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1000通りの計画  作者: Terran
外伝 絶対帝政計画 2
75/99

千年迷宮: 天楼島



【天楼島】


[374]

 不可侵領域とは六神連盟が法的に定めた人類にとっての禁忌の土地や、信仰上の都合で閉鎖された地区や、絶対生存不能地域の総称である。

 不可侵領域と一言で言っても様々だが、大部分は何をどうすれば解決するという概算すら立たない、前提からして解決不可能な要因が重なった地域となっている。

 人類では立ち打ち困難な危険生物が棲んでいるとか、溶岩が常に流れているとか、ガス溜まりの天然洞窟とか、前世基準なら立入禁止区域になるような、そういう類の話なら不可侵領域にまでは指定されない。

 その程度なら何か一つ前提をクリアすれば不可能では無くなるからだ。


[危険地帯]<[立入禁止]<[完全封鎖]<[不可侵]


 と考えれば概ね合っている。


 因みに魔族の住まう魔大陸は西側のごく一部を除いて全土が危険地帯以上に指定されている。

 北側は比較的危険度は低く、南下するに従って危険度は上がり、東の魔王領の大半は魔族以外立入禁止区域に指定され完全封鎖区画や不可侵領域もある。

 特に南の魔王領に至っては全土が魔族以外にとっては完全封鎖区画。

 人体には致命的なほど毒性の強い瘴気が漂い、それに適応した高濃度の魔素で強化された魔獣や魔物が跋扈する魔境となっているとか。


 尤も、南の魔王領はほぼ鎖国に近い状態のため全容は把握されておらず、魔大陸の南半分を支配領域とする彼等がどう生活しているのかは謎とされる。

 やれ魔物を使役しているだの、魔素を栄養源としているとも、人類圏なら確実に不可侵領域に指定される地域にも平気で居座っているやら、言いたい放題噂されているが実態は不明だ。


 とは言え、不可侵領域は魔大陸以外にも点在しており、その危険度も一様に測定不能なので強弱は存在する。

 その中でも無条件で不可侵領域に指定されているのは以下の4通り。


(1).六大神が禁域と指定した区域

(2).千年迷宮とその半径10km内にある地域一帯

(3).大魔人のテリトリー内

(4).旧海神領域


(1)

 六大神の指定した禁域とは、旧暦以前の時代において神々から直接神託のあった人の立ち入ってはならないとされる神話に語られる領域。

 曰く星神領域の星の傷痕と呼ばれる底無しの断崖絶壁に入ったり、地神領域の世界樹を掘り返そうとしてはならないとか、天に浮かぶ月へ昇ろうとしてはならないとか、まあ普通の頭があればやっちゃいけないと解りそうな内容をわざわざ戒めとして人々に伝えたらしい。

 よくある先人の教訓や戒律を伝える為に伝承という形で禁忌として語られる神聖な場所の事である。

 平たく言えば、興味本位で断崖絶壁に挑んだり、大事な世界樹を木材として利用しようとしたり、見えるからと言って距離的に届くわけない月を目指して飛んだり。

 どれも碌な結果にならないからやめておけという忠告なのだろう。


 他にも海に潜って深海の底を目指してはならないとか、絶対に開けてはならない箱とか、生きたまま冥府へ降りてはならないとか、地域ごとに神話や伝承にもバリエーションがある。

 これらは宗教的な部分も絡むので教会の聖典や、初等学舎でも学ぶ内容なので誰もが知っている。

 そう言えば前世でも似たような伝説が有った気がするので、こういうのはどの世界でも割と共通する部分なのかも知れない。


(2)

