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1000通りの計画  作者: Terran
第七章 太陽の神子
42/99

第二能力開発研究会



【研究会】


[281]

 新入生の学院生活の始まりは入寮、そして入学式からの研究会勧誘である。

 研究会には、一回生なら任意に入会と退会をする事が許可されている。

 所謂お試し期間である。


 二回生からは何処かの研究会へ所属してテーマを決めて卒業までに論文を書くか、成果を上げる必要がある。

 前世の大学で言う研究室、ゼミの様なものなのだろう。

 学院は三回生〜五回生で卒業するのだが、高等教育と大学の両方の役割が有るらしく、遊んでいる暇など無いくらいスケジュールがタイトなのだ。

 研究会への入会も一回生からでも可能というだけで実際の所は二回生から所属するのが基本で、勧誘も主に三四回生が二回生を中心にターゲットとして行うものである。

 本格的な研究は魔導大学の所属魔導師が主導で行うプロジェクトであり、これが大学院に相当するのだろう。

 学院の研究会はゼミと部活動の中間で、生徒が主導で研究テーマを決めて取り組む。


 前世の記憶がある私にとっては学院の研究会程度ではごっこ遊びの域を出ない。それでも興味のある試みをしている所もチラホラと見掛ける。

 まあ、予め学院内の全生徒と教師陣の活動は把握しているので、わざわざ勧誘に乗っかる必要も無く、入学式を休んでおいて研究棟へと直行している。

 ことごとく規定の路線とタイムスケジュールを無視して行動しているが、私はどうやらかなり目立つらしいので、こうして人通りの少ないタイミングに目立つ事なく先回りしてやるべき事を済ませる方が結果的には面倒事にならずに済む。


 興味を持ったのは能力開発研究会なのだが、どうやら新魔術や武術を試案したり開発案を出したりといった既存の観念に沿った形で研究しているらしい。

 正直そんなものは大して時間を掛けずに考えさえすればいくらでも湧いて出てくる、つまり間に合っている。

 既存の技術を本当にそのままの解釈で正解なのか、と鵜呑みにせず考える事は悪くはないが、私の求めている物ではない。

 在るのかどうか判らないが、その兆しは在るかも知れない物や、既存の法則の不合理性や矛盾点を見つけ出し、新しい要素を発見する。

 そういった研究会を探していた所、第二能力開発研究会なる怪しい研究会を見付けたのだ。

 通称『新能研』。


 先ほどの第一能力開発研究会こと『一能研』が既存の要素の改良研究なのに対して、新能研は未発見の要素の証明という不確実で実を結ぶのかすら怪しく、実用性の薄いマイナーな研究をしているアングラ研究会だ。

