学院オリエンテーション 3
[294]
グランドドームパレス。
そこには大中小のコートやリング、フィールドが広がっている。
スポーツや模擬戦闘をする為に造られた地上5階、地下1階からなる巨大総合体育館である。
「無駄に大きいわね。次に行きましょう」
「お姉さま、まだ中を観ていませんよ」
「どうして魔術学院の建物ってどれもこれも大きいのよ…」
前世の知識にあるドーム球場の倍以上の敷地面積で5階建てともなると、まさに圧巻の一言である。
この世界の建築技術の水準は魔術があるからか明らかに前世の世界を上回っている。
「リヴィア様、ドルセーラ様。ここは大神殿なのでしょうか」
「セイ、これはエストバース王国の悪しき風習よ。大きい建物には何にでも大げさなくらい芸術的な価値を付加しようとするの」
「ふふ。正面の大通りからだと3階の彫刻はとても印象深いですが、まずは1階から参りましょう」
因みに天神領域の浮遊大陸には高さ1kmから5kmにもなる塔がいくつも建っているらしい。
いったいどんな建築思想なのか、そこまで高くする必要はあるのか、使い勝手は悪くならないのか、建築基準法とかどうなっているのか、そもそもどうやって建てたのか、メンテナンス等の労働力や維持費はどう捻出しているのか。
疑問は尽きないが今は置いておこう。
割と何でも魔導技術で解決してる気もしないでもないが、これを考え出したら一日が終わる、どころか自分で建てるまで終わらない気がする。
いっそ建ててしまおうか。
そうすればひとまず興味は薄れるだろう。
いや、今はあちら側のノイズになりそうな事はするべきではないな。
「どうして5階建てにしたのか全然分からないわ」
「お姉さま、それは考えてはいけません。これは技術力の挑戦です。巨大建築物の多くは国力と技術力のアピールに使われてしまうのです」
「はい、現在進行形で圧倒されております。我が国では百年あっても真似はできそうに有りません…」
「他国へのアピールより自国の使う人のことを考えて欲しいのだけど。観ているだけで足が疲れてきたわ」
競技場の一ニ階は天井が高く内装も立派な造りで、様々な物を搬入する必要のある祭典や、中小のコートやリングとしても利用される。
二階席が有り、建物西の一階入口脇の通用階段か、表通り南大階段の中腹からの出入口でも入れる。
「知っています。ここで世界的に有名な魔闘大会の予選が行われるのですね。私、今からとても楽しみです」
「セイは出場を希望しているのかしら。私は出ないけど」
「いえいえとんでもないです。我が国は魔術後進国ですから、とてもでは有りませんが予選にすら出られるかどうか」
「ふふ。エントリーは二回生からみたいですから、今からでも努力次第ではいいところまで行けるかもしれませんよ」
三階は大型パネル式の仕切りのギミックで最大3面にまで分けられるダンスホールとなっており、外から直接入場出来る出入口の先にフローティングリフト(魔力で浮遊移動する床)や大階段が備え付けられている。
普段はダンスや教養の授業に3面分けで使われているが、イベントでは仕切りを取り払って絢爛豪華な舞踏会を催す。
エレベーターからだとやや遠回りになる。
「外から直接入るのは簡単なのに、中から3階と4階へ移動するには面倒な作りよね」
「リヴィア様、ドルセーラ様、こちらの六大神様に天使様や勇者様の彫刻が素晴らしいです」
「古代の神魔大戦をモチーフにしたものですね」
「ふうん。聖女様と大魔王様の彫刻はあるけど、変よね。これって海外からのお客向けなのかしら…」
四階は体育館となっており、球技や体操といったスポーツ関係や、大きなイベントでは大部屋の控室としても使われる。
大階段からだと遠回りになり、三階の外周からだと通用階段か北の非常階段を経由して入る事になるので、基本的に通用階段か内部のエレベーターを使う。
「ねえ、ここって天空人の賓客も来るのかしら」
「ええ、魔闘大会の本戦ともなると世界中から観戦に訪れるみたいです」
「ふうん。そういう事になってるし、やっぱり配慮した造りにするのも仕方ないのね」
