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1000通りの計画  作者: Terran
第九章 グランレリアの天子
77/99

不知れざる王の憂鬱



[377]

 実に残念でならない。


 先日のダン活を遠巻きに窺っていた者の目的に私達が含まれてないと知って肩透かしをくらった。

 どうも学院を取り巻く様々な面倒事のほとんどが私達以外を中心に回っているらしく、当事者ではないという余裕ある立場を喜んで良いのか、用意していた準備の数々が日の目を見ないことに若干不満を憶えてか。

 私もリヴィアも少々もどかしさを感じている。


 まあ、私とて自分のことを主役などと思ったことは無いが、それにしてもこうも敵と思っている者が鈍いと不安すら感じてしまうではないか。

 私としては決してバレたくはないが、かといって全く注視されないとそれはそれで己の不備を疑いたくなるのだ。

 いやはや、実にままならない。


 かといって慎重さを重んじる私は、少しくらい疑われる要素の一つくらいなら検討の末に一蹴される程度の違和感を残しておくべきとも思わないのだ。

 だからこそフラストレーションが解消される事なく溜まる一方なのである。

 完璧にやり過ぎるというのも、それはそれで中々に精神的に負担が有るのだと思い知る。

 良かれと思って考えた通りの立ち位置を維持しているが、全くの無反応だとそれが実は間違った場所に立っているのではないかという錯覚から疑念を生じさせる。

 だが、その完璧の牙城を崩しかねない程の好敵手の存在を望むでもなく、むしろ居ないに越したことは無いのだが。

 不満というものは全て上手く行って満ち足りてすらも湧き起こる物なのか。

 全く以て度し難いくらい贅沢な感情である。


 そんな私達の元に待っていたのとは別口の悪い報せが届いたのは、果たして凶報と呼べる物なのか。

 何とかしなくてはならない問題が丁度良く飛び込んできてくれた事を望んでいたフシすらある。

 そんな何とも利己的で浅ましい安堵感を得ていた。


「この時期って身内の誕生日が多いわよね。いつもは誕生日会をして終わりだけど、実家から離れるとプレゼント選びも必要なのね」

「お姉さま。手紙やバースデーカードという方法もありますよ」

「リヴィアみたいに詩でも書いて贈るのかしら。書く内容がさっぱり思いつかないわ」

「祝福の言葉だけの簡単なものでも、贈られたというだけでも嬉しいものですよ」

「そうですよぉ。プレゼントは物そのものより気持ちです」


 休日の午前中、セシリアとジェイムートの誕生日プレゼントについてドルセーラから相談を受けて従者達とあれこれ言いながらのんびり過ごす白金寮。

 ファナリア家では基本的に誕生日会に参加できなかったり特別な祝にだけプレゼントを贈る習慣があり、それ以外で贈るのは個人の裁量である。


「う〜ん。プレゼントって貰って嬉しかった記憶がほとんど無いのよね…。でもリヴィアから贈ってもらった堕天使の枕は最高ね」

「わかります。あの戴いた枕さえあればどこでも眠れそうですよぉ」

「ん、あの誘惑は旧遺物級」


 超低反発座布団こと『天使のクッション』の事か。

 天空の雲に戯れる天使をイメージしての命名なのだが、思わず堕天したくなる心地良さだったらしい。

 検知されない程度の体力微回復効果を付与したちょっとしたお役立ち寝具である。


「あれを売り出すだけで一生遊んで暮らせると思うのよね」

「ふふ。枕としてももちろんですが、長時間の馬車移動の時に座るクッションにも使えますよ」

「それ用にもう一つ貰えないかしら…」

「次の誕生日に楽しみが増えましたね」


 そこへ前触れもなく慌ただしく訪問したプロシアは使用人達の対応もそこそこに真っ直ぐにこちらへ向かい、開口一番にリヴィアだけを指名した。


「リヴィア、居ますか」

「はい、ここに」


 ひと目見てただならぬ雰囲気なのは察せられる。

 ドルセーラはいそいそと自分の部屋に戻っていった。

 注目されてない内にスッと気配を殺す技術は流石である。

 ギフトに依らず天然でそれが出来るとなるとポジションはスカウトの方が向いているのではなかろうか。


「すぐに執務室へ一人で来なさい」

「はい。ヒルデはお姉さまの所へ、アルトは外の警備ね」

「はぁい。お任せください」

「ん、アリ一匹通さない。黒いのには負けない」



