ダン活のすゝめ
[348]
さて、いよいよダンジョン開きを来週に控えてしまい、ドルセーラは進退窮まっていた。
「ドルセーラ様、私めは武術科に在籍しておりますバーンズ男爵家のエイラット・バーンズと申します!
どうか、私めの巧みなハルバード捌きをご覧いただきたく存じます!」
「ドルセーラ様!その様な半人前のBクラスではなく武術科Aクラスの俺の戦斧術をご覧下さい!」
「ええい下がれ武術科の脳筋共がっ!筋肉が感染ったらどうするつもりだ!
公女様には魔術科である我こそが相応しい、お前達はバナナでも食べながら筋トレでもしてるのがお似合いだ!」
「おい今俺のことゴリラっつった奴表に出ろ!」
「よし良いだろう、そこの広場で叩きのめしてアピールに使ってやる」
「ドルセーラ様、どうかこの中級魔術士ボルトンを採用して下さい。決して後悔はさせません!」
「が、学術科ですがっ!痛てて、治療術使えます!どうか、どうか私をっ…」
といった感じで、放課後に校舎から出るや否やアピールに来た生徒達に群がられている。
〈タスケテ…タスケテ…〉
とハイライトを失った目でアイコンタクトしてくるが、教員に書類を提出して少し遅れてから出てきた私には状況的にも距離的にも今すぐ助け出すのは難しい。
だから前もってメンバー集めをして編成を決めるように言っておいたというのに。
何故こんな事態になってしまったのか。
一言で言ってしまえば目論見が甘かったせいなのだが、ドルセーラの見積もりそのものは一回生としては決して間違いではなかった。
単位としてはダンジョン開きから前期末試験までに初級ダンジョンへ一回以上入っておけば、ひとまず問題にはならない。
一回生は強制的にPTでの参加しか許されておらず、単独での挑戦は二回生以上で進級した生徒に限られる。
つまり一回生なら実力があってもPT編成は必須なのだ。
とは言ってもダンジョン開きから二ヶ月の間に一度でも参加すれば良いのだから条件自体はかなり緩い。
理屈の上では一ヶ月くらい様子見してから、適当なPTに入って挑戦すれば済むのだから急ぐ必要性も無い。
が、それは普通の学院生の場合の話である。
「下がりなさい男子共。ドルセーラ様が困っているじゃない」
「どうかご安心下さい。ドルセーラ様は私達のグループがエスコート致しますわ」
「ちょっと、抜け駆けなんて感心しないわね。ここは公平に決めるべきでしょう」
「公平?何を言い出すのかと思えば、人数ばかり揃えた下級クラスのパーティでどうエスコートなさるおつもりかしら。実力の無い方が気軽に話し掛けて良い方ではありませんのよ」
「そういう貴女達は少々家柄に難のあるお供ばかり引き連れておられるご様子。どうやらご自分の立場をよくご理解なさっていないみたいね」
「あら、言っていて恥ずかしくならないのかしら。ダンジョンの中で家柄がどう守って下さるのでしょうか。もう一度ちゃんと授業を受け直してはいかがですか?」
そう、ダンジョン自体の条件が緩くて簡単という事はそれだけ他の部分に労力を回せるだけの精神的な余裕を生んでしまう。
それこそ、貴族の見栄やシェアの奪い合い、押し売りからグループ同士の牽制まで、余計な面倒事のオンパレードである。
どうにも今まで周りに守って貰ったり、もっと大きな陰に隠れてやり過ごしてきたドルセーラはこうした面にはやや疎く、先手を打つ重要性を正しく認識していなかったフシがある。
とはいえ、この程度のいざこざなど可愛いものだ。
助け舟は出すにしても、安全な内に学ぶ機会は与えるべきだろう。
それに必死に売り込みをかける生徒達もこれは第一陣。
二陣や三陣ならともかく、最初にドルセーラを選んだ者達なのだ。
無下にするのは容易いが、集まった中で使えそうな生徒がいればピックアップしても良さそうである。
「リヴィアゼア姫殿下、お初にお目にかかります。アルセンダルク皇国より参りました魔術科のネルデラスと申します」
