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1000通りの計画  作者: Terran
第二章 リンデノートの小公女
6/99

リンデノートの小公女

【二章開幕】

この章からはリヴィアも成長して会話が可能になったので会話パート有りです。

新キャラも含めて、ようやく人物ごとの表現が解禁されたストーリーが始まります。


【幼年編】


[089]

 精神の成長とは向上心の表れである。

 向上心を失った者に精神の成長はない。


 リンデノートの山間にある眺めの良い避暑地の一角で、今日も大量の本を読み耽る幼女が一人。

 薄っすらと陽光色の燐光を放つ金糸の髪に、ヴァイオレットからエメラルドグリーンへのグラデーションの煌めきを持つエリュダイトカラーの瞳。

 神秘的な天空人(セレスティア)の神々しさと高貴で清廉なる森人王族(ハイエルフ)の血を引く至宝の美幼女。

 それが私、リヴィアゼア・エル・ファナリアである。

 最も、それを披露するような相手は使用人達とたまに訪れる家族くらいなものだ。

 ここは町からも距離が有り、警備の目もあるため間違っても人が迷い込んでくることはない。

 だから庭の石垣の先にある林からこちらを覗うようにしている不審者に気付いていても目は向けないし、わざわざ読書の中断をしないとならない理由もない。

 私は忙しいのだ。


「お嬢様、お茶をお持ちしましたぁ」


 この娘はヒルデラーナ。専属使用人として付けられた私より3歳上の少女。

 薄紅色の髪と蒼く澄んだ色の瞳をした快活そうな雰囲気の通り明るく活発である。


「いただくわ」


 私としてはテラスでお茶を飲みながら読書をするのも悪くはないが、今は別のことに興味を持っている。


「ねえヒルデ。おねがいあるの」

「はい、何でしょうか」


 私は今育成計画に興味があるのだ。


「エリックがにわのウリがたくさんとれたって」


 ヒルデは笑顔を崩さず応対する。


「お嬢様。明日はデイビッド先生がいらっしゃいますし、その時についでに運んでもらいましょう」

「しんせんなほうが、おいしいの」


 ヒルデの笑顔が強ばる。が観念したようだ。


「かしこまりました。いつものように孤児院に届ければよろしいのですね」

「うん、いんちょうさまによろしくね」


 ここから町までは片道約15km、今は昼過ぎ。

 急いで行って挨拶をして帰ってくれば夕食には間に合うだろう。


「くらくなるまえに、かえってきてね」


 ヒルデの顔は完全に引きつってる。


「わっかりましたぁぁ」


 勢いよく出ていくヒルデを見ながら、きっちり一時間で読み終わるように新しい本を読み始める。

 そう、私が今興味を持っているのはヒルデの育成計画である。

 あの娘には才能があるのかも知れないし、無いのかも知れない。

 そんなことはどちらでも良いのだ。


 エリックから籠いっぱいの瓜を受け取ったヒルデが駆けていく気配を感知しながら、重量や坂道を計算すると今の彼女の体力では向こうでゆっくり休む暇も無さそうだなと思いつつ、本の内容を頭の中に入れていく。

 これは暇潰しでも無ければ苛めでもない。

 ただこの世界の人間がどの程度の訓練でどの程度の成長をするのか、そのデータが欲しいのだ。

 ヒルデが選ばれたのは単純に私がいくら課題を出しても問題ない間柄であることと、しっかり達成しようと努める意志があるからだ。

 平均より運動能力が高く根性もあるが、比較的年齢の近い純粋な人間族の成長性を観察するのに実に都合が良い。

 孤児院へ食べ物を届けるのならば誰の目も気にせず実行させられること。

 庭師のエリックにあれこれと植物を注文して育てて貰い実験データを集めていたら、処分に困るほど様々な野菜や果物が実ってしまったのでお裾分けと銘打ってトレーニングに利用している。

 対外的には大公家が作物を無償で孤児院に寄付しているのだから世間体も良くWin-Winだろう。

 ヒルデも一日中面白くもない私の近くで世話をしているより、色んな人と接する機会があって気も紛れるはずだ。

 ここ一年ヒルデを育成しているが、さすがは成長著しい年頃。実に健康的に体力気力精神力が鍛えられている。


 私ももうじき5歳になる。

 この世界では5歳になった子供は洗礼の儀を受け、神に報告して祝福を授かるのだという。

 将来に関わる大事な儀式であるため、世の子供達にとってはテンションの上がる行事らしいのだが、反面私としてはあまり気乗りはしない。

 興味が無いわけではないが、神から与えられるギフトというのが正直かなり胡散臭い。

 さて、遠巻きにこちらを観察していた不審者がようやく邸内へと侵入してきたようだ。

 あの様子と視覚によるギフトの発動であろう独特な霊体が触られたような感触。

 気持ち悪い。この不快な感触。

 間違いなく鑑定持ちだろう。



[090]

