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1000通りの計画  作者: Terran
間章 創作活動 3
68/99

真要素核 2



[356]

 さて、先日の課題から一応の成果は出た。

 魔物や魔獣と合成獣の研究からリヴィアの氣の性質に関する理解度を増した私は、まず氣功へのアプローチを変えてみることにした。

 いっそ体内に人工的な氣の経絡や経穴を創ってしまったらどうだろうかと考えたのだ。


 前世での知識では細かな部分までは識らなかったが今世の人体に関する書物を読み漁り、潤沢な素材の研究や経験から、おおよその経絡と呼ばれる物が何なのかは理解している。

 前世の繁盛している軍医でも今世の私ほどの検体数を扱った者は居ないだろう。

 種族によって多少異なる部分もあるが考え方の根幹部分に関しては共通しているので、人体構造さえ理解すれば解明もそう難しいものではない。

 むしろ大元となる共通した解釈こそが真髄であり、そこさえ抑えてしまえば別種の生物相手でも答えは自ずと導き出される。

 様々なデータから経絡の見極めの精度を上げてからアーティマトンに、そして分体の身体を使った実験を経て自らに施すことにした。


 リヴィアの身体にも生まれついての氣の経絡は存在しているのだが、これが後先考えずにタコ足配線していったかの如く複雑怪奇で効率無視した無駄だらけの滅多矢鱈な経路図をしており、何とか工夫と努力で機能を維持させるのがやっとという残念な配列なのだ。

 これでは一からジャンクパーツを組み合わせて造った怪獣の方がよっぽど機能的だろう。

 控えめに言って、氣功をマスターするのは諦めた方が無難である。

 なので、今日までコツコツ鍛えてきた元から備わっている経絡は希少パターンの参考資料用として割り切って別途保存し、別に新たな経路を構築してしまおうと考えたのだ。


 こちらには『生命魔法』と『創造魔法』、それに『次元魔法』や『転写魔法』が有る。

 創世力と神力を素材にすれば新たな生命体を創造する事すら容易い以上、理想的な経絡の創造くらいどうということはない。

 当然ながらもっと前から可能ではあったのだが、敢えてそうせずに今になって方針を変更したのにも理由はある。

 出来れば誰にでも実現できる方法で成し遂げたかったのが本音であり、それが無理と判ったので、迫るタイムリミットを鑑みてやむを得ず実行するに至ったわけだ。

 事実上の敗北宣言である。


 私以外の誰も知りようが無い、小さな小さな挫折。

 これでも、どんなに薄い可能性でもとあらゆる方法を試して随分粘ったのだが、こんな結果になってしまったのは残念でならない。

 とはいえ背に腹は代えられないのも事実。

 こうして実現可能な別の方法がある以上、計画を遅らせてまで拘る愚行は冒さない。


 前世の知識にあるような名前しか知らなかった正経や奇経の概念も、今世で研究を重ねることで副次的に理解したのだが、これまた残念ながらリヴィアには当て嵌まらないらしい。

 この世界の他の人類には使えそうだったが、どういう理由か適用外である。

 まあ、そんな正しい氣功や陰と陽の法則が通用するなら最初からここまで苦労などしていなかったとも言える。


 必要なのはリヴィア専用のオリジナルの経絡の形成である。

 新しい概念、新しい発想、新しい源氣の在り方を一から創らなければならないのだ。

 この際、ついでに魔力神経やESP器官も共生がしやすいように再調整してしまおう。

 この魔力神経とESP器官の関係も、一般には成長と共に癒着してどちらか片方しか発達出来なくなる欠陥器官である性質を改善させてしまいたい。

 明らかにこの世界の人類とは別の進化を辿る事となるが、そこはそれ。

 元から別系統樹なのだと割り切ってそういう可能性として呑み込んでしまおう。


◇◆◇


 『次元魔法』と『転写魔法』を応用して高次元に新たな回路の窓口を仮定義して、魔核の本質である極小単位の異境を経絡の要所に経穴として設置、創世力と神力を用いれば理論通りの安全な運用が可能な経絡核を形成できるだろう。

 しかし経絡核も常人の経穴よりずっと多く必要となりそうだ。

 何しろ氣に混じっている要素が多彩で、それを濾過して分別するフィルターとしての機能は他者よりずっと大きな割合を必要とする。

 常人より遥かに濃くて不純物が多く、構成要素が多いリヴィアには相当数の関所と間口となる経穴の上位互換である経絡核を揃えなければなるまい。

 常人は用水路に関をいくつか備えているだけなのに対して、リヴィアには高性能な浄水施設と計算され尽くした理想的なダムを大量に直列並列のどちらも駆使して建設する必要があるのだ。