 千年迷宮と周辺地域に関しては伝承云々とは違い誰の目に見える明確な危険がそこにある。

 百年間誰も攻略出来なかったダンジョンですら百年迷宮と呼ばれ、攻略を国の悲願として掲げられる程の認識なのだ。

 千年も放置せざるを得なかったダンジョンともなれば、攻略はもはや望むだけ無駄な努力となり不可能と断ずるより他無い。

 今が新しい暦になって1300年代なのだから、大部分の千年迷宮とはつまり旧暦の頃から未踏破のまま存在し続けているという訳で。

 もはや伝説や神話の類である。


 唯一、救いがあるとしたらそれはダンジョンの許容量もまた千年級に懐が深いということか。

 つまり滅多に氾濫しないのだ。

 しかし氾濫の例が全くないという訳ではないので危険である事に変わりはない。

 百年単位で噴火しない活火山のような物だと思っていい。

 だがひと度氾濫すれば、下手すれば周辺国がまとめて滅び去るかも知れない。

 当然だが誰も踏破できないダンジョンの魔物が地上に現れればそうなるのも道理である。


 そもそも千年迷宮が生成されてしまう土地柄というのは危険地帯である事も多い。

 魔素が濃かったり、魔物が蔓延っていたり、問題を抱えているケースがほとんどだ。

 故に、繰り返される歴史を経て学んだ人類はそうした土地の傍にはあまり国を興さなくなり、後に不可侵領域として指定されれば周辺の被害圏内の街も移転して自然と人の寄り付かない場所となる。

 せいぜいが土地を追われたならず者の町や受け入れを拒否された難民の村落が点在する程度であり、ある日彼等が忽然と消えたとしても大して騒がれることはない。


(3)

 この世界で災害と呼ばれるものには天災の他に魔人と呼ばれるモノが在る。

 魔人とは世界の悪意ある歪みによって発生し、悪意ある確率を悪意ある蓋然性で無理くり引き起こして誕生せしめた個人単位の特異点である。

 雑に言えば魔物化した人類だ。


 胎内に魔核を持ち、矛盾した異界の法則を混沌とした概念を以て成立させ、この世界に異法の力で災いを引き起こす悪意の権化。

 何故動物は魔物の下位互換である魔獣となるのに人類だけが世界の法則すら超越した魔人になるのか。

 歴史の中の研究者達にとっても疑問とされてきたがそれは大きな誤解である。

 確率的には人類の魔物化は魔獣と同程度起こる。

 だが人類はそもそも魔素を浴びながら生活しなければならない土地に居を構えないので、魔物化の被害を受けるのは人類に住処を追いやられた動植物ばかりになるのは必然だ。


 稀に人類にも魔物化するケースは有るが、そのほとんどは良くて奇形化や狂人化、悪ければ死であり、完全な魔物になる前に自然淘汰されてしまう。

 つまり単純な確率論として魔人に至るまで生存する例が大変少なく、例え魔物化しても実害が報告されれば魔人に成る前に対処されてしまう。

 それでも針の穴を通すような確率を縫って極稀に発生した完全な魔人は、厄災と呼ぶに相応しい人知を超えた怪物と化す。


 しかし自然発生的に生まれる魔人ならばまだ凶悪な魔物の域を出ない。

 歴史の上で語られる不可侵領域まで指定された厄災、つまり大魔人と呼ばれるモノは何故発生したのか定かでは無い例が大半で、かろうじて確認された報告では「異境にて自力で屍人化したまま帰還した」というケースが有る。

 異境の幻獣が流出する際に異境のリソースを吸収して魔物化するように、自らの妄執と力で屍人と化した者が異境のリソースを吸収して魔人化した場合。

 自然発生する魔人より遥かに強大な力を持った大魔人と成る。

 過去にその大魔人によって広範囲が百年以上も不可侵領域として指定された前例があるという。


(4)

 現在の世界地図では元海神領域だった場所は世界最大の不可侵領域として指定されている。

 それもそのはず。

 3度の敗北により崩壊した海神領域は異境での大敗による氾濫と、同時多発した海神領域内の複数の迷宮からの大氾濫を受けて、元々あった不可侵領域に棲む海魔の王と呼ばれる魔物が率いる魔物の群まで加わって、海神領域全土が呑み込まれたからだ。

