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1000通りの計画  作者: Terran
外伝 絶対帝政計画 2
73/99

禁忌を継ぐ者



【絶望の孤島】


[371]

《最初の軌跡》


 それは魔導書館地下の仕掛け棚に隠されていた。


 仕掛けを解くには前世の世界の知識が必要で、それはつまり転生者でなければ見付けられないという事である。

 私の記憶では具体的な固有名詞までは思い出せないが、模様に見せかけて複数の言語で書かれた暗号が使われており、少なくとも2カ国以上は読めなければ意味ある言葉として推測する事すら困難だろう。


 名前は出てこないが知識はある。

 確か、合衆国の公用語。連邦国の公用語。共和国の公用語。前世の故国の公用語。市国の公用語。

 後はおぼろげだが、劇的な革命で有名な国と、麦酒や車で有名な国の公用語も使われていた。

 公用語として話す人口で言えば他にも上位に入る言語は複数あった筈なのだが、使われていた言語はこれだけである。

 筆者とその仲間の言語圏だったと考えるのが自然なのだが、何処となく意図的に選ばれたのではないかという指向性を感じ取れる。


 前世の記憶があるとは言え、私とて全て読める訳では無い。

 謎掛けに対応出来るレベルだとせいぜいが3カ国程度だ。

 制作者も独力で解けるとは思っていない、そんな意図を仕掛けから感じる。

 おそらく複数の仲間が居る転生者か、多言語に精通する優秀な転生者に宛てているのだ。

 そもそもこの書館の地下に来れる時点で手にできる候補はかなり限られるのだが、実に周到な話である。


 しかし、その周到さも当然のものと言えるであろう内容を、私は目にする事となる。

 そこにあったのは悪名高き邪教の初代宗主、Dr.ガイアスの数十冊に及ぶ記録だった。



・『Dr.ガイアス』


 本名をエドワルド・レイツァー。

 新暦1240年生まれ。イルメアの初代宗主。

 人間族と巨人族の混血。

 星神領域の大学、スタラエリ大叡館を優秀な成績で卒業したレイツァー銀爵家の嫡男。


 ジュディを仲間に引き入れ、貴族の地位を使って転生者を探し出し、協力者を増やして救世機関イルメアを結成。

 これが近代エリュダイト史における史上最大最悪の邪神教集団となる。

 表向きは世界中の子供達を救済するための慈善団体として。

 実態は転生者を探し出して保護すると共に諜報員達を育成する組織として。



・『Dr.ジュデッカ』


 本名をジュディ・カーネスト。

 1241年生まれ。イルメア副宗主。精霊族。

 星神領域の大学、スタラエリ大叡館でエドの後輩だった。

 カーネスト金爵家の長女。


 貴族の在り方に疑問を持ち、将来は世界を変えるための活動家になる事を目標にしていた。

 転生者の中でも特に優秀だったエドに心酔し、転生者の使命を打ち明けられてそれに協力する。

 転生者の目的と世界の真実を知ったジュディはタガが外れたように救世機関の活動にのめり込む。

 己の罪を意識し、倫理観から非道な行いに躊躇するエドを叱咤し、Dr.ジュデッカを名乗り狂気に駆られたように数々の無慈悲な人体実験の指揮を執った。

 魔学と科学に精通した天才魔導師。



 将来の賢者候補と称された才気溢れる二人は、エリュダイト史における悪の枢軸、秘密結社、今は邪教として名を残す【救世機関イルメア】を築き上げる。

 その日記に綴られていたのは、邪教となる前の世界救済を悲願としたエドワルドという青年の想いと、転生者達の指導者Dr.ガイアスとしての使命と重責により次第に心を壊していった哀れな転生者の胸の内が克明に記録されていた。



◇◆◇



 私が読んだのはエドワルドの幼少期からイルメア崩壊の三年前までの記録。

 おそらく組織のメンバーにも秘密にして毎年一冊ずつここに保管していったのだろう。

 これだけ危険な重要証拠なら誰かに知られていれば確実に回収されていた筈である。


 没年付近の記録が読めなかったのは残念だが、書かれていた内容はとても参考になった。

 と同時に、これ程までに入念な計画と、転生者と協力者達による巨大組織ですら世界救済を成し遂げられなかったとなると、初見の不意打ちが失敗に終わった残党達はこの逆境の中で如何なる方法を用いて計画を遂行するつもりなのだろうか。