 木を隠すなら森というが、木が無ければそもそも隠す必要はない。

 気配はとっくに気付いているが、私は本を一定のリズムに不規則な緩急を付けて読む手は止めない。

 おそらく鑑定であろう不快な感触にも眉一つ動かさず、ただ相手から話し掛けられるのをじっと待つ。見られて困るものなど私には何も無いのだから。


「やあ、君はここの家の子かい」


 聞いてる本人に疑念や感情の揺らぎがほとんど無い。確信しながら無駄に確認の言葉を投げかけたのだろう。

 私は本を机に開いたまま置いて声のした方を見上げる。人懐っこい顔をした青年が居た。


「………?」


 ただ黙って見上げる。

 少し困った顔をする青年。

 感情にようやく困惑と焦りが出てきた。おそらく何かしらのリアクションを期待していたのだろう。

 残念、リヴィア嬢は人付き合いの経験が極端に少ないのだ。

[驚き2] : [未確認生物と遭遇4] : [警戒4]

くらいの配分で見つめる。

 さあ食らうが良い未確認生物よ。

 ご機嫌を取りたい大人はこういう目をされるのに耐えられない。


「あ〜…、お家の人何処にいるのかな。お兄さん入口間違えちゃったかなあ…」


 居た堪れなくなって聞かれてもいないのに苦しい言い訳を始めた。そこへ丁度庭の手入れが終わったエリックが通りかかる。


「エリック。おきゃくさま」


 すかさず呼び止めて案内をさせる。

 さすがのエリックもこの未確認生物を訝しむかと思いきや、笑顔で応対する。顔見知りだったのだろうか。


「また後でね」


 青年はそう言って邸宅の玄関へと向かっていった。

 くたびれた帽子にヨレヨレの外套、浮浪者と言われても仕方がない格好をしていたが、冒険者かなんかだろうか。

 視た限りでは魔力が非常に高いこと以外はさほど目立つ訓練をしている様にも思えない。

 無精髭は生えていたが歳はおそらく二十代半ば頃。

 年齢的にも達人の域へ到達しようもないだろうが、かと言って実力者にも観えない。


 とはいえ、私は極端に世間との接点が少ない。

 この三年間で親戚や使用人以外に会話するほど近付いた人物の数は両手の指で足りる。

 故に圧倒的なデータ不足で、この世界の人類の基準というものが今一つ分からない。

 一応見かけた相手の目安となる身体データや魔力氣霊力といった要素の詳細は全員分を記録として取るようにしているが。

 そこに青年の情報も加えておく。

 随分と魔力神経が発達しているが、これでは魔力暴走誘発を受けたらひとたまりもないだろう。

 今もこうして生存しているということは誘発技術を会得している者が居ないのか、運が良かったのか、何かしらの対抗策を持っているのか。


 まあそんなことはどうでも良い。

 町へと向かうヒルデの様子を観る限り、このペースなら時間には間に合いそうである。

 さて、今日はどの本を読ませようか。

 基礎体力作りの後は勉学の時間である。



[091]