◇◆◇



 ふむ、プロシアはいつも通りの表情を維持しようとしているが隠しきれない硬さを感じ取れる。

 これは余程の案件か。

 もしや、私が協会へ送った論文のどれかが実は思っていたのと別の方向へ解釈されて物議を醸しているとか。

 はたまた異端の考えとして摘発されたとか。

 思いもよらぬ相当拙い状況に発展してしまっているとか。

 どういうことだ。完璧にやっていたつもりだったがそう考え始めると心当たりが多過ぎる。


「リヴィア。貴女をこの件に関わらせるべきかどうか、正直なところ今も葛藤しています」


 やはり何か拙い事を知らずにしでかしてしまったのだろうか。

 七光名義の論文やアーティア名義の特許登録とか、かなり注意して発表していたつもりなのだが。

 世界を進める速度に上方修正したのがここに来て歪みを生じさせてしまったのだろうか。

 いや、それは当然起こり得るリスクとして考えていた事だ。


 しかしどの部分だろうか。

 危険思想と捉えられかねない二十柱神についての論文はまだ送っていないし、世界元素たる属性に関する論文も半分はプロシアに止められて前編部分しか発表していない。

 この間の新素材に関するレポートとサンプル送付だろうか。

 確かにあれは使い方次第では世界の軍事バランスをひっくり返しかねない危険性を孕んでいるとはいえ、まだ送って間もない今の段階でそこまで研究が進んでいるとも思えない。


「いえ、可能性の事を考え出せばそれこそいくらでも想像するのは簡単です。この場合はつまり結果は二つに一つ。

リヴィア。貴女なら上手く行く可能性と、最悪の可能性のどちらを重視して考えますか」

「どちらも不確定ならまず大きな材料の数で比較します。小さな問題ならどれだけあっても一つ一つの解決は可能なので思考材料から外しても後から修正はできますから」


 ロジックから問うという事は、余程切迫している機密性の高い案件らしい。

 それに普段冷静なプロシアがここまで動揺しているのだ。

 どのような問題であれ、まずは正常な判断の出来る状態まで安定させる必要がある。

 自分自身で問題の洗い出しと重点の確認を行わせるのは冷静さを取り戻すにはうってつけの方法だ。


「そうですね。しかし即答でこうも的確に。本当に貴女には感心させられます。理知的で合理的で、まるで純粋な天空人と話している心地になりました」


 それは褒めているのだろうか。

 いや、己を振り返っての言葉か。

 天王の血を引きながらも混血だったプロシアには天王国はさぞや息苦しい場所だったろう。

 斯くいう私も純血の天空人と対面した経験は無いので偏見もあるだろうが、種族的な性格ならば書物の文脈からでも十分に見て取れる。

 結局の所、合理性など突き詰めれば似たような思考パターンに落ち着く物だ。

 おそらく想像と実態に差はほとんど無いと観て良い。


「客観的に観て、今の私は物事を正しく判断するには適切な状態ではありませんね。こうして最初に貴女に意見を求めに来たのも、今の自分より正しい判断が聞けると内心思っていたからでしょう」

「お祖母さま。もし話さなくても私が力になれば解決するのであれば、詳細を知らせないまま協力するという方法もあります。

仮に話すことで私まで正しい判断ができなくなっては不都合という場合もあるでしょう」


 まあ、大抵の内容ならば聞いた所で取り乱す事は無いとは思うが、万が一という可能性もある。

 要するに問題解決のために私を利用させても良いという甘い囁きなのだが。


「いえ、巻き込む以上は全て話した上で決めさせるべきでしょう」


 当然ながら生真面目なプロシアならばそう判断すると確信していたとも。


「いいえお祖母さま。知らせないことで問題を解決する可能性を上げられるのなら、何を置いても解決を優先するべきです。

私は何をすればいいですか」


 だが敢えて甘えさせる。

 感情色のパターンから分析した結果、今のプロシアに必要なのは頼って良い存在が居ることである。


「…分かりました。今は自分を信用できませんから、貴女の判断を優先しましょう。

では、すぐに出掛ける準備をしなさい。少なくともひと月は戻ってこれない物として考えた上でです」


 なるほどと、もう私は察している。

 プロシアのSOSと、ここまでの言から読み解けないなんて事は身内である以上、余程の薄情者でも無ければ有り得ないだろう。




[378]