 私は記録の続きの手掛かりを求めて、イルメア崩壊の前に使っていたとされる海神領域の端、かつて海王国が健在の頃はリゾート島の一つとして賑わい、今は航行の手段が失われ『絶望の孤島』と呼ばれるフォルテナー島へと分霊を向かわせた。



◇◆◇



[潰えた残骸の島]


 遠目からでも当時の凄惨さが窺える。

 何十年も前に邪教の施設は壊滅し、航行手段を失い打ち捨てられたその島は、今尚むせ返る程の厚い瘴気に覆われていた。

 これでは並の魔術師では近付くだけで精神が汚染されて気を失うか、体調不良を訴えるだろう。


 この世界の瘴気とは即ち毒性のある魔素の事で、魔導車の排気魔力も理屈の上では瘴気である。

 が、その毒性が一定値以上なら瘴気、それ以下なら排気魔力(変異魔素)という扱いである。


 海神解放から先、海王国の中心から円状に掃除をして安全な領域を確保しているが。

 ここは海神領域の外れ、捜索範囲外で星神領域の領海からやや離れた位置にありノーマークだった場所の一つだ。

 ここには邪教の手にした神遺物オルケアの笛を使う事でのみ航行可能で、他の勢力の入れない自然の要塞となっていたのだろう。

 それは同時に、完全に人類圏と切り離され隔絶した事を意味しており、這々の体で落ち延びた邪教のメンバーが全員死に絶えるまで閉じ込められた絶望の孤島と化したのだと思われる。



◇◆◇



 そこは異様な島だった。

 島内にある建物はどれも魔術と近代建築技術を掛け合わせたであろう継ぎ目の見当たらない、ムラの無い鉄筋コンクリート製だった。

 測定結果はおよそ築60年から70年。

 おそらく最後のメンテナンスから暫くは付与術式で保存されていたにしても、長く潮風に当たっていた割に建物の痛みや老朽化は随分と遅い。

 余程良い腕の建築術師の手による作なのだろう。


 窓ガラスにしても前世の記憶にある通りの透明度と防弾性能を兼ね備えていた。

 これに防御用の付与術式を組み合わせたら、中規模程度の攻撃魔術なら何発受けても十分に耐えられると思われる。

 風力発電装置、水力発電装置、魔石による発電機、再生可能エネルギーと資源エネルギーの双方を取り入れ、インフラも完備されている。

 これで食糧問題さえクリア出来れば理論的には何十年でも引き籠もれるだろう。

 それでも誰も生き残れなかったのは、どんな理由があるのだろうか。

 いや、単純にこの充満する瘴気の発生と中毒が原因と見るのが妥当かも知れない。



◇◆◇



 瘴気という物は一般的には大変厄介である。

 濃度にも因るが、この濃さだと対策無しではまともな生物が生き残るのは不可能だろう。

 魔素計は重篤を表す魔化深度7を計測している。

 本体か多数の分体を直接出向かせれば侵食や吸収は容易いが、出来れば瘴気の研究や原因究明と情報収集の為に暫くは残しておきたい。

 どうせ誰も来ないのだから残しておくデメリットは薄い。

 不死者は発生するだろうが、それはそれで情報収集には好都合というものだ。


 分霊達には使い魔から次元を通じて魔力供給すれば魔闘氣を展開し続けられるので、瘴気を吸ったり祓う事なく内部の調査を行える。

 昼間だというのに建物の内部には非実体型の魔物が所狭しと溢れており、ひとまず消滅させずに資料転写と共に回収保存していく。

 実際に残留思念化している幽霊も居るのかも知れないが、大半は瘴気と汚染された大地が周辺の悪性リソースを引き寄せて自然発生した低位の魔物である。

 魔闘氣を纏えば死霊の類は寄っては来るものの害意を持たなくなるので脅威にはならない。

 大した問題もなく概ねスムーズに進むが、それでも入り組んだ島内の調査には二日を要した。



◇◆◇



 絶望の孤島とはよく言ったものだ。

 渡る術があるのなら、ここは間違い無く焼き払われていただろう。

 外観からは何の変哲もない島に見えるが、実のところ中身は随所にカモフラージュを施された人工島の様相を呈している。

 研究所と思しき広大な地下空間には、この世界にまるで似つかわしくない潜水艇の試作と思われる鉄塊や魔物の標本といった、いかにも科学世界の人類による技術開発と研究をしていた痕跡が幾つも見受けられた。