 夕食時。

 テーブルで向かい合って食事をするリヴィアと未確認生物、もといギルバートという青年。

 彼はどうやら父ライドラスと書類上は養子という間柄らしく、つまるところそれは私の義理の兄ということになるのだ。


「いやあ、やっぱりエストバースの食事が一番ですねえ。色んな国の料理を食べましたが調理技術に関しては人間族が断トツですよ」


 調子良く海外土産話を始めるギルバートに適当に相づちを打ちながら話したいだけ話させることにした。

 あら、とか。まあ、とか。そうなの、とかで話を促そう。


「獣人族は鼻が利くんで味付けは問題ないんですけどね。その分刺激の強い物が苦手なのが多いらしくて香辛料が控えめなんですよ。あと発酵食品も扱わないんですよねえ」


 なるほど発酵食品は人間族なら扱っているわけね。

 料理で出されたことは無いから一般的ではないのか、それとも庶民の食べ物なのか。


「小人族は人間族用の食事にも気を使ってるんですけど、いちいち値段が高いんですよ。足元見てるんですかねえ。

あっ別に身長の話ではないですよ」


 海外の情報を聞きたいから話をさせているが、先程から食べ物の話しかしていない。


「ああ話は変わるんですが、リヴィアゼア様のお好きな食べ物って何ですか。これでも結構料理には詳しいんですよ」


 話が変わっていない。


「リヴィアでいいわ。いまはご本がすきなの」


 義兄に様付けで呼ばせるのは世間的に違和感を与えかねないので修正しておく。

 あと、そろそろ話題を変えて欲しい。


「あっ本ですか、なるほどなるほど。でしたら今度お菓子の本とか持ってきますよ。きっと楽しいですよお菓子作り」


 どうしたらいいのかな。

 ねえ、離れようギルバート、食べ物の話から。

 これはもうこちらから切り出すしか無いのだろうか。

 外国の話を聞かせるんだギルバート。


「ギルバートはぼうけんしたの?わたしぼうけんのお話ききたいの」


 積極的に自分から動くのは避けたかったが背に腹は代えられない。

 男の子なんだから冒険も好きなはず。

 まずはそこから切り口を作っていこうか。


「あっそうですよね。いや食べ物の話も楽しいけど冒険とかにも興味あるんですね。

いいでしょう。このギルバートの大冒険の一部を聞かせて差し上げましょう」


 よし、なんとか軌道修正成功。まずは気持ちよく冒険の話をさせてから海外情勢にシフトさせていこう。


「あれはグランレリア大陸に渡り大生林へと足を踏み入れて2日ほど経った頃。

僕と仲間達が野営でグリンギィボアの肉をどう調理するかで熱く意見を交わしていた時」


 そこでも食べ物の話をしていたのか。


「耳をつんざくような大きな咆哮と共に、僕達の頭上を一匹の竜が飛んでいくのが見えた。

仲間達が慌てているのを見て、僕は咄嗟に予め決めていた緊急時の対応に添って行動するように呼び掛けた」


 ふむ、冒険者たるもの緊急時の対応の速さは命運を分かつもの。

 本当にギルバートが指摘したのかは疑問だが、結構ちゃんとしたパーティだったのだろうか。


「冒険者にとっての緊急事態にはいくつかあるんだけどね。

まず危険な魔物との遭遇時は周囲の確認と退路の確保。

旅先での重傷の場合は血の臭いで魔物や危険な猛獣が寄ってくる危険があるから傷口の洗浄と簡単な処置と臭い消し。

遭難の場合は水と食料の確保。が優先されるんだよ」


 マニュアルとして冒険者はこういったことをしっかりと学んでいるのだろう。

 強大な魔物との遭遇は焦りから視野が狭くなりがちだ。

 敵と退路にばかり気を取られず周囲の様子の確認も咄嗟に行えるかでも可能性を広げ生存率は変わってきそうだ。

 それに重傷者の手当てでも臭い消しをするかどうかでも大きく生存率に関わりそうである。


「すぐに仲間達は取り掛かった。

周囲の危険を確認する者。退路を確保する者。咄嗟に消臭の煙幕を張る者。

そして僕はボア肉の下処理をして火を入れた」


 おおい待て何やってるんだギルバート。

 何で危険な魔物との遭遇時に食料の確保を始めるんだ。

 あとどさくさに紛れて自分の調理方法を優先してないか、熱く交わしていた仲間の意見はどうした。


「しばらくして近場に竜は降り立っていない事を確認してから、僕達は慎重に目的地へ歩を進めたんだ。

鬱蒼と茂る不気味な森の中、竜の脅威に緊張を張り付かせながら進む一行。

ふと仲間の一人が何かを見つけた。

狩人の使う抜け道だった。

僕達は人の住む集落が近いことに安堵して歩を早めた。

僕も何か仲間達に貢献しなくてはと周囲をくまなく探し、ある物を見つけたんだ」


 話題変えのために振った話ではあったが、存外ギルバートは本格的に話をしてくれている。

 パーティメンバーも落ち着いて行動しているように思える。


「僕が見つけたのは、なんと幻とも言われる珍味。白夜光茸だったんだ」


 おいギルバート、いい加減にしろよ。

 さっきから何なんだお前は。周囲警戒しろよ。

 いつまで食料確保してるんだ。


「命からがら集落に辿り着いて村長に竜を見かけたこととその位置を報せて、周辺の村へと注意を促した。

後にその時の報告が実を結んで組合から派遣された冒険者が竜を倒したんだ」


 実力の足りない者でも報告一つでその後に大きな影響を与えることがある。

 この世界の冒険者組合はしっかりと機能しているということだな。


「ギルバートは竜たいじしないの?」


 ここで冒険譚に憧れる少女らしい言動を挟んでおく。


「いやいや、僕達は別の目的地へ向かう途中だったからね。竜退治はそういうのを専門にしてる冒険者に任せるのが一番確実なのさ。

それに僕達は別なことに興味があったからね。

それどころじゃなかったんだよ」

「べつなきょうみ?」

「それはもちろん、白夜光茸を使ったボア料理さ!」



[092]

