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1000通りの計画  作者: Terran
第九章 グランレリアの天子
82/99

聖石



[394]

 キナ臭さが増してしまった。

 エストバース王国がどれだけ平和で、国王や王族達、ジェラルドや大臣達が如何に優秀なのかを思い知らされる。


 平均税率は他国より高い→でも国は豊か。

 法整備が行き届いている→反感は少ない。

 特権階級の絶対さは揺るがない→けれど平民の幸福度は高い。

 国外からの冒険者→要らない。

 浮遊大陸からの援助→無くても困らない。

 魔族差別や奴隷階級→必要無い。

 外国から神子の輿入れ→いなくても人神領域最強国家。


 貴族だけでなく臣民すらも気位が高い超意識高い系国家。

 それがエストバース王国だ。

 他国からも表向きでは称賛されつつも裏では尊大だの増長しているだの陰口を叩かれているが、先日の聖戦では口先や態度だけでなく真の強さと言ってることの正しさが証明されてしまった。

 だから実力至上主義の魔大陸の国々からも一目置かれて良好な関係を保っている。


 対して地神領域ルオラシア大生林にある妖精国のキツい腐臭政権とガバガバ政策の何たる有り様か。

 税は低くとも国は貧しく、決まり事は厳しく反抗意識が高く、選民思想に根拠が無く、民の幸福度の低さは目に余る。

 種族や部族差別が激しく、上に立つ者は下の者を守ろうともしない。

 これでは早晩滅んだとしても同情の余地はない。

 早く誰かが何とかしてくれないものだろうか。


 いや、誰だろうと他人の家の下水掃除などしたくはない。

 であればさっさと適当な理由で滅んで、後はしっかりした国家が腑分けで使えそうな部分を接収してしまうのが無難なところなのだが。それでも曲がりなりにも地神領域最大の国家。滅ばれたら滅ばれたで面倒な事になる。

 少なくとも、リヴィアが成人するまでは死に体で良いので立っていて貰わなければ私としても困るのだ。


 この旅はプロシアから声を掛けられて始めたものであり、決定権はプロシアに帰属する。

 という基本的なルールを敷いた上で行動指針にしているつもりだが。

 ここへ来て一気に雲行きが怪しくなってきた。


 間違いない、何者かが意図的に妖精国を滅ぼしに来ている。



◇◆◇



 調査に出ていたオドントとグラートの報告を聞き、テント内では緊張した雰囲気に包まれていた。


「それで、結局見つかったのは魔物じゃなくて小柄な骸だったんだがな…」


 テントの診察台の上に袋から出されて転がされる腐敗した遺骸。

 広がる腐臭と損壊の激しい無惨な状態。


「獣化した犬人族ではありませんね」

「…分かるのですか?」

「おいおい、流石は魔導師様だな。ひと目で見抜くとは思わなかったぞ」


 野ざらしで時間が経っていて分かりにくいが、喰われた跡が残っている。

 湧いている虫も穢れを好むものばかりだ。


「仰る通りこれは犬人族ではなく、本来ここに居てはならないはずの犬頭鬼(コボルト)の屍体です」


 犬頭鬼(コボルト)獣人族(セリアン)と違い、より獣の特徴が強く出た見た目の亜人族である。

 亜人族という名称は特定の種を指すのではなく大小様々な種族の総称として用いられている。

 魔大陸やエストバースでは亜人族も一応は劣等種ではあるものの人類の一員として認識されている種族だが、他国では魔物の一種としての認識が強い。

 犬頭鬼(コボルト)はそんな亜人族でも特に数の多いポピュラーな種族の内の一つだ。


「この後解剖をしてみますが、状況から観ておそらく伝染病を運んだのは彼らで間違いないでしょう。

この遺体を詳しく調べれば特効薬を作る手がかりになるはずです。お手柄ですねグラート」

「あ、いや。俺はちょっと里の連中が見落としてるんじゃねえかと思って、それで道の無い森側を調べただけで」

「だが犬頭鬼が他国へ渡るのは条約で禁止されているはずです。どんな意図かは分かりませんが、これは重大な犯罪行為の証拠ですよ」


 犬頭鬼に限らず亜人族は魔大陸以外での人権は保証されておらず、他国への入国は固く禁じられている。

 前世のファンタジーでもゴブリン、コボルト、オーク、オーガ、トロール、タウロス、サハギンといった種族は概ね魔物扱いだった。


「ああ、明らかに誰かが仕組んでるなこりゃ。俺らは獣人族とも交流があるし、昼間に見れば一発で分かるけどよ。夜中に突然襲われれば獣化した犬人族の子供と見分けるのは難しいぜ」


