学院オリエンテーション 4
[297]
異文化交流とは互いの歩み寄りが不可欠である。
衛星街には様々な施設がある。
「リヴィア様、御覧下さい。あちらの屋台は串焼き(?)を出していらっしゃいます!
私知っていますよ。あれは諸国漫遊する方々が好んで食されるのですよね」
「冒険者のことかしら。あれって一体何の肉を焼いてるのよ、ちょっと変な臭いがするわ」
ふむ。前世の部下が言っていたが、異世界ではこういったジャンクな食べ物は貴族令嬢には新鮮に映り、美味しそうに食べるというお約束があると聞いた気がしたのだが。
どうやら間違った知識だったらしい。
「野生味の強い物を好んで食べるかたもいるのだと以前に本で読んだことがあります」
「残念だけど食欲はそそられないわね。あれを買って食べるくらいならレストボックスがいいわ」
「そうですか…。そうですよね、レストボックスを探しましょう」
「ああいいのよセイ。別にお腹は空いてないわ」
セイはドルセーラとはまた違った種類の箱入りだったのだろう。
セイが見る物全てが新鮮で興味を惹かれているのは傍目からも判る。
だが串焼きは諦めて貰いたい。
アレは視るからに身体に悪そうだ。
「ねえリヴィア。もしかしてセイってどうしてもアレを食べたかったのかしら」
「仮にそうだとしても、セイにとってここは初めて見る珍しい物ばかりです。すぐにまた別の目新しい物に目が行くはずですよ」
実際もう既に別の物へと関心が移っているのか、辺りを見回して先を進んでいる。
「それにお姉さまは私達を気遣って悪い物を食べないようにと誘導していたのでしょう。今回もレストボックスの時も」
「これでも一応私は姉だもの、当然でしょう。そう言うリヴィアは初めて見る物ばかりなのに随分落ち着いているわよね」
「ふふふ。これでも見る物全てを観察して仕組みや背景について考えて楽しんでいるのですよ」
「私はもう一日に使える容量がいっぱいいっぱいだから、早く部屋に戻って眠りたいわ」
私は解っている。一見すると無気力を思わせるが、こう見えて今日観て聞いた事はしっかりと頭の中で整理して蓄積しているのだろう。
それに何だかんだ言いながら今日は慣れない積極性を発揮して、なるべく会話をするように努力している。
いつもより疲労感を感じるのも無理は無い。
「リヴィア様、ドルセーラ様。どうやらあちらで騒ぎが起こっているみたいです」
新年度早々に騒ぎとは、衛星街の大人達はそうした事は弁えていると思ったのだが。
買い被りだったのだろうか。
◇◆◇
「グハハハハッ。身の程知らずも極まれば一芸よ。観客を集めるが良い。腹ごなしの余興でなら相手をしてやろう」
巨体特有のややくぐもった野太い声が響いてくる。
何だ、誰かと思えば小魔王か。
オリエンテーション開始時に見ないと思ったが、こんな所で油を売っていたのか。
「フン。その尊大な態度を改めろと言ったはずだぞデクの坊。
礼儀も知らぬ蛮族如きが、この国に来たからにはこの国の貴族、すなわち俺達には最大限の敬意を払え」
相対してる声は声変わりが済んでから一年以内と思われる馴染んでない変声期後特有のトーンだ。
一つ修正するなら、残念ながらここはエストバース王国ではなく治外法権のクリムワイエ特別区なので言っている事に正当性は無い。
敢えてこの特別区を国とするなら、この国の貴族は魔導大公ファナリア家のみである。
「おい新入生、組合内でのケンカはご法度だぞ。やるなら表に出てからやれ」
物々しい雰囲気に、観ていた大人が割って入って行ったようだ。
しかしそこは表でやらせるのではなく止めさせるべきではなかろうか。