「はじめましてネルデラス卿。迷宮の件かしら」
「はい。姫殿下の護衛はまだ定員に達していらっしゃらないとお伺い致しまして。此の度の迷宮攻略は是非とも私めを末席に加えて戴きたく馳せ参じました」
「お待ち下さい。ネルデラス殿は勇者様の護衛騎士のはず。それがどうして王国のパーティへ編入しようなどという事になるのですか。
姫様、どうか他国の者ではなく同じ王国の民としてこのウィルヘルムが御身の身辺に近寄る輩からお守り致します!」
「ほう、それは聞き捨てなりませんね。ウィルヘルム殿は私が姫殿下の身を危険に晒すと仰っしゃりたいのですか?」
とはいえ、こちらはこちらで群がられている。
既にPT編成は提示済でも結構来るのだから彼等の意欲は本物なのかも知れない。
という訳で目が死んでるドルセーラの所へすぐに駆けつけられる状況ではないのだ。
空き枠の都合上、全く意思表示していないドルセーラの方が売り込み人数は多い。
それに主が戦力外として認識されているであろうリヴィアの下には、敷居が高くて余程の自信がある者しか来られないという側面もある。
今頃はトフィアスの所にもここ以上に人が集まっているのだろう。
人気順で言えば、勇者≧聖女≧王子>公女>小魔王だろうか。
他の主だった所は既にPT編成済なので空き枠があってもアピールに来る人数自体は多くない。
勇者や聖女は身内だけで前もって編成も決められるだろうが、敢えて事前に全席を決めてしまわずに宣伝も兼ねてメンバー募集している。
当人がどう思っているかは不明だが、一般公募枠を作るのもイメージ戦略として後押しする者達の思惑が絡んでいるのは明白。
トフィアスは組織内の自称臣下候補達による席取り合戦の真っ只中ですぐには決められないだろう。
組織内派閥の力関係を考慮した上でバランス良く採用を検討しなければなるまい。
性格的にあまり強く出られない彼のことだ。どれだけ下の者達に振り回されているかを思うと、本当にお気の毒さまである。
「姫様。お会いできて光栄です。2年前の恩寵の儀で妹の付き添いで大聖堂へと訪れておりましたエストリシャで御座います」
「あら、それならお声をかけてくださればよかったのに」
「いえそんな畏れ多い。あの時はご一緒されていた王太子妃殿下とトフィアス王子殿下の手前、お声掛けするのは憚られると思いご挨拶に伺えませんでした。
しかし、こうして同じ年に学院へと通えたのも神の与えた縁あっての事に違いありません。どうか私の忠誠を捧げさせて下さい」
前もって生徒全員のプロフィールは頭の中に入っている。
ネルデラスは皇国の侯爵家。
ウィルヘルムは王国の伯爵家。
エストリシャは男爵家だが叔父は伯爵だったか。
さて、目ぼしい高位貴族の子女は十分釣れた。
彼等を採用する気は無いので、期待を持たせてしまい少しは申し訳ない気持ちも無い訳ではないが。
そこはそれ彼等も選ばれないリスクは承知の上でやって来ている。
少々面倒ではあるが、それなりの補填と役得を与えれば十分に満足してくれるだろう。
今後の布石として、アフターケアも忘れない優しいリヴィア姫として振る舞うことを怠ってはならない。
[349]
昨日の売り込み騒動は学院の想定以上に大きくなり過ぎた。
毎年PT編成申請書の受け付け開始初日は大騒ぎだったらしいが、今年は例年の比ではなく生徒会だけでは収拾がつかないとして例外的に学院側が動く事態となった。
現在のところ表面上は少し落ち着いている。
今年は主だった顔ぶれや肩書きが百年に一度と言われるレベルだからか、事前の対策だけでは対応しきれなかったのだろう。
「ごめんなさい。私のせいでリヴィアにまで迷惑をかけてしまったわ…」
ドルセーラはすっかり参ってしまっている。
「元気出してくださいドルセーラお嬢様。トールの作った絶品アップルパイでもお召し上がりになられてはどうです」