 ここは地神領域。

 居ないはずのものより居るものから疑うのも、先入観で目が曇るのも当然である。


「それにしてもこの臭いにこの腐敗。病気を運んできたのは間違いねえな」

「意図的に仕組んだのだとしたら、他所にも潜伏しているだろう。野生化した犬頭鬼は増殖も早い。規模も分からない以上、すぐにでも報せに戻らないとなりませんよ」

「ええ、ここで対応を間違えればあっという間に屍体で埋め尽くされるでしょう」

「うげ、病気持ちの犬頭鬼だらけに…」


 私の発言に二人の顔が引き攣る。

 まあ、感染コボルトのリビングデッドだらけになるのは想像したくない最悪の事態だろう。

 何しろ不潔だ。


「治癒にあたっているネオンや里の術師達にも伝えなさい。感染者は元より、屍体にも必ず治癒による浄化を施すように徹底させるのです」

「了解しました!」「了解だ!」


 さて私としても不本意だが、残念ながら『万能治癒術式(オールキュア)』では免疫抗体は得られない。

 ただ治るだけの半端な術式なのだ。

 だからいくら治癒術士が手を尽くそうと感染源を根絶しない限り、同じ病に何度でも感染する。

 故にあらかた治癒したら改めて原因の究明と研究をして、治癒ではなく治療法を確立しなければならない。

 だからオールキュアの扱いは慎重にならざるを得ないのだ。


 各国の医療研究機関も国や資産家といったスポンサーから資金援助を受けて従事している。

 もし仮にオールキュアの技術をばら撒いて、各国がこぞって治療より治癒技術を優先する流れになればどうなるか。

 どちらも病や怪我に有効で、完治に時間を要しない治癒はとても魅力的に映るだろう。

 するとスポンサーは治療にではなく、治癒の新技術の方に資金を投じるかも知れない。

 はじめの内はまだ機能するだろうが、いずれ必ず治癒の欠陥により、免疫抗体を得られないという致命的な欠点が大惨事を引き起こす。


 おそらく世界的大流行(パンデミック)によって人類は大きく足踏みする事態へ陥る日が訪れる。

 それでも権力者は生き残るだろう。

 治癒の力を身に着けた者だけが、それを抱える治癒推進派だけが優先的に生き残るのだ。

 それではいつか再び訪れる世界的大流行(パンデミック)で同じ過ちを繰り返す。


 治癒は限られた者にだけ扱える特別な力。

 対して治療は適切な処置技術と正しい知識があれば、例え特別ではない者にでも扱える知恵。

 人類の明日を憂うのなら、進歩を望むのなら、一人の科学者として、治癒と治療のどちらも適度な距離感と力関係で維持させる道を模索しなければならない。

 だから今はまだ、私が何とかしてやらなければならないのだ。


 我ながら凄まじく傲慢な思想だと思うが、この答えが間違いではないことを異なる世界の歴史を知る私は理解している。

 この世界の人類はまだ、自らの力で自身の世界を救えない。




[395]