 何と言う大事業。


 小さな関程度で氣功を使い熟せる常人には説明した所で理解するのは困難だろう。




[357]

 その作業の過程で、リヴィアの氣の性質のより詳しいデータを取る事に成功した。

 やはり複数の異なる氣の性質が混じり合っており、その根底にあるのは矛盾した二つの根源から発生する異質な概念の要素が要因となっているのだ。

 それが無理に混ざり合い、血に備わった複数の性質毎に変容が起こっているのだから、それは複雑化するのも仕方がない。


 というよりこれ、おそらく魔物を素材とした合成獣と同じなのだ。

 動物や魔獣を素材にした合成獣ならともかく、魔物の合成獣は理論的に未だ不可能である。

 というのも適合する魔核が存在しないからだ。

 例えにするのも難しいが、例えば絶対零度下でないと合成できない物質同士があったとして、そこに更に摂氏2万℃以上でなければ合成できない物質も同時に融合させるにはどうすれば良いのか。

 答えは不可能である。


 それが可能なのは絶対零度に必要な要素と摂氏2万℃に必要な要素を触媒として用意して創造魔法を使うより他に無い。

 つまり全能でなければ矛盾の壁は超えられない。

 だからこそ異なる世界の概念同士で構成された魔物を別の概念で構成された合成獣の素材にしても決して交わらない。

 魔物自体が混じり物なのだから更に混ぜるのも矛盾の許容でどうにかなるのか、という問いにはそもそもこの世界の人々に矛盾の許容の概念を正しく認識している者が居ないのだから問い以前の問題だ。

 見た目だけ合成獣っぽくする事は可能だろうが、実態としては全く伴わない紛い物にしかならないだろう。


 では、リヴィアの内包する要素の矛盾はどこから発生しているのか。

 信じたくないが、これはもう認めるより他に無い。


 『私』だ。


 『私』が異物なのだ。


 真っ当な転生者ならいざ知らず、私は転生者のシステムでリヴィアと同居する形でこの世界に降り立ったが、実のところ転生者ではない。

 私という異分子はこの世界の理からしてみれば異世界の概念そのものなのだ。

 いや、理屈の上では転生システムを利用して誕生のプロセスを経てこうして存在しているのだから転生者と言っても決して嘘にはならない。

 が、こうして別世界の概念体であるのだと、リヴィアの身体が反応しているのだからどう理屈で語ろうとも理論的には転生者に区分されないのは間違いない。


 という事は、リヴィアは理論的には生まれついての【魔人】という分類になるのだろうか。

 魔獣が異世界から流入した異なる概念がこの世界の動植物に悪影響を及ぼして誕生するのだとしたら、魔人とはその人類バージョンである。

 大抵の場合は奇形化するだけに留まったり、変容の過程で生物として成立するのが不可能になったり、免疫機能が低下して細菌に負けて死滅したりと、都合の良い魔人化など机上の空論に過ぎず、目標地点も定まっていないので中途半端か行き過ぎて終わるのが現実なのだ。

 しかし何の因果のいたずらか、極々稀に奇形化に適合した上に更に侵蝕が進んで体内に魔核が形成される者が現れることがある。

 そんな体内に魔核を有した人類をこの世界では魔人と呼ぶ。


 主な発生元は、異境内で不死者(アンデッド)化した者が異境崩壊時の流入に巻き込まれて魔物化した例や、魔物に侵食されたり喰われて融合させられた者が逆に精神を乗っ取り返したり、魔獣と合成させられた人が成れの果てに変化したり。

 一度人類としての死を迎えたり境界が曖昧になったりと異界の概念への抵抗力を喪ってから異なる法則の概念を取り込んで、再び活動を再開した際に魔人と化すのが一般的らしい。


 厳密に言えば、人から不死者に変異した魔物は中途半端な魔人になり損なった失敗作である。

 最もポピュラーな魔人は吸血鬼やリッチだろうか。

 自我や理性はある程度残っているが、異なる概念の侵食により正常からは程遠い思考をしており、完全に人類の敵対者となる。

 まあ、当人からしてみれば敵対者になるつもりは無くても、意図しようとせざるとも必ず悪意に満ちた思考へと変容して、判で押したように他人の命を粗末に扱う傾向にある。


 理性が残っていてすら害なす存在になるのだから、自我や理性を喪った魔人ともなると決して人類とは相容れぬ存在へと変容するのは必然だろう。

 困ったことに理性や知性を維持していても、一見すると話が通じているように見えても、本能的に人類を害なす事に心の底から歓ぶ性質が有るというのだから、人類に都合の悪い変容を齎す魔人化の法則からは歪んだ悪意しか感じられない。