 染み込んだ多大な瘴気の影響により地殻変動を起こした海神領域内の島々は全て海底へと沈み、物量も質も範囲も地形的な理由でも、抗う術も無く全てが大海原に消え去った。

 厳密に言えば不可侵領域が大量に点在していて、それが無数に重なり合っており、結果的に海神領域全土が不可侵領域になっている。

 つまりお手上げである。


 例え一時的に一部の区域の魔物を討伐しても海は繋がっているのだ。

 縄張りを広げた魔物にすぐに押し返される。

 何なら海底にあるいずれかのダンジョンが定期的に氾濫すればいくら海上を綺麗にしようが全て無駄となる。

 労力もコストも、一部切り取り型の討伐では焼け石に水な上に採算が取れず維持費も膨大であり、表面上は全くの無意味にしか映らないので遠征費をドブに捨てると評され、已むを得ず撤退して諦めるより選択肢が無いのだ。

 折角魔物を倒しても、海上では素材の回収すらままならず、島々も沈んでいるので拠点すら置けず、長距離遠征しか出来ないとあれば益々打つ手が無い。

 それに海は広すぎた。

 そういう理由から元海神領域全土は不可侵領域として航路すら制限されているのが現状である。



 まあ、私から言わせてもらえれば


(5).創世魔宮


 を加えるべきだと思うが、ただ単に存在を知らないので入っていないのかも知れない。

 千年迷宮と違って氾濫はしないから周辺を封鎖する必要は無さそうだが、内部の難易度は数桁違い。

 放置すればいずれ世界を内側から崩壊させる時限爆弾でもある。


 何にせよ、不可侵領域の多くは手出し不能で解決策を探ることすら諦められている。

 まあ、どうにか出来る可能性がほんの僅かでもあるのなら不可侵領域とは呼ばれず、その手前の制限区域扱いにされているという話だ。

 それでも過去の魔人のケースでは国家の威信をかけてどれだけ年月と資材を費やしてでも最終的には解決している辺り、何だかんだで頑張っている方だと思われる。




[375]

 そんな不可侵領域の一つ。

 【千年迷宮: 天楼島】にはいくつもの逸話があった。


 どの種族とも一致しない謎の先住民。

 観たことも無い文明の跡地。

 異世界と繋がったダンジョン。

 太古の昔に突如出現した島。

 出土するオーパーツ。


 魔大陸北の魔王領と旧竜王国領海とに挟まれる形で浮かぶこの島には現在、北の魔族の一派である鬼妖衆と、地神領域で暮らす人間族のオーワの民の末裔とが互いの生活圏を分けて共生している。

 鬼妖衆とは、見た目には亜人族のオーガ族と人間族を足して2で割ったような容姿で、着物やかんざしといった服装や独特な文化を持つのが特徴。

 対してオーワの民も袴や刀といった独特の文化を持ち、互いの風習も似通っており共通のルーツから派生した文明を祖としていると思われている。


 島の中心には巨大な霊木がそびえ、根本には千年迷宮がぽっかりと口を開けている。

 対角線を描くように島の南北で生活圏を分け、南部を鬼妖衆のマハラ市、北部をオーワの末裔のシナン市としている。


 古の時代に竜王国の貴族が先住民と交易をしつつ名目上は所領地としていたが、先住民に立ち入りを警告されていた迷宮攻略に挑戦して失敗。

 その後も世代を経て何十年と掛けて幾度となく攻略軍を派遣したが悉く失敗した。

 そしてある日、千年迷宮は遂に恐れていた氾濫を起こし、先住民共々島民は全滅したという。

 以来、竜王国の本島からも派兵を繰り返して地上に溢れた魔物の討伐こそ成功したが、やはり迷宮の攻略は失敗に終わる。


 竜王国軍の精鋭でも攻略不可となると島の完全封鎖しかないと思われたが、そこへ名乗りを上げたのが鬼妖衆とオーワの民達である。

 彼等は島に遺っていた先住民の文字を解読し、迷宮の氾濫を鎮める方法を見つけ出したのだ。

 それから竜王国は両民族に島の管理と迷宮の氾濫を鎮めるのを条件に居住権を認め、以降は島の名前を【天楼島】と改めてから、鎮められた迷宮のみを不可侵領域と定めた特殊な島となった。