 現在リンデノートの大公邸には私とヒルデ以外にファナリア大公家筆頭の執事長エスクラッド。

 侍女長フランシスカ。

 二人の娘で私の護衛の侍女エスメラルダ。

 庭師のエリック。

 料理人のトール。

 以下、私に近づくことを制限された使用人達。

 そして義兄のギルバートがいる。

 私とヒルデ以外の制限を受けていない全員に従軍の経歴があり聖戦の経験者だ。

 特にエスクラッドとフランシスカ夫妻は祖父ジェラルドの直属の騎士として共にいくつもの聖戦を戦い抜いた歴戦の勇士であり、未だ現役のオーラが滲み出ている。


 三年前の事件から祖父は笑わなくなった。

 以前の聖戦で戦っていた頃の険しさが戻り、積極的に政務や海外訪問をするようになり、邪教撲滅のために法の締め付けを厳しくしているという。

 祖母プロシアは激務のジェラルドに代わり大公領の仕事をしなければならず、父ライドラスと分担して所領の統治に尽力している。

 ファナリア大公家の総意で私リヴィアには手勢で最も信頼できる配下を付けて山間の小領地リンデノートで安全に暮らすように手配された。

 ここは元々母ティアーナの所領であったため法律上は私が相続しており、祖母が後見人となることで未成年ながら私の直轄領ということになっている。

 そこで自領こそ持たないが爵位を持ち実務を担当できるエスクラッドやフランシスカが付けられているのだ。

 町の衛士達も私の身の安全のために邸宅に派遣されており、私の身の周りは自由と引き替えに王族よりも厳重なセキュリティ体制を敷かれている。

 今回のギルバート帰国も魔術的な防衛のためではないかと思われる。


 エスクラッドに聞いた限りでは、ああ見えてギルバートは国内でも指折りの魔術師らしい。

 祖父が理事を勤めるクリムワイエ魔術学院でも首席で入学、次席で卒業したらしい。

 どうせならどちらも首席であれば尚良かったのだが、実にギルバートらしい残念さだ。

 そのことをギルバート本人に確認したら魔術の腕は断トツでトップだったらしい。

 魔術学院で魔術が断トツの成績だったのに首席になれないということは、裏を返せば他で台無しにしているということを白状してしまっている。

 何をやらかしたんだギルバート。



[093]

 三年前のあの日から世界情勢は一変した。


 確認されただけでも神子の死者数31。

 神子の直系の子女の死者数88。

 その他の死因が似た死者数200名以上。


 聖戦の戦死者数から見れば合計人数こそ少ないが、神子の死者多数は前代未聞。

 国の要職に就く者も大勢亡くなっている。

 各国は聖戦の敗戦以上の衝撃と大損失だと捉えており、この未曾有の危機に形振り構わず徹底的な改革を余儀なくされた。

 世界各地で大規模な邪教狩りが始まったのだ。


 特に我がエストバース王国では鬼気迫る様相で、疑わしき者は誰であろうと容赦せず、犯罪者の一斉摘発や大粛清が決行された。

 遂には他国の邪教対策にまで口を挟み、内政干渉とも取れる様な恫喝すら辞さなかったというのだから正気の沙汰ではない。

 グレーゾーンだった部分の大半はクロとされ、邪教の手掛かりになりそうな箇所はしらみつぶしに捜査され、犯罪の温床はことごとく解体された。

 末端では邪教とは関係なくとも目を付けられれば自白を強要されていたのだろう。

 まるで前世の知識にある魔女狩りの様ではないか。


 こうした世界の動きにまで発展した背景には、神子を擁するのが大国や国の上層部に集中していたことが大きい。

 亡くなった神子の親類縁者には大抵どこかの王族や大貴族が居るのだ。

 彼等の恨みと権力が合わされば世界の法すら覆すことが出来る。

 ましてや神子は国の救世主で大英雄でもある。

 過度な強硬政策を反対するべき立場の団体であろうと構成員は人なのだ。

 彼等の多くも神子を殺害した者達が赦せなかった。

 民意まで味方した以上、止められる者は居ない。

 斯くして世界は否応なしに変革することとなる。


 私がこうして日々のんびりとヒルデへの日課のトレーニングや、自分自身の秘密鍛錬を課している間も、世界では変革に巻き込まれた転生者達には様々なドラマがあったりするのだろう。

 情報としても幽体で盗み見れる範囲のことしか分からない隔絶された平和な田舎領内では、そうした血なまぐさい事件は対岸の火事である。

 私に出来ることと言えば、大人達が大掃除をしている間にすくすくと育つという一点において他ないのだ。



[094]

 一斉摘発により汚職貴族や軍関係者も多く失脚したため国力も著しく低下した。

 しかし変革の間も時は待ってくれない。

 世界は焦っていた。

 次の異境の出現までに立て直すことが出来なければ聖戦での大敗を覚悟しなければならない。

 それだけは何としてでも回避したかった六神連盟はリスク込みである決定を下した。

 邪教撲滅に最も貢献した審秘局へ一段階上の権限を与えることである。


 これを受けて審秘局は更なる審秘官の人員増加と選定基準の見直し、独自の権力を持つにまで至った。

 彼等には国への申請さえすれば独自の裁量で貴族や軍部にも捜査をする権限が与えられた。

 もちろん誰にでもという訳では無い。

 王族やその血縁たる一部の大貴族は対象からは外れているし、捜査権限を持つのは六神連盟に加盟する各国に新設された役職である国家審秘官の資格が必要である。

 さすがに独自裁量権を与えることには慎重にならざるを得なかったようで、連盟内でも揉めに揉めて最終的な決定には二年を要した。

 が、私の見立てでは今回の決議に関しては決定すること自体には最初からほぼ満場一致だったのだろうと考えている。

 ただ国政や軍備増強の見通しがある程度立つまでの期間は最終決定を先送りにして時間稼ぎをしていたのだろうと推察する。

 建前としては前例の無い国家審秘官に高い権限と独自裁量権を与えることに対する臣民の不安の声に対して理解を得てもらうためにどうしても必要な期間だった。とか、おおよそそんな所だろう。

