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1000通りの計画  作者: Terran
間章 創作活動 2
52/99

間章 研究開発 3




[313]

 限りなく完璧なリヴィアではあるが、それでも憂慮している物事は有る。


 いや、確かに想定外の様々な欠陥らしき部分も見え隠れしているが。

 とてつもなく成長が遅いのに反比例して、何故か外見年齢だけは人間族の平均的な身体と遜色ない成長をしているように見えるというアンバランスさ。

 年々身体障害が増え続け、慢性頭痛、平衡感覚の喪失、消化機能低下、呼吸不全、心肺停止、難聴、失明、免疫不全、神経疾患、筋疾患、とハンディキャップのオンパレードである。

 それでも『創造魔法』、『生命魔法』、『次元魔法』、『転写魔法』や【神遺物】を常時駆使すればどれもこれも克服出来る程度のリスクでしかない。

 正直、そんなものは些細な問題である。


 使えない機能は別の要素で代用も利く。

 失明しようとも光を感じ取れれば、目で見るより膨大な視覚データを収集可能。

 今のリヴィアの目は、最近ほぼ使ってないアイリスをいつでも発動可能な媒体としての保険的な役割しかない。

 これも日々の、光学的、霊的、感応力の鍛錬により通常の視覚以上の機能を有したが故の賜物。

 正直、普通の目の機能などとっくにお役御免なのだ。

 それに、違和感なく見えてるように日常生活を送ることで周囲には気付かれず自然に過ごせている。


 聴覚も同様に微細な振動を感知すれば、後は感情色の変動や推移から、誰が何を話してるのかは計算可能で、精神感応を使えば考えてる事も筒抜けである。

 感知範囲内の全てに適用出来るので、音という媒介に頼る必要すら無い。

 欠陥まみれの内耳の機能に依存する段階などとっくに卒業済なのだ。


 心臓なら氣でも念力でも魔力でも動かせる。

 血圧も同様に自在。

 呼吸など、二酸化炭素を酸素と炭素に分解再結合出来るのだから不要。

 食事の摂取も同様に、必要な栄養素は自力で合成可能である。

 それら酸素や養分を全身に送る必要すら無いのだが、脈が無いと違和感を与えてしまうので、周りのために敢えて動かしてるに過ぎない。


 話すのだって口をそれらしく動かして空気を振動させれば理論上は声になる。

 平衡感覚も空間把握能力で代用可能だ。

 新陳代謝に関しても成長に必要な栄養素を創造すれば事足りる。

 老廃物も自分自身の『分体』を創造する素材に回しているので、抜け毛一本、垢の一片足りとも収納して無駄にしない。


 そもそも、それら全機能を停止しても日光浴をせずとも充填される自然回復分の神力さえあれば、勝手に足りないエネルギーを補えるのだから生きる為の活動自体が無駄なのだ。

 それでも生命活動や生理機能を無理くり動かしているのは、人類の一員として当然やるべきことをやらないのは扶養されている身として誠実では無いと思ったからで、これらは決して義務ではなく、余裕から来るサービス精神で周りに合わせているに過ぎない。


 有り難いことに、これらを統括する知性には何の不具合も出ていないからこその余裕ではあるが。

 その知性も位相をずらした仮想次元にバックアップを持たせているので、仮に脳死したり頭部を破壊されたとしても即座に対応可能。

 要するに、自分の身体に関する事柄は気にする必要が無いということだ。


 話を戻そう。

 今や私にとって一番の懸念点は、自分以外の転生者の存在である。

 彼等にはそれぞれ前世の世界での知識と経験が有り、手段が狡猾であったり対策も良く出来ており、実に手強い。

 どうやら経済界にフィクサーらしき地位を得た者も居るらしいではないか。


 あまりこちらの計画に影響を与える様なやんちゃをされない為に間接的に牽制しておいたので、少なくともエストバース王国での活動は大きく制限されている筈なのだが、それでも潰した訳では無いので安心は出来ない。

