかより七光様の方がずっと素晴らしいです!」


 安堵してボロを出す。

 なるほど、あると思います。


「七光、どういうことですか。病人には近付いていないと聞いていましたが?」


 場が一気に緊張状態へとシフトした。

 ネオンは少々素直過ぎたようだ。


「い、いいえいえ、七光様は患者さんに近づいたりしていません。アドバイス!そう、アドバイスをして戴いたのです!」

「そうそう、何かもう軍師みたいに的確にこのテントから全員に指示を出してさ!だから感染とかそういうのとは関係ないっていうか、なあ?」

「ええ、間違いなく七光様は里に降りずにここで治療法の研究をしていました。風に乗る病からもお守りできる風上にテントも設営しましたから」

「そうですプロシア様。私も常に七光様がテントから離れない様に目を光らせておりましたので!」


 と、必死にフォローする四人。


「本当ですね?」

「ええ、彼らは嘘をついていませんよ。名に誓いましょうか」

「いいえ、それには及びません。信じましょう」


 何かあった、とは勘付いているだろう。

 それを分かった上で見逃されたと見て良い。

 知らない方が良いと判断した、という意を汲んでくれたのだと思われる。


「ああ、すみません。話が逸れてしまいましたが、ルート上の要所の確認に戻っても宜しいですか?」


 場の空気を戻す為にオドントが話を切り替える。

 そんな調子で帰りのルート確認と話し合いをして、里から出発することになった。



◇◆◇



 テントと丘を見渡せる位置で周辺への警戒と見張りをしていたハンから念話が送られる。


(よう、話し合いは終わったのか)

(ええ。ヴィレディアへ潜ませた影の方はどう)


(は。今のところ動きは無しだ。闇人族の特使とも接触はしていないな)

(そう、ならいいわ。それで、首都でお祖母さまに危害を加えようとした方々はどうなったのかしら?)


(ああ、それなら無力化して森の一角に纏めて捕えている。いつでも始末できるが)

(命は尊いの、だから簡単に奪ってはダメよ。姿と名前だけ送りなさい)


(……、こいつらだ。どうすんだ)

(ねえハン。この世はプラスとマイナスがバランスよく保たれているのが自然だと思わない?)


(いきなり言われても分からん。何の話だ…?)

(今回の旅では聖法術を研究してたくさん使ったの。だから、ちゃんと反対の邪法術も研究して使わないと帳じりが合わないと思うのよ)


(…あ、ああ。バランスは大事だよな…。よく分かった)

(あら。どうするのか聞きたかったのでしょう)


(いや、いい。藪蛇だった)

(そう。ふふふふ。帰りの護衛もよろしくね)

(ああ、了解した…)


 さて、リヴィアは乗り気らしい邪法術の開発。

 これは何も唐突な話でも何でもない。

 リヴィアの言う通り、治癒聖石を製造する過程でフィルターを通し撹拌して分離させた邪気が大量に余っている。

 折角ここまでお膳立てされているのだ、これを使わないなんてとんでもない。

 どういう術式を研究するか、中々に興味深いではないか。


 何せ、リヴィアは聖気より邪気の適性の方がずっと高いのだから。






《あとがき》


万能の霊薬と言えばエリクシールやエリクサーというのが鉄板ですが、残念ながらエリュダイトには同名のアイテムは既に存在している事を主人公達は知っているので別の名称を付けました。


効果は本文の通り。

もはや回復する為の薬ではありません。


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