 よくある政治屋の情報統制だ。

 それも勿論嘘ではないし事実なのだろうから建前としては申し分ない。


 しかし審秘局としても国家が倒れてしまっては困るのだ。

 審秘局の更なる権限拡張により選定基準の引き上げが先に決定されてから軍備増強や国政回復を計ろうとも、新設一番の大仕事であるからには手を抜けない。

 いちいち厳しくなった選定基準や無駄な手順の多いマニュアルを徹底しながらでは早急な軍備増強など望めないし、デモンストレーションを交えながらではとにかく時間が掛かって仕方がなくなる。

 無駄な費用も嵩むし時間も労力も奪われる。

 しかし権限付与決定を遅らせれば面倒な手順や慣れないマニュアルを用いずとも、遅延中だけは既存のスタイルで早急な対応が可能なのだ。

 どちらの方が良いかなど比べるべくもない。

 そもそも大粛清の直後でフットワークの軽くなった国家だ。足を引っ張る者が居ないなら余計なことをしなければ人員配置も補充も、不穏分子の入り込む余地のないスムーズかつ健全な採用を可能とする。


 むしろ、今までの選定基準がおそらく半分も守られていなかったのを基準通りに戻しただけでも十分効果がある。

 つまり審秘局の権限拡張すらも建前なのだ。

 要するに今回の権限拡張の目的は今までのグダグダ選定を全てチャラにするための方便が半分。

 同じグダグダ選定に戻りにくくする予防措置というのがもう半分である。

 国政なんてのは本来の形でキチンと守られてれば問題無いように出来ている。

 グダグダのズブズブのドロドロに腐敗するからおかしくなるのであって、新しい決め事や締め付けを加えなくとも掃除さえ出来れば元と同じ政策のままでも大抵は上手く回るのだ。

 ただそれではグダグダズブズブドロドロを見てきた人からすると心情的に同じでは生ぬるい、間違っていたと感じてしまうから建前として政策を変えるのである。


 前世の記憶がある私からすれば、この国の政治はまだ健全な方だと思われる。

 掃除さえ出来れば立て直しの目処がつくのは政治屋に仕事の出来る優秀な人材がいる証拠だ。

 わざわざ私が心配せずとも今のところ国政には干渉しなくても良い範囲だと推察する。

 転生者の手など必要ないのであればそれに越したことはない。



[095]

 国家審秘官が就任して間もなく。

 新規登用された重役のお披露目を兼ねて国の要請で要職に就く高官と王族や親類は国家審秘官の審秘眼による判定を受けた。

 新装開店とばかりに審秘局もそれに乗じて順次審秘官を各地に派遣して国民全員の判定という一大プロジェクトを決行した。

 表向きは悪の芽の早期発見と撲滅。

 民衆に安心を与えるため。としている。

 埋没した神子やその血族を探し出すことや、優れた人材発掘も兼ねており、国家や地方領主の協力によって実現した。

 これにより戸籍漏れも一新し、貴族の隠し子の後出しを防ぐことにも一役買った。

 この時に私のことも念入りに調べられた。

 それはそうだろう。

 神子の子供ならば神子でなくとも次代に神子を産むことが出来るかもしれない人材だ。

 何より殺害対象でありながら生存した数少ない一人なのだから調べないわけには行かない。


◇◆◇


 ディランという名の噂の国家審秘官は浅黒い肌と眉根に深い皺を刻んだ鋭い眼光の中年男性だった。


「ほう、随分と大きく成られて。貴女があの時の神子ティアーナ様の娘、リヴィアゼア姫殿下なのですね」


 表情を少し和らげ口調こそ穏やかだが眼が一切笑っていない。


「私はこれより姫殿下を審秘眼で拝見することになりますが、不快に感じるようならお申し下さいませ」


 よく言う。霊力を纏っていなければ真っ当な人間が覗き込まれる感触を不快に思うどころか感じ取れもしないだろう。

 なんとも油断のならない胡散臭い男だ。


「何でしたら私の審秘眼を拒絶してくれても構いませんよ。ククッ。姫殿下に拒まれては私如きでは覆す真似は出来ませんのでね」


 祖父以外の周り人は冗談だと思って笑っているが。

 やって見せてくれたまえ、という目をしている。


「いやはや、あながち冗談でもないのですよ。何しろ姫殿下はあの呪災を免れた奇跡の子なのですから、纏われる加護も特別なものに違いありません」


 そう煽って作り笑顔を見せる。

 審問室には他の者は同席できないため、付き添いの祖父と護衛達は退室した。



[096]