 一能研と違い、研究棟の立ち並ぶ区画の奥へと追いやられた新能研は、いかにも流行っていない雰囲気の怪しい門構えに、変色気味でも取り替えられていない表札を掲げていた。

 事前探査はしていたが、ここへ到るまでの道程と寂れた研究棟の雰囲気を実際に目の当たりにすると、人が寄り付かないのも納得の様相である。

 とはいえ、そんな事は私にはさして問題ではない。

 案内をする新能研の顧問教員ストラフの手引ですんなりと中へ通された。


「…今は勧誘活動の為にほとんど出払っていますが、ここが我々の研究会の拠点となります」

「ストラフ先生、来ていらしたんですか。って、えっ!?」


 室内に入ると白衣を着た生徒が席から立ち上がって出迎える。

 そしてすぐにストラフの後ろに居る私に気が付いたようだ。


「ああ丁度良かった、紹介しましょう。彼がこの研究会の副会長のマシュー君」


 紹介されたマシューは私を観て固まっている。

 私はドレスではなく学院の制服を着ているし、眼鏡も掛けており突飛な恰好をしている訳では無いが、元が目立つ外見なのは重々承知である。

 だが、どれだけ見目が良いと言っても固まった原因はおそらく別にある。

 そう、私は魔導椅子に座ったまま浮遊して移動し、この研究室へ入ったのだから驚くのも当然である。


「初めましてマシュー副会長。新一回生のリヴィアゼア・エル・ファナリアです」


 低空浮遊なので座っている事もあり目線は立っている時と変わらない程度。

 ただでさえ私の身分は学院内であっても高い。

 貴族も平民も隔てなく通う事をモットーとしている学院の理念にそぐわない身分差による威圧は出来るだけ避けるのが肝要であり、目線は高過ぎず低過ぎないのが丁度良い。

 もっとも、理念はあくまでも理想論であり身分差は覆る事なく明確に存在している。

 要するに必要以上に怖がらせない様にしよう、という話だ。


「俺、いや僕、いえ私はマシューと言いいいます。よ、宜しくお願い致しますッ」


 滅茶苦茶狼狽えてる、ガッチガチではないか。

 これでもまだ配慮が足りないのだろうか。


「会長のロンガス君も紹介したかったけど今は丁度勧誘に出ていてね、大したおもてなしは出来ませんが当研究会の活動についてお話しましょう。

とはいえ、今年新たに会員を集められないと存続の危機だったりするんだけどね」


そうしてストラフの説明が始まった。




[282]

 顧問のストラフは三十代半ば、平民出で魔導大学まで行った魔導士、現在はクリムワイエ特別区に配偶者と共に在住、子供は居ない。


 この世界の魔術協会の定める階級は大まかに、

【魔術士】、【魔術師】、【魔導士】、【魔導師】、【賢者】に分けられる。

 階級内でも更に細かな等級分けが有り、それらは魔術協会と国家、更に六神連盟の定めの下でしっかりと管理されている。

 魔術士は魔術協会に登録した魔術師に師事し、実力を認められた時点で協会へ登録すれば名乗る事が許される。

 つまり学院の受験条件に魔術士としての資格が必要で、既に全員が魔術士なのだ。

 そこから魔術協会の定める一定の基準を満たした学舎を卒業するか、試験を通過する事で魔術師となる。

 魔術師から魔導士になるには魔導大学を始めとした魔術協会本部に所属して一定を功績を上げるか、魔術士見習いを弟子として取り、その弟子が魔術師となる事で推薦資格を得るか、魔術学院等の協会直轄の学舎で教職員としてのキャリアを積むなりしてから、協会の審査を通る事でも資格を得られる。


 大抵の者は魔術師となった時点で魔導士を目指すものではない。

 というのも魔導士とは協会から援助金を得ながら研究する者に必要な資格というだけで、それ以外の魔術を利用するほとんどの職種に魔導士の資格を必要とする物が無いからだ。

 更に魔導師ともなると、魔術協会内での出世か賢者の称号を得る為の資格というだけで、ほぼ肩書きとしての意味合いしかない。

 なので必ずしも魔導士や魔導師が魔術師より実力があるという訳でも無い。


 例としてはギルバートは魔術師だが、その実力はエストバース王国内でも五指に入る。

 魔術師としては間違いなく天才だが、魔導士や魔導師に向いているとは到底思えない。

 一応、直弟子である私とヒルデとアルトが学院を卒業して魔術師となり、ギルバートが協会で資格試験を受けて通れば魔導士にはなれる。

 が、魔導士の肩書きは研究者くらいにしか使い道は無いので、おそらく申請はしないだろう。

 ちなみに私の場合は、七光の名義が魔導士と魔導師になる為に必要な条件を既に満たしているので、前提となる魔術師になった時点で七光であることを明かせば、自動的に魔導師へと繰り上がる。