五階は開閉式のドームで覆われた天蓋付き競技場は大コートやリング、闘技場として利用され、特別な催し以外では頻繁に使用されない。
エレベーターや飛行魔術での出入が主で、階段だと結構な高さがあるので利用者は少ない。
建物東口の天空ポートに飛行船の横付けが可能で、大きなイベントや長期休暇の際には王都から学院間の直行便もあるらしい。
「飛行船の発着場が学舎の敷地内にあるだなんて、我が国とは規模が違い過ぎて驚愕です」
「あるからと言っても皆が乗ってるというものでもないわよ。落ちたら怖いし、私は自力で飛行術式を習得するまで乗る気にはなれないわね」
「飛行術式、是非とも習得したいです」
「ふふ。自由に浮遊移動できるようになれば続けて飛行術式の訓練に入れますね」
「さりげなく訓練メニューを増やそうとするのはやめて欲しいわ」
この世界の飛行船はそれなりの国なら当然保有している。海路が不安定なので大陸間航行の手段としてここ数十年で急激に発展した技術の一つである。
とはいえ、発着場も国の首都や一部地域に限定されており貴族以外の利用者は少ない。
引っ越し荷物の必要な新入生や卒業生は陸路や海路を使うのでお世話にはならないが、手荷物の少ない長期休暇の移動では利用する可能性は高い。
何にしても見た目のインパクトが凄まじい。
土地も資金も有り余っている学院の力の象徴たる建築物の一つである。
「ねえ、これって一度エレベーターで5階まで上がってから非常階段を降りながら見て回った方が楽だったんじゃないかしら」
「ドルセーラ様、それではあの見事な彫刻を観る事が出来ません。それはとても勿体無いです」
「ええ、初見ならこの回り方で正解だと思います」
「…セイもリヴィアも真面目よね」
◇◆◇
[295]
広大な学院の敷地内には一定の区画間ごとにいくつかの休憩所が設置されている。
校舎間の移動や授業の合間に立ち寄って一息ついたり生徒同士の憩いの場として利用する目的で設営された共用スペースで、先輩後輩隔てなく、友人同士で集まっている。
そして驚くべきは王都ですら見なかった平和と文明の象徴が設置されている事実だ。
「まあ。リヴィア様、これは何でしょうか?」
「あら、私も初めて目にするわ。軽食や飲料に薬まで並んでいるみたいですね」
「リヴィアでも知らない物ってあるのね」
「ふふふ。お姉さま、この世界には今のところまだ私の知らない物の方が多いですよ」
「『まだ』ね…、とてもらしい返事だわ」
休憩所は周辺より一段高く設置されており、オープンスペースと屋内スペースとに分けられ、4〜6人が囲める丸机と10〜12人用の長机とが複数用意されており、折り畳める椅子がスペースの端に整列して置かれていた。
「はぁい、新入生。興味津々って感じね」
私達の様子を観て上級生と思しき女生徒達が声を掛けて来た。
人間族と半精霊族だろうか。私達に声を掛けるとは中々肝が座っている。
「それびっくりしたでしょ。【レストボックス】って言って、ここみたいな休憩所で簡単に食べられる物とかお菓子とかも買えるのよ」
「そうそう、お茶は無料だしお菓子も手頃で色々あるよー」
【レストボックス】、つまり自動販売機である。
ガラス張りの商品陳列、ボタン式、ライトアップ、硬貨投入口と光るパネル、商品取り出し口。
知識にある自動販売機より一回り大きい以外は良く似た外見をしている。
水やお茶は無料で軽食と薬は有料。
エストバース王国の貨幣Btだけでなく学院敷地内専用通貨であるACでも購入が可能らしい。
「この学院って敷地広いから。迷って遭難しても休憩所にさえたどり着ければとりあえず飲食には困らないわよ」
「毎年プチ遭難する子いるのよねー」
確かに広いとは思うが、それ程なのか。
「異国のお菓子。私とても興味あります!」
清楚で大人しそうな外見に反して好奇心旺盛で物怖じしない性格のセイは自動販売機に興味を抱いたらしい。
「これって中に厨房でも入ってるのかしら。一人しか入れなさそうだけど、この狭さで全部用意するのって大変そうよね…」