 残念ながらあの試作潜水艇では、もうあと十年研究しても実用化には至らないだろうが、その努力や支援者の意志は本物である。

 まあ、仮に実用化出来ても海神領域を取り戻さなければ使い所は無い。


 そして問題の地下収容施設。

 堆く積まれた小柄な遺体を観ればそこが何の為の施設だったかなど、科学を齧った者ならば誰でも資料を閲覧するまでもなく理解るだろう。

 多種多様な人種、耳の裏に埋め込まれた小さな正方形の金属片、最低限の簡素な衣類、無数のビーカーと変色した保存液に漬かった勾玉のような形の標本。

 これが、Dr.ガイアスを追い詰めたDr.ジュデッカの狂気の産物。


 何だ、実に面白味の欠片も無い解答ではないか。

 私も彼等も結局、行き着く考えは同じだったということだ。




[372]

 [受け継がれる禁忌]


 観るべき物を見て、識るべき事を知った。

 他にも隠された離島やアジトの跡地を洗い出し、当時に交戦のあった施設では政府側の把握していない小部屋を発見し、隠蔽に成功した施設では生き残りの知らなかった取り残された施設を調査していった。

 後は回収した資料を閲覧して、必要な事を順々に理解していく。

 そうして遂に私は、過去の転生者達が一体何を成したのか、彼等の遺志を継ぐ者達が何をしようとしているのか、その全容を掴むことに成功した。


 ガイアスが企てた数々の計画の内、長期間の準備が必要として発案された大計画は三つ。

 どれもこれも識らなければならない事ばかりなのだが、この世界の人々にとっては衝撃的な内容の筈のそれらについて抱いた感想は、「やはりそうだったのか」という物だった。

 どれもこれも、私が転生者の中でも早い段階で生まれた先駆者であれば、当然画策するであろう計画案に挙げていたと想像出来る物であり、これといって意外性は無かったのだ。

 意外性が無かった事には安心半分、無感情半分。


 当然だが、私でも舌を巻く程の意外性ある良計画を立てて頓挫したのであれば、流石に大きく不安を掻き立てらていただろう。

 しかし意外性の無い計画の失敗であれば、私からすれば特に自分の計画変更の必要も無い。

 全ては予定調和ということになる。


 私は大きな失敗をしない。

 より厳密に言えば、失敗を決して失敗だけに終わらせない。

 仮に小さな失敗をしたとしても他に支障が出ないように対策しているし、別の利益が生まれるように調整している。

 故に、それを失敗と断ずる事は出来ない。


 しかし、失敗から学ぶ事は出来る。

 意外性は無くとも、Dr.ガイアスの遺した資料から得る物があるとすればそれは研究結果そのものより、何故失敗したのかを学び取る部分にこそあると言えよう。

 後進の最大のアドバンテージは、先駆者の成功と失敗を知り、それを糧に出来るという点にある。

 当然だが、邪教の残党の方がより深く、より詳細に失敗の原因を糧としていると思われる。

 しかし、失敗から得た教訓を実践で役立てられるかどうかに関しては個人差が出るだろう。


 Dr.ガイアスは貴族出身だからこそ、あの計画を実行出来たのだ。

 平民出身では思い付いても実行は不可能である。

 理由は多々あるが、要するに資金や人材や後ろ盾があれば、無い場合より遥かに質の良い作戦を立てられ、労働力を得られ、協力者も獲得出来る。

 一つ無いだけで何倍もの手間も時間も掛かり、全部無ければ何十倍も掛かるのだ。

 そして、私はDr.ガイアスよりも身分の高い貴族である。

 他の転生者と比べて、彼の失敗から最大限に有益な学びを得て実践に活かせる者が居るとすれば、それは私を置いて他に居ない。



◇◆◇



 別の施設で興味深いモノを見付けた。

 その施設は人の寄り付かない魔物の棲む不可侵領域内の山中にひっそりと佇んでいた。

 一見するとただの廃墟だが、この辺りの魔物が近寄れない仕掛けが為されている。


 これらの技術も機構が研究した成果なのだろう。

 施設は絶望の孤島と同じく魔導と科学の融合した建築技法で建てられており、重要拠点の一つとして利用されていた事を覗わせる。