 史上最年少の魔導師爆誕である。

 まあ、明かさず名義を分離するという手段も取れなくはないのだが。


 ということで、ストラフは平民出で魔導士にまで成った優秀な人物である。

 彼の世代では学院もまだコテコテの貴族主義がまかり通っていた時代だろうに、どれだけの苦境を強いられてきたのだろうか。

 そして私がここ新能研の見学を申し入れに行った際には大変驚かれたものだ。


「えっと、第一能力開発研究会の顧問はトラビス先生ですよ?」

「いいえ、私はストラフ先生へ見学を申し入れています」

「私は第二能力開発研究会の顧問でして、第一能力開発研究会とは別の研究会なんですよ」

「はい。私は新能研への見学を申し入れています」

「はは、新能研は一能研の下部研究会という訳ではないんですよ。それに研究会は二回生になってから選んでも大丈夫ですし、急いで決めなくてもいいんですよ?」

「いいえストラフ先生、私は間違いなく一回生時点で新能研への見学を希望しています」

「…冗談とか勘違いでは、無いんですね…?」


 と、結局四度に渡って確認を取られてから申し入れしてようやく信じてもらえたのだ。


 ストラフが何度も聞き返すのも無理は無い。

 というのも、第一能力開発研究会は貴族の生徒が、第二能力開発研究会には平民の生徒が入る、という暗黙の棲み分けがされている。

 一能研は能力の有る者が更なる可能性を求めて活動するのに対して、新能研は能力の無い者が別の可能性を求めて活動する、という解釈で受け入れられているからだ。

 必然的に、魔力や武力の高い生徒や更なる高みを目指す子女は一能研に行ってしまい、新能研は今のままでは芽が出ない子女や、一能研を断られた生徒が行き着く負け組研究会というイメージを持たれているのである。


「私達はね、既存の魔術や武術、精霊術といった既に確立された技術から更なる発見や発展を探る一能研と違って、未だ見ぬ全く新しい技術、能力の新地開拓の可能性を探る研究会なんだ」


 そう、こうして説明された内容の通り、私には一能研には全く魅力を感じていない。

 何せ彼等一能研の求める発展技術とやらは、既に私が再三に渡って協会へと論文として発表、提出してきた内容の劣化版だからだ。

 むしろ早く理解して貰って、次の論文を提出する段階まで検証を済ませて欲しいのだが、これが中々進まないのである。

 せめてもう3ステージくらいは進んでからでないと私と討論をする土俵にすら立てないだろう。

 最低でも魔術ではなく魔法を使える様になってきて欲しいのだが、それには後何回の技術革新を起こさねばならないのか、実に気の長い話である。


「素晴らしい考えです。既存の技術の発展は黙っていても誰かが進めるでしょう。

ですが未発見の技術はそうは行きません。まず最初に発見がなければ、人々に受けられる段階まで進めるための時間がどんどん後ろ倒しになってしまいますもの」


 この世界の既存の技術なら究めきっている。

 だが私の持つ様々な未発表の要素や技術を更に発展させようにも、マンパワーが足りない。

 いくら優れた要素であろうと、共有出来る者が居なければ全て一人で考えて検証を繰り返す必要がある。

 それでは技術の独占は出来るが、発展は遅々として進まず、いつまで経っても一人分の頭脳で考えた分しか得られる物が無い。

 如何に私の頭脳が優れていても一人の頭では発想の限界が在るのだ。


「おお、そこまで理解して戴けているとは。ああいえ、姫殿下を疑っていたとかではなく、長いこと見向きもされてこなかったので、その…」

「先生、俺ちょっと会長呼んできます!」

「ふふふ。それには及びません。研究会の存続のためにも人材集めは何より優先するべきでしょう」


 何やら有難がられて拝まれている。

 そこまで切羽詰まっていたのだろうか。




[283]

 研究会は人気が無いと容易く潰れてしまうものらしい。

 それは二回生から本格的に所属して活動するという様式からも分かる通り、主なメンバーは三回生であり、四回生や五回生の所属する研究会も勿論あるが、人気が無くなり三回生の数が少なければ、新規で二回生の勧誘が失敗した時点で詰んでしまう。


 創業は易く守勢は難し。

 顧問の先生とメンバーさえ確保出来れば立ち上げる事は容易だが、維持をするのは大変なのである。

 しかしその分メリットもある。

 人員の新陳代謝が盛んという事は、それだけどの生徒にも若い教員にもチャンスが平等にあり、実力があれば成果も上げやすい。

 研究会同士の競争も激しくなり良くも悪くも自由競争として成り立っているのである。

 とはいえ、貴族の子女であれば従者や側近ごと所属すれば一気に会員数問題を解決出来る事も有り、貴族向けの研究会の方が有利なのは疑いようも無く、一能研と新能研のメンバー数に大きな差があるのも事実である。