 ただ潰すだけなら容易に可能だが、何となく安心出来ないからという理由で経済界に大打撃を与えるのは私の主義に反する。

 そんな事をすれば私の方がフィクサーである。

 私は慈悲深いのだ。

 邪魔にならない悪党ならば好きに泳がせ許容する寛容さを持ち合わせている。


 人罰の範囲内であれば悪行もまた人の営み。多少は目こぼさずして何が実力者と言えようか。

 私とて天空人の血を引いているのだ。

 仮に潔癖さを求め出せば留まるところを知らないだろう。

 しかしそれではこの身に流れる血に対して公平ではない。

 人である以上は上下もするだろうが、つまるところ理屈の上では私の潔癖さは平均に1/8上乗せ程度でも十分なのだ。


 現在転生者達には大きく分けて4つの勢力がある。


 一つは「帰属派」。

 この世界の住人として暮らす事を受け入れ、世界救済の使命を放棄して生活する者達。

 彼等は家庭や仕事を持ち、所属する国の為に働き、改革派グループとは距離を取ってコンタクトも取らない。

 中には現地人と同様に聖戦へ参加する者も居るらしい。

 この世界で成り上がる事を目標にする者も帰属派に含まれる。

 私も表向きは帰属派に含まれるのだろう。

 実際に行っている活動もほとんどが共生と国家並びに世界の為というスタンスで、そうした部分も帰属派と相違ない。

 但し、私は使命を忘れたことは無いし、忘れるつもりも無い。


 一つは「改革派」。

 この世界の現行制度を破壊して救済を果たそうという過激グループ。

 使命感が強く、そのほとんどが所謂邪教に所属しているテロリストである。

 呪災で神子の命を奪ったのも、異境での裏切り行為も全て彼等の仕業であり、私としても一番動向に気を配る対象である。

 リヴィアとしては今すぐにでも、いや、もう十年前にでも殲滅したいと思っているようだが、万が一の可能性として世界救済の役に立つかも知れないので実行は保留して貰っている。

 必要無いと判断したら彼等の処遇はリヴィアの好きにさせるつもりだ。

 過剰に苦しめる結果になるかも知れないので大変気の毒だと思うし、本来なら私が処置するのが適切なのだが、そこはそれ。

 洗脳でも改造でも何でもすれば使い道はありそうなので正直気は進まないが、その時が来たら因果応報だと思って諦めて欲しい。


 一つは「中立派」。

 帰属するでもなく、使命を果たすでもなく、中途半端にどっち付かずの状態を維持する者達。

 彼等は中立派同士だけでなく、一部の帰属派や改革派とも連絡を取り、決断を先送りにしている。

 基本的に中立派には実力者は居ない。どちらに転んだ所で状況は大して変わらないだろう。

 中には野心的な性格をした者も居そうだが、強ければ改革派に参加したのに、とかしょうもない事を考えているような連中である。

 心底どうでも良い。

 彼等は転生の間の頃から何も成長していない。

 決断力の無い者が転生者となってしまったという一点においてのみ不憫だと思うが。

 いや違うか。死んでも成長出来ないのだから一番の被害者なのかも知れない。

 ああ、実に可愛そうだ。


 一つは「潜伏派」。

 グループを作らず、他者を頼らず、己の考える生き方を貫く、何処にも馴染めない者達だ。

 傭兵として聖戦にもテロにも加担する、思想を持たない者もここに含まれる。

 使命に殉ずる覚悟があっても改革派のやり方とは合わず、他者と馴染めず独自の方法で救済の方法を探る者も少なからず居る。

 実態としての私はこれに分類されるだろう。

 中にはグループには入らずに己の技能や知識を使い他の転生者をサポートする事に専念する者も居る。

 独特の感性で救済の手助けをしているつもりの、どこぞの胡散臭い国家審秘官もこの潜伏派である。

 彼は自身の基準で救済者に相応しくない者の間引きを勝手に行っているらしい。ご苦労な事だ。

 数が少なく、どのグループも大して気にしていないようだが、独力で活動出来るだけの実力者が潜んでいるので行動の読め無さといい、実体を掴みにくい所といい、極力関わるのは避けたい。