「ありがとうエスメラルダ。それはいただくわ」
「お姉さま、こうなっては早急にメンバーを集めなくてはなりませんね」
「うぅ、どうしてリヴィアと同じパーティじゃ駄目なのよ」
そう、今回のダンジョン攻略はプロシアから姉妹で別々にPT編成するようにと通達があったのだ。
一回生のPTメンバーは3〜6名で申請する必要があり、仮にドルセーラと組めばアルトとシドを入れて4名が埋まる。
どうもそれが問題らしい。
どうやら姉妹でべったりなのはセシリアとミルミアナの例で悪い面を散々観てきたらしく、同じ轍を踏ませないために直前になってから別PTでの実習参加を言い渡してきた。
意図を理解した私はすぐに使いを出してメンバーを確保してから申請書を提出したが、残念ながら余裕を見てからゆっくり決める気だったドルセーラは案の定後手に回り窮地に陥ってしまったのだ。
「ドルセーラお嬢様もご友人を誘ってみてはいかがですか?」
「そうです。セイを誘ってみてはどうですか。きっと力になってもらえますよ」
「え、セイってリヴィアのパーティに入ってるんじゃないの?」
「いいえ」
「でもリヴィアはもう申請書提出してるのよね?」
「はい」
「てっきりセイを誘ってるものだと思ってたわ。じゃあリヴィアの所のメンバーって誰なのよ」
「事前に話を通していた方にお願いしました」
「う、そうなの。早朝訓練もお昼も一緒にしてるし授業にも出てるのに、いつの間にこんなに差ができてるなんて…」
そうは言うが放課後の使い方はまるで違うのだ。
こちらは工房で役立つ魔術具を制作しているし、魔術協会へ送る論文をまとめたり、アルトとヒルデの訓練も監督して、リンデノート領の報告を受けて領地経営にも指示を出しているし、王都のオクタヴィア宛に手紙だって送っている。
リンデノート領に新しく作った村の事はほとんど任せきりになっているが、そちらは別口を通して現状把握は万全である。
「けれどセイを誘ってもまだ3人よね。パーティの最低人数でも納得してもらえるかしら」
「それは無いですねー。リヴィアお嬢様と一緒の班になることを許可なされないのも、4人で2人を守るより、5人で1人を守る編成をお求めなのでは無いでしょうか?」
確かに、定員がある以上は護衛の人数を最大にするにはその方法しかない。
護衛任務の多いエスメラルダらしい意見だ。
「この際ですから、お姉さまも同じクラスの方に声をかけてみてはいかがですか」
「うっ、私が一度も話したことのない相手に自分から話し掛けるなんて無理なのは知ってるでしょ」
Oh、何というボッチ発言。
「大丈夫ですって、ドルセーラお嬢様に話し掛けられたら二つ返事で承諾して貰えますよ。きっとパーティ申請取り消しても編成し直してきますから」
何て事ないと言わんばかりにからからと笑うエスメラルダ。
まあ実際に声を掛ければそうなりそうである。
「そんなの悪いわよ。はぁ、やっぱり立候補してきた中から選ぶべきよね。彼等もパーティ決まってないみたいだし」
それはどうだろう。
あれだけ積極的になれる人種なら駄目だった場合に組む相手の伝手くらいは当然持っていると思うが。
「お姉さま。今こそリストを使われてはどうですか」
「リスト…、あぁそうね。でも顔と名前が一致するか自信無いから、少し手伝ってもらえるかしら」
「ええ、もちろんです」
リストとは、二人の同時お披露目会に参加した貴族達の子女の名簿の事である。
予め派閥形成の為に参考資料として渡していた物だ。
「ねえ、もしかして今回立候補して来た生徒も全部リスト化してたりするのかしら…」
「ふふふ。ご覧になりますか」
「やっぱり持つべきは優秀な妹よね…」
◇◆◇
エスメラルダの持ってきたアップルパイを食べながらリストと一致した生徒をチェックする。
因みに、ヒルデは既に英雄科PTに所属させており活動中。