ドルセーラはいまいち仕組みを理解出来ていないのか、自動販売機の中で誰かが調理しているのだと思っているようだ。
「もしかしたら学院の地下に大きな厨房があって、注文をされたボックスへ魔術で食事を運んでいるのかもしれませんよ」
勿論そうでない事は解っているが、それらしい考察を口にして得意気な様子の先輩方の出番を取らないでおこう。
「そう思うでしょ?でもこれ完全に無人なのよ。小型のゴーレムも入っていないわ」
「もちろん厨房もないよー」
おそらくこの上級生達も初めて見た時に衝撃を受けたのだろう。
したり顔で解説してくれた。
販売機の中は人の代わりに魔導具やギミックが組み込まれ、完全に自動で食事や飲み物を提供している事や、生徒なら光るパネルに徽章をかざせば自動的にACで代金を引き落とされる仕組みだとか。
前世の記憶にある自動販売機とほとんど何も変わらない様式らしい。
つまり発案者が転生者である可能性はとても高い。
「無人販売所を絡繰で動かしているだなんて、流石は先進国の発想は時代の先を進んでいます」
セイは瞳をキラキラさせながら自動販売機の仕組みについての説明の間、終始興味深そうに聞き入っていた。
(アルト、こちらへいらっしゃい)
「ふふふ。せっかくですから先輩方のお勧めを教えていただけませんか」
そう言うと上級生の二人はこぞってお菓子のレクチャーをしてくれた。
どれも安価で十種類ほどの中から選択出来るが、時期によって季節限定品や数量限定品なんかも有るのだという。
「ねえリヴィア、さっきの説明だと中の食べ物は前もって置いてるって話でしょ。本当に食べられる状態なのかしら…」
小声で話し掛けてきたドルセーラは衛生面を心配しているのか不安そうな顔をしている。
作り置きして何日も経った食事なんて口にした経験が無い生活をしてきたのだから不安に思うのは当然か。
私もそうだが、干した果実以外の乾物すらも口にした事はないのだ。
「お姉さま、これくらい食べられないようでは学院生活に支障が出てしまいますよ」
「リヴィア本気なの?お腹壊したりしたらお祖父様が業者に聖戦をしかけに行ってしまうわよ」
ジェラルドなら割と本気でそうする気がした。
なるほど、確かに洒落にならないな。
「ふふふ。心配なさらずとも商品はどれも保存の術式が掛けられているのは術式鑑定で確認済みです」
「それならいいけど。でもやっぱり私は遠慮しておこうかしら…」
「アルト」
呼び掛け一つで影から現れたアルトに上級生二人からお勧めされた菓子をいくつか購入させる。
こういう時の為にアルトの徽章には当分困らない量のACをチャージしてある。
「ん、リヴィア様。これでいい?」
「ええ、下がっていいわ」
上級生二人を含めて全員に購入した菓子を包のまま配らせてからアルトは来た時と同様に音も無く影に消えた。
「私達にもくれるの?何だか悪いわね」
「色々教えて頂いたお礼もかねて、お茶をご一緒させてください」
「きゃ〜、ありがとねー。ところで今の子も新入生なの、すっっごく可愛かったんだけど!」
「リヴィア様、先程のお方は…」
アルトの事はスルーして貰いたいのだが。もう少し地味な演出が良かったのだろうか。
上級生二人も誘い、ひと休憩も兼ねて5人で丸机を囲む。
「あれは私の従者で従士科一回生のアルトよ。必要になれば現れるわ」
「影渡りまで使える従者だなんて、まるで御庭番みたいです…」
「そう言えば私の従者はどこかで昼寝でもしてるのかしらね。これくらい鮮やかに現れて欲しいわ」
ドルセーラの従者は言われた事ならそつなくこなすが言われてない事はほとんどやらない。
主従揃って省エネ仕様である。
ひと休みの間、学院の施設について上級生から様々な情報や噂について聞かせて貰い、菓子が無くなる頃に解散となった。
「じゃあね、新入生。オリエンテーション回り切るの大変だけど頑張ってね」
「まったねー!」
上級生二人が次の授業へ向かうのを見送ってから、私達は再びオリエンテーションの施設巡りを再開する。