 緊急事態とは、何とも都合の良い言葉だ。

 お陰様で大抵の事は不問にされるのだから。


 待ち合わせ場所はここハバートート領都である。

 実は生まれて初めての領都訪問なのだが、ゆっくり観光できる状況ではない。


「おおオオォォォ。我が永遠の姫殿下。

ご連絡戴いた件はすでに手配済で御座います。さあさ、こちらへどうぞ」


 出立の準備の段階でアルバート商会へと連絡して陸と空の便を手配して貰っていた。

 緊急事態に備えて、こんな事もあろうかとという訳では無いが空輸に関しては新事業案として前々から計画していたものだ。


「まずはこちらの走竜車で現場まで向かいますのでお乗り下さいませ。現地では既に飛竜の用意は済ませている手筈ですので」


 走竜車は王国ではあまり馴染みがない交通手段であるものの、基本的に昼間のみの移動に限られるが馬車よりずっと速度が出る。


「まさか、今飛竜と言いましたか。

飛竜は飼い慣らせる者が少なく、一介の商会が持てる物ではないはずですよ。それに王家の許可なく所有権は認められていないはずですが」


 プロシアは杖を振るい走竜に身体強化の魔術を掛けて更に速度を増すつもりのようだ。

 全員が走竜車へと乗り込み、目的地へと向かう。


「はいプロシア様。ですので飛竜はその、海神領域自治区の竜使い殿を顧問に雇った姫殿下の専用便となっております」

「専用とは、どういう事ですか?」

「ふふ。融通してくださるという竜使いに頼んでアルバート商会の名義を借りて投資させていただきました。外国からの品物を届けてもらうのに良さそうでしたので、これも先行投資の一環です。もちろん普段の世話は商会経由で頼んでいます」


 品物の配送は国内であれば『トランスポーター』の登場で利便性は増したが、如何せん外国の商品ともなると陸路でも海路でも長い期間を必要とする。

 が、空輸であれば一度に運べる量こそ限られるものの期間短縮という点においては他の追随を許さない。

 この世界での長距離飛行というカテゴリーにおいては、古の時代より竜こそが空の王者であり続けている。


「その経緯については後で詳しく聞きますが、飛竜の維持はかなりの負担になっているのではありませんか」

「いえいえ、とんでも御座いません。

姫殿下はワタクシの商会での空輸事業開拓のためにと飛竜の世話や扱い方を学ぶ機会をお与えになられたのです。このチャンスに比べれば飛竜の世話代や経費の負担は我が商会側持ちの授業料として、お支払いはお断り申し上げました」

「かつての竜王国では空輸も盛んに行われていたと前に文献で読んでいたので、その事業復興を望む竜使いの系譜の方々に投資をしていたのです。

それが今回このような形で還ってきたのですから、ふふふ。縁とは巡るものなのですね」


 現在の空路を渡る主な手段は速度順で、飛竜、天馬車、飛行船、飛行術式、熱気球が挙げられる。

 中にはルビリアの固有魔術『俊迅』や、神子ティアーナの『飛翔』のように音速で移動する例外も有るには有るが、常識的にはこの順番である。


「しかし肝心の飛竜の取引はどうなのですか。人に慣れた飛竜は貴重なものとして竜王国の民も出し渋ったはずです。

かつてエストバースの先王陛下が海神領域の難民を自治区へと受け入れた際に飛竜の番を贈与されたのを最後に、以降は取引の報も無かったと記憶していますが」

「ええ、ええ。ですので姫殿下のアドバイスに従いまして、その自治区内に商会の支部を新設致しまして…」

「その海神領域自治区にあるアルバート商会の支部と共同経営する名義で竜舎に飛竜も所属しているので、正確にはアルバート商会は直接飛竜の取引をしていませんし、王国でも飛竜の取引記録はありません」