「ちょっとセイ待って。オリエンテーションもれっきとした授業中扱いなんだから、面倒事に関わるべきではないわ」
「ですがドルセーラ様。生徒同士のいざこざであれば私達で解決してこそ学院生のあるべき姿ではないでしょうか?」
二人とも実に真面目で結構。
だが一番は、誰にも関与されず、誰にも迷惑をかけず、当事者同士が自力で円満解決することである。
そして第三者は、その様子を遠目に観察して後学のための糧にするのがベストなのだ。
知性と礼節を持った貴族を自負するなら、それくらい出来て当然である。
「私はお姉さまに賛成します。ここは衛星街。問題の解決は大人達が担当する区域です。
それにもし私達が近づいて怪我でもしたら、ここの大人達は大きな大きな責任を取らされてしまうわ」
この場合は一歩引いた所から冷静に観るドルセーラの意見が真っ当である。
仮に怪我の責任を取らされた場合、ここの大人達は職を失うだけでは済まされないだろう。
それではあんまりではないか、誰の利益にもならないのに労働力を無駄に減らすのは私も本意ではないのだ。
「ですが、問題を起こしているのはどちらも同じ貴族科の生徒みたいです!」
「う、誰よそんな面倒なことをしてるのは、余計行きたくなくなったわ…」
「リヴィア様の仰ることは理解出来ますが、逆に姿を見せることで争いが収まるのであれば、そうすべきでは無いでしょうか?」
なるほど、自主的な円満解決は望め無さそうだから早々に彼等を信じるのを諦めて、即座に次案へと切り替えて抑止力としての効果を期待するということか。
確かに、それは中々合理的な意見だ。
最悪の場合の責任問題まで聞いた上で、早期切り替えならリスクは低いと判断したわけか。
そういうシビアな案は好感が持てるので、協力するのもやぶさかではない。
(アルト、いつでも出られる準備をしなさい)
(ん、了解)
「何で入学式の翌日に問題起こしたりするのよ。
リヴィア、これって貴族科全体の責任問題になったりしないわよね?」
「そうですね。もし貴族科だけが問題を起こしていたと知られれば、教員や他の科の生徒からの心象は悪くなるでしょう」
「急ぎましょう。本格的な争いになる前ならきっと上手く行きます」
「本当に勘弁して欲しいわ。自慢じゃないけど私、争い事の仲裁なんてしたことないわよ」
いずれ何処ぞの領主の妻となる気ならそんな事は言っていられない。
それに同じ科の生徒同士の諍いなら、例え解決したとしてもその場に居合わせた以上は後で事情を聞かれるのは明白。
ならば最低限の状況把握くらいはするべきだろう。
「ふふふ。そういうことでしたら、急がず慌てず、危険はないか状況を確認しながら現場へ向かいましょう」
そう言って三人で現場へ向かう。
私は浮遊しているが、走らせたりはしない。
足早であっても決して息を上げず、楚々と安全第一である。
まあ、判断基準に関しては思う所はあっても、この程度のいざこざならば万が一はあるまい。
ちょっとした売り言葉に買い言葉の発展に過ぎない事は、セイが気付くより前から把握済みなのだ。
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「フン、お前の国ではその図体とハッタリだけで相手が勝手に臆してくれていたのだろうな。随分と周りに甘やかされて来たものだ」
「実力差も理解出来ぬ虫風情がよく鳴きおる」
そこは冒険者組合の前。
貴族科Bクラスの生徒で名前は、まあ誰でもいいか。
それが小魔王を睨み上げている構図になっていた。
「俺はな、お前等魔族が人類面しているのが気に食わない。神に人類として認められていない下等な亜人共と同類なのだろう?