 もしかしたら、聖戦で死んでいった敵性人類の怨念とも言うべき思念のリソースが異境崩壊の流入現象で魔人化現象を引き起こしているとも考えられる。

 または、異なる概念同士が融合した精神構造を形成するのが難しく、人として重大な欠陥を引き起こさせて倫理観や共感性という高度に洗練された意識を構築することに失敗しているという可能性もある。


 仮説は様々だが、どちらにせよ魔人化すると元の人格がどうであろうと悪意という本能を基底として再定義付けされるらしい。

 ついでに自分の悪意を正しく悪意として認識出来なくなるのだろう。


 しかしそうなると、リヴィアにもしも魔人化に近い現象が起こっているのだとしたら。

 私の前の世界から持ち込んだ概念が精神構造に影響を与えている可能性は捨てきれない。

 実際にリヴィアには命を粗末に扱う事に忌避感は無いし、気持ち一つで弱者をいたぶったり救ったりする事に歓びを見出したり、邪悪としか思えない思考回路を持っているフシが多々見受けられる。

 それらがもし魔人だからだと理由付けてしまえば一応の辻褄は合うのかも知れないが、魔人どうこう関係なく元からそういう性質を持って生まれたのかも知れないのだ。

 それを証明するのは難しい。


 どちらにせよ、私はリヴィアと運命共同体である以上、なるべく清く正しく導く責任が有る。

 仮に私が魔人化の原因だとしたら、転生システムに乗りさえしなければリヴィアは生まれてこなかった筈なのだから。

 この世界の転生のシステムはそうなっているのだ。


 魔人か。

 いや、まだそう決めつけるには早い。

 仮に魔人だったとしても善い魔人だって教育次第では育成できる可能性はある。

 現にリヴィアは今のところ比較的良識ある善い子に育っているではないか。

 根源的な隠された本性がどうであれ、とにかく愛情を注いで努力すれば問題を起こさずに社会生活を送れるように育つことだって珍しくないのだ。

 それは私が一番良く理解している。

 今後リヴィアがどう育つか、全ては私の努力次第なのだろう。




[358]

 認めてしまえば着想にも適した概念を用いる事が出来る。

 何にしても他に例が無いので比較も困難なため確定とは言い切れないが、仮にリヴィアを魔核を有さない魔人なのだと仮定すれば色々と観え方も変わってくる。


 前提として魔物の魔核は、年月を経て成長すると共に魔素を取り込むなり他の魔物の魔核や魔石を捕食することで大きさを増していく。

 魔獣にしても最初は魔核を持たないが、変容が進んで魔獣化が進めば魔核を体内で形成するようになるのだ。

 つまり、赤ん坊の頃のリヴィアの身体も私が手を加えて体内環境の改善をしないで放置していれば、あの昏く濁った澱みが徐々に溜まっていって、ある一定の濃度に達したら魔核を形成していた可能性もあったのかも知れない。


 そう。大きく高純度の魔核を有する魔物が魔力の扱いに長けているように、仮にリヴィアが自前の魔核を形成していれば下手に魔力の訓練などせずとも、ごく当たり前に魔力操作技術を体得していた可能性も考えられるのだ。