 各国に放った分霊による諜報活動で判明した情報をまとめると。

 使命を実行しているのは改革派の組織と潜伏派の一部の者だけで、他の主だった連中は邪教殲滅作戦により壊滅させられたか組織に併合されている。

 どうやら組織はフィクサーを頭目として、今や商業組合の幹部となり、貧困国や経済界にも影響を与えているらしい。

 組織自体の歴史は思ったよりずっと長く、世代を渡って構成員を育成しており、あれだけ邪教への締め付けを強くされてもこうして残っている。


 大した物だ。

 現地人の兵隊も数多く有しており、各国に支援者や有力者へのコネを持ち、転生者の知識を使って集めた資本力を使って貧困国を陰から操っている。

 まさに秘密結社そのものである。

 各人の転生の時期はまちまちだが、転生者達は独自のコミュニティを築き上げ、この世界が一筋縄ではいかない事を十分に思い知ったのだろう。

 転生者は並の現地人より強い。だが、それだけだ。

 現地人の英雄と称される者には並の転生者では歯が立たない。


 民間人の素質を100〜150程度だとすれば、

 転生者はおよそ200〜300くらい。

 現地人の騎士が150〜250程度だとすれば、

 英雄の実力は250〜350くらいである。


 これらの基準は、直接存在に障って確かめたので概ね合っている筈だ。

 いくら転生者が強いと言っても、夢物語の転生者無双なんてしようものなら、初戦で討ち死には免れない程度の差しかない。

 おそらく転生者の多くは、前世の世界と力のバランスが大して変わらないと知り、多少優遇されていようとも強者に真正面から挑むのは自殺行為だと学んだはずだ。


 だからこその武力で解決を望んだ者は暗殺者やテロリスト化するしか無かったのだろう。

 知略で解決を望んだ者は違法な密輸入組織や経済界を裏から恫喝や脅迫でのし上がりマフィア化する道を選んだのだ。

 平和的な解決を望んだ者は少しずつ味方を増やして信用を得てきたが、転生者の都合で世界を動かす為の理由作りが上手く出来ず、最終的には他のグループに利用されてしまった。

 使命に縛られない生き方を選んだ者はこの世界に骨を埋める覚悟をして去っていき、そうして残ったのは過激派集団だけとなった。


 私に言わせて貰えれば、転生者に選ばれるべき人物は前世の世界を上手くやれば救えたかも知れない、というようなポテンシャルを持っていて然るべきで、偉大な才能やカリスマ性を持たない者が、たかだか記憶を持って転生した程度で世界を救えるとは到底思えない。

 もしかしたら前世でも世界を救ったような優れた者が何人も転生者として送り込まれているのではないかと期待していたのだが、どうもそういう風にも観えないのだ。


 結論から言えば、この世界に転生者達を送り込んだ神は、最初から世界を救わせる気などさらさら無かったのかも知れない。

 もうそろそろいいだろう。

 私とて結論が出たのならいつまでも自重しているのも大概退屈するというものだ。

 タイムリミットはそう遠くない。

 他の転生者達の計画は、相反する内容でない限りは極力邪魔しないようにと思って遠慮していたが、おそらく私の計画以外ではろくな結果にならない。

 いや、おそらく私の計画以外は全て最悪の結末を齎すのだから、自分を最優先にするのが正しい選択なのだろう。


 とはいえ、万が一、いや違うな。

 億が一くらいの格率で彼等の計画が上手くいく可能性も有るのかも知れないので、最悪の結末が確定すると見做すまでは様子を見ておこう。

 私は人類の可能性を愛しており、とても慈悲深いのだ。

 爪先の欠片にも満たない僅かな可能性でも、私以外の者が奇跡を起こす様を観られる道筋があるというのならば、是非とも拝見させて頂きたい。

 私が陰ながら手助けすれば、億が一を千が一にまで引き上げられるかも知れないのだから。




[314]