 幸いにも私達が里に訪れてからの死者は出なかった。

 これは単純に運が良かったと言える。

 一日遅れていれば誰かが亡くなっていたかも知れないと思うと、地神へのお祈りは効果てきめんだったという事になる。

 地神も存外甘いらしい。


「あっはは…。何とか里の全員の治療が終わりましたよ。危ない人もいましたが峠は超えたみたいです。皆さん本当にお疲れ様でした」

「ネオンもよく頑張りましたね。まるで聖人の様だと噂されていると聞い及んでいます」

「そんな、とんでもないです!それなら七光様こそ大聖女様ですよ!」


 滞在三日目の夜。

 一日中作り続けた聖石を他の里にも行き渡らせるようにと里長に委託して、看護の重労働から解放された一行はテントで遅めの夕餉にありついていた。


「面目次第もありません。私も治療に貢献できれば良かったのですが、お力になれずネオン殿に任せきりになってしまい…」

「そんな、デルフさんも水を清めたり、術師様がたの魔力消費を軽くしようと尽力なさっていたではありませんか」

「私に出来たのは誰にでも出来ることばかり。自分をデキる人間だと思っていたのが恥ずかしい限りで…」

「それは俺達も同じです。魔物は狩れても人助けとなると力仕事が精一杯で。デルフ殿は端から見ても精一杯頑張っておられて立派でしたよ」

「ああ、俺は里の外に出てたが、帰ってきてみれば随分打ち解けていたみたいで感心したぞ」


 実際、デルフォスは優秀であった。

 旅の最初はパーティに馴れずぎくしゃくしていたが、いざ蓋を開けてみれば真面目過ぎるだけの善人であり、エストバースの民だけあって魔力も人並み以上に有る。

 里の病人や体力の弱った人々に代わり生活魔術を代行するだけでも十分に貢献出来ていた。


「それで、一息入れてる所申し訳ないが業務連絡だ。食べながら聞いて欲しい。まず禁域への通行許可についてですが、ひとまず明日一番に里長と交渉してみるつもりです」

「手応えはありそうなのか?」

「それは何とも言えない。確かに我々は里の危機に駆けつけて助けた形になるが、恩人だからと言ってすんなり通すような物でも無いでしょう」


 そう、彼等は守り人。

 大昔から妖精国や各部族の代表からの直接の許可を受けていない他所者を世界樹の下へは通さない先祖代々の役目がある。

 例え里が滅びに直面しようと、その役目を放棄する理由にはならないのだ。


「それはそれ、これはこれってか」

「そうなると七光様へのプロシア様からの連絡次第ですが。あちらの交渉が上手く行けば、早ければ明日にでも連絡が来る予定なのですよね?」

「ええ、順当に行けば今日にも首都入りを果たしている予定ですが、連絡は頻繁には行えないので明日にならなければ結果は伝達されません」


 事実として、使い魔を通じた連絡は大変便利だが使用には制限がある。

 もっと密な連絡を取り合いたいが、魔導通信機より遠距離の伝達が可能というだけでもこの世界基準の技術としては大変な物なのだ。


「普通の禁域への侵入許可なら賢者様の直筆許可証を発行すれば済むのにな。妖精国の連中ってのは何でこう一々時間のかかる面倒な手続きに自分達を通せと出張ってくるんだ。暇なのか?」

「グラートさん…」

「言いたい事は分かる。だが国の決まり事に部外者が口を挟めるものでも無い。

七光様が急いでおられるならそれでも一応許可が貰えるか駄目元で頼んでみます。交渉内容としては、他の里へ聖石と物資の荷運びの依頼を受けて、最短距離で運ぶために例外を認めてもらうという体で望むつもりです。そのついでに七光様達には禁域内で別行動を取って目的地へ向かってもらうという形になります」


 なるほど、里長にとってはかなり際どく痛い部分を突いた交渉になるだろう。

 自分達だけではまだ他の里への救援に迎えるほど体力の残っている者が少ない今だからこそ、例外を迫るには丁度良いタイミングである。

 それにこちらには治癒の聖石の制作者である私や、聖石の行使が可能なネオンが居る。追加で数が必要になっても直接出向いて貰えるなら解決は容易い。

 つまりこれは役目を全うさせる為に例外を認めて貰おうという話なのだ。


「ハハッ、随分交渉上手な救世主様だな」

「そうね。オドントには里長との交渉だけ進めて貰って、明日の定期連絡時に先生と相談して決行するか判断しましょう」

「了解しました」


 大きな魔物の仕業ではないのは里民も薄々勘付いている。

 今は単純に人手不足が懸念点なのだろう。


「それまでは体力の落ちてる人達の看護をしていればいいですか?」

「交渉を有利にするためにもネオンには看護の仕事をお願いします。オドントは交渉と別の里へのルート確認や情報収集を、グラートは引き続き里周辺の調査を担当してください」