 私もその点は調べてみて知った所だが。

 これだけ優れた空輸手段として有用性のある飛竜を活用する例が少ないのは、どうも生態として海神領域以外での繁殖に難があったかららしい。

 竜種の子育てはその風貌に反して案外デリケートなのだ。


「つまり、法の穴をかい潜ったのですね」

「いいえ、神暦以降に国家間以外での飛竜の取引に前例がなかったので法も整備されてなかっただけです」

「それは、海神領域の民にとって残された数少ない宝である飛竜を手放す意志が無かったからです。

まったく、今度はどんな魔法を使ったのですか…」


 事実、海神領域崩壊後に難民として各大陸へ散った民達は、僅かな資産と伝手を頼っての非常に苦しい中での生活を余儀なくされた。

 大量の難民を一国で受け入れられるはずもなく、海に面した国々が分担して土地を貸し出し、バラバラに受け入れて貰うより他なかったのが実態である。

 その際に特に大勢を受け入れた国には、感謝の印として希少な飛竜を贈られたという。


「ふふふ。お願いをしたら快く受け入れてもらえましたよ」

「それは本当ですか」

「ハハハ、信じられないのも無理からぬとは思いますが事実です。ワタクシもその場に居合わせておりましたので。これも姫殿下のお人柄によるものでしょう」


 そういった歴史的な背景を知るプロシアには飛竜を購入するという事が如何に荒唐無稽な話なのか、よく理解しているからこそ信じられないというのも当然である。


「わかりました、今はこの話題は置いておきます。予定していた船旅よりずっと早く到着できるのならそれに越したことはありません」

「ええ、お聞きになりたいことは後でお答えいたします」


 とは言うものの、話すべき事は解りきった内容しかない。

 ただ海神領域の難民達が百年以上も他の大陸の国々に居候するしかない現状をどうにか打破しない限り、世界を後退させる悪循環は止まらないのだと判断したから助力しようと思っただけである。


 いくら私が陰ながら世界を進ませる手助けをしていても、他方で足踏みや後退をさせていては効果も薄い。

 崩壊後になだれ込んだ海神領域の難民の数は少なからず各国への負担となり、財政的にも治安上でも問題を抱えさせている。

 彼等を独力でやり繰りさせようにも、土地は借り物で宗教も異なり、職は限られ財政的にも逼迫し、暫定的な政府も発言力は無いに等しい。

 そして保証や後ろ盾の弱さが更に彼等の権利と生活を益々低い水準へと貶めてしまっている。


 いくら改善したくても八方塞がりなのだ。

 かといって小さな変革は一時的な対処療法にしかならず継続的な改善には繋がらない。

 だから根本的な解決ないし、世界に衝撃を与えられる程の革新的な変化を齎さなくては彼等の地位向上は起こり得ない。


 しかし彼等も現状を憂いただ指を咥えて待っていた訳では無い。

 飛竜を使ったビジネスは元々は彼等のアイデアである。

 飛竜の産地だった海神領域の島々を失ってなお、環境の異なる地でも飛竜の育成と繁殖を可能とする為に日夜研究を続けており、百年前は数える程しか残っていなかった頭数も、今や百頭以上にまで回復している。


 私とて無からビジネスを産ませるのは流石に過剰な干渉であり、当人にとっての地続きではない下地を築いてない技術や文明は定着力が弱く、骨子が脆くて崩れ去るのも一瞬となるのは理解している。

 だからこそ、既に試みが始まっている分野を軸とした産業へ助力する道を選んだ。

 まあ他にも仕掛けは大小施しているので、それらが実を結びさえすればそう遠くない未来、海神領域組の独立も夢では無くなるだろう。




[379]

 今向かう飛竜便を手配してある海神領域難民を受け入れたエストバース王国内にある『パウラ特区』とはすなわち、王国の西海岸一帯を統治するファナリア大公所領地の端に位置する『レアルヴィスタ領』の一部を分譲する形で設けられている。