アルトにはメンバー候補者への伝令役として一走りして貰っている。
シドは自主トレ中だ。
「こうして見ると凄いわね。リヴィアの所には結構な家柄が並んでいて、私の所には下級貴族家ばかりだわ。誰に付いた方がいいのか、皆もよく分かってるのね…」
「身分に関係なく募集している勇者さまや聖女さまの所には平民出身者も多いみたいですね。トフィアスさまの所には私達の所に来た人数を合わせたより多く集まっているはずです」
リスト化はしていないが、分霊を通してその辺りは把握している。
「はぁ…。決めるのはいいけど、断ることを考えると頭が痛いわ。一生懸命アピールしてたのに何だか断りづらいもの」
「それなら尚のこと早くお返事してあげなくてはなりませんね」
「どうして私の所になんて来たのかしら。将来だって中央から離れるつもりだし、期待なんてされても何もしてあげられないのに」
自己評価が低いのは解るが、どうやらドルセーラは自分の価値をよく理解していないらしい。
貴族家出身であっても誰もが目先の利益ばかり追い求めている訳では無い。
野心より保身や平穏を望んでリスク回避を優先する者も少なくないのだ。
確かにドルセーラに付いても出世も利権も望めないだろう。
しかし、表向きはファナリア家三女に付いている=見た目だけ大公派傘下の建前を得つつ、実権が無いので派閥内でも脅威度が低く敵を作りにくい。
つまり下手に目立たなければ内外からちょっかいを掛けられにくいのだ。
これは貴族界隈を上手く渡れる自信の無い、繋ぎで家督を継いだような凡庸な者には駆け引きをせずにやり過ごすという意味では理想の軒先となる。
そこまで計算出来ない者でもドルセーラを観れば、無茶振りはしなさそうという印象だけでも弱小貴族には有り難い存在である。
「お姉さまの人柄に惹かれたのかもしれませんよ」
「私そこまで性格良くないわよ。性格で選ぶなら全員リヴィアの所に行ってなきゃおかしいもの。
従者の扱いの良さとか、そういう所で評価されるものでしょ」
リスク回避優先組にとって、無茶振りをしない主は望む所だろう。
同じ大公派であっても、セシリアやミルミアナに圧力を掛けられたらと想像すればドルセーラに付きたくなる者は必ず居る。
「でも、初日に集まった人数は否定できない事実です。せめてお姉さまを選んだ方には後悔しない選択だったと思っていただきましょう」
「セイを誘わなかったとしても選べるのは4人までなのよ。少なくても10人は断らないといけないし、知り合いが居ないのも緊張するからセイも外したくないもの。でも承諾してくれるって決まったわけでもないし…」
ネガティブモードに入ってしまわれた。
「お姉さまはまずリストから3名を選んで声をかけることだけ考えてください。セイのことは私からもフォローしますから」
「ねえ、なるべく穏便に断るにはどうすればいいのかしら?」
「ふふ。まずは選ばないことには断るところまで話は進みませんよ」
「それはそうだけど…」
まあ、ドルセーラの懸念点は既に解決済みなので後は動いて貰うだけなのだが。
気分が落ち込んでいるからなのか、ヘタれた牛並みに腰が重いらしい。
姉の世話を焼くのはリヴィアも満更ではないみたいなので良しとしよう。
[350]
欲している物を見抜ければ、交渉に余計な手間は不要である。
正確に見抜けているか判断が付かないから余計な探り合いや牽制が必要となる。
嘘の無い世界には余計な交渉の手間も要らなくなるだろう事は、浮遊大陸の国の例を上げれば明らかなのだ。
真に高度な政治とは、壮絶な頭脳戦も舌戦も駆け引きも不必要である。
そんな事をしている内はまだまだ未成熟で程度の低い知性しか持ち合わせていないという何よりの証明だろう。
◇◆◇
「ドルセーラ様。本日はこの様な素晴らしい席にお招きいただきありがとうございます!」
「え、ええ。喜んでもらえて良かったわ」