 魔導は神の御業と言えるだろうか。

 先日の魔物研究の副産物で創造した魔幻獣(ネオモンスター)だが、使い道も無いので亜空間に収納したままになっている。


 因みに命名の由来は、幻獣がバグまみれになったモノが魔物なら、綺麗にデバッグした魔物とは、限りなく幻獣に近い存在の魔物ということになる。

 ならもう理解りやすく魔+幻獣で良いと判断したのだ。

 安直だが、私が判ればそれで良い。


 聖剣や魔剣の製造や、アーティマトンや再誕者(リライバー)生産用の素体、異境の試作や創造と循環の訓練の為に創った箱庭といい、多次元を便利に使い過ぎている気がする。

 一度整理しておこうと内容の確認を始めたのだが、ふと思ったのだ。

 掃除や整理整頓をしていると、突然クリエイティブな脳領域が活性化してしまうあの現象に見舞われ、私は降って湧いた閃きに興味を惹かれ、マルチタスクで整理を半自動で処理しながら思考に耽った。


 分霊を中継して魔力で動かす人形や、分霊を憑依させて動かす人型有機人形(アーティマトン)や、生前の身体を維持し加護が剥離していない状態の良い遺骸と魂の要素を使用して、当人とほぼ同じモノとして再誕させた疑似人類の再誕人(リライバー)といった私の手足となって活動させる駒は手掛けて来たが、実は初歩的な常識的な手駒足り得る素体にはほとんど手を付けていなかったのだ。