 元々プロシアも内々に手配が可能なレアルヴィスタの港から地神領域へと渡航する予定だったので、ここまでの進路は当初の予定通りである。


 このパウラ特区へ収容された者達は他国の難民と比べてもかなり待遇は良い。

 何しろ仕事も有るし食べる物にも住む場所にも困っていない。

 ただ唯一、国としての発言権は形式だけでほぼ取り上げられており、国籍では既に失われた竜王国や海王国を名乗れるだけで、ファナリア家の属州やら円満植民地に近い扱いとなっている。

 だが他国の難民特区と比べれば天国と呼べる生活が保証されており、わざわざ不興を買う真似はしないようにと子世代も孫世代も教育されており、不満を口に出す者は居ない。

 それ故に他国の同じ難民からは妬みや嫉みで、プライドを捨てた売国奴やら恥知らずと揶揄されているらしい。


 まあジェラルドの性格上、自分の家族や家来や領民を特別扱いしたがるので、他国で渋々難民を受け入れた貴族から難癖を付けられると、それに反発して更にパウラ特区の待遇を良くしたりと、格差を広げるような依怙贔屓政策が度々あったらしい。

 わざと角を立てて「文句があるなら顔を見て言え」とばかりに超強気の姿勢を隠そうともしない。

 中身の伴った実力者が権力を握ると怖いもの知らずのやりたい放題である。

 実に頼もしい。


 ここで特区同士の認識に温度差が生じてしまい、世代が変わる頃には他国の難民と特区民とでは基本的な民度の落差が激しくなり、もはや枝分かれした別の部族と言わんばかりの態度になっていた。

 そんな歴史を歩んだ海神領域難民レアルヴィスタ特別自治区ことパウラ特区では、百年を経て難民第一世代の大半が寿命で亡くなってからは、祖国を知らない世代からのファナリア大公家への好感度がフルMAXとなっている。

 今やジェラルドの依怙贔屓政策によりレアルヴィスタ領とパウラ特区との間に関税が無くなり、パウラ籍の民に限り就労ビザも簡易手続きのみでほぼフリー。

 法的には他国でありながらも境界が取り払われてしまい、瞬く間に特区は発展していった。

 しまいにはパウラ特区単独でも他国の難民特区への援助までするに至るほどの都会へと成長し、先進国に準ずる発展を遂げ、飛竜繁殖プロジェクトを始めとした独自のビジネス構想を練るだけの余裕を生んだのだ。


 そんな中で私の投資話は渡りに船だったのだろう。

 話が簡単に纏まった裏側には他の要因もあるが、囲い込んで完全に取り込むつもりだったジェラルドのやり方に対して彼等とて思う所はあったのだ。

 逆に私は彼等の独り立ちへのステップアップを支援する意図を持って接していた。

 いずれジェラルドの地位はリヴィアが継ぐことになる、となれば彼等とて早い段階から好感度稼ぎをしたいと考えるのは自然な成り行きである。

 やはりその部分が一押しになったと捉えるのが妥当だろう。


◇◆◇


 かつての飛竜の贈与においてもエストバースの先王が彼等の未来を救ってくれたからこその感謝の印だった。

 確かにジェラルドは彼等の生活を支えて移民に対する不当な扱いから守ってあげたが、それで救われたのは彼等の現在だけである。

 私が救おうとしているのは世界の未来だが、その一環として彼等の将来を見据えた独り立ち計画を後押しして、未来の海神領域復活までの展望を指し示したのだ。


 要するに彼等の真なる望みと心からの感謝を示す条件とは、百年前から何も変わってなどいなかったのである。

 以上が、彼等から私へ飛竜を融通した理由だ。


 まあジェラルドもそこは理解していたと思われるが、自主的に恭順して傘下へ入る意思を示す形式を望んでいたからか、彼等が先に折れるのを期待していたという線は否めない。

 それはそれで王国を支える大貴族にして力ある王族の一員としての自覚ある態度としては正しい。

 あくまでも彼等海神領域からの難民達は名目上はどうあれエストバース王国並びに魔導大公家の好意で受け入れられ、ジェラルドの統治するレアルヴィスタ領の一部を借宿として分譲して住まわせて貰っているに過ぎないのだ。