 故に、似たようなテーマの研究会の立ち上げが容認されているのも、一側面の見方に限らず多元的なアプローチを推奨しているからだろう。

 因みに従士科の生徒は研究会への所属義務は無く、何処へ所属しても良いらしい。


「大まかな活動内容に関しては以上です。うちは出欠席の義務付けをしていないので、姫殿下のご都合宜しい時にお顔を出して戴ければ大丈夫ですよ」


 そう、数多ある研究会の中でもこの新能研を選ぶ理由の一つが出欠席の自由度がある。

 大抵の研究会は成果を上げる為にも会員の出席率に一定の基準が設けられており、満たさなければ除籍にもなる。

 少人数研究会ならば除籍が存続の危機に直結するので基準はかなり甘く設定されている。


「出欠席のことは大変助かります。私はあまり身体は強くないので、授業後は寮で休むことも多くなると思いますから」


 当然だが正当な理由で除籍された生徒には成績面でのペナルティがあり、そんなリスキーな真似をする者はまず居ない。

 かと言って基準がいくら緩かろうとも論文の質に結び付かない、成果の上がらない研究会では評価も得られず成績がカツカツの生徒では卒業も危ぶまれる。


 研究会の評価は、その年の研究内容の発表次第で変動するため、所属研究会単位で成績が共有される。

 つまり、高得点を出せる優秀な研究会に所属出来れば、個人の成績とは関係なく所属メンバー全員が同じ得点を得られる。

 そうなると必然、優秀な研究会には希望者を取捨選択する権利が発生する。足を引っ張る生徒は自分達の成績を下げる要因足り得るからだ。

 成績を気にする生徒にとって研究会選びはかなり重要な要素となる。


「承知致しました。では入会届けを出して戴ければすぐに受理するように致しますので、後で私宛に提出しておいて下さい」

「ストラフ先生、その、あああアレを渡したいのですが、いいいでしょうかッ」


 突然マシューが立ち上がると、しどろもどろになりながらストラフに身振りを交えて何か許可を求め出した。


「マシュー君、それは正式な会員になった時でいいんですよ。それに身に着ける義務がある訳でもありませんし」


 はて、研究会メンバー限定の身分証でもあるのだろうか。

 ふと改めて二人を観てそれらしい物が無いか確かめるが、白衣には身分証のような名札が付いているでもなく、お揃いの小物を着けている風にも見えない。

 何の変哲もない研究者スタイルだ。

 身に着ける義務が無いというから普段は着けない様な物なのだろうか。


「ふふ。どんな物なのかしら」


 余程妙な物でも無い限りは身に着けるのもやぶさかではない。


「ぜぜ是非、是非是非、その、すぐお持ちするので少し待ってて下さい!」

「マシュー君慌てないで。何だかすみません、どうやら初日から入会希望者が来てくれたことが嬉しいみたいで」


 隣の部屋で物音とどこかをぶつけた音、声にならない呻き声を漏らし、ガタガタと開け締めする音を立てている。

 暫くすると白い物を持って帰って来た。

 おいおい、それは、まさか…。


「ここ、これです。ど、どうぞ…」


 渡されたのは、紛う事無き研究者の証。

 私は思わず椅子からすっと降りて受け取り、そこから2秒である。

 空気をはらませる様にサッと広げて、両袖を通してフワリと身に纏った。


「あ、ああ、美しい…」


 盲点であった。

 研究者だから当たり前だと思ってしまっていたが、この懐かしい出で立ち、これだ。

 これこそが研究者の勝負服。


「驚きました。とても着慣れていらっしゃるのですね」


 当然である。

 私の前世では散々着ていた。

 親の顔より見慣れた『白衣』である。


「私、この研究会に入ります。ストラフ先生、マシュー先輩、よろしくお願いいたします」


 気が付いたら即決していた。







《余録》


優良研究会=大人気→希望者殺到→成績や家柄を見て入会審査→定員キック。

高評価が約束された研究会。一能研がココ。


中堅研究会=上からの受け皿。評価はその年に入った生徒次第なので安定しない。

大部分の研究会がココ。


零細研究会=中堅からも蹴られたり、成績下位の生徒でも入ってくれるだけマシ。上中級貴族はほぼゼロ。

評価よりもテーマそのものが目的。新能研がココ。


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