「公女様。我ら一同を代表して、こうして温情に預かれる機会をお与え下さり心より感謝申し上げます」
「ええい厚かましい。高貴な方々を差し置いて誰が代表か。これだから魔術科の連中は鼻持ちならん」
「またお前か武術科のゴリラ共め!大人しくバナナオレでも飲んで寮で筋トレでもしていれば良いものを!」
「何をコイツめ、バナナオレを馬鹿にするな!」
あれからドルセーラのPTにセイを誘ってすぐに返事を貰い、リストにあった3名をピックアップしてPTメンバーは決定した。
リヴィアのPTは初日に4名で申請していたが実は最初から残りの枠は内定していた。
ドルセーラへ流れる立候補者を分散させつつ、家格の高い子女をこちら側へ誘引する為に敢えて空きがあるかのように振る舞っていただけに過ぎない。
「ドルセーラ様。私達までお誘い下さり光栄です」
「きゃあ、見て見てネルデラス卿までいらしてるわ、どうしましょう!ドルセーラ様、私からお声掛けしてもいいのかしら?」
「大丈夫…なはずよ。ここに来てる方々は皆同じ目的でいらしてるから、私のことは気にせずどうぞご挨拶にうかがって下さい」
「ありがとうございます。このお礼は後日必ず!」
あの日ドルセーラの下へとアピールに来て選ばれなかった者達に招待状を送らせ、こうして大々的に婚活ならぬダン活の場を設けて自由にPT勧誘出来るようにと取り計らったのだ。
勿論、リヴィアの下へとアピールに来た者にも直筆で招待状を送っている。
彼等の多くは第一に私達に顔と名前を覚えて貰う事と、第二に接点を持つ事、そして第三にPTメンバーを勧誘する事が目的である。
大公家主催のお茶会兼ダン活に招待されて他家の有力者とも接点を作りつつPT編成まで決まるのなら、十分に満足して帰れるというものである。
「うぅ、疲れたわ。笑顔が筋肉痛になりそう」
「お疲れさまです。ふふ。皆さん満足そうでお茶会を開いて良かったではありませんか」
「そうね、一人一人お断りせずに済んで本当に助かったわ。
それにしても、あのヴァンスターク侯爵家の御曹司までいつの間に味方に付けてたのよ。てっきり争奪戦のライバル派閥にでも入るものだと思っていたわ。
あそこって他国の公爵家と遜色ないくらいの家柄よね?」
「ふふ。故あってこういう形におさまりました」
リヴィアのPTメンバーとして入れたのがシャリオンとレラジェの2人である。
元より入学前からそういう契約なのでしっかり履行して貰う事になった。
「姫様、それにドルセーラ様。パーティ結成おめでとうございます。
出来れば姫様のお側でお守りしたかったのですが、あのヴァンスターク家の御曹司であれば私が採用されなかったのも納得です。今回は少し残念ではありますが、何かあればいつでもご用命下さい。このエストリシャ、姫様の為ならば何処へでも馳せ参じます」
「ええ、今はお気持ちだけもらっておきます。ふふふ。ひとまず今日のところは会を楽しんでいってください」
「はい、ご配慮戴き感謝致します」
エストリシャは【恩寵の儀】でトフィアスと一緒に居る所を目撃していたと言っていたが、それなら同条件のはずのトフィアスにはあまり興味が無い説明にはならない。
しかし態度から見る限りリヴィア一筋なのは本気らしい。
この手のタイプには覚えがある。
神子ティアーナへの恩義や信仰心のある一族だろうか。
ふむ、少し調べて問題無いようなら別口で採用しても良いかも知れない。
「ドルセーラ様、リヴィアゼア様。本日はお招き戴きありがとうございます」
◇◆◇
今日招いたのはアピールに来ていた生徒だけではなくお披露目会に出席していた生徒も含めてである。
ネームバリューのある人気所には申請開始と共に殺到して大騒ぎだったが、それは全体としてなら半分にも満たない生徒達による席取り争いに過ぎない。
まだ大部分の生徒達にとっては急ぐ案件ではなく、相性の良さそうな生徒を探したり友人同士で班割りを決め始めたばかりなのだ。