休憩所の使い方としてはこれで正解だろう。
「もう王都に帰りたいわ」
「お姉さま、せめて寮と言ってください」
「嫌よ、ここって空気が綺麗過ぎてアウェー感凄いもの」
なるほど、駄目な方の都会っ子であったか。
「ふふ。でもレストボックスのお菓子はお気に召したのではないですか」
何だかんだ言いつつ菓子は美味しく頂けたらしく食べきっている。
「それはだって。よく考えたらお祖母様の学院で変な食べ物なんて出てくるわけ無いじゃない。それに時間に縛られたり指示を出さなくても好きなタイミングでお菓子とお茶が出てくるなんて画期的よ。部屋にも一台置いてくれないかしら」
「そうですよね。我が国にも是非とも取り入れて欲しいです。そうすればいつでも異国のお菓子を取り寄せられます!」
おそらくセイも自動販売機の仕組みをいまいち理解していない。
転送装置では無いのだが。
しかしそこまで気に入ったのか。
この様子ではコンビニが出てくればコンビニ依存に、インターネットが出てくれば通販サイト依存になってしまうのでは無かろうか。
それらはまだこの世界には早過ぎるかと思っていたのだが、案外順応するのも早いのかも知れない。
いや、そんな事になれば本格的にドルセーラが引き籠もりになる未来しか見えないな。
便利過ぎるというのも考えものか。
「リヴィア様、次はどこへ向かわれますか?」
「地図では今この位置ですから、一度衛星街を抜けてから学院内へ戻るルートなら綺麗に回りきれそうですね」
「リヴィアってこういうの一切迷いが無いわよね」
「私は地図を読むのが苦手なので大変助かります」
「ふふふ。領地経営をする上であると便利だから学んだだけです。それに私は空間把握のギフトも授かっていますからね」
領地経営の前に学んだのは嘘ではない。
が、私の空間処理能力が高いのは生まれつきというより、前世から飛び抜けていたからである。
パズルや迷路は渡されてから解き終わるまで必ず最短で且つ指が少しでも止まった経験は無い。
そして今生においてもその特性は一切変わらなかった。
パズルや迷路は準備体操の様なもので楽しいと思ったことは一度も無かったが。
やって見せるとウケが良かったので何度か披露した事はある。
しかし前世の能力や特性を全て再現出来てしまうという事は、つまりリヴィアの才能や知能指数は少なくとも前世の私を優に超えているのだろう。
これでまだ途上だというのだから今後の成長も実に楽しみである。
[296]
衛星街とはクリムワイエ魔術学院の維持に必要な資材や人材の為の搬入路がそのままベッドタウンとなり徐々に街へと発展した物で、代々魔術学院の施設での働き口を得ている人々や専門の業者や技術者達が暮らしている。
エストバース王国内に在りながら特別区という特殊な環境にあり、ここでは王国の貴族階級制度が適用されない。
それはつまり平民という身分が無い事を意味している。
領主の代わりに地区別に区画長がまとめ役を務めており、封地ではないので衛星街内の税は他領と比べるとかなり低く設定されている。
国という縛りが無いことから法も融通が利くので、王国や他国でもまだ取り入れていない画期的なシステムも次々と試験的に運用していた。
無料巡回バスや自動販売機もその一つである。
仕事と生活をするだけなら大変快適な環境ということで、王国出身者が選ぶ働き口の候補としてはかなり魅力的で人気が高い。
一見すると理想的なモデルタウンに感じるが、実際には欠点も多い。
まず特別区の労働者には市民権が無い。全員が他領からの就労滞在扱いである。
つまりこの特別区の土地はあくまでも借り物で、資産として購入することが出来ないのだ。
雇用先の都合で寝泊まりする施設は決まっているし勝手に変える事は出来ない。
封地では無いという事はそういう意味も含む。
そして学院生の立場が高い。
貴族階級にこそ縛られないが、ここは魔術学院を運営する目的で作られた街である。
それは即ち学院生こそがここで働く者にとって持て成すべき賓客であり学院生ファーストなのだ。