 国際条約にしたって国家としての実質的な体裁を持っていない名前だけの暫定政府との間に、本来ならば政治的な拘束力も実行力も存在しない。

 何せ海神難民は既に六神連盟の掲げる六大神の眷属王家の血統が途絶えているのだ。

 当たり前の話だが、国際的な発言権も自分達の王国を名乗る資格も、もう誰も持ち合わせていない。

 彼等の国は百年前にもう無くなったのだから。


 それでも表面上は暫定政府をかろうじて認められているのは、六神連盟から聖戦への招集と参加義務を負わせる為の口実に過ぎない。

 ジェラルドは当然その事は理解している。

 資産も僅かな難民ばかりで生活すら苦しい彼等を思えばこそ、亡国の民を名乗り続ける為に聖戦へ参戦しなければならない負担を慮り、意地を張るのをやめてエストバース王国民として帰化する道があるという事を、直接口には出さずとも態度と待遇でそれを示し続けてきたのだ。

 王国貴族としても、世界の益を優先するべき英雄という立場にも相応しい器量ではないか。


 もちろん仮に海王国や竜王国の民を迎い入れた場合のエストバース王国の参戦人数枠は幾ばくか増えるだろうが、帰化してしまえば例え増えた枠を埋める形で招集されたとしても、単独の国家として参戦していた頃の人数より少ない人員と負担にまで軽減させられるのは明白である。

 だが、どんなにメリットやデメリットを提示されようがそれでも彼等は海神領域の民であるという肩書きを捨てる道だけは選ばなかった。

 矜持か誇りか、それとも単なる意地なのか。


 まあ、個人的に本音で言わせて貰えば、はっきり言ってジェラルドに甘え過ぎである。

 三十年や五十年ならまだ百歩譲って気持ちを汲んでやっても良い。

 何せ海神領域崩壊を実際に体験した世代が生きているからだ。客観的に観ても彼等の不幸と損害を思えば半世紀の甘えくらいは許容範囲と言えるだろう。

 しかし、当時の民である世代が死に絶えて久しい現世代でも、まだ自分達が海神領域の民であると名乗り続けるのは正直無理があると思う。

 もう海王国や竜王国をその目で観たことの無い、別の大陸で生まれ育った世代が自分達の故国が生誕地以外だと語るのは、どう考えても筋が通らない。

 はっきり言って世迷言、妄言の類である。

 言い訳は他人の受け売りではなく、せめて自分で考えた内容で語って貰いたい。


 ジェラルドがいつまでも彼等に甘いのは大変結構だと思うが、聖戦を重ねる毎に海神領域組の軍の質が低下し、動員兵数も泣き落としで徐々に減らして貰っておいて何が暫定政府だろうか。

 矜持や誇りを以て意地を張るなら緩和措置など上申して交渉せずに最後まで義務を果たすべきである。

 まあパウラ特区の民達は聖戦に参加する同民族の為に多めに負担して兵站を用立てているのでまだマシだが、それが実現しているのだってジェラルドの激甘政策のお陰なのだ。


 王も国も失った民の何たる無様か。


 故に、私の援助も投資も、さっさと彼等を独立させて寄生している国々へ掛ける負担や迷惑が、果たした義務を大きく上回っている現状を打破させるのが目的である。

 世界的に観ても私の行いは紛れもなく善行のそれではあるが、これは決して善意だけによるものではない事を、口には出さないが努々勘違いしないで欲しい。


◇◆◇


 といった内容を、後で要点だけ掻い摘んでプロシアに説明すればおそらく納得してくれるだろう。

 因みに難民達の貢献度は、世界に対する負債をプラマイゼロにするだけで止めるつもりは無い。

 最終的には伝説の竜騎兵団を復活させる予定である。

 私としてはそこまで引き上げて初めて及第点だと考えているからだ。


 全く、世話の焼ける話である。

 表からも裏からも、世界を救うのは楽ではない。






《あとがき》


物語が進むに連れて語り部の意識は、一人称、一.五人称、二人称と認識が徐々にズレて来ています。


じわじわと違和感や矛盾が意識に生じていますが、そういう主人公達だと思って頂いて大丈夫です。


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