 「クククッ。では始めよう。

私はこれより貴女に審秘眼を使用する。

審秘眼とは魔眼の一種だが危害を及ぼすものではない。

それで判ることは貴女が神よりどのようなギフトを授けられているのか。

神子足り得る素質はあるのか。

はたまた英雄たる器なのか。

それとも邪神の寵愛を受ける者なのか」


 言葉を紡ぎながら徐々に強まる語気と険しさを増していく眼光。

 審秘眼の力は誤魔化せるようなチャチなものでは無さそうだ。


「そして本当の貴女が何者なのか、だ」


 完全に疑っている。

 まさかこの男、私が転生者であると気づいているのか。

 思考を圧縮して対策を立てるべきか。


「安心したまえ。貴女を処断するつもりなら産後すぐにそうしていたとも」


 こちらの意図を理解しているのか。

 ディランは私の座る椅子の周りを歩きながら言葉を続ける。


「私は貴女の誕生に立ち会っていた。

だから貴女が転生者であることは承知の上で、部下に審秘眼による判別を行わせた。

産後担当の審秘官が私では立場上、転生者を見抜いた事を報告せず隠し通すのは困難だったのでね」


 産後しばらくの期間の記憶は定かではない。

 思考が纏まらず馴染むまで時間が必要だった。

 しかしディランの言うことが本当なら敢えて見逃すためにそう采配したというのだろうか。


「察しが良くて助かる。

ああすまない、前世で読心の心得があったと先に断っておくべきだったかね。クククッ」


 判っていた上で出方を覗っていたということなら、最初から互いに素性を明かして話をしたかったということだろう。

 こうも堂々と見抜いていた事を宣言されては隠し通すのも時間の無駄というものか。


「悪しゅみね。

あまり不用意なことを言うなら、あなたのかわいい脳で遊ばなくてはならないの」


 振り向く事なく答える。

 ディランの感情の揺らぎを感じ取るが、恐怖は無く僅かな警戒心、それに歓喜が大きい。

 胡散臭いだけでなく特殊な性癖の人なのだろうか。

 しかし読心が出来る事をわざわざ教える辺り、おそらく前世で培った技能は他にも色々と持っていると見るべきだろう。

 要職にも就いているし、ギフトに拠らない強みを理解しているタイプの転生者とは実に厄介な。


「ほう、これはこれは。

この状況でも余裕で受け身に回れるとは、余程の実力を隠しているのだろう。クククッ」


 探り合うのも悪くはないが私は家族に余計な心配をかけたくないのだ。

 遊びに付き合う気は毛頭無いのでご遠慮願いたい。


「お話、長くなるなら別のときにして」

「いやはや、これは大変失礼した。

貴女のような特異な転生者は初めてでね。

娯楽の少ない生活で対等な会話に飢えていたのだよ」


 済ませるべきことを終えてからなら多少は付き合っても良いが、中年男性と二人きりの時間を長く取るなど、外で待つジェラルドに全殺しにされる覚悟はあるのだろうか。


「ならば始めよう。これより貴女の全てを拝見させていただく」


 ゾワリと悪寒が走るかのような感触と波が駆ける。

 審秘眼だけではないな。

 多様な見の力をここまで揃えて極めているのか。


「素晴らしい…」


 漏れる感嘆の声と歓喜の色。

 先程の作り笑顔と違いどうやら本気のようだ。


「貴女はまさしく奇跡の子と呼ぶに相応しい」


 称賛の声より仕事を優先してもらおう。

 最も、結果は私自身が詳しく知っているが、視る者によってどの程度の違いがあるのかを確かめたい。


「私の眼を以ってしても見透せないとは。

いやしかし、種族因子(イノセンス)ははっきりと映る…。

クククッ。どういうカラクリなのかね」

「それを見ぬくのが、あなたのおしごとなの」


 再び霊体を障られる感触。

 全くもって視られるというのは不快極まる感覚である。


「やれやれ、お手上げだ。

素直に私の負けを認めよう。

 一つ条件を呑んで貰えるなら、今回はご家族にも異常無しと報告させていただこう」


 条件付けとは面倒な事を。呑んで今の安全を得てリスクを負うか、呑まずにすぐに対処するか。

 対処すると決めれば時間は掛からないし、ひとまずリスクの内容を聞いてから決めるとしよう。


「話だけは聞くわ」

「なに、そう警戒せずとも悪い話ではない。

私を貴女の専属審秘官として指名していただきたいのだ。

事情を知る者の方が貴女にとっても都合が良かろう」


 確かに私の事を知る者は少ないに限る。

 専属が居れば他の者に視られる危険を最小限に抑えられるだろう。