 しかし如何せん聖戦すら無かった頃の時代の話、太古の昔の伝説である。

 マハラ市もシナン市も先住民の遺した居住区画の掠れた文字から命名されたというが、その名残りもほとんど残っておらず真偽は定かではなかった。


◇◆◇


 私がこの島に興味を抱いたのはやはり逸話の数々に引っ掛かる部分が多かった事や、何よりDr.ガイアスの手記に書かれていた情報による所が大きい。

 彼の手記によれば天楼島は異世界から島が島民ごとまるまる転移してきたと思われる裏付けをいくつも発見したという。

 そして、この天楼島は転移前の世界においても異世界から様々な物が漂着する特異点だったという考察まで書かれていたのだ。


 これには流石の私でも驚いた。

 そもそも天楼島は転移前の世界地図上にも「存在しない島」として陰謀論やSFで語られていた幻の島だったらしい。

 一緒に巻き込まれて転移してきた島民にしても、機構の部隊と共に上陸して墓を暴いて調べてみて判明したのは、とりどりの多国籍かつ多人種に渡る特徴を持ったDNA配列の人骨だったという。

 つまり島民すらも漂着者であり、天楼島で暮らす中で必死に生き残る手段を模索して迷宮を鎮める方法を探し出したサバイバー達の末裔なのだ。

 そんな彼等も世代を経ていく内に文明レベルも落ちてしまい、竜王国が介在する頃には先祖の言い伝えくらいしかまともに残っていなかったのだろう。


 手記には、壊れた無線機らしき物の残骸にはラジオを解体して代用されたと思われる部品が使われていたり、かろうじて残っていた井戸の手押しポンプには潜水艦の部品と思しき摩耗した金属片が使われていたという。

 更には居住区画周辺の地面を掘れば割れたガラス瓶片も出土する。

 そして島の南北にある遺跡の洞窟には腐食の進んで文字の欠けた船舶名らしき金属プレートが大切に保管されていたとある。


 こうも物的証拠が揃っては疑う余地は薄い。

 これだけ特異な島の千年迷宮とあれば、そこにはどんなリソースが溶け込んでいるのか採取しがいが有りそうである。

 何より創世力の補給には迷宮攻略は欠かせない。

 もしかしたら太古の竜王国の民や異世界からの漂着者の無事なリソースを獲得出来れば貴重な情報を持った再誕人を生み出せるかも知れない。


 私は手勢にしっかりと準備をさせて、こっそりと転移魔法で忍び込ませる形で天楼島の迷宮攻略に乗り出した。




[376]