従って特別区にも明確な階級差は存在しており、頂点の出資者から、雇用主、学院生、教職員、学院従事者、学外労働者の順になる。
この世界の常識では馴染みは薄いが、前世の記憶にある資本主義の階級分けに少し似ている。
更に細かく分ければそれぞれの階級毎にもグレードが有り、出資者なら政治的発言力や、より多額の資金提供をしている者が上である。
表向き平等を謳ってはいるが、学院生なら実家が学院関係者であれば特別待遇されるのも仕方が無いのだ。
この職場で働く者達は社員教育をみっちり受けており、街と名は付いているが危険な場所は無く、貴族の女子生徒でも護衛を付けずに歩ける。
とはいえ、一応夜間の外出は見付かれば補導される。
衛星街には独自の警備隊が組織されており、半分は常備隊員でもう半分は持ち回り制となっている。
一定期間ごとに配置換えがあり、労働者から選出されたメンバーが担当となる。
これはいざという時に街の住民が誰でも緊急時の対応が行えるようにする為のシステムらしい。
つまり各国の要人の子女が集まる学院生徒を狙ったテロリズムや誘拐事件を未然に防いだり、その身を盾にしてでも守り抜かせる自覚を持たせたり、事件が起こった際に即座に動けるようにする訓練なのだ。
最近はそういった事は起こっていないが、十年くらい前までは毎年一度や二度くらいは何かしらの事件が起こっていたという。
こうした事前の訓練が役立ったのか、幸い未遂で終わったり大きな事件にまで発展する事は少なかったらしいが。
それにしても毎年とは穏やかではない。
それに少なかったとはいえ、数年に一度は死傷者も出る事件は起こっていた。
それでも魔術学院への入学を渋らないのは、他国と比べて教育水準が高いという理由だけではない。
もっと単純に、数年に一度程度なら事件での死亡率が破格なほど低いからだ。
つまり他国では定期的に事件が起こって死傷者が出るのは当たり前の話で、それが数年に多くて数人しか起こらないのなら、それはかなり安全という認識なのだろう。
箱入りで育ってきたのでつい忘れがちだが、この世界は前世の故国と比べると遥かに危険で人の命も軽い。
それに勘違いしてはならないのは、前世の故国以外の国ではもっと命の軽い国はいくつもあった。
これも平和ボケと言えるだろう。
特にここ十年くらいはエストバース王国の治安の良さは世界的に見ても類を見ない程なのだという。
ジェラルドの強行した邪教撲滅運動が功を奏したのだろう。
徹底した邪教狩りにより、犯罪の温床になりそうな地域も一斉摘発、一斉検挙、一斉駆除して何もかも綺麗さっぱりにしたという話だ。
ならば綺麗事ばかりではなく、家族にも話せないような苛烈な報復や裁判も辞さず、いや裁判をするならまだ温情か。
一人も逃さない方法を取ったとしたらそれはおそらく、慈悲をかけずアジトを丸ごと戦略級の殲滅術式で焦土にしたのだと思われる。
邪教殲滅の指揮を取っていた頃のジェラルドは、決して私に会おうとはしなかった。
自分自身を人の心へと戻しかねない要因からはなるべく遠ざかりたかったのだろう。
それ程までに一人娘を失った哀しみは深かったのだとジェラルドを知る者なら容易に想像が付く。
そのおかげで今日のエストバース王国の平穏が築かれているというのであれば、恩恵を甘受している身としては感謝せねばなるまい。
そしてもう一つ。
ジェラルドは自分の心と私の未来の為にそれらをやったのだ。
ならば私の平穏の為に礎となった殲滅に巻き込まれた名も知らぬ人々の分も、心穏やかに健やかに育たなければなるまい。
狩人が殺した生き物の肉を喰らうが如く、私の糧としてなるべく無駄にせず平らげる義務がある。
まずは、こうして生徒だけで衛星街を歩ける平穏を自覚して享受するとしようか。
《あとがき》
学院モノと言えば、出会い、友情、恋、ライバル、派閥、学内イベント、アクの強い生徒、陰謀、事件、主人公の成長。
王道ですね。嫌いではありません。
一応、全ての要素へと繋がる素材は揃っていますが、この主人公に回収する気があるのかは甚だ疑問です。