 ネオンが看護をしようがしまいが結果は変わらないだろう。

 オドントの交渉は緊急事態の特例を引き出させる上手いやり方だが、決め手は本人の気付かない部分にこそある。

 それに事前に分霊を飛ばして周辺は先行調査済なので、グラートに新たな発見をさせるルートは構築済みである。


「あのう、七光様。私は何をしたらいいのでしょうか…?」

「ふふふふ。そんな顔をしないでください。デルフには別の仕事を頼むつもりですから、明日は私の補佐としてついていてくださいね」

「は…、ハイ、喜んで!」


 しかし疑問は残る。

 何故後手でも間に合うほど潜伏期間と発症から死までの期間が長いのか。

 この病は重篤に陥るまでに対策を打てるだけの十分な時間があるのだ。

 これが意図的に引き起こされたのだとしたら、犯人はまるで本気の殺意は抱いておらず敢えて生かさず殺さずの期間を設けるような手を抜いた計画を立てたようにしか感じ取れない。

 だからといってそれ以上に手を緩める気は毛頭無いと言うかの如く、手遅れになれば大惨事になる手段を取っているのも事実である。

 時間的な猶予と大惨事の前兆を孕んだ計画的犯行となると、導き出される犯人の目的は何か交渉によって得られる物である可能性が高そうだ。




[396]

 実にあっさりしたものだった。


 翌日、プロシアの連絡では別の緊急案件で首脳陣は慌ただしく、落ち着いて交渉できる状況に無いとのことでコンタクトそのものに難航している模様。

 正直な所、プロシアにとっては妖精国がどうなろうとどうでも良いので無理にでも面談して私用を済ませるつもりらしい。

 それに連動して、国の許可の有無に関係なく世界樹へ行けそうであれば先行して構わないと指示を受けた。


 リヴィアという枷が側から離れた事でやや冷静さを欠いて焦っている気もするが、そういうことなら遠慮なくこちらも先へ進もうと思う。

 曰く、もし守り人との交渉が芳しくないなら賢者としてではなく、プロシアの血筋であるタイタニアの姓を使っても良いと通達された。



◇◆◇



「『生命の息吹 大地の揺り籠 循環の理を司る者 偉大なる神樹の子らよ 我が祈りの詞に応え 彼の者を癒やしたまえ』」


 ネオンの詠唱と注がれた魔力が治癒聖石から癒やしの光を引き出し森を照らす。


「『万能治癒術式(オールキュア)』」


 祈りの姿勢と両掌で包まれた治癒聖石から溢れた力が病で苦しむ守り人の身体を癒やし浄化する。


「ふう、これでもう大丈夫ですよ」

「ア、ありがとう…ございます」


 因みに、厳かで如何にもな雰囲気の詠唱と演出は、文明から隔絶された守り人の一族にも受け入れやすい世界樹讃美の祝詞の形にした私なりのサービスである。

 詠唱者の気持ちを癒やしに集中させる役割も担っていると捉えられなくも無いので全く意味は無いとは言わないが、別に他の条文でも構わないフレーバーテキスト的ななんちゃって聖句である。