 しかしこの胡散臭い男を信用しても良いものだろうか。

 悪意は感じないが、何処となく芝居がかっていて気味が悪い。


「あなたをしんようできないの」

「これはこれは手厳しい。

これでも真面目一筋で職務に励んできているのだがね。

なに、信用出来ずとも利用出来ると思って貰えれば結構だとも。

私への対価は貴女を再び視る機会を与えてくれればそれに勝る報酬は無い。クククッ」


 幼女相手に観察を対価に要求するとか、これは対処するべき案件なのではなかろうか。

 いや、不快感で短気を起こさせるのはリヴィアの教育には良くない。

 かと言ってこんな胡散臭い男と縁を結ぶのも教育上宜しくない気もする。

 しかし自分より長く生きた転生者の情報は私にとっても価値があるのは確かだ。


「いいわ。けど、そんなお顔でおじいさまに会ったりしたら、二度と視るきかいなんてこないの」

「おっと。これは忠告痛み入る。

クククッ。こんなに愉しい気分になったのは久方ぶりなのでね。

精々貴女のお祖父様の機嫌を損ねることの無いように努めるとしよう」


 専属となれば洗礼、恩寵、成人の儀でも担当するという事になる。

 やれやれ、選べるならチェンジして貰いたい感じの人物だが、利用価値に関しては合理的に判断しても利が上回る。

 とりあえずは余計な真似をしない限り対処は保留するとしよう。



――――――――――



[097]

 ククク、ククククククッ。

 クハハハハハハッ!

 まさか、ここまで愉快な気分になったのは前世以来ではなかろうか。

 あの忠告は本気だった。それがまた素晴らしい。

 クククッ。

 出来るのか。いずれではなく、今すぐにでも。

 たかだか4つの子供が、いつでも私をどうにでも出来ると判断したのか。クククッ。

 出来るんだろう。出来るからそう言ったのだろう。

 だから当然のようにそう告げたのだろう。それが虚言では無いことは読み取れた。

 どの様な方法で。

 解らない。


 【筋力】、【耐久】、【技量】、【敏捷】、【精神】、その現時点の数値全てが同年代の平均値を下回り、特に筋力と耐久は先天性の病を抱えた寝たきりの子供のそれだ。

 あれで自立歩行が出来ているという事それ自体が奇跡だろう。

 【生命力】も僅か、【魔力】も平均値程度、【体力】は何もせずとも起きているだけで尽きそうな程しかない。

 眼で判別した限りではどこをどう観ても死にかけの幼児そのものだ。

 実際に神の呪いと呼ばれている負の加護を受けた者を観てきた経験から言わせて貰えば、あれの取得は地雷と言わざるを得ない。


 重苦一つで生後間もなく死んだ赤子を知っている。

 試練一つでも流行り病で死んだ赤子を知っている。


 あれは眼で判別出来る能力以外にも、呼吸器系や消化器官といった内蔵機能や、自然治癒力や免疫力といった肉体の回復力そのものも低下する。

 つまり先天的な疾患と変わらない。


 クククッ。それがどうだ。

 あの転生者は、六つの重苦を抱えて生存しているだと。

 クハハハハハッ!

 巫山戯るのもいい加減にして貰いたい。

 彼女には転生者である事を知っていて敢えて見逃したと告げたが、正確にはそうではない。

 わざわざ報告して楽にしてやるつもりが無かっただけだ。

 放っておいても確実に死ぬと解っていたから。

 馬鹿な真似をした転生者の末路としては自業自得こそが相応しいと思ったから告発という手段を取らなかったに過ぎない。

 なるべく長く苦しんで己の軽はずみな判断を後悔しながら死んで欲しかった。

 無能に世界救済の大役など任せられない。

 精々が他の者の足を引っ張るだけのクズだからだ。


 だがどうだ。クククククッ。

 ああ、私の負けだとも。

 私が間違っていたと、己の身を生還させる事で示したのだ。

 いやはや素晴らしい。

 そんな世界の常識を覆す程の何かが在るのだとすれば、それこそが選ばれし者なのかもしれないと。

 そうであった方が面白いと、不覚にも思ってしまったのだ。

 クククッ。彼女の事を機構の生き残りや結社の連中が聞いたらどう反応するのだろうか。

 いやいや、私にあんな奴等を楽しませる義理は無い。

 クククククッ。

 臭わせるだけでも血眼になって探そうとするだろうこの事実を、私がこの手で塞き止めるというのが本当に可怪しくて堪らないのだ。

 ああ、次に遭う日が楽しみでならない。

 だからどうか、死なずに洗礼の儀で再会出来る日が訪れるのを切に願わせていただこう。



――――――――――



[098]