ならばせめて人類様を不快にさせない様に顔色を窺いながら、息を殺して生きていればいいものを!」
「ふむ。虫程度、本来ならば相手にするまでも無いが、目の前でされた侮辱を見過ごしては沽券に関わるのでな。そうまで言うなら特別に吾輩自ら相手をしてやろう」
組合内の様子を観るに小魔王の座っていたであろう椅子の横に、消し炭となった手袋の残骸が落ちていた。
あのBクラスは自分から突っかかって自分から決闘を申し込んだのか。
「おい新入生、無理はすんなよ。建物や備品を壊すような真似したらタダじゃ済まねえからな」
なるほど、ギャラリーの質が低いと思えば冒険者組合関係者だったか。
エストバースの冒険者組合は上の圧力で骨抜きにされていてほとんど地域の役所仕事化している。
問題は起こさないだろうが、モチベーションの低さが顔付きに出ている。いや、学生相手なら変に威圧的でない方が良いのか。
ましてや相手は貴族の子女、張り切った結果空回りしたり嫌われたりするより、やる気を持たず仕事だけしてる方がマシなのかも知れない。
「いけません。このままでは本当に果たし合いが始まってしまいます!」
暫くすれば警備隊が到着するだろうがその前に決闘が始まっては問題になる。
「まったく、煩い連中だ。ここの警備が仕事をしないから俺が手を下すはめになっているというのに、騒ぎ立てて観客気分とは虫酸が走る。巻き添えになりたくなければ身の程を弁えて黙って観てろ!」
Bクラスのかざした杖に魔力が集まる。
「グハハハッ。弁えるのは果たしてどちらか。吾輩とて寛容さは心得ている。今ならば謝罪で済ませてやるぞ、虫」
小魔王の巨体から魔力の揺らめきが上がる。
「さっきから虫虫虫と、それは一体何の事だ!?
まさか人類様に向けての言葉では無いだろうな下等生物がッ!!」
おそらく覚えられないのではなく明日には忘れる者の名を覚えておく労力を割くのが億劫なのだろう。
互いに術式の為の魔力を練り上げ始めたか。
個人的にはこのまま黙って小魔王の実力を観察したい所だが、警備隊が間に合わないならやむを得まい。
(リヴィア様、出なくて大丈夫?)
(そうね、ここは平和的に解決しましょう)
セイが何か言おうとしているのを手の一振りで制止してから、両者の魔力と術式の構築をつぶさに観察する。
売り言葉に買い言葉、感情の様子からしてあのBクラスは動物と変わらない未熟な精神性らしい。
小魔王は、これは口実さえあれば破壊を愉しみたいと心の底で思ってるタイプの野獣か。
ああ、これは放っておいても自主的な解決は望め無さそうだ。
「そこまでです」
すうっとギャラリーの後ろから近づいて、ついでに両掌を合わせて柔らかな虹の光の円を周囲に拡げて通り抜かせる。
たちまち両者の練り上げていた魔力は霧散し、騒がしいギャラリーの声も掻き消える。
鎮火。
静寂。
場の支配。
まあ、こんなものか。
「お集まりの皆さま、どうぞご自身の持ち場へとお戻りください」
浮遊椅子に座ったまま高度を上げてギャラリーの頭上を越え、注目を集めてから落ち着いた声色とゆったりとした手振りで指示を出す。
虹の輪は周囲の全ての魔力を消し、稼働中の魔導具を停止させている。
Bクラスの構えていた杖からは込めていた魔力だけでなく尖端の魔石からも光が失われ、小魔王の巨躯は思い出したかのように自重に耐えるように脚に力を入れている。
「まだ騒ぎたい方や、場を乱したい方がいらっしゃればそのまま残ってくださっても結構ですよ」
静まり返っていた面々は、その言葉を受けて大半はそれぞれの持ち場へと戻って行く。
冒険者組合の者は組合施設内へと入り、遠巻きにこちらを観察している。
「…ッ!お待ち頂きたい、これは正式に申し込んだ決」
「あなた方のお名前を伺ってもよろしいですか」
とりあえず必要な事から済ませておこう。
何か言い掛けていたが、それを言わせてしまえば事が大きくなりかねない。
多少強引にでもそんな話にまで至っていない、誰も聞いていないという体裁を維持して、問題発言をさせないように守ってやる必要がある。
「このジャン・トーヴェルガが決闘を申し込んだのだ、余計な横やりはやめて頂こう!」
ふむ、言ってしまったか。
どうやら致命的に察しが悪いらしい。
しかしそうか、確かに入学試験に精神性の審査は存在しない。面接もあくまでも大人相手の態度しか見られていない。
肉体に依存する能力面を重視すれば他の性能が凹むのも無理からぬ事だ。
斯くいう私もリヴィアも、人間性や共感性という試験が存在すれば落第していたかも知れない。
「グハハハハハッ!