 天楼島の迷宮を一言で言えば、異質だ。

 単純な魔物の強さならば人類でも対応可能だが、内部を探索するにつれ、これでは攻略されないのも無理からぬ事だと納得させられた。


【表層】

 表層には、昆虫、節足動物、爬虫類、小型哺乳類、鳥類、といった地上生物を凶暴化させたような見た目をした魔物が主流で、一部毒性こそあるが全体の脅威度としては低い。

 足場は平坦ではないので時間こそかかるだろうが、C級冒険者なら難なく踏破できるだろうし、D級でもPTなら余裕そうに思える。



【上層】

 どういう原理なのかは不明だが、合成樹脂や軽金属を外殻や外皮に混合させた魔物が出る。

 種としては表層と大きな変更こそ無いが、近類種で身体も一回り大きく特殊な形成の外皮を持ち、並の武器では傷付け難いだろうと予想される。

 常に足場が悪く、泥濘や安定しない場所での対応が求められる。

 装備の整ったC級上位PTや、せめて一人前の魔術師を入れていないと事故が多発しそうである。



【中層】

 このダンジョンが踏破されない理由がよく解った階層である。

 比較的不安定な魔素の濃い出来立ての若いダンジョンに見られがちなのだが、内部構造が時折変動する現象がある。

 それがまさか千年迷宮で起こるとなると、異常としか言いようが無い。

 ガイアスの手記にはダンジョンの構造の事までは書かれていなかったが、おそらく迷宮探索日誌や調査記録は別途に有ったのだろう。


 金属質な粘体生物、特殊繊維の毛を生やした動体視力の良過ぎる肉食哺乳類、無機物にすら擬態する強靭な軟体動物、群体で大型生物の形状を取る知能有る昆虫のコロニー、再生能力の高い岩虫、音も体温も呼吸すら無く忍び寄る寄生生物。

 全体的に肉質が硬く、擬態や隠形に長けた魔物が多くダンジョン変動の影響も有り、ベテラン冒険者であっても気が休まらないだろう。

 大人数より少数精鋭が推奨される。

 最低でもA級並の探知能力を持つB級上位のPTか、素直にA級パーティでなければ夜を越せないと思われる。



【下層】

 昆虫とも哺乳類とも爬虫類とも言えない、何とも不気味で凶悪な外見をした極限環境適応生物達が跋扈する微毒ガスの充満した胎動迷宮。

 空気は毒性が有り、有機物の革製品や布製品は著しく劣化が早く、空気に晒せば短時間で水まで腐るという極限環境である。

 当然ながら中層より更に短い周期でダンジョン変動が起こっており、揺れる、脈打つ、突風が吹く、ヌメリ気のある酸のような粘液が床や壁から分泌される。

 まるで生物の胎内のような迷宮だ。


 異形の生物は単体の強さこそB級でも対応可能そうだが、数が多く環境に適応した不意打ちを得意としており、更に不利な状況まで考慮するとA級上位PTでも長期戦や連戦は無理だろう。

 ここの対策を万全にしたS級PTでも事故が有り得る。

 実態を知れば、国の英雄ランクの損耗すら厭わない覚悟が無ければ探索は中止せざるを得まい。



【深層】

 もはや攻略とか踏破とか、そういう次元ではない。

 様々な特徴を持つバリエーション豊かでグロテスクな外見のミュータント共が千年迷宮とは思えない密度で常に闘争と共食いを繰り返す、まさに地獄絵図。

 邪眼、熱線、破壊光、洗脳音波、自爆、バリア、何でも有りのカオスである。


 常に有毒ガスが充満しており、時折強酸性の雨が降る。

 変動の頻度も1〜3時間置きにランダムに起こり、突然通路や部屋が無くなり、次の変動まで密室のモンスターハウス状態にもなる。

 変異魔物は絶えず生産と共食いと環境死でバランスが保たれており、運良く長期スパン生き残った個体の能力は常軌を逸していた。

 しかし共食いを続けて強くなればなるほど燃費が悪くなるらしく、最終的には環境には絶えられても、喰い続けてすら餓死してしまうらしい。

 生物としては完全な欠陥品ではないか。

 これは酷い。


 生産直後の個体でB〜A級以上、共食いや進化で絶えず強化と消費を繰り返すのでS級やH級相応もゴロゴロと居る。

 もはやランク付けに何の意味もないが、一応国や組合の基準に換算して純粋に魔物の強さだけで難易度の指標を出すならH+級。

 万に一つも無いだろうが、仮に各大陸の擁するH級やL級でPTを組んで世界中の発見済の未攻略ダンジョンを制覇すると宣言したとしても、実態を知ればここだけは攻略をパスするだろう。