 つまり使い魔や造魔(ホムンクルス)といった前世の記憶にある魔術師に有りがちな物の類だ。


 使い魔や造魔については学院の授業で学ぶまで持つべきではないとプロシアから言われている。

 なるべく祖母の言い付けは守りたいので、構想と下拵えだけ先に済ませておこうと思う。

 実際に造るのは後でも良いが、物によっては素材を揃えるのに時間や労力と手続きが必要になるかも知れないからだ。


 そこで先程の閃きである。

 使い魔は基本的に術者の手足となって働かせる駒である。

 その用途は様々で、例えばプロシアの使い魔は梟の姿をしており、伝書鳩の代わりに魔術で自己増強した状態での飛行により非常に早い文書の伝達が可能だ。

 魔導通信には距離的な難が有り、郵送にも時間を要するこの世界で、長距離でも素早い伝達が出来るのはそれだけでも大変な価値がある。

 不便や不都合、又は己の弱点や役割を補ったりと、一般的に使い魔に求める機能はそういう物である事が相応しい。

 ならば私にとっての補いたい要素とは何か。

 ここが肝心な部分である。


 何せ私はおおよそ万知万能であり、今や不可能な事が限りなく少ない。

 人類の尺度の範囲内であれば利便性において足りない要素が見当たらないのだ。

 であれば使い魔に求める視点が他者とはまるで違うのは必然。

 弱点を補ったり利便性を求めるのではなく、やりたくない事や避けたい事を代わりにさせる役割を求めるのが正解だろう。

 故に私が決してしない事の中で、もしかしたら求められてしまうかも知れない要素を使い魔で埋めてしまえば良いのだ。


 とすると答えは決まっている。

 リヴィアは決して他者に触れたくない、触れられたくない。

 ジェラルドやプロシアやヒルデやアルトやエスメラルダといった極々親しい家族ならば良い。

 だがそれ以外は駄目だ、決して赦されない。

 仮に赤の他人の枠にある者に身体を触れられようものなら、リヴィアが反射的にその無礼者を一瞬で消滅させてしまうかも知れない。

 おそらく殺人を犯してしまった事実は全く後悔しないと思うが、身体に触れられた記憶が残る事には激しく後悔してしまうだろう。

 それだけは避けなければならない。


 しかし学院で他者と生活を共にするのならば、当然手を貸す必要がある場面や、不自然にならないようにやむを得ず触れなければならない事態が起こらないとも限らないのだ。

 従って何かしらの対策は必要であり、出来れば過保護さが目立たない形で実行したい。


 そこで思い付いたのが使い魔だ。

 別に機構や用途としては使い魔でなくても良いのだが、公然と使うならば自然に使うのが当たり前の物が良い。

 使い魔ならば常に傍に在っても魔術師ならば当たり前だろう。

 それでいて何処に持ち込んでも許される形状である事が尚望ましい。

 その部分に関しては万人が許される必要は無い。

 私だから許される、でも構わなかろう。

 こうしたデメリットの無い特権は時と場合次第では思う存分活用させて頂く。

 つまりそう、リヴィアは身体が弱く、力が弱く、虚弱で、自分では何も出来ないと思われるくらいで丁度良いのである。


 怪我をしてはならない。

 重い物を持ってはならない。

 汚れる物に触ってはならない。

 危ない物に近付いてはならない。

 肌を異性の目に触れさせてはならない。

 貴族令嬢ならば当然やってはならないこれらを、私の場合は更に強く制限させなければならない。


 それでいい。

 家族もそれを望んでいるし、我が民も然りだ。

 ならば応えようではないか。

 決して私に触れられないように、私は私の替わりになる『手』を使い魔として傍に置こう。

 そうだな、この使い魔は『万能手(ヴァーサタイルハンズ)』とでもしておこうか。

 まあ、そのままハンドでも構わないのだが、正式名称の設定くらいしておいた方が分かり易い。


 これからは上着の袖部分からハンドを出したり、浮かしたりしておき、手を必要とする何事にも使うとしよう。

 食器を持つのも、ドアノブを回すのも、本を捲るのも、刺繍も絵画も筆記も調合も、手でやるべき全てを代行させてしまえば良い。

 そうすれば重い物は私が持たなくても持てるし、汚い物でも触らずに触れるし、危ない物に近付かずとも持てるし、着崩す事なく何事でも行える。

 何なら握手だって出来るし、子供や動物を撫でてやる事だって出来る。

 なるほど、良い事尽くめではないか。


 ならば造ろう。

 造魔として造るか、魔導具や魔法具として造るか、人形として造るか、魔物として造るか、アーティマトンとして造るか。実に悩ましい。

 よし、いっそ全部造ってみよう。

 多目的に用途別のハンドを複数用意しておけば何かと都合は良さそうだ。

 外付けの手が二つで無ければならないルールは無いのだから。


 その時、ふと思った。

 こっちを先に作っておけばスペルカードは要らなかったのでは無かろうか。

 結果的にスペルカードは大好評だったが、ハンドは魔幻獣を造ったから辿り着いた答えである。

 そうか、私は人類の進歩の何十倍もの速度で突き進んでいるのだろう。

 一ヶ月前の自分すら置いてけぼりにする程度には。




[315]