吾輩の名はルヴォルゼファー・セイターン。ここで会えるとは思っても見なかったぞ同輩よ、良ければ名を聞かせ願えぬだろうか?」
こちらは完全に流れを無視して、いや当人からすれば最初から言い掛かりを付けられたから相手をしていただけの些細な問題だったのだろう。
最早興味は私に移っているらしい。
「ではジャン、ルヴォルゼファー。双方に決闘の意志はおありでしょうか」
「だから先程からそう申し上げたはずですが!?」
「吾輩はどうでも良い。興も削がれた故、虫の鳴き声として聞き流そう。
そんなことよりも同輩よ、どうやら吾輩は少々出遅れた様でな、是非オリエンテーションなる催しの班に加えては貰えぬか?」
「おい、逃げるつもりか下等生物!」
なるほど、小魔王は遅刻で開始時刻に間に合わなかったのか。
人間基準の時間の感覚にまだ慣れないのだろう。
つまり彼が20人目という事になるのだから、三人しか居ない私達の班に入れるのが妥当な所か。
「申し遅れました。私はリヴィアゼア・エル・ファナリア。一回生で貴族科Aクラスに籍を置かせていただいております」
「ッ!?ファナリア…だと…!」
「リヴィアゼア殿か。グハハハハッ、噂には聞いておったがよもや同輩とは心底驚いたぞ!
吾輩も同じクラス故、どうか学友として接して貰いたい!」
ふむ、ジャンは表情が引き攣っている。
そうバツの悪そうな顔をしないで欲しい。少し愉しくなってしまうではないか。
「ああ、呼び方はゼファーよりルヴォルで頼む。一族に多く使われる名であるが故、区別が付かなくなると如何のでな。グハハハッ!」
対して小魔王はマイペースにいざこざなどとっくに終わった事として気にすら留めていない。
その程度の認識だったなら最初から上手いこと聞き流してくれれば良かったものを。
暇潰しに未熟な学生を態度で釣って煽る真似は遠慮して貰いたい。
「おい、喧嘩してるっていうのはお前達か」
ようやく警備隊が到着した。
私は浮遊の高度を下げて後は彼等に任せる事にした。
「くっ、リヴィアゼア姫。喧嘩ではない、これはれっきとした決闘の申し入れで…」
「グハハハッ、それは非ぬ誤解だ。虫と喧嘩など出来よう筈も無かろう?」
「おのれ口を閉じろ、下劣な下等生物がッ!」
「ほら大人しくしろ、事情は詰め所で聞くから」
「やめぬか、これより吾輩は学友とオリエンテーションをしなければならぬのだ」
警備隊から二三質問をされ、状況の説明をしてから私達はオリエンテーションへ戻る事にした。
セイも積極的に状況説明に協力して、ひとまず事なきを得たのだ。
「さすがはリヴィア様です。堂々としていらしてお見事です!」
「心配をおかけして申し訳ございません」
「全く、心臓に悪いわよ。リヴィアに危害が及ぶんじゃないかってハラハラさせられたわ」
諍い程度、学生なら起こって当然の事であり解決は当人同士か大人が責任を持って当たるべき案件。
私達の進行方向で起こっていなければ関与する気は無かったが、今回はタイミングが重なった。
(アルト、様子はどうかしら)
(ん、あの魔王強いね。でも全然本気じゃなかったから不意打ちでなら何とかできたかも)
(ギャラリーの方です)
(ん、調べとく)
ここで暮らす者なら警備隊をすぐに呼ぶべき事案であり、冒険者組合員がそれをすぐにしなかったのは喧嘩以上に大変な問題である。
つまり『そんなミスは起こるはずが無い』のだ。
となるとこれは、何某かの組織か国が送り込んだ間者の手引で警備隊への連絡か到着を遅らせられたのだと容易に想像が付くではないか。
まったく、ここを何処だと思っているのだ。
ミスだった、で誤魔化せるような杜撰な管理の国と同じ手が通じると、本気で信じているのだろうか。
我が国を自分と同等かそれ以下だと信じてしまう連中の精神構造が理解出来ないが。
脳が鈍くなる薬でもキメているのかも知れない。