 環境を含めればL+級〜М級。

 ここ百年以上はМ級が一人も現れていないので、残念ながら現在の人類に攻略はほぼ不可能と見るべきか。


◇◆◇


【終点】

 そこは、世界を渡ってきた事を隠すつもりが無さそうな場所だった。

 ダンジョンコアの鎮座する最奥の大部屋は、まるで有機物と無機物を秩序をもってコラボレーションしたかの様相。

 例えるなら人工生命体で創った方舟である。


 もしもコアを取れば島そのものが消えてしまう可能性があるので情報リソースだけ記録してそのままにしておく。

 広いドーム状の中心部と円形の壁から等間隔に並んだ奥へと続く通路と、その通路の壁に小部屋が並ぶ様は、巨大な宇宙船やシェルターを思わせる造りである。

 上の階層の喧騒が嘘みたいに魔物は見当たらない。

 この場所が神聖な領域でもあるかの如く、ただ静かに眠るように来訪者の訪れを待っているかのようにも観えた。

 数万人は収容可能なスペースが有りながら生活感は一切感じられない。


 ただ一点、その場にそぐわない痕跡を除いて。


 総評として、本気で天楼島の迷宮を攻略するつもりならば散発的な挑戦では無理である。

 もしも世界中の最大戦力の命を顧みず惜しみなく投入すれば、運が良ければ全滅する前に誰か一人くらいは最奥に到達出来るかも知れない。

 という難易度である。

 運否天賦に賭けるなら攻略出来るのかも知れないが、世界人類全員が正気を喪わない限りやろうとはしないだろう。

 他の千年迷宮と比べても、かなり上位に入るのでは無かろうか。


 このダンジョンを鎮める方法は、実は簡単である。

 各層にある認証装置に然るべき手順で生体登録すれば、それだけで一時的な迷宮主(ダンジョンマスター)権を獲得可能なので、その状態で氾濫しないように命令すればおしまい。

 最後の更新から20年以内に再更新すれば決して魔物が溢れる事は無いのだ。

 尤も、各中継ポートでのゲスト登録は可能だが、メインの迷宮主になれるのは終点での登録が必須であり、迷宮内生物の当該階層内への侵入制限以外の項目はゲスト登録ではあまり意味のない命令しか出来そうに無い。


 この異世界産の人工迷宮と思われる施設の解析と研究は私達の今後の活動に大いに役立つだろう。

 ひとまずは迷宮主登録をしておいて、必要なサンプルの確保が容易になるように調整する。

 ダンジョン変動が頻発しているのは、氾濫によるガス抜きが出来ずに貯まる一方の蓄積エネルギーを消化する手段として引き起こされているらしい。

 使い道の無いエネルギーであれば貰っても問題無いと判断して権能を使って回収しておく。

 思ったより蓄積量が多く、中規模迷宮なら五つ分は創れそうな量で、近々命令でも抑えきれずに大暴走する危険性があったと言っておこう。


 何にしても、大変興味深い実りある遠征になった。

 やはり生き物も棲まわぬ土地の迷宮より、生物の生活圏に近い迷宮の方がリソースの収穫量も段違いに高い。

 手つかずで放置された海神領域の巨大迷宮郡の氾濫周期が散発的なのも、全く手を付けず近寄らない事が逆に対策になっているのだろう。

 千年迷宮の傍に人を住まわせないのも、危険だからというだけではなく、迷宮リソースの蓄積を遅らせる為だったのだ。


 しかし、こんな便利な畑があるのなら地上にある他の千年迷宮も積極的に攻略してみても良いかも知れない。






《余録》


迷宮の難易度は「E.D.C.B.A.S.H.L級」の順で高くなります。

同じ等級でも上下差があるので、実際にはB級とB+級といった段階分けをされています。

あくまでも難易度はPT単位での評価なので、ソロで挑む場合は安全マージンはしっかり取らなければなりません。


この等級は冒険者ランクと連動していて、大まかに自分の等級に合った迷宮が適正ランクとなります。

現在、冒険者にはM級認定された者は居ないので主人公から見る限り【天楼島】の概算適正ランクとしては攻略不可能という扱いが妥当でしょう。


因みに竜王国の定める天楼島の難易度は百年前の時点でH級扱いですが、当然ながら奥まで網羅出来てないので不正確な情報から算出されています。

完全に封鎖しているので、もしかしたら不安を煽らないように配慮して表向きは少し低めに見積もって発表しているのかも知れません。


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