 陰の護りはサービス精神から生まれる。

 私は客観的に観ても、清く、正しく、優しく、慈悲深く、思慮深く、人類を愛しており、基本的に合理的でありながら常に余裕と少し拘りがある。

 その反面、人間味が無く、人を信頼せず、誰も寄せ付けず、理屈屋で、他者を見下している。


 しかし、それらは概ね一つなのだ。

 つまり、そのどれもが私の長所であり、同時に短所でもあるのだろう。


 私は人間味も倫理観も薄いが、他人を尊重するし法も冒さない。

 私は人を信頼しないが、信用はしている。賢さも、愚かさも。

 私は誰も踏み込ませないが、誰かに頼られれば物事を解決するし嫌な顔もしない。

 私は理屈っぽいが、感情を否定はしないし、自らの感情も探っている。

 私は他者を見下しているが、理由も無くそんな真似はしない、する意味が無い。


 端的に観て、私はおおよそ理想的な人物像を常に維持する努力を怠っていない。

 その上でもし私を否定する者が居るというのなら、更なる理想のビジョンを明確に提示して貰いたい。

 演ってみせろとは言わない。

 相手がどれだけ不公平と不平等を私に強いて意見をしていたとしても、出来もしない相手に手本を見せろなんて言えば、それこそ誰も私に何の意見を挟めなくなってしまう。

 それは可愛そうというものだ。


 勿論、その意見が汲むに値しない物ならば一考して即座に却下するだろう。

 だが、却下するにしても一考くらいはするべきである。

 思考停止は有能な者ほど恐れるべき毒なのだ。

 それを人は、隙と云う。

 思考停止しても隙となり、思考に深く落ちても隙となる。

 完璧さを求めるならば、常に逆も同時に対策しなければならない。

 しかしそれだけではまだ完璧さとしては足りないのだ。


 さて、今まで表向きの対策と裏向きの対策とを取ってきた訳だが、ここでもう一手間掛けて手を打つ必要性がある事を私は理解している。

 つまり表でも裏でもない中間の策を用意しようと思っている。

 中途半端でおよそ完璧さとは程遠いソレは、まさしく隙そのものであり、その発想はサービス精神から来る物だ。

 隙を自ら抱えてこそ、より完璧さを求められる。

 それらを矛盾せずに共存させてこそ、本物の調和と成り得るのだ。


 天の考えだけでは駄目だ。

 地を知らずして理想は掲げられない。

 そして不完全な人を許容してこそ完璧となる。

 天地人揃ってこそ三位一体。


 前置きが長くなったが、要するに私は今、限りなく無駄な物を造っている。

 自分に必要な物や、他者に求められる物だけでは不足なのだ。

 思えば私は産まれてから今まで計画と研究にばかりかまけていて、ちゃんと遊んだことが無かった。

 年相応の振りをする演技を完璧にするのなら、サンプルとなる他者を研究するだけでは足らなかったのだ。

 実際に自分が童心を持たなければ、どれだけ完璧に作っても偽物でしかない。

 よくよく自分を振り返ればどうだろう。

 今の私はおよそ不可能な事が無い。

 これを遊びに、無駄な事に使ったらきっと楽しいに違いない。

 理論的に間違いないのだ。


 そう、基本的に遊びは無駄だ。

 だから私は無駄を造る。

 非合理で不必要で不条理な玩具を造れば、きっと私の中のバランスはより整えられる筈なのだ。

 完璧さの為に無駄を求めるとは、まさしく矛盾。

 そう、それでいい。

 もっと無駄を積み重ねよう。

 私の計画をより完璧に彩る為に。

 世界を救う為に。




[316]