 と同時に、体内環境も魔核が魔物の矛盾した肉体を維持するように、リヴィアの魔核が維持を担うことで体調も安定した状態になっていたケースも十分に起こり得るだろう。


 つまり、私が自身の知性を過信して慌てて改善処置を施さなければ、自然と魔核を形成して安定した身体と扱いやすい魔力を得られた可能性がある。

 私が手を加えなければ、澱んで扱いにくい体内魔力のまま今日を迎えることもなく、体外魔力に頼る発想も生まれず、身体能力の底上げのための地道な鍛錬も最低限で良かった。

 その場合、わざわざ私が手を加えずともリヴィア本人の努力だけで全て上手く行っていた可能性が高い。


 もし私が手を加えなければ呪災はどうなったか。

 それも魔核が形成された状態ならばアイリスを長時間使えるだけの体力を持ち、あの程度の相手なら遠隔でも簡単に始末出来ただろう。

 いや、そもそも転生者が居なければ呪災は起こらなかった。

 母も死なずに済み、当然ながら私も居ないのなら魔人化することも無かったのだ。

 それこそがリヴィアにとって最も幸福な人生だったのではなかろうか。

 そもそも論で言えば、全て転生者とそれを送り込んだ神が元凶である。


 いや、今更ifを考えても詮無いことだ。

 浅はかな自分が実に腹立たしいが今更やり直しは利かない。

 大変ショッキングで気落ちする内容だが、私は気持ちと仕事は混同しないのが数少ない長所である。

 気を取り直して現状で出来る最善の措置を積み重ねていこう。


 かなり遅まきながらだが氣功のための経絡核と、魔力の安定化のための魔脈核、霊力は安定しているが一応他とのバランスを考えて心霊核を、それぞ重なった高次元領域で別個に形成しておこうと思う。


 となると神氣も見直さなければなるまい。

 これは神の加護や魔核を参考にして構築した擬装加護である。

 それも体を包むように一時的に纏う形で構築した仮初の概念に過ぎない。

 加護をそのまま外殻としたものなので他の要素より桁違いに強力な性能だが、これでもまだ未完成品。

 敢えて理論だけで逆説的に仮設したに過ぎないのだから未完成なのも当然なのだが、リヴィアの本質が力の核有りきで成立するというのならば、日々の鍛錬と研究から派生した別の理論を用いればより特性に適した概念を構築できるかも知れない。


 となれば、成長の余地は残しつつ土台となるカタチが必要となる。

 この身体に最も適していて自在に扱える概念のカタチ。

 となると、アレしかない。

 これの主導権は理性を担当する私が担うのが適切だろう。

 神力自体も私が担当しているので丁度良い。

 身体に依存する他の核に関してはリヴィアの担当区分としておこう。

 元より備えられていて然るべき機能の代替品なのだから当人が担当するのが当然と言えば当然なのだが。


 神力や権能を制御する中枢機構を煌虹核(仮)として創造する。

 カタチは『虹色の剣』だ。

 氣は経絡核、魔力は魔脈核、霊力は心霊核、念力は思念核、神氣は仮想位階核、と分業をする。

 今までは意地でも全てを手動制御してきたが、それも全ては鍛錬の一環。

 仮説として最有力となったリヴィアの本来の型である核を基点とした各種能力の運用へと変更すると決めた以上、この新しい仕様に馴れるためにも、これからは完全にモデルシフトして身体に馴染ませる必要がある。


 かなり出遅れてしまったが徐々に適応させていくより他ない。

 今までの手動のトレーニングはもう十分過ぎるほど積んでいるので変更によるデメリットは無い。

 いや、むしろメリットがかなり大きいだろう。

 今までに蓄積したデータから、アーティマトンや分体を使った施術をして臨床データを確認すればすぐにでも実用化に移れる筈だ。


 そもそも分体に複合核を用いていたのに、どうしてこの発想に至らなかったのか不思議でならない。

 分体にはリヴィアの魔力を注いでも安定して魔術が扱えていたのは、何も魔力変質や同調の技術だけが要因ではなかったのだ。

 元より核による制御との相性が良かったのだなと、今頃になって納得した。


 万能が故に何でもやれてしまったのが災いした。

 どんなに非効率的でも実現させられるだけの常識外な演算処理能力の応用で、とんでもなく無駄な労力を惜しげもなく注いでいても、多少不便だな程度にしか感じなかったのだ。

 よもや今になって一から身体の再調整をしなければならないとは。方針転換の舵の切り替えの瞬間とは損失が最大の瞬間でもある。

 惜しいと思うのも当然ながら今がピークなのだ。

 先日発見した古い伝承を元に捜し出したアレも、この際リスク覚悟で再生するべきかも知れない。

 今まで積み上げてきた力を一度手放すのだ。

 仮に私が暫く弱体化するのであれば、それを補完できる者は必要になる。


 やれやれ、やはりどんな者でも一人の思考では見落としに気付くのは遅れてしまうし、失った遅れを取り戻すのも一苦労である。

 となれば、ただの配下ではない仲間が必要か…。






《あとがき》


ついに主人公の欠陥魔力の原因に有力な仮説が浮上しました。

目下思い悩んでる問題に矛盾しない解答が出ると、それが正解であると思わず飛びついてしまうものです。

特に独りで考えていると陥りやすい現象でしょう。


果たして、正解か。或いは、不正解か。


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