 審秘眼による査定は以下の通り。

 判定は当然シロ。

 ただし先天性のギフトが無かったということを告げられた。

 呪いも変化は無いため同世代の子よりどうしても身体が弱く運動能力は低い。

 病気にも人一倍気を配らないとならない。

 つまり以前と何も変わらない。

 だが生まれてからの4年間のたゆまぬ努力により健康状態は比較的良好を維持。


 免疫力、循環器、体力、筋力、血行、栄養状態、肌艶、脳機能、神経系、髪質から爪に至るまで改善して発育、更なる質の向上に努めてきた。努め上げてきた。

 しかし祖父母の反応は虚弱体質であることの払拭には至らない。

 どんなに健康に見えても、倒れたり病床に伏せなくても、レッテルが剥がれる気配はまるで無い。

 最愛の一人娘を失った親の感情は、たった一人残された孫娘まで失うことへの恐れに支配されている。

 父ライドラスとオクタヴィア夫人の子供達がどれだけ居ようとも、祖父母にとっては血の繋がった実子なのは母ティアーナのみ。

 どれだけ可愛かろうとも、法的には孫であるはずのセシリア達は血縁上では親戚でしかないのだ。


 だが、私にとってこれは悪い状況ではない。

 家族と信頼に足る使用人と一部の人としか接する機会のない軟禁状態の生活だが、私にはそれほど不都合はないからだ。

 必要なもの欲しいものは執事長エスクラッドや侍女長フランシスカに言えば大抵の物は揃えてくれる。

 栄養に気遣った美味しい食事に従順な専属使用人。

 誰に配慮することもなく思う存分学習も実験も出来る環境に、何の責任も義務も課せられない。

 金銭にも人間関係にも悩まされることのない恵まれた理想的な生活。

 どこに不満などあろうものか。


何処にも行けない。→行く必要がない。

家族にほとんど会えない。→年一か二も会えれば十分。

友人が居ない。→転生者が普通の子供と友人になれとでも。

ストレス解消できない。→ストレスが思い至らない。

当然の自由が無い。→私個人としては不自由も少ない。


 これだけの好条件なら是非とも虚弱体質のレッテルは貼り付けたまま生きていきたいものだ。

 だからこそ、私は私の不自由無き生活のために必要なことをやらなければならない。


「どうもリヴィアお嬢様。今日は顔色が優れませんね」


 この男はデイビッド。私の主治医である。


「検査しますのでじっとしていて下さい」


 定期的な検診と健康状態のチェック。

 そして祖父母への報告がこの男に与えられた業務である。


「少し熱が有りますね。咳は出ていませんか」


 つまりここで元気であるというお墨付きを貰うわけにはいかない。

 祖父母の過保護がその程度で揺らぐとも思えないが、それでも念には念を入れておきたい。

 私は慎重派なのだ。


「他に異常は有りませんが、少々脈は弱いですね」


 もちろん微熱も脈の弱さも体内操作技術を駆使しなければ勝手にそうなる。

 敢えて何もしないことそれ自体が偽装である。

 常に体内制御をしている今の私は、苦痛こそそのままだが、至って健康体なのである。


「念の為お薬を出しておきましょう。朝夕の食後に飲んでくださいね」


 よし。今回も無事、少し不調という結果を得られそうである。


「せんせい。あまいおくすりがいい」


 ちゃんと罪のない我儘も入れておく。

 360度どの角度から観ても完璧な幼女の演技である。


「うん。お薬は苦いほどよく効くんだよ」


 それは違う。

 私ならば甘くてよく効く薬を調合することくらいは可能だ。


「ではまた来週来ますね。ちゃんと毎日お薬は飲むんですよ」


 そうさせて戴こう。

 それと厳密にはこれは薬ではなく栄養剤だ。

 免疫力が微弱に向上する作用もあるから全く効能がないわけではないが、薬と呼べるレベルのものではない。

 そしてとても不味い。

 だが飲む。飲まなければならない。

 もし飲まなければ必ず行くのだ。祖父に報告が。

 そうなれば更に心配する。

 ただでさえ心配の度合いが大きいのにここで心配の上乗せは非常に宜しくない。

 適度なのが丁度良いのだ。

 最悪、更に不味い薬を持ってこられる。

 そうなればそれが基準になる。


 この国ではまことしやかに信じられているのだ。

 先程の医師の言。薬は苦いほどよく効くという都市伝説が。

 それ故に効くというプラシーボ効果を狙ってなのか薬師達は敢えて薬を必要以上に苦くしているフシすら感じる。

 薬は苦ければ苦い程よく効くという謎のブランド力すら発揮している始末。

 これでは逆に薬飲みたく無さで病気を隠そうとしてしまうのではなかろうか。

 それに薬の効能が苦さを指標にしていると同時に、苦さが値段にまで影響を与えているのだ。

 それは余りにもあんまりだ。

 誰でもいい。転生者の誰かがこの間違った認識を変えてくれないものだろうか。







〈余録〉


審秘官ディランが観たステータスの一部。


[リヴィアゼア]


【筋力】: 4

【耐久】: 6

【技量】: 14

【敏捷】: 9

【精神】: 12


【生命】: 53

【魔力】: 90

【体力】: 51


ちなみに【知力】や【幸運】も存在していますが、残念ながら観る手段はありません。


[人間族](5歳)


【筋力】: 8(7^10)

【耐久】: 8(7^10)

【技量】: 8(7^10)

【敏捷】: 8(7^10)

【精神】: 7(6^9)


【生命】: 79(71^95)

【魔力】: 79(66^104)

【体力】: 79(71^95)


この世界では血統を重んじる貴族の方が各パラメータは、やや高い傾向にあります。

()内は平民の平均と貴族の平均です。

手前の値は人間族の評価値であり、人間族全体の平均値ではありません。

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