 物作りには独創性や想像力をフルに稼働させる必要がある。


 術式開発、異境創造、魔物量産、迷宮創造、聖剣量産、造魔鋳造、新型神造人間の試作。


 そのどれもが人知を超えた頭脳を駆使して行う必要が有り、私は意識的に脳を覚醒状態にする事でそれを実現させた訳だが。

 これらを実行するに辺り、後で後遺症を打ち消せる類の強烈なオリジナルブレンドの薬物を使用して更に知能をブーストしていた。


 異境内とは言え、久々に制御ギリギリな程ハイになった挙げ句、高熱と鼻血を出して体調を崩した。

 全身が痙攣状態になったのは久々だ。

 最後の方はよく解らないテンションで、よく解らない理由で、よく解らない物を造っていたらしい。

 これを理解するには、もう一度同じ状態にまでブーストしなければならないので保留にする。

 半死半生の状態にまで陥って、訳の解らない事をしていた割に、意外なくらい気分はスッキリしていたのは斬新だった。

 かなりキツイ反動と後遺症は時限式で発動した生命魔法によって全快した。


 最近はより激しさを増した片頭痛に悩まされているが、それ以外は完全回復している。

 頭痛はおそらく頭脳の成長と摂理に反した拡張の反動によるもので、病気や怪我とは違う。

 機能的に、必然的に頭痛を引き起こしているので仕方がない。

 つまり、常人なら発狂するほどの慢性頭痛の状態こそが正常な状態なのだ。

 生命魔法で死んだ脳細胞の再誕を繰り返しているのは脳の成長を激しく促すが、完全に人智を逸脱した行為であろう。


 ここで大事なのは私のしているのはあくまでも脳細胞の再誕であるという点である。

 こればかりは蘇生魔法では不可能な芸当であり、仕組みを理解していないと蘇生では重大なエラーを引き起こす。

 勘違いをしてはならないのは、脳細胞の死は必ずしも悪ではないという事だ。

 不必要なプロセスやソースコードを廃する為に脳細胞を壊すという手段を用いているだけであり、破壊しておかないと無意識に同じ過ちを繰り返す事になる。

 不必要な脳細胞を破壊せずに維持すれば、間違い癖が付いたり、何度繰り返しても慣れずに初回と同じだけの思考の無駄が生じるといったデメリットを抱え込む事になるのだ。

 脳細胞の破壊とは、言い換えれば脳の最適化である。


 故に蘇生や再生では意味が無い。

 折角不要な部分を排して最適化したのに、排した筈の不要な機能を再び取り付けても仕方が無い。

 だが、再誕であればまっさらなメモリとして再利用出来る上に、再調整も利いて改良も可能となるので、生命魔法こそが正解となる。

 使えない部分を一度破壊してから、別の使える機能として生まれ変わらせ再利用出来るのだ。

 勿論、再利用に適さない部分もあるので、余程の知識と理解度と精密操作能力を有していなければお勧め出来ない芸当である。


 私は私とリヴィアという互いのバックアップがあるからこそ失敗せず安全に処置出来るのであって、孤身の者にはリスクが高過ぎるだろう。

 脳領域の拡張には次元異法で高次元領域を利用しているので頭が大きくなる事は無いが、実際は質量に縛られずに脳の成長は続いている。

 そう、リヴィアの脳はまだまだ急成長を続けているのだ。

 前世の知識では5.6歳くらいで急成長から緩やかな成長へとシフトするものだと記憶していたが、どうも概算ではその三倍の期間は急成長を続けるらしい。

 すると、頭痛も急成長の終わる頃には治まるだろうか。

 質量に縛られない脳の成長がどんな結果を齎すのかは前例が無いので定かではないが、問題があってもその時のバージョンアップした思考力があれば何とかなるだろう。


 本体はこうして創作活動に精を出していた訳だが、外で学院生活を送っている中継点、私の分体はどうしているだろう。

 意識を完全に失わない限りは分体の制御を失う事は無いので影響は出ていないはずだが、一応様子を見ておくべきか。

 いずれにしても一度、本体で学院に顔を出してみようと思う。

 流石に入学試験以降、マイ異境での創作活動とダンジョン攻略の行き来しかせず、実生活の全てを分体に任せて、本体が全く外に出ないというのも問題があるかも知れない。

 まあ、聖剣の一般向け製造の実演くらいなら分体でも可能だったので、本体で出向く必要性を感じなかった訳だが。


 偽装に関しては間接的な操作の分体より、本体の方が上手くやれるので問題は無い。

 勢いで造った玩具の内、いくつかはお土産用に拵えていた物もある。