 勿論、そんな裏話は教えていないが。


「すっかり癒やしの巫女サマだな」

「もう、からかわないで下さい。でもこの聖石も祝詞も本当に凄いです。私みたいな半人前の巫術士の魔力からでも聖なる力を引き出せるんですから」


 まあ、暗示でもなんでも効果があるように感じられるならサブリミナルでも問題ない。

 結果的に癒せればそれで良い。

 逆に言えば、治せないならどんな癒やし文句を並べ立てても気休めにもならないのだ。


「しかし残念だ。世界樹の力に触れ続けたこの地方特有の清められた石を触媒にしないと作れないとなると簡単には持ち出せないですからね」

「世の中そんなに旨い話は転がってないってことだな。今使えてるだけありがたいだろ」

「そうですよ。地神様と世界樹様と七光様には感謝しかありません」


 という事にしている。

 術式を刻めればその辺の石ころからでも作れるという事実は広めるべきではない。

 この地方原産の石質からしか作れないとしておけば全ては世界樹の恵みであり、この地に根を下ろした守り人の所有物として保全されるだろう。

 詳しく調べられれば上級聖法術に認定されかねない術式であり、それが下級程度の適性さえあれば誰でも使えてしまうともなれば、六神教会がパニックを起こしかねない。



◇◆◇



「国の偉いさんに目を付けられたら独占されたりするんじゃないか?」

「いや、世界樹に由来する品を私欲に使うのは古の戒律で固く禁じられている。ただでさえ年々魔物が増えて続けているのは現妖精国の首脳陣が世界樹を大切に扱っていないからだと批判されていて旗色が悪い。こんな状況では流石に連中でも火に油を注ぐような真似はしないだろう」

「ほお、要するに政治屋が腐ってるから手が出せないってことか。なら安心だな」

「あ〜あ〜、私は何も聞いてませんよ。お上には逆らいませんし悪口も言いません〜」


 一行は現在、禁域へと向かっている。

 あれほど交渉に苦戦すると思われた越境許可は、私が単身で直接里長と面会して最終兵器を振りかざしたら二の句も告げずに承認されてしまったからだ。

 現妖精国の首脳陣は、眷属たる妖精王族ではない。

 守り人の里からしてみれば王権を持たない代理人が取り仕切っているに過ぎない。

 非公式の訪問であるが故に、真実を知る者を極力減らしたかったプロシアだが、ここへ来て首都でのトラブルの連続でそんな縛りに構っていられなくなったのだろう。

 正当なる直系の王たる血筋を持つプロシアとリヴィアが名を告げれば交渉などハナっから必要無かった。

 つまり守り人の里民は全て、先祖代々タイタニア家の家来なのである。


「七光様。本当にお一人で行かれるのですか?」


 デルフォスが恐る恐る伺い立てる。

 一週間と少しのこの旅を通じて今やすっかり忠犬化してしまっている。


「ええ、心配は不要です。里の者も案内に付きますからね」

「ですが、緊急時の連絡役や荷物持ちやテントの設営など、何かと手が必要ではありませんか?」


 とまあ、こんな調子でどうしても主人から離れるのを嫌がるのだ。

 三十男があからさまにしょんぼりしている。


「禁域の横断こそ承認されましたが、世界樹の下へ向かう許可が出たのは私だけなのです。聞き分けなさい」

「失礼致しました!」


 ふむ、目隠しによる封印の効果は少々強過ぎたのだと再認識した。

 やはりあの仮説は正しかったか。

 しかし、祈りと呪いの正体を識れたのは大きい。

 封印した状態でなければ、有るのが当たり前で認識出来なかっただろう。


「そろそろですね」

「はい。どうかお気を付けて…」

「七光様、ご一緒できず申し訳ない。お互い無事に終わったら里で合流しましょう」

「こっちはお任せ下さい」

「ネオンは頑張り過ぎて魔力切れ起こさないようにしねえとな」

「あはは、善処します」


 一行と別行動となり、里の案内人と共に世界樹の麓を目指す。

 と言っても、分体側でやることなどこの時点でほぼ終わっているのだ。

 後は本体で問題解決するだけである。




[397]