 施設の内部には人とも魔物とも付かない得体の知れないモノで溢れ返っていた。

 散乱した書類に机や椅子、倒れた棚に時計、壊された鉄扉。

 だが在るべき物が見当たらない。


 哺乳類と両生類の中間のような形状をした謎のモノ達は霊体を感知出来ないのか、分体を無視して施設の外へと這い出ていく。

 爪が尖っている訳でもなく、牙が鋭い訳でもなく、時折何かの臭いを嗅ぐようにして首をもたげるだけで実害は無さそうに見える。

 尤も、身体から発する瘴気が他の生物と共存出来ない事を雄弁に物語っていたが。

 そして施設の地下へと降りた先で、あれ等が何だったのか、何故在るべき物が見当たらないのか、その答えを目の当たりにすることになる。



◇◆◇



 くちゃくちゃと音を立てていた。

 ソレは施設の地下室で黙々と何かを捏ね回し、時に混ぜ合わせ、引き抜き、別の何かへと移し替えてる。

 延々とそれを繰り返すソレは、白衣を着た人の姿をしていた。

 いや、白衣だった物を着ているに過ぎない。


 私のように白衣を着慣れていた者で無ければ、それがすぐに白衣だとは気付けないだろう。

 茶色く変色し薄汚れたネットリとしたヌメリけのある光沢を浮かべた元白衣だった物。

 それを纏うのは女性の輪郭をした、けれど頭部だけは人のモノではない黒い何かが据わっている。

 ソレは分霊に気付いたのかふと作業を止めて、こちらへと頭部らしきモノを向けた。


 まだ続けていたのか。

 頭部を失い、命を失い、身体だけ運び出されて、それから何があればそのような姿になるというのだろうか。

 『Dr.ジュデッカ』



◇◆◇



 Dr.ガイアスとDr.ジュデッカは機構のテロ活動や悍ましい人体実験の数々、神子殺し、世界中の王家や貴族の子女を誘拐して死に至らしめ、その他にも挙げ連ねる事すら億劫になる程の罪状により処刑された。

 近代エリュダイト史において最も凄惨で凶悪かつ有名な大罪人である。


 ガイアスは度重なる尋問という拷問の末に罪状を認め、最後には公衆の面前で公開処刑となった。

 だがジュデッカは罪を認めず、隙を見計らって自ら命を断ったと公の記録には残っている。


 だが私のプロファイリングによれば自害をするような人物では無かったと思われる。

 良い意味でも悪い意味でも、タガの外れた優秀な人物だったのだろう。

 日記からも読み取れるように、末期の頃の壮絶な人体実験を主導していたのはジュデッカの方だ。

 数々の禁忌に手を染め、狂気の先にまで進んだ真のマッドサイエンティスト。

 転生者達の知識とこの世界の禁断の知識の両方を手に入れ、彼女は何を成そうとしたのか。


 大罪人だ、生身のまま生かしておく理由は無い。

 感情的な理由からも体面的な都合からも処刑は必要な手続きである。

 おそらく死霊術を使い、切除した頭部から必要な情報でもサルベージしようとしたのだと思われる。

 おそらく頭部は連盟に回収されたのだろう。連盟としても必要なのは知識だけなのだ。

 だが、知識を求める者には価値の無い首から下は、処刑後は滞りなく秘密裏に処分される筈だったが、ここに在るという事は機構の残党に奪われたか。


 大方そんな所だろう。

 だから未発見の機構の施設跡地に、つまりここに首から下が在っても驚くような話では無い。



◇◆◇



 かつてジュデッカと呼ばれた者の身体は両手を広げて分霊へと近付いて来た。


「Aha…w…el…」


 縋るように、求めるように、声とも付かない不気味な合成音を発しながら分霊に触れようと藻掻く。

 頭部の替わりに据わるソレは、間近で確認してようやく何なのか識別出来た。

 旧遺物の人型義体の頭部だ。

 黒い何かは濃い瘴気がそう見せているだけで、私のように良く視える目でも無ければただの義体の頭部だけが目に映るのだろう。


 予め記憶のバックアップでも取っておこうとしたのだろうか。

 発想がまさしく転生者の考えそうなSFに影響されているが、その旧遺物はあくまでも自動人形の人格モデルパターンとして、ベース人格を設定する際のサンプリングスキャン機能が有るだけで本物の記憶や人格のコピーが造れる訳では無い。