「ねえシド、もう挨拶に来てない参加者はいないわよね…」
「はい。先程の方が最後です」
「ああ…、やっと一息つけるわ。少しくらい席外して休んでてもいいわよね」
「ふふ。しばらくはフリータイムです。お茶をゆっくり飲むくらいの時間なら取れると思いますよ」
「リヴィアは休まなくて大丈夫なの?」
「ええ、少し話したい方がいるので。お姉さまがお戻り次第、少し休む時間をいただきます」
「そういうことなら先に休ませてもらうわ。主催だものね、何とか気力回復してくる」
私達の白金寮に招いてのダン活の主たる名目は、フリーな生徒同士で顔合わせとPTへの勧誘を自由に行って貰うためである。
では目的は何か。
敵と味方を確認するためだ。
この会を遠巻きに観ている者達の質と緊張感から、次の手の時期を推測する。
(リヴィア様。西200m、別の寮からの監視は2人。北西350m、こっちは学院の監視塔。北東600m、たぶん教官の1人の使い魔)
(そう、そのまま観察を続けなさい)
アルトの広域感知技術を磨くために放置して利用しているが、どれも無害な連中だ。
南西2700m地点で別の寮を監視してる者や、東4100m地点で場所取りをしている者までは流石に感知圏外なのだろう。
おそらく『敵』だが、まだこちらへ実害を及ぼしている訳では無いので好きにさせる。
実に十年振りの敵。待ち侘びたと言ってもいい。
滅多にない機会なのだ。
万全の準備をしつつ、なるべくなら彼等の手の内を解明したい。
《たまには本文の解説》
PTはもう決まっているのに決まっていない振りをして希望者を釣る。
悪意からではなく、れっきとした作戦として。
現実的な思考をしていれば当然取り得る手段です。
希望者側もそうなるリスクは承知でアピールします。
そもそも目的としてはPTに入れずとも、PT希望という建前で上位の貴族に顔と名前を覚えてもらう為に行くものです。
子供ではそこまで考えつく子は少ない?そうかも知れません。
ですが、両親のどちらかに学院の卒業生が居るなら当然それくらいの入れ知恵はされています。
アピールに来た人数が姉より少ないのも、純粋なPT希望者以外しか来ていないからです。
勇者の配下が来ている描写からも、それが表れていますね。
そして、わざわざ後出しの追加メンバーの方にヴァンスターク家からの二人を入れる辺り、選考落ちした者達に対して有無を言わさぬ意志が垣間見えます。
差別は何も蔑む貶めるだけでは無いという事です。
それでも誰も非難するような事にはなりません。
ダン活パーティーでのマッチング。これは大変褒められた行為ですがその実、ここでも有無を言わせません。
主人公はお茶会を通して、暗に「顔と名前を覚える代わりに、その顔と名前をお借りしますね」と言っています。
自分にアピール目的で来た者達のネームバリューをカウンターで利用して選考落ちした者達に充てがわせた訳です。
招待状を直筆で送る辺り、名前を覚えた事を暗に伝えていますが。
彼等にしてみても対価も無しに表面上だけ覚えて貰った振りをされるより、よっぽど信用出来ます。
主人公のやっている事は、明らかに権力を笠に着た行為そのものですが、現代地球の日本でも日夜当たり前に行われている行為でもあります。
ある意味、権力を正しく有効活用をしているとも言えますね。
真に頭の良い人物というのは、知能の高さや知識の深さや発想力のある者を指すのではなく、物事を見極めて適所適所に有効活用出来る者を指します。
少なくとも、この主人公はどんなに高度な知能や知識や発想を持って来られても、それだけでは脅威に感じません。
でも、これらの行為の全てがまさか見通しの甘い姉へのちょっとした手助けのつもりでやっただけだとは、誰も気が付かなかったでしょう。
真実を知ればドン引き待った無しです。