他国から入り込んだ冒険者に間者が紛れるのは常套手段だと思うが、どうしてもっと我慢せずに余計な関与をしてしまったのだろうか。
探りを入れるために小さな事件を起こして揺さぶりをかけたいのは解るが、やり方が雑過ぎる。
それも選りにもよって私の前で見せるなど、失態としても下の下である。
早々に退場されて私の手の上で情報を思考してくれる敵を失うのは実に勿体ない。
だがこうも無能では致命的なボロを出すのも時間の問題だろう。
こうなっては仕方が無い。
暫くはアルトの諜報訓練にでも使って、要らなくなったら適当なタイミングで報告を上げさせて処理して貰うとしよう。
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衛星街には様々な施設がある。
冒険者組合、宿場通り、迷宮街道、馬車発着所、商業組合、市場、社宅、公衆浴場。
「リヴィア様。あれが有名な冒険者の宿ですよね?」
「地図によれば黒鉄寮はあの建物です」
「黒鉄って言うから鉄の家かと思ってたわ。それにしても少し小さいわね、あんなに小部屋を多くする意味が分からないわ」
「お姉さま、あれは小部屋ではなく生徒一人分のスペースです。黒鉄寮はあの窓の一つ一つがある部屋だけが生徒の一人分の居住空間みたいですよ」
衛星街では各国のスタンダードな交易都市や迷宮都市の街並みを再現しており、いずれ国内外で活動する者達の為のジオラマ市街やシチュエーション教材としての役割を果たしている。
ここまで教育の為だけに膨大な人の手や資金が掛けられた舞台装置を用意しているのは世界広しと言えどクリムワイエ魔術学院だけである。
「そ、それにしても生徒の寮の外観まで冒険者の宿風にするなんて、凝ってるわよね」
「え、ええ、本当に。冒険者に憧れる生徒にとっては嬉しい配慮だと思います」
いや、おそらく予算の都合で他とほぼ同型の建物になっているだけだろう。
本来ならもう少しアレンジして寮である事が見た目からでも分かる造りにしたかったのだろうが、街の景観の面から観ても同型で柵や看板違いなら妥協点としては無難である。
勿論、こうした交易街や迷宮街に併設された学舎という物は探せば他国にもあるのかも知れない。
だがそれらは本物であり、それはつまり相応に治安が悪く、自由に学ばせようとすれば拐われたり、物盗りに刺されたりする可能性がある。
誰でも安心して学べる教材とは行かない。
◇◆◇
「交易所はもっと賑やかな場所だと想像していたのですが、あまり人も多くありませんでした」
「ここには特産品がないからじゃないかしら」
「ダンジョン開きのシーズンになれば自然と賑わうのではありませんか」
特産品も無い。
ダンジョンは学生用。
つまり外貨を稼ぐ手段が無いにも関わらずこの街並みを維持している事が最も違和感を感じさせる。
国や貴族家の寄付金だけで十分経営は問題無いからこそ、この様な通常の街では有り得ない発展が可能なのだ。
今回はオリエンテーションという事であくまでも下見である。
実際に体験するのはもっと後になるのだろう。
位置関係の把握さえ出来れば、わざわざ足を止めてつぶさに観察する必要は無い。
大通りを直進して、進路上にある施設を観ていけば良いという簡単な行程である。
「リヴィア、少し足が辛くなってきたわ。残りはバスで行かない」
「でしたらそこのカフェで少し休まれてから魔導バスの停留所まで向かいましょう」
「悪いわね。それにしてもセイって意外とタフなのね。少し元気を分けて欲しいわ」
ドルセーラよ、それはとても15歳の発言には聞こえないぞ。
「ところでリヴィアの方こそ大丈夫なの。ずっと浮遊してるけどよく魔力が保つわよね…」
「ふふ。今は便利な魔導具や魔術具も開発されているのですよ」
セイを呼び止めカフェへと入店する。