 いや、解っていたからこそ改造したのかも知れない。

 実際にこうして本物のジュデッカの身体を動かしているのだから、不完全とは言え記憶のコピーに近い事を実行出来た可能性がある。


 しかしこの瘴気。

 紛れもなく魔物化している。

 いや、人がベースなら正確には魔人化していると表現した方が的確か。

 なるほど、実に興味深い。

 これは思わぬ拾い物をした。


 第三者から観れば異様な光景だろう。

 魔人ジュデッカは私の分霊に害意は持っていないようだが、触れることすら出来ないのに纏わりつくのをやめようとしない。


「di…s…in…no…en…ti……」


 興味深い対象を見付けて観察したがっているのかも知れない。

 死んでも研究を止めないとは、Dr.の名は伊達では無いという事だろう。

 これぞ研究者の鑑、実に感心である。

 そう考えると心なしか機械頭部の無表情がとても嬉しそうに見えるから不思議なものだ。


 とりあえずジュデッカは無視して捜索を続ける。

 しかし目ぼしい物はほとんど見つからなかった。

 おそらく魔人化したジュデッカに機構の残党達の大半は研究の素材にされたのだろう。

 悪意で歪められた存在である魔人には話なんて通じない。

 その手から逃れられた者は国の追手に捕まる訳にも行かず、魔物の跋扈する山中を通り決死の逃亡を図ったか。

 在るべき物、つまり死体が一つも見つからないのだから。


 研究資料もほとんど持ち去られたのか、目を引くような実験記録はほとんど残っていない。

 施設内で這いずり回るモノは【魔人ジュデッカ】の作品(こども)達だろう。

 施設の外へと集団で出掛けているようだが、足りなくなった素材でも拐って来ているのだろうか。

 理性を失うと理論も上手く構築出来ないのか、あんなモノをいくら造った所で求める研究成果は得られなかっただろうに。

 素材にされた者達には気の毒だが、出来たのは完全に無駄なモノだ。

 とはいえ、一応サンプルとして回収はしておいた。



◇◆◇



 こんな施設でも誰かに見付かれば大事になるだろう。

 場所が場所だけに連れ込まれない限り人が迷い込むとも考えにくいが念の為、本体で出向いて証拠の一切を隠滅しておく事にした。

 魔人ジュデッカの居た痕跡を見付けられると困る。

 これはもう私達の物だ。


「『燃えろ』」


 目で射抜いて上手く発火させられた。

 これは魔術でも魔法でも無い念力による発火現象。

 つまりはパイロキネシスである。

 燃やしたい対象だけを一気に燃焼させられる。

 実体の有無は関係無い。

 残留思念も回収済なので問題はない。


「『曲がれ』」


 施設を地下部分を含めて捻る。

 生物に使おうが無機物に使おうが雑巾を絞る要領で原型を留めない程の圧力をかけて捻り上げる。


 ゴゴゴ…バキッ…ガガガゴ…!


 捻り潰して体積を限界まで圧縮していく。

 どちらも攻撃的な念力なので感情担当のリヴィアに任せておく。

 思念核を実装して初めての実用という事で少々テンションが上がっている模様。

 みるみる体積を減らしていく。

 実験は成功である。


「『エル』」


 次は虹の光の束を出してただの異常重力スラグとなった元施設だったモノに繋げる。

 これは理法。

 ふむ、念力の維持との同時使用も上手く行っている。


「『エンデ』」


 虹で繋がった異常重力スラグを光の泡へと換えて消滅させる。

 全てをリソースへと変換する権能だ。


 消え去ったのを確認してからハンドの指を弾いて大地を整形する。

 整地では不足である。


 これで証拠は全て消し去った。

 ここにはもう、何も無い。






《あとがき》


かつて、魔導大公カールソン・クリムワイエが魔術の研究でそうした様に、偉大なる功績の裏側では非人道的な人体実験の数々を主導していました。


確かにDr.ジュデッカは処刑されるに足るだけの罪を重ねたのかも知れませんが、それでは何故カールソンは英雄に、ジュデッカは大罪人となったのでしょうか。


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