◇◆◇



 時は遡り。

 ウルボラの館で一夜を明かし、プロシアと別れて世界樹を目指してすぐ。

 私は準備中に人目を避けて、用意していた分体を転移させてPTに同伴させた。

 そして本体は一度次元転移して拠点へ戻り、幽体でハンの影と共に世界樹の下へと直接向かう事にした。

 精霊を取り込み亜精霊化させた分霊を周辺の調査に配置して、情報と素材の収集と探索をする。


 ここは霊的な力に敏感な巫術士の居る地神領域。

 巫術の技術に疎い人神領域や、そもそも人の住んでいない海神領域のようには行かない。

 隠蔽のギフトを付与するもの良いが、出来れば既知の能力の使用は避けたい。

 隠蔽を見抜ける看破持ちの巫術士とたまたま出逢う可能性だってあるのだ。

 ならば逆に感じ取れる相手にこそ、逆に見落としてしまうトリックで脇をすり抜ける方法を採用したい。

 その為の亜精霊化である。


 その辺をフラフラしてる精霊と同化してその辺を調査するならば、感じ取れる者からすれば何ら異常を感じない日常となる。

 彼等は精霊を感じられるだけで視えてはいない。

 それこそ、『妖精眼』や『地神眼』でも持っていなければ私達を観測する事は出来ない。

 つまり誰にも視ることは出来ないのだ。

 ならば感触さえ誤魔化せばもはや識別方法は皆無である。


◇◆◇


 世界樹へと向かう途中、魔獣の群れが集団死しているのを何箇所も見掛けた。

 どうやら過度のストレスと錯乱状態により、昨夜の内に自傷行為を繰り返した後に過呼吸からの無呼吸状態に陥り、そのまま窒息死したらしい。


 残留思念を調べると。

 昨晩海岸側から森林へとソナーのように聖気と邪気の混ざった魔力波が放たれ、その影響で魔獣の元となった獣の理性と、魔物の本能とがバランスを崩して矛盾した衝動が激しくせめぎ合い、精神崩壊寸前まで追い詰められたらしい。

 ふむ、それは身に覚えがある。

 たぶん昨夜のリヴィアのお祈りパワーである。

 前々からリヴィアの愛には邪気が濃いと思っていたのだが、どうやらお祈りで邪気が暴発してしまったようだ。

 心を込めて祈るだけで生態系を破壊するのはあまり推奨出来ないな。


 まあ、獣相手ではなく対象が魔獣ならどれだけ死んでしまっても構わないだろう。

 この世の理から外れた魔獣や魔物などに命の価値は皆無なのだから、これは失敗には含まれない。

 祈って死ぬ魔獣は悪い魔獣、祈っても死なない魔獣は良い魔獣。

 それで良いだろう。


 …いや、私は今何を考えていた。


 ああ、なるほど。

 これがリヴィアの正直な理屈なのだとしたら魔獣の大量死も頷ける。

 今のは少々私の感性から乖離していたからこそ我に還ったが、今回に限らず最近は明らかにリヴィアの感性に引っ張られた思考に偏ってきていないだろうか。

 今後もっと成長すれば更にリヴィア寄りの感性になっていく可能性が高そうだが、何が正しくて何が間違っているという教育方針は掲げたくないのだ。

 善悪はそこに生きる者が勝手に決めれば良い。

 それが私の方針である。


 しかし、ふむ。

 感性に引き摺られて別々の個性という強味を失うのは得策とは言えない。

 私にとっては私自身も公平に一人分である。

 結果的にリヴィアに呑み込まれて個性が消えようとも計画が上手くいくならそれも已む無しと割り切れる。

 だが確信も得ずに我が娘同然のリヴィアを独りにするのは無責任だろう。

 ならば出来得る限り自己の保全にも気を配るべきか。

 【私】ではなくリヴィアと明確に分けて考えて【私達】にする必要があるかも知れない。


 『次元魔法』、『転写魔法』、『創造魔法』、『アセラの権能』、『セフィアスの権能』。


 これらを組み合わせて【私】の定義を保全。

 リヴィアと私を併せた私達としてのバックアップは常に維持していたが、独立した私を構築するのは初の試みである。

 理由としては、リヴィアも私もまだ成長の途上でありバックアップした私のデータを参照する事が可能性を狭める要因となるのを防ぎたかったからだ。

 バックアップが在ると思うだけで制限を課す事になりかねないと判断した。


 だがまあ、私からリヴィアに教えられる事にもう底が見え始めている。

 こうなれば影響は有っても最低限と言えるだろう。

 ここからは教師ではなく、純粋に相棒としての対等な関係へと徐々にシフトするとしよう。

 むしろこれからはリヴィアから学ぶ事が増えるかも知れない。

 それはそれで、実に興味が唆られるではないか。






《あとがき》


語り部視点で見ると外見に全く意識が行かず、心情ばかりが目立つため分かりにくいですが、実際の主人公は特殊な雰囲気の人たらしです。


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