 折角なので少し遅めの入学祝いの品という事で納得して貰おう。


 しかし今更だが私が武器を造る日が来ようとは。

 冷静になるとどうして聖剣など造ろうと考えたのか、我事ながら不思議である。

 それに操剣魔法は全く疑問に思うことなく無意識の内にノンタイムで開発し、検証する事もなく完璧に制御をしていたではないか。

 あの行動も不可解極まりない。

 あの時は何故か問題無く完璧にやれると判断して行ってしまったのだ。


 気になったので魔戦斧や魔槍で操剣魔法を走らせてみる。

 試しに少な目に作り置きから十本ずつ。

 突いて、薙いで、払って、振り回す。

 ふむ、今一つ。

 これでは武術の使用はおろか、打ち合いでも一流の騎士相手では押し負けてしまう。

 やはりハイテンションになってやれる気になっていただけだったのだろうか。


 では聖剣ならどうか。

 その場で三十六本を一瞬で3セット創造して浮遊させ、時計の様に内円十二本、外円二十四本の陣を組ませる。

 この時点で違和感を覚える。


 ちょっと待て、そもそも今何故造る必要があったのだろうか。

 作り置きから出せば良かったのに。

 つまり、わざわざ違和感を抱くように気を張っていないと、うっかり使う度に無から伝説級の聖剣を無制限に生み出してしまう程度には、生理的反応並に当たり前として行ってしまうらしい。

 これは重症だ。


 それに苦労した斧や槍と違い、聖剣は全く抵抗感無く全てを別々に操作し、別々の魔技を絶え間なく放つ事が可能な模様。

 素振りにしても、これなら王国騎士と打ち合っても初手の一合で押し勝てるだろう。

 武術は氣の鍛錬で観たままをトレースして己の技術として取り込める為、どんな武器でも一通りの再現や考え得る応用は利かせられる。

 身近な者に限らず、領都の騎士団の訓練も分霊による観察で様子を観ていたので、常用武器ならば全て網羅しているのだ。

 勿論、私は武術への憧れも特段の興味も抱いていないので、どれか一つに絞って学習する様な真似はしない。

 武術を嗜む者では実行の極めて難しいバランス重視型だ。


 要するに、剣だけ突出して上手いなんてことは習熟度としてはおかしいのである。

 考えられる要素があるとすれば、祖父は魔導剣士の大英雄であり、母も達人で【剣の女神】とすら評された程の使い手という事か。

 もし仮に武器の得手不得手が遺伝するのだとするならば、努力より才能の方が重要という事になってしまうではないか。

 それは認め難い。


 確かに、似たようなギフトを授かる一族というものは存在する。

 ヒルデは祖父が有名な槍の名手で、親も姉も自身も槍のギフトを発現させている。

 しかしジェラルドやティアーナは剣のギフトを持っているが、私には無い。

 仮説としてギフトとは関係なく武器相性という才能を継承するのであれば、ギフトが無いからといって違う道を選ばずに、一族の得意としてきた分野を優先するべきという事になるのでは無かろうか。


 そういえば、ギフトは本来求める形の物を与える事が可能だと神は言っていた。

 つまりギフトは後付に過ぎず、才能とは別物なのだろうか。

 となれば改めて才能についての研究を行う必要がある。

 私自身もまた剣と他の武器との比較や検証をしてみるべきだろう。


 そして決心した。

 私は決して人前で剣を使ってはならない。

 これは明らかに異常だが、それ以上に私は努力を必要としない能力は好まないのだ。


 そう言えば、海神領域の聖戦でも最後まで残っていたのは剣だった。

 しかしどうして剣なのだろう。

 個人的にはどうしても武器を使うなら、物理法則の理解度がそのまま反映される射撃などの投射物系の方がずっと好みなのだが。

 やはり好みとは関係なく才能の遺伝なのだろうか。


 理解度を深めるために武器を創造したが、却って別の謎が深まってしまった。

 これは完全に想定外である。






《あとがき》


という訳で、明かされました。

こちら裏の活動こそがメインストーリーであり、表の学院生活は分体が過ごしている世を忍ぶ仮の姿ですね。


分体とは、主人公の老廃物などの体組織を主軸にして創造された子機(クローン)体みたいなもののようです。

本体と違ってちゃんと自然に生命活動をしています。


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