こうした女子生徒向けの小洒落た店は所々で見掛ける。
主な客層が学生やその家族だからこそだろう。
他にも服屋や靴屋、本屋に花屋、日用雑貨店から金物屋まで普通の街に有りそうな店なら衛星街でもほとんどが軒を連ねている。
「リヴィア様、ドルセーラ様。このウルトラショッキングストロベリーサンデーDXパフェとは、いったいどの様な意味の用語なのでしょうか…!」
「セイごめんなさい。私には解らないわ」
「私も初めて聞く名称です」
妙にソワソワしているが、セイはこういった店は初めてなのだろうか。
そしてそれは初心者が頼んで良い物なのだろうか。
「どうしましょう。観たい気持ちと、もしもの時の不安感で動悸が鎮まりません」
「なら頼むだけ頼んで気に入らなければ下げてもらえばいいのよ。私は紅茶でいいわ」
「そ、そんな、勿体ないです!」
セイは良家の生まれに思えるのだが食べ物を残さない様に教育されているのだろうか。
エストバース貴族には無い勿体ないの精神が宿っているらしい。
「そ、そう。なら別のを頼んでみたらどうかしら」
「そうですよね。何もウルトラショッキングストロベリーサンデーDXパフェに拘る必要はありませんもの、頑張ってウルトラショッキングストロベリーサンデーDXパフェ以外の物を見繕います。何かウルトラショッキングストロベリーサンデーDXパフェより良さそうなお勧めはありませんか?」
うん、滅茶苦茶連呼してくるな。
そこまで気になるならいっそ頼んでしまえば良かろうに。
いや、仮に特大パフェであったなら私とドルセーラは戦力外、例えアルトを参戦させても勝ち目があるだろうか。
残さず食べ切るのは困難か。
「そうね。スコーンやケーキもあるみたいよ」
「ケーキ、知ってます!
残念ながら今まで戴く機会は有りませんでしたが、ここではケーキが普通に出てくるのですね」
「ふふ。色々な種類がありますね。でもケーキ初デビューでしたらショートケーキはいかがですか」
「ありがとうございます。ではショートケーキなる物に挑戦させて頂きます」
何とか無難な所に着地させられたらしい。
アレはいずれ機会があればギルバートの来訪時にでもお勧めしておこうか。
きっと訳もなく完食しきるだろう。そして聞いてなくても感想を語り始めるのだ。
カフェでの他愛もないひと時を過ごした私達はその後最寄りのバス停へと向かい、学院敷地内への帰途についたのだった。
《余録》
「お姉さま、あれは小部屋ではなく生徒一人分のスペースです。黒鉄寮はあの窓の一つ一つがある部屋だけが生徒の一人分の居住空間みたいですよ」の場面から。
「やだリヴィア、からかわないでよ。さすがの私でもそれが冗談だって分かるわ。だってそれだと物を置いたら立って寝なければならないじゃない」
「リヴィア様。その、窓二つではなく、本当に一つずつなのでしょうか…?」
「はい」
「え、リヴィア、冗談なのよね…?」
「いいえ」
「でも、建物全部でも私達の寮より小さいわよ?」
「はい」
「分かりました。リヴィア様、つまりあれは噂になっていた魔法の鞄の技術で小部屋が拡張されておられるのですね?」
「いいえ」
「それはおかしいわよ。あのスペースだと新しく買った家具を入れられないじゃない」
「はい」
「今度こそ分かりました。リヴィア様、つまりあれは必要になる部屋数を予め選んで居住するのですね!」
「いいえ」
「え、本当に一人一部屋なの…?」
「はい」
「そんな、無料の青磁寮より狭い筈有り得ません…!」
「いいえ」
「本当にあんな所で生活してる生徒なんて居るのかしら…」
「はい」
「その、何かの罰なのでしょうか…?」
「いいえ」
「冒険者って大変なのね…」
「はい」
「そ、それにしても生徒の寮の外観まで冒険者の宿風にするなんて、凝ってるわよね」
「え、ええ、本当に。冒険者に憧れる生徒にとっては嬉しい